湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第11節(2003年7月6日、日曜日)

ポイントを絞ったレポートです・・アントラーズvsジュビロ(5-2)、FC東京vsベガルタ(2-0)

レビュー

 フ〜〜、これほど内容と(数字的な)結果に落差のあるゲームを観るのは久しぶりだ。でもまあ、それもサッカーだから・・。アントラーズ対ジュビロ戦をビデオで観ながら、そんなことを思ってましたよ。

 このゲームでの全体的な印象は・・セットプレー(スローイン)からのアントラーズ先制ゴールの後、ヴァン・ズワムの不用意なファールで10人になってしまったただけではなく(ヴァン・ズワムが退場処分)、その後もワンチャンスのセットプレー失点を重ねたにもかかわらず(前半16分で既にアントラーズが「3-0」のリード!)、全体的な内容ではアントラーズを上回り(ゴール数ではなく、あくまでも戦術的コンテンツ!・・部分的には、一人足りないにもかかわらずアントラーズを完璧に凌駕!!)、チャンスを作りつづけた「美しく、かつ強い」ジュビロ・・というものでした。

 相手がアントラーズだったからこそ、ジュビロとの「サッカー発想」の違いが際立った?! とにかく、攻守にわたって、あくまでも組織プレー(素早く広いボールの動き)と個人勝負プレーをバランスさせながらリスクにチャレンジするというハイレベルなサッカーを標榜するジュビロに対し、ディフェンスブロックを厚くし(安全プレーに徹し!)、攻撃では、(カウンターとセットプレーシーンを除いて)個人プレーを確実に積み重ねながら組み立て、最終勝負のチャンスを狙うアントラーズ・・なんていうふうに表現できますかね・・ちょいと舌足らずではありますが・・。

 攻守にわたって「ノーリスク」・・そして組み立てベースの攻撃では、安全に、確実にボールをキープし(ポゼッション=タテ方向へのボールの動きが停滞傾向になる!)、ココゾのテンポアップ(急激なスピードアップ)で、あくまでも個の才能をベースにした単独勝負やコンビネーションを駆使した勝負を仕掛けていく・・等々、そんな基本的なサッカー発想は、どこかで見聞きしたような・・。ジーコジャパン?! 要は、そこに、「伝統的」なブラジルサッカーの発想に共通する部分が多く含まれているということです。

 でもその発想は、ちょっと時代遅れの感は否めない?! だからアントラーズの攻撃からは、どうしても「流れ」というよりも、一つのステーションから次のステーション(ボールホルダー&次のパスレシーバー)へ「淡々と」ボールが動いていくだけという印象の方が強くなってしまう。もちろん、組み立てプロセスのなかで生まれてくる仕掛けチャンスを逃さない嗅覚には「伝統的」な鋭さがありますけれどね(トレーニングでのイメージシンクロ=彼らの組み立ては、そんな一瞬のチャンスを逃さないためのイメージトレーニングも積まれているに違いない)。

 まあ、そんな攻撃のイメージも一つの方向性ではありますが、対戦する相手が常に「世界」の日本代表にもその基本的な発想を植え付けようとするのは、やはり、かなり疑問。日本代表の攻撃陣には、(まだ!)その発想を使いこなせるだけの「能力」が備わっているわけではありませんからね(相手のチカラが、少なくとも同等以上!)。とはいっても実際には、選手たちは(もちろん中田英寿がイメージリーダーとなって)、ジーコが標榜するもう一つのキーコンセプトである「自由」を謳歌しているから大丈夫。彼らは、自分たち主体で、十分に「リスキーなタテパス」もミックスすることで、素早く直線的な攻めも繰り出しているのです。とにかく、彼らが世界と対峙するうえでの絶対的条件は、ボールのないところでの動きをベースに、縦方向にもダイナミックにボールを動かすこと(組織的な攻撃)。それを「基盤」にして、徐々に個人勝負(ドリブル勝負やタメの演出など)の頻度を高めていくというのが正しい発展ベクトルでしょう。

 ちょいとハナシが脱線。とにかく、ジュビロのハイレベルな攻めと、(大量リードで緊張感が欠けたこともあったのでしょうが・・)アントラーズの緩慢な攻めが、大きく開いた点差という現実と相まって面白いコントラストを描いていたから、こんなテーマをワンポイントで抽出してみました。

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 さてFC東京とベガルタ仙台の対戦。

 ゲームは、当初予想されたとおりの展開になります。どんどんと攻め上がるホームの東京。守備ブロックを厚くしてしっかりと守り、必殺カウンターを仕掛けていこうとする仙台。そんな基本アイデアが交錯しながら、両チームともにシュートチャンスを作り出したから、ゲームは俄然白熱の様相を呈していきました。

 前半は、完全にゲームを支配したFC東京。彼らの攻めからは、選手一人ひとりの特徴を最大限に活用しようとする意図を明確に感じます。個人の特徴ある能力。例えば、アマラオのヘディングとポストプレーの強さ・・抜群の運動量とボールコントロール能力を武器に、チャンスメイカーとして鬼神の活躍をみせつづけるケリー・・言わずと知れたスピードスター石川のドリブル突破力・・後方から影武者のように押し上げ、まさに「蜂の一刺し」という威力ある中距離シュートを放つ宮沢・・等々。それらの個性的な能力を「仲間同士」がしっかりとイメージしていると感じるのです。だからこそ、「個人の特徴」を効果的にミックスした「組織プレー」も仕掛けていける。なかなか魅力的なサッカーですよ。原監督は良い仕事をしています。

 とはいっても東京は、そんな魅力的なサッカーをなかなか結果につなげられない。この試合でも、何度か「流れのなか」で作り出した大きなチャンスを決めきれないのですよ。それに対し、素早く「忠実な」カウンターから、2度、3度と、危険なシュートチャンスを作り出す仙台。前半は、押し込まれていたとはいえ、実質的には仙台のペースだったのかも・・。

 そんなことを思いはじめていた前半24分。やりましたよ、FC東京が。「選手の特徴を活かした」先制ゴールを決めたのです。宮沢のオハコである中距離フリーキック。とにかく、目の覚めるような見事なシュートでした(その数分前にも、宮沢は、抜群に正確な中距離ダイレクトシュートを仙台ゴールへぶちかました・・それがものすごくインプレッシブだったから、このフリーキックも、蹴る前から入りそうな予感がしていた・・)。

 それでも、チャンスがありながら追加ゴールを奪うことができない東京。そして後半からは、仙台にペースを握られ、攻め込まれることになります。そんな「ゲーム展開の逆流現象」の背景には、中盤での「出足」が格段に活性化した仙台がこぼれ球を拾いはじめ、押しこんだ状況から、何度か惜しいシュートまで放ったことで、東京の守備ブロックが(心理的に)下がり気味になってしまったこともありました。でも、そんな悪い流れが、一人の交代によって、またまた変容していくことになります。阿部吉朗と戸田光洋の交代によって、再びゲームの流れを呼び込んだFC東京。

 まさに、原監督の好采配。「あの場面では、とにかく中盤でのボール奪取の勢いで押されていたから、運動量のある戸田を投入することで、その悪い流れを断ち切りたかった・・」。そしてまさに、その意図が的中し、戸田が注入したダイナミズムが、チーム全体に波及していったというわけです(石川の目の覚めるようなドリブル突破からのクロスを、戸田が見事にダイレクトで決めたのは後半40分のことでした)。

 ところで、後半のFC東京の試合内容。そこに、魅力的でチカラのある東京が、どうしてもリーグの優勝戦線に絡んでいけない背景を感じていた湯浅でした。ハイレベルのペースを維持できない・・ペースを落ちてきたとき(相手にペースを握られたとき)、そんな「ゲームの流れを読んで味方を鼓舞し、ペースを復調させられるだけのリーダーがいない・・だからゲームパフォーマンスが安定しない・・等々。

 さて次節は、魅力的なFC東京と、上り調子のレッズの対戦。それでも、市原ではジェフ対仙台の試合もあるし、横浜ではマリノス対パープルサンガもある・・さてどうしようか・・。



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