湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第12節(2003年7月12日、土曜日)

戦術コンセプトが正しいから、その浸透度に応じてチーム力が発展するのも道理・・ジェフ対ベガルタ(5-1)

レビュー

 これは時間の問題だな・・。試合がはじまってすぐに、そんなことを思いはじめていました。何が時間の問題かって?! もちろんそれは、ジェフの先制ゴールが決まるまでのことですよ。それほど、攻守にわたって圧倒的に高質なプレー内容で、ホームのジェフがゲームを牛耳っているのです。それは、それはスゴイ迫力ですよ。

 その基盤は、言うまでもなく、忠実でダイナミックなディフェンス。特に中盤守備が素晴らしい。相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する素早く、迫力あるチェックは言うまでもなく、その次、次と、展開パスの可能性を潰してしまうのです。要は、忠実でダイナミックな「受けわたしマンマーク」が素晴らしく機能していることで、フリーの相手がまったく出てこないということです。柔軟な受けわたしベースの忠実&タイトなマンマークですから、グラウンドには多くのスペースが出来てしまう。それでも、そこを使えるフリーな選手が出てこないのですからネ。ジェフは本当によく(ものすごく厳しく?!)トレーニングされたチームだ・・。

 そんな、積極ディフェンスを展開するジェフですから、(いつも書いているように!)次の攻撃にも勢いが乗っていくのは当然の流れです。やはり全てのスタートラインは積極ディフェンスにあり・・ということです。実際にボールを奪い返した者は(その基本的なポジションがどこであるかにかかわらず!)、例外なく押し上げてきますし、前線に張る選手や、周りから押し上げていく味方も、ボールがないところでの勝負の動きをつづけるのです。もちろん、パス&ムーブのアクションも忠実。だからこそボールに絡んでいる者が、ボールがないところでの味方の仕掛けの動きを明確にイメージしてボールを動かせる。それこそ、高質な「有機連鎖プレー」というわけです。

 そして16分。やってくれましたよ、チェ・ヨンスが。相手スイーパーの安易な横パスを羽生がカットし、そのこぼれ球が決定的スペースへ飛ぶ・・すかさず反応したチェ・ヨンスが走り込んでボールを奪い、そのままキャノンシュートを決めた・・というわけです。

 それにしても、チェ・ヨンスのアクションには舌を巻きました。まず、ベガルタのディフェンダーの走るコースに身体を入れてしっかりとボールをコントロールし、最後は、相手を抑えながら、ゴール左隅へピタリと蹴り込んだのですからネ。記者席は、ちょうどチェが放ったシュートを「真後ろ」から観られるポジション。その軌跡にほれぼれしていた湯浅だったのです。本当にお見事!

 その後は、もうジェフの独り舞台。どんどんと加点し、前半を終了した時点で既に「4-0」という大量リードを奪っていました。

 とにかく、しっかりと走り(クリエイティブなムダ走りという発想が深く浸透!)、しっかりと守備をやり(受けわたしタイトマンマーク!)、しっかりとパス&ムーブをこなし、しっかりとボールのないところで仕掛けていく(勝負のフリーランニング)等々、サッカーにおける基本的なコンセプトを忠実にこなしていくジェフ選手たち。いや、すでに彼らは、「忠実な」という表現を超越している・・。自分主体で仕事を探しつづけ、攻守にわたる基本プレーを楽しんでいる・・とさえ感じられる。

 とにかくジェフの場合は、次の守備で「穴(=フリーな相手)」が出てこないのがスゴイ。それは、ほんの「チョットしたところ」の積み重ねの結果だということです。

 それに対しベガルタの場合、何度「こんなシーン」を目撃したことか・・。「多分パスはこない・・」と、マークすべき相手との間合いを空けてしまう・・そこへ、5本に1本の割合で実際にパスが飛んでくる・・そして決定的ピンチを迎えてしまう・・また集中力を欠いてボールウォッチャーになった瞬間に、マークすべき相手が「消えて」しまう・・等々。だから、ほんのチョットしたところの積み重ねの差が、この試合での得点差に集約された・・といっても過言ではない?!

 後半15分あたりでしたかネ、そこでこんなシーンを目撃しましたヨ。

 中盤でタテパスを受け、マークしていた茶野(?!)を一発のトラップで外してドリブル勝負に入るベガルタの財前・・次に当たりに来たジェフのミリノビッチも抜き去っただけではなく、追いついてきた茶野を身体で抑えながらどんどんとドリブルで突き進んでいく・・そして最終ラインのディフェンダーを抜いてフリーシュートのポジションに入ったと思われた次の瞬間、ミリノビッチに追いつかれたことで十分な体勢でのシュートを阻まれてしまう(結局ジェフGKに防がれてしまう!)・・。財前に抜かれたジェフ選手たちは、瞬間的に「次のディフェンス」に入り、財前へのプレッシャーをつづけていたのです。たしかに財前に抜き去られはしましたが、決して「置き去り」にされたわけではない・・。そんな粘りのディフェンスシーンにも、ジェフの強さの秘密を見ていた湯浅でした。

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 さて試合後の監督会見。私は参加しないことの方が多いのですが、オシム監督のときだけは絶対に聞き逃さないようにしています。

 今日の記者会見も、コンテンツ満載でしたよ。

 曰く、「いつもとは違うポジションの選手がよくやった(坂本と茶野で組んだ守備的ハーフコンビのこと)・・そこがうまく機能したから、ベガルタのツートップへ良いボールが入らなかった・・これで、選手たちのポジション選択肢も増える・・」。曰く、「とはいっても、我々はトータルサッカーを目指しているわけだから、選手たちは、基本的にはどのポジションでもこなせなければならない・・もちろんトータルサッカーは、そう関単に到達できるシロモノではないが(到達することなんてはじめから不可能だけれど!)、そこへ向かっていること自体が、進歩プロセスに乗っているという意味で意義がある・・」。曰く、「誰に対しても、満足できるパフォーマンスなどという評価はしない・・満足するということは、そこで進歩が止まってしまうことと同義だ・・」。

 そんな意味深の発言がつづくなかで、次の二つはかなり目立っていました。

 「ベガルタの守備ブロックが不安定だったかって?? まあ結果的には、我々に何度もウラを突かれてしまったけれど、それでも彼らの最終ラインだけを責めるのはお門違いだよ。最終ラインでのミスは、常に「前から」の連鎖反応の結果として起きてくるものだからな・・。前がディフェンスでミスをすれば、それが後方のツケになってしまうというわけだ・・」。フムフム・・。

 そしてもう一つの目立った発言が、「ジェフには、まだ勝者のメンタリティーが足りない・・」というもの。ただ、オシム監督がそのポイントに言及するということは、その部分でもチームが伸びてきていると彼自身が手応えを感じているということの証明です。たしかに昨シーズンのジェフは、サッカー内容は悪くはありませんでした。それでも、結局は勝ち切ることができないというゲームがつづいてしまった。その原因が「勝者のメンタリティー」にあったのは確かなことです。たしかに、勝ち切るためには、特別な「心理パワー」が必要です。それは、前述した「ほんのチョットした小さなコト」にも徹底的にこだわりつづけ、そのプレー体感を積み重ねることでしか得られないものです。オシム監督の言わんとするコノテーション(言外に含蓄される意味)に共感していた湯浅でした。あ〜〜、面白かった。



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