湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第12節(2003年7月14日、月曜日)

テレビ観戦した二試合について、ポイントを絞ったショートコメントを・・ヴィッセル対グランパス(0-3)、トリニータ対ジュビロ(0-4)

レビュー

 ナルホド、ナルホド・・。ヴィッセル対グランパス戦を観ながら、一人納得していました。

 ゲームを全体的に支配しながらグランパスを押し込みつづけるホームのヴィッセル。何度かチャンスを作り出します。それでも、決定的といえるところまではどうしてもいけない。グランパス守備ブロックが堅牢だから?! まあそれもありますし、ヴィッセルの攻めのリズムが「個」に偏りすぎているという要因もあります。

 たしかにヴィッセルが押し込んではいるけれど、ボールの動きのリズムが遅く、単調だし、相手の守備イメージを超越するようなボールがないところでの勝負の動きも出てこないから、グランパス守備陣が、簡単に「次の展開」を予測して組織的に対処できてしまうのも道理です。そして結局、岡野やオゼアスの個人勝負に頼るようになってしまう。まあ、これでは、堅牢な(忠実な受けわたしマンマークがうまく機能しつづける)グランパス守備ブロックのウラを突くのは難しい・・。

 やはり攻めでは、組織パスプレーによる「仕掛けリズム」を選手全員が共有していることが大事な要素だということです。そのリズムが「明確に見える」からこそ、確信をもって次のパスレシーブの動き(勝負のフリーランニング)に入れるし、ボールホルダーにしても、パスを受ける前の段階で周囲の状況を確実に把握しようとする。そしてそれがあるからこそ、次のボール絡みのプレーと、ボールなしのプレーが有機的に連鎖するようになるというわけです。そう、グランパスのように。

 たしかに頻度は高くないにしても、一度グランパスが仕掛けに入ったら、その危険度はヴィッセルの比ではありません。彼らの「組織的」な仕掛けには、ヴィッセル守備ブロックのウラスペースを突いていけるという雰囲気が充満しているのです。とにかく、決定的チャンスという視点では、確実にグランパスに軍配が上がります。

 グランパスの攻めには「有機連鎖のリズム」がある・・でもヴィッセルには、それが明確に見えてこない・・だからボールがないところでの勝負の動きが活性化しないし、ボールの動き自体も緩慢になる(個の仕掛けばかりが目立つようになってしまう!)・・そしてそんなプレーコンテンツの実効レベルの差が、(ポゼッションでは完全にグランパスを上回っている)ヴィッセルが完敗を喫するという「結果」につながった・・ポテンシャルの高い選手を多く擁しているヴィッセルなのだから、組織プレーのイメージ連鎖レベルを改善すれば(まあ、そう簡単な作業ではありませんがネ・・)、サッカー内容もアップするはず・・ってな「まとめ」でしょうかネ。

 この試合では、グランパスに新加入したブラジル人プレーヤー、マルケスにも注目していました。たしかに、組織プレーマインドと個人勝負マインドがうまくバランスした「高質な個の能力」は見応え十分。さすがに元ブラジル代表です。でも、まだボールのないところでのアクションに躊躇する気配が見え隠れする・・。要は、周りの味方とのコンビネーションを基盤にしたボール絡みのプレーとボールなしのアクションが、彼のイメージの中で「有機的に連鎖」しているわけではないということです。それでも、グランパスが奪った三点のすべてに絡んでしまうのですからネ、サスガとしか言いようがない。

 特に、先制ゴールシーンでの、吉村とのワンツーは秀逸。マルケスが「壁」になったのですが、吉村からの強いワンのタテパスを「ピタッ」と止め、次の瞬間には、「トッ・トン」という「ハーフ・リズム」で、走り上がる吉村の眼前スペースへ「スッ」とボールを流してしまう。この「ピタッ!スッ!」という素早いリズムは、まさに才能。この「ハーフ・リズム・ボールコントロール」に、マルケスをマークしていた田淵も、完全に引っかかってしまった。また追加ゴールシーンでの、ヴィッセル守備ブロック全員の意識とアクションを引きつけてしまう「タメ・キープ」も秀逸だったし、ウェズレイからのクロスをダイレクトで叩いたボレーシュートにも「世界の香り」が・・。これからのマルケスのパフォーマンスアップにも注目です。

 さて、この勝利でグランパスも優勝戦線に踏みとどまりました。堅牢な守備ブロックを基盤に、シンプルな組織プレーを基調にした危険な攻撃を仕掛けていく彼らからも目が離せなくなったじゃありませんか・・。

--------------

 さて、有機的に連鎖しつづける美しい組織パスプレーの達人、ジュビロ。

 彼らに関しては、テーマは一つに集約されるでしょう。トータルフットボール・・。昨日の試合後のインタビューでジェフのオシム監督も言及していた「表現」。イメージは、もちろん1974年ドイツワールドカップで旋風を巻き起こしたオランダ代表です。ヨハン・クライフ、レンゼンブリンク、ヤンセン、ニースケンス、ファン・ハネヘム、シュルビア、レイスベルヘン、ルート・クロル、レップ・・等々、とにかく彼らは、歴史に燦然と輝くレジェンド(伝説的)チームでした。彼らが目指したトータルフットボールとは、GKを除き、基本的なポジションのない流動サッカー。もちろん現実には不可能だから、活発な縦横ポジションチェンジがくり返されるなかでも、次の守備でのバランスが崩れないような、変化が満載されたサッカー・・なんて表現できますかネ。そこでは、選手一人ひとりに、攻守にわたって最高の創造性・自主性が求められる。

 当時のオランダチームは、私の原作による、文芸春秋社のナンバーDVD(ビデオ)「ワールドカップ・スーパープレー5秒間のドラマ」でも採り上げました。1974年ワールドカップでの伝説マッチ、オランダ対ブラジル戦。そこでオランダが展開した、誰が前線へ飛び出してくるか分からない程「変化の激しい」攻撃に、世界中が熱狂したものです。

 でも、彼らが素晴らしい攻めを構築できた背景に、堅実で創造的な守備コンセプトがあったことには、あまり注目が集まりませんでした。オランダの強さのバックボーンは、選手全員に深く浸透している高い守備意識に他ならないのです。クライフも含めた全員が、常に、実効あるディフェンスへも全力で参加する用意がある・・。私は、彼らの守備コンセプトから大いに影響を受けたものです(私がドイツへサッカー留学した1970年代は、ドイツでも、オランダチームが研究対象の中心だった!)。

 流れの中で、チャンスのある誰もが攻撃の最終シーンへ絡んでいっていい・・後ろ髪を引かれないオーバーラップ・・その背景には、全員の高い守備意識に対する相互信頼がある・・だからオーバーラップに、後ろ髪を引かれない勢いがある・・。とにかく、このオランダチームが展開したのは、世界中を覚醒させた「エポック・メイキング・サッカー」であり、そこから「サッカーの歴史が動いた!」とすることができるのです。

 さて、そんなトータルフットボールを標榜するジュビロとジェフ(急にここで、ジェフにも言及しはじめましたが、何といっても次節は、その直接対決ですから・・)。もちろん「ポジション的な流動性」は当時のオランダほどではなく、やはり中盤から前線にかけての限られた範囲にとどまります。それでも、目指す方向性は、明確に感じられる。そして彼らの場合もまた、その優れた流動性・機能性のバックボーンに、最高レベルの「守備意識」があるというわけです。

 前シーズン、ジュビロのスーパー守備意識を題材にしたコラムを、サッカーマガジンで発表しました。それもご紹介しましょう。

===========

(2002年11月14日に仕上げたサッカーマガジン連載用の文章です)

 すごいね、本当に・・。ジュビロ選手たちが魅せつづける忠実でクリエイティブな組織ディフェンスに感嘆の溜息が出てしまう。

 例えばこんなプレー。第12節、柏レイソル戦の後半5分。自陣内の左サイドでフリーキックを得たレイソルが、ボールを置くなり、すぐにタテパスを出した。この時点で、そこにいた二人のジュビロ選手が置き去りになってしまう。しかし、すぐに反応した他の選手たちがいた。そのフリーキックスポットの近くにいた服部、名波、そして藤田。

 まず服部が、タテパスを受けたレイソル選手をチェイスすることでタテへの突破を阻止する。仕方なく、フリーで中央ゾーンへ上がってきたサンパイオへ横パスが出る。ただそこには、名波が、全力で戻ってきていた。サンパイオは、これまた仕方なく切り返し、今度は右サイドにいるエジウソンへパスを回す。彼には、山西がしっかりとマークに入っている。この状況で、その右側をオーバーラップする選手がいた。レイソルの砂川。エジウソンが、山西を引きつけながら、砂川が抜け出そうとするスペースへ柔らかなタテパスを出したことは言うまでもない。しかし、その砂川さえも、タテパスを読んだ藤田にしっかとりチェックされていた。藤田の迫力ある寄せが目に入ったのか、砂川が送り込んだクロスは、僅かに狙いを外れてしまう。

 この一連のプレーで、服部、名波、そして藤田が魅せた、長い距離を全力で戻るディフェンス参加。それこそが、ジュビロに深く浸透した高い守備意識を象徴していた。特に藤田。彼がスタートしたポイントは、最初のフリーキックスポットのすぐ横だった。そこから逆サイドのゴールライン付近まで斜めに走り切り、砂川の前に立ちはだかったのだ。

 セカンドステージ第12節が終了した時点で、ジュビロの年間総合ポイントは「63」。二位のアントラーズは、やっと「50」だ。また、それよりも目立つのが得失点差。ジュビロは「+37」。二位につけるガンバが「+27」だから、その突出ぶりが分かろうというものだ。それでも失点数だけを比べればマリノスにトップを譲るし、三位のガンバとも一点差にしか過ぎない。要は、ゴールと失点のバランスが素晴らしいということだ。

 このバランスが内包する意味が大きいのである。決して彼らは守備を重視したチーム戦術をとっているのではなく、あくまでも前へのチャレンジを基調に、その時点で戻れる者が、効果的なディフェンスを展開するのだ。リスクを避ける「消去法」的な発想ではなく、あくまでも積極的に仕掛けていくことを基調にした発展的な発想。戦術という規制と、自分主体の自由プレーとが、これ以上ないというほどハイレベルなバランスを魅せる。

 日本サッカーの将来を示唆するイメージリーダーといっても過言ではないジュビロ。後ろ向きの規制サッカーではなく、全員の高い守備意識をベースにする解放されたリスクチャレンジサッカー。それこそが、創造的な発展のための唯一の道なのである。(了)

===========

 「前段」が長〜〜くなってしまいましたが(このコラムでは前段の方がメインだった?!)、ジュビロが圧倒した今節のトリニータ戦でも、ラインコントロールや読みなど、「小さな不満」はあるにしても、全体的にジュビロディフェンスは素晴らしい機能性を魅せていました。だからこそ、変幻自在の「組織的な攻め」にも勢いを乗せることができる。目の覚めるようなスムーズなボールの動きと、それをベースにした鋭い仕掛け。そしてそれを支える、ボールがないところでの選手たちの動き。彼らの場合、選手全員に、そのコンセプトが深く浸透している・・だから選手が代わっても、目指す方向性には何のブレも生じない・・素晴らしい・・。

 対するホームのトリニータは、やはり「攻守にわたる内容」でジュビロに大きく引き離されている。サッカー発想の質では高いモノを持っているトリニータですが、攻守にわたるボールがないところでのアクションも含めて、やはりジュビロと比較したら問題が山積みということになってしまう。

 さてこれで、サッカーの内容で他をリードするジェフとジュビロがトップと二位につけました。そして次節では、この二チームが直接対決する。近年まれにみるエキサイティングマッチになりそうです。

 ところが私は、タイミングの悪いことに今週からヨーロッパ出張なのです。ビジネスミーティングと、ドイツサッカーコーチ連盟主催のサッカーコーチ国際会議。まあ仕方ない。帰国するのは、ファーストステージ最終節の前日なのですが、それまで優勝が決まっていないことを願うしかありません。

 出発までには、もう一本、これまでのジーコジャパンをまとめたコラムを上げていくつもりです。また現地からも、面白い話題があれば暫時レポートするつもりです。それでは今日はこの辺りで・・。



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]