湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第2節(2002年9月7日、土曜日)

またまたジュビロのハイレベルサッカーを堪能させられました・・アントラーズ対ジュビロ(1-2)

レビュー

 第二節での最高の注目カード!?

 この両チームの、セカンドステージ第一節のゲームは見ていませんが、まあ、ファーストステージが終了してから二三週間で、そう大きな変化(発展)があるはずもないでしょうから、私の観戦イメージ(観戦ポイントの絞り込み)の前提は、プラス面、マイナス面ともにファーストステージの内容がベースになります。さて・・。

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 3分、相手の仕掛けを互いに観察し合っていた両チームですが、まずジュビロが決定的なチャンスを演出します。左サイドからの斜めのパス。それに寄っていった中山ゴンが、そのパスの「行く先」を明確にイメージする「西」の決定的フリーランニングをしっかりと意識していたのです。スッと、パスをまたぐ中山。パスが出された時点の意図は、中山へ向けた仕掛けパス。それが、完璧なラストパスになった瞬間でした。走り込む西の目の前のスペースに、ピタリと入るボール。思い切り振り抜いた西のシュートは大きくバーを越えてしまいましたが、ジュビロサッカーのオリジンとも言える「ボールがないところでの忠実なアクション」が生み出した素晴らしいチャンスメイクでした。

 その後も、例によっての忠実でクリエイティブな中盤守備と、素早く、広いボールの動き(=忠実な積極フリーラン!)をベースにアントラーズを「内容」で上回りつづけるジュビロ。一発タテパスからの中山ゴンのフリーシュートや、ラストパスからの高原のフリーシュートが飛び出したりします。それに対し、まったくといっていいほどジュビロゴール前まで迫ることができないアントラーズ。フムフム・・。

 とにかくアントラーズは、球だし選手と、それを受ける選手が、ゲームフローのなかで明確に「見えて(予測できて)」しまうんですよ。要は、ボールの動きが停滞気味だから「意図する勝負所」を簡単に読まれてしまう・・ということです。それに対しジュビロは、流れるようなパスワークから、最終勝負への仕掛け(ラストパスと勝負のフリーランニング)がシンクロしつづける。中山ゴン、高原は、常に「決定的フリーランニング」を狙っているわけですが、それとパスが、本当に「高い確率」で合うというわけです。プレーイメージも含めた「互いのプレーのクセ」が、まさに「あうんの有機連鎖」をつづけるジュビロといったところ。強いはずだ・・。

 「安全なボール保持(ボールポゼッション)」と、「仕掛けの臭い」をミックスしたボールポゼッションとは、基本的なプレーの発想が違うという重要なテーマがあります。

 アントラーズの場合、前線の選手が、スッと下がってきても、少しでも相手に狙われていたら「パスを付ける」のを逡巡する傾向があります(パスタイミングの遅れ!)。だからパスとフリーランニングのタイミングを合わせるのが難しくなってしまうというわけです(来い!というタイミングでパスが来ないから、受け手のイメージがどんどん希薄になっていく!)。それに対しジュビロは、とにかく、どんなに狭いスペースでも、そこへ入り込んでくる味方には(または、スペースでフリーになっている味方には)、必ず、素早くシンプルなタイミングで、ズバッという鋭いパスを「付け」るだけではなく、そこからも、どんどんとシンプルな横パスをミックスさせつづけるのです。そんな確立した「パスリズム」があるからこそ、ボールがないところでの動きをベースにした「ボールの動き」の次元もどんどんと高揚していく・・。

 ボールポゼッションの目的は、シュートすること。その発想が「背景」にないボール保持は、ボールをキープすること自体が「目的」になってしまう!? もちろんアントラーズのサッカーが、そんなイメージの悪魔のサイクルに落ち込んでいるとは言いませんがネ。

 ジュビロでも、すべての試合で、ボールの動きのリズムを一定に保てるわけではありません。彼らにしても、試合のなかで、その「リズム」を互いに確かめ合いながら高めていかなければならないということです。サッカーゲームもまた「生き物」ですからね。この試合でもジュビロは、「成熟したイメージの有機連鎖」を基盤に、どんどんとボールの動きのリズムを高揚させていた感じます。

 それでも前半の中盤を過ぎた頃から、(スムーズではありませんが・・)アントラーズもしっかりと押し返しはじめます。まあ、18分ころの、エウレルの飛び出しは、ジュビロ守備ブロックのミスを拾ったチャンスだったから別にして、22分には、素晴らしい「崩し」を魅せます。右サイドからの素早いサイドチェンジ展開で、最後は左サイドのエウレルが(だと思ったんですが・・)フリーシュートまでいったのです。また27分には、完璧なカウンターから左サイドで小笠原がタメを演出し、右サイドの柳沢へ勝負のサイドチェンジのパスを送ります。そして柳沢が、そこからのドリブル勝負で一人抜き、シュートまでいきます(惜しくもゴール左へ外れる)。

 この二つのシーンでは(それ以外にも二本ありましたが・・)、効果的な「仕掛けのサイドチェンジ」が活きました。「最初の仕掛けサイド」に集中する守備ブロック。その逆をうまく突いたアントラーズの攻めだったというわけです。ボール周辺にディフェンスが集中する現代サッカー(コンパクトサッカー)では、その逆(つまりディフェンスの薄い部分)を突いていくというイメージが、ものすごく大事なんですよ。

 とはいっても、まだまだ有機的なプレー連鎖レベルでは、大きな問題を抱えているアントラーズ。このことについては、今シーズンの開幕を告げる「ゼロックス・スーパーサッカー」でのエスパルス対アントラーズ戦でもコメントしました。

 とにかくアントラーズの場合は、攻撃でのイメージがうまく噛み合っていないことが一番の問題。個々の能力は十分ですからね。エウレルや本山にしても、ちょっと「勝負所」に関するイメージが希薄なようです。だからこそ明確なチャンスメイカーが必要・・。

 前にも書いたと思いますが、とにかく小笠原。彼の「覚醒」を期待するしかありません。まあ、性格を変えろ・・なんてのは無理としても、とにかく、彼がもっともっと自己主張しなければ、アントラーズの発展はないと断言できます。あれほどの才能の持ち主ですから、このまま「小さくまとまってしまう」のは本当に惜しい。どんな方法でもいいから、彼をもっと「怒らせる」ことが必要なのかも・・。そう、心理的なダークサイドパワーですよ。「フザケルナ! オレにパスを回せ!!」なんていう怒りの自己主張・・!?

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 ジュビロの二つのゴールは、「皮肉」にも、純粋な個人勝負から決まりました。後半6分に挙げた西の先制ゴール。そして後半終了間際に高原がぶち込んだ追加ゴール。もちろんそれ以外にも、彼らの真骨頂ともいえる「流れるような仕掛け」からのチャンスメイクも十分に魅せてくれましたけれどネ。

 ゲームは、ジュビロ西の先制ゴール、そしてエウレルのケガでの退場の後は、もう完全に「前述したとおりの展開」になっていきます。アントラーズの攻めには、もう、ジュビロ守備ブロックを突き破ってやるゾ!・・という強い意志を感じることはありませんでした。それでも、両サイドの名良橋とアウグストが勝負してきたときだけは、そのアグレッシブなプレー姿勢(強気の自己主張)に、「往年の迫力」を少しは感じましたがネ・・。

 これも前に書いたことですが、もっとアントラーズは、名良橋とアウグストがオーバーラップする状況を作り出さなければなりません(現代サッカーでは、後方からの押し上げや飛び出しが、攻撃の生命線になっている!)。もちろんそのためには、小笠原と本山の「実効あるディフェンス」が大前提になるわけですが・・。

 最後になりましたが、ジュビロのサッカーを観ていて思っていたことがあります。ポジションなしのサッカーが理想・・それです。

 このフレーズは、私のオリジンともいえる、1995年に刊行した「闘うサッカー理論(三交社刊)」の冒頭に書いたものです。いまでも私は、この大原則を明確に意識しながら文章を書いています。GKを除き、フィールドプレーヤー全員が、基本的なポジションなしでプレーする・・それでも、互いのポジショニングバランスが崩れることはない・・。それです。

 ジュビロの中盤に、そんな理想型へ向かう明確なベクトルを感じます。まあ、いつも書いていることではありますが。藤田、服部、福西、西、そして名波。彼らは、まさに縦横無尽というポジションチェンジを繰りかえすのです(まあ、服部と福西の二人については、中盤の底を基調としていますがネ)。左サイドのはずの藤田が、右サイドやセンターに顔を出す・・左サイドでは、右サイドが基本の西がドリブル突破にチャレンジしている・・頻繁に、藤田と西が(交代に)オーバーラップすることで、中山と高原を含めた「スリートップ」という状況が演出される・・等々。その演出家(バランサー)は、名波と藤田ですかネ。

 基盤は、もちろん全員の高い守備意識(ポジショニングバランス意識)。彼らの、自分主体で考えつづけるサッカーは、まだまだ発展をつづけていると感じます。

 とにかく、ジュビロの目の覚めるようなハイレベルサッカーに、徐々に「グランドチャンピオンシップ」という文字が希薄になっていくのを感じていた湯浅でした。



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