湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第15節(2003年8月2日、土曜日)

やはり「勝者のメンタリティー」が・・ジェフ対レッズ(1-2)

レビュー

 ドイツ出張中の第14節(前節)。ジェフが、エスパルスに完敗を喫してしまいました。その前週の第13節での、敵地におけるジュビロとの「2-2」の引き分け。そのとき私は、既にドイツにいたわけですが、いろいろな方々から送られてきたメールレポートを総合し、ジェフが、アウェーにもかかわらず(前半は内容的に凌駕されたにもかかわず)全体的に立派な闘いを展開したことを感じ取っていました。そしてその時点で「ファーストステージはヤツらが行ったかな・・」なんて思っていたものです。でもその一週間後には・・。

 「全然ダメでしたよ・・とにかく足が止まって、エスパルスにいいようにやられちゃいました・・」。試合前に、知り合いのジャーナリストで、エスパルス戦を観た方が、グラウンド上の現象面について、そんな分析をしていました。まあ、そのときのジェフは、主に「二種類の敵」にやられちゃったんだろうな・・。そのハナシを聞きながら、そんなことを思っていました。

 優勝という二文字が「ものすごく具体的」に目の前に迫ってきことで「未知の心理領域」に足を踏み入れたジェフ選手たち。気合は乗っていたのだろうけれど、結局は心理的にフリーズし、悪魔のサイクルにはまってしまった・・ということなのでしょう。もちろんその現象面の背景には、相手のエスパルスの出来が良かったという側面もあるに違いない?! 「フザケルナよ! オレたちの前で胴上げはさせない!!」。そのことについての私の質問に対し、前出のジャーナリスト氏が、「そうですね、あの試合でのエスパルスは今シーズン最高の出来だったんじゃないですか・・」と答えていました。とにかくサッカーでは、様々な相手(敵?!)と対峙しなければなりません。その代表は、「物理的な対戦相手」と、自分自身の内面という「心理的な対戦相手」。それに、クラブの古い(体育会?!)体質とか、周囲のメディアノイズとかが付加されてきますからネ。まあ大変だ・・。

 数週間前、ジェフの試合をレポートしたときに書いた「勝者のメンタリティー」という深層テーマですが、ジェフ選手たちのそれは、たしかに向上しているとはいえ「まだまだ」だったということなのでしょう。

 勝者のメンタリティー・・。もちろんそれは、経験や歴史、はたまた組織の雰囲気(体質)などに裏打ちされた、「勝ち切る」ための心理的バックボーンのこと。ジェフ選手たちのそれが、まだ十分に強化されていなかったことが、前節で如実に証明されてしまったというわけです(そこには、本当に、人為的に強化できるのかというテーマも、もちろんありますがネ・・)。それでも私は、そのプレッシャーから解放された最終節だから(自力がなくなり、勝つしかないという吹っ切れた状況!)、ジェフ選手たちが、内容的にも良いものを魅せてくれるのでは・・と期待して、時差ボケと闘いながら国立へ向かったというわけです。ところが・・

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 試合開始前、このコラムのタイトルは、「仕掛けマインドという、サッカーの魅力の本質」ってことにしようかななんて思っていました。ジェフの強さの秘密は、まさにそこにあるし、この試合での「吹っ切れたジェフ」は、本来のダイナミックサッカーを魅せてくれるに違いないと思っていましたから・・。

 攻守にわたって「仕掛けつづける積極マインド」。もちろんそれは、攻守にわたって、リスキープレーにも積極的にチャレンジしていく自分主体のアクティブプレー姿勢のことであり、それを全員が平等にシェアするためのバックボーンが「実効ある守備意識」だというわけです。まあ、いつも書いていることですが・・。

 ところが、フタを開けてみたら、そのタイトルはお呼びじゃなくなってしまって・・。たしかにチェ・ヨンスの穴は痛い。それにしても、だからといって、あれほどサッカーが縮こまってしまうとは・・。

 攻撃の最終シーンに絡んでいくのは、この試合でワントップを張ったサンドロ、二列目コンビの羽生と佐藤勇人の三人だけなんですよ。村井と坂本のサイドアタックも目立たず、守備的ハーフコンビを組んだ阿部と茶野にしても、最前線を追い越していくような、いつもの積極攻撃参加は見られず仕舞い。また中盤ディフェンス(機を見たハードマンマークなど!)も遅れ気味で、レッズ選手たちをフリーにしてしまう・・勝負所における「ボールがないところてのマーク」も甘いから、何度も、フリーで決定的スペースに入り込まれてしまう・・。これじゃ普通のチーム・・。そんなことを思っていました。

 その背景には、チェ・ヨンスがいないだけではなく、サンドロが「二列目に入っていない」からという面もありそうな・・。何といってもサンドロは、攻守にわたる「プロセスの中心的存在」ともいえるプレーヤー(タイプ)ですからネ。彼が、この試合のようにトップに張るのではなく二列目に入れば、両サイドや羽生、はたまた守備的ハーフの押し上げもより活発になったに違いないと思うのですよ。途中から林が入ってツートップになったときには、オシム監督は「それ」を意図したのかな・・なんて期待したのですが・・。

 まあとにかく、ということで、期待が肩すかしを食らってしまった湯浅だったのです。でもまあ仕方ない・・。

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 対するレッズは、ある程度強固な守備ブロックをベースに(まあ、前後のバランスを『はじめから』崩さないように意識付けされているのだから当たり前ですが・・)、攻撃も徐々によくなっていると感じます。

 「前後分断傾向」はいつものとおりなのですが(まあそれは、この試合でのジェフも同じでしたがネ・・)、仕掛けの準備段階で、しっかりとボールを動かそうとする意識が明確に見られるようになったのはポジティブな変化だと思うのです。とはいっても、止まった状態で、足許パスをいくらつないでも相手は怖くない。その動きに「縦方向の動き」が加わったときに初めて、相手が恐怖を抱くボールの動きを演出できるものなのです。まあレッズの場合は、以前に何度も書いているように、山瀬が完全復帰するセカンドステージからの「変化」が見物ということです。あれだけ守備意識が高揚しているレッズですからネ。誰がタテへ抜け出しても、後のディフェンスでのバランスが崩れない・・というクリエイティブサッカーが期待されちゃうというわけです。やっとハンスも、それを意識するようになっているのかも・・?!

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 さて、ジェフ躍進の原動力、イビチャ・オシム監督ですが、今回の国際会議に参加してみて(本日アップしたトピックスコラムを参照)、彼の「名声の高さ」を実感させられました。とにかく「現場の人々」の評価が例外なく高いことがものすごくインプレッシブだったのです。それは、まさしく彼の「監督としてのウデ」の証明といったところ。

 「イビチャは、本当に素晴らしい監督だよ。戦術的なことや、厳しさも含む指導力ばかりじゃなく、何といってもその人間性がいい・・」とか、「イビチャは、本当にサッカーをよく知っているから、選手たちも一目おくしかない・・プロの強者たちが、あれほど権威を感じていた監督は希だよな・・」等々。

 私は、「現在の現場」には近づかない主義です。だから、イビチャ・オシム監督とも、ニュートラルなインタビュー以外(ジェフ監督である限り)お近づきにはなりません。ということで、このコラムを読んだジェフ関係者の方々にお願いがあります。今回の国際会議において、オシム監督に対し「心から成功を祈っている・・」と伝えて欲しい言っていた方々がいたとお伝え願いたいのです。それは、アーネスト・ジャッキー氏(Ernest Jacky、ヨーロッパサッカーコーチ連盟 )、パヴレ・クネチェビッチ氏(Pavle Knezevic、プロコーチで、ピクシーのブレインの一人)、アディー・ピンター氏(Adi Pinter、ドイツ、プロコーチ)など・・。よろしくお願いします・・

 さて、結局3位で終わってしまったジェフ。この悔しさを、勝者のメンタリティー(どんな状況でも、全力を尽くして闘い抜くことができるチカラ≒自らを信ずる心≒自信≒外部の評価を、自分なりに評価し返すことができるチカラ≒外部のノイズに左右されないチカラ等々)を高揚させるための「実効ある糧」にしなければなりません。そこにこそ、オシム監督のホンモノのウデが発揮される?! とにかくジェフ・ユナイテッドについても、今からセカンドステージでの活躍が楽しみで仕方ない・・。



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