湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第1節(2003年3月22日、土曜日)

最後の時間帯で、あるべき発展の方向性を体感したに違いないレッズ・・アントラーズ対レッズ(3-1)・・それとグランパス対エスパルス(2-2)についてもショートコメント

レビュー

 先週のナビスコカップ。そこで、レッズに対するコメントでちょっと迷っていました。斜に構えて、ネガティブな視点ばかりで観るのは止めよう・・という姿勢だったこともあるのですがネ。

 そこで考えていたことを簡単にまとめれば、レッズ選手たちの「守備意識」自体は発展をつづけている・・それでも攻撃では、まだまだ前後分断傾向が目立つ・・というものでした。

 守備意識が発展していることの意味は、彼らのデイフェンスのスタートラインが、「より」ポジショニングバランスを重視するという方向へ振れてきているということです。中盤では、互いのポジショニングバランスを意識した「ディフェンス組織」の構築をベースに、タイミングのよい「ブレイク」から忠実なマンマークをつづける。もちろんマークを受けわたすプロセスは、相手ボールホルダーへのチェックの状況によって変化してくるわけですが、一人ひとりの意識が高まっているから柔軟に対処できている。レッズ選手たちは、より自分主体での効果的なディフェンスを展開できるようになっているのです。

 これまで、私のHPだけではなく、様々なメディアを通じて何度も書いたように、そのことが、先シーズンのハンス・オフトが為したもっとも大きな成果でした。でもそこから、どのように発展していくのかという方向性が明確に見えてはこなかった。選手たちの守備意識の高揚。それは、次のダイナミック攻撃への「戦術的な発想」が整ったという意味なのに・・。全ての基盤はディフェンスにありというのが、普遍的なサッカーのコンセプトということです。

 今シーズンのレッズは、エジムンドという、攻撃における絶対的なコアを獲得しました。だから私は期待していたのです。彼を「展開のコア」にして、タテのポジションチェンジなど、より変化に富んだ攻撃が観られるようになるかもしれない。でもこの時点では、期待が充足されそうな兆候を確認するまでには至っていません。グラウンド上の現象だけではなく、選手たちのプレー姿勢に、彼らがどんな「意識付け」をされているのかが、おのずと見えてくるというわけです。まさに、前後分断の攻め・・。

 エジムンドはどんどん下がってボールに触ります。だから、後方の選手たちがもっと「追い越して」いってもいい。もちろんそんなケースでは、「次の守備」に対する不安の方が先にくるのでしょう。それでも、少なくとも一人は(エジムンドが下がったことで空いたスペースへ)押し上げていかなければ、自分たち自身で、発展の可能性を狭めてしまっているといわれても仕方ない・・。

 アントラーズ戦では、ケガのため、エジムンドは出場しませんでした。その代わりに、中盤のユーティリティープレーヤーである長谷部が入ったことで、これは、後方の選手たちが前へ飛び出していく良い機会だ・・と思っていたのですが、結局は選手たちの発想に大きな変化は見られなかった。タテパスが通っても、それを送り込んだ後方の選手は、オーバーラップチャンスであるにもかかわらず、その場に立ち尽くすばかりなのですよ。最前線の選手が、後方からパスを受けてコントロールする場面は(まあ、一種のポストプレー!)、確実にタテのポジションチェンジのスタートサインなのに・・。

 これでは、流れのなかでシュートチャンスを作り出せないのも道理。たしかに、カウンターからはエメルソンや永井が突破の可能性を見せはしましたが・・。

 そんなレッズでしたが、後半にエメルソンがケガで交代してからは、ガラッと様相が変わります。エジムンドがいない。エメルソンがいない。そしてアントラーズにリードされている。そんなギリギリの状況が、選手たちをフッ切らせたのです。それからは、(両サイドも含む)中盤選手たちが、積極的に押し上げつづけ、レッズの攻撃にダイナミズムが満ちあふれていきます。もちろんアントラーズにボールを奪われた後には、一人の例外もなく、全力で戻りながら効果的な中盤ディフェンスを展開する。そこでは、ダイナミックなバランサー(そこにいるだけで何もしないバランサーじゃありませんよ!)として機能しつづけた鈴木啓太の実効プレーが特筆でした。

 そんな、攻守にわたる力強いサッカーこそが、昨シーズンに培った「高い守備意識」の効果が存分に発揮された現象だったと思っている湯浅なのです。それがなければ、単なる守備強化&カウンターチーム戦術という、フラストレーションがたまるサッカーにになってしまう・・。そのことは選手たちが一番強く「体感」しているに違いありません。

 とにかくレッズ選手たちが、最後の時間帯に展開したフッ切れたサッカーから何かを掴んでくれたことを願って止まない湯浅です。

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 さてアントラーズ。快勝をおさめたとはいえ、内容ではまだまだだと感じます。

 たしかに、中田浩二、青木、フェルナンドで組む守備的ハーフトリオは、まあまあうまく機能していました。特に中田浩二と青木の、攻守にわたるパフォーマンスの高さには期待が高まりつづけたものです。でも、常に後方にポジショニングするフェルナンドだけは、まだ低調。ボールをめぐる競り合いでも強さは感じないし、ボールがないところでのディフェンスでも、相手を行かせてしまう(スタートが遅いから押しつけない)シーンが目立つ。まあ、レッズの場合は、二列目からの飛び出しなどがほとんどないから救われていましたがね。

 とはいっても、ボールコントロールとキックは一流です。(遅いけれども)確実なキープから、しっかりと展開パスを「散らし」たり、ダイレクトでタテパスを飛ばしたり・・。それはそれで価値があるとは思うのですが、どうも攻守の勝負所に積極的に絡んでいくという姿勢が希薄だと感じるのです。何度、「どうして、そのスペースへ押し上げないんだ! そこでパスを受ければ決定的な起点になれるのに・・。どうしても、その次のパスレシーバーをタイトにケアしないんだ! そこでボールを奪えば素晴らしいカウンターチャンスを作り出せるのに・・」なんていう声が出そうになったことか。まあ、彼に対する評価は、まだこれからということです。

 この試合では、やはり・・というか、名良橋のオーバーラップが目立ちに目立っていました。あっと・・もちろん相馬の攻撃参加も効果的ではあったのですが、彼のサイドスペースは、エウレルが埋めてしまっているというケースが多いので・・。

 とにかくサイドバックのオーバーラップが、アントラーズ攻撃のキーポイントになっていたことだけは確かです。そこが、レッズとの決定的な違い。ボールをもった彼らがタテパスを通したときには、本当に例外なく、パスを受けた味方を「追い越すフリーランニング」を仕掛けていきますからね。そして多くのケースで、危険な仕事をこなしてしまう。たしかにレッズの場合、山田や平川のオーバーラップはありましたが、彼らの場合は、後方からドリブルで上がっていくというシーンがほとんどだし、前線の味方がタテのポジションチェンジや次のコンビネーションを明確にイメージしていませんから、どうしても多くのケースで前が詰まってしまう・・。

 攻守にわたって質実剛健サッカーを展開するアントラーズ。それでも攻撃では、まだ中盤でのボールの動きが緩慢だと感じます。もっと素早いタイミングでパスを回すというイメージでプレーしなければ・・というか、もっと小笠原が、組み立てのリーダーシップを発揮しなければ・・。まあこの試合では、レッズの守備ブロックが堅牢だったということもありますけれどね・・。

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 さて、グランパス対エスパルス戦についても、短くレポート。

 この試合では、グランパスが展開した、攻守にわたる組織プレーが目立っていました。さすがにベルデニック監督。キッチリと、選手たちのプレーイメージをシンクロさせてきたじゃありませんか。特に、相手にボールを奪われてからの中盤デイフェンスがいい。両サイド(滝沢と岡山)、守備的ハーフコンビ(中村と吉村)、そして新加入した二列目の藤本やヴァスティッチ等が、まさに忠実なディフェンスを展開するのです。前半のサッカーは、まさに圧倒的な内容でした(2-0でグランパスがリード)。

 それに対し、エスパルスは、トゥット、アレックス、そしてアン・ジョンファン等の個の突破力を前面に押し出した攻めを展開します。前半はうまく噛み合わなかったけれど、後半は、特にアレックスの突破力が抜群の破壊力を発揮します。

 そしてエスパルスが、後半15分に一点を返したところで、グランパスが再び覚醒し、前半に魅せた組織サッカーを蘇らせます。再びエスパルスを押し込みはじめるグランパス。でも、その逆をとるようなカウンター気味の攻めから、アン・ジョンファンが同点ゴールを決めてしまいます。その後は、再び勢いをマキシマムまで高揚させたグランパスが、どんどんと押し込みつづけ、ウェズレイ、ヴァスティッチ等が決定的シュートを放つも、結局は引き分けということになってしまいました。

 試合を観ていて、「今年のグランパスはいい・・」と確信していました。とにかく、攻守にわたる組織プレーのレベルが一回り高揚したと思います。次は、駒場でのレッズ戦。これは注目の一戦。今から楽しみです。

 本当に短いコメント・・。ご容赦アレ。



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