湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第13節(2002年11月16日、土曜日)

さてジュビロが、まさに順当といえる総合優勝へ向かって確実に歩を刻んでいます(サンガ対ジュビロ=0-3、アントラーズ対サンフレッチェ=0-2)・・そして、ガンバが生き残りました(レッズ対ガンバ=0-1)

レビュー

 ウワッ! 思わず声が出てしまいましたよ。ジュビロの先制ゴールシーン。前半21分のことです。

 ミッドフィールドの低い右サイドで、完璧ルックアップでボールをキープする福西。ジュビロの「アイコンタクト範囲」の広さを実感させられた一瞬。そして、左サイドから「爆発」する藤田。こうなったらサンガのディフェンダーは、もうマークし切れない・・。そして、藤田の決定的フリーランニングと福西のスルーパスが完璧にシンクロする・・。もちろん藤田の落ち着いたシュートも素晴らしかったのですが、とにかく、ジュビロの「イメージシンクロ半径」の広さが印象深かった先制ゴールシーンでした。

 そのシンクロレベルの高さこそが、ボールの動きのリズムが高質に安定していることの証です。選手たち全員が、動けば必ずパスが来る・・と確信できているということです。そこにも、組み立て段階でシンプルにボールを動かすことの隠された意義があります。まあ、いつも書いていることですがネ。

 先制ゴールが入るまでの展開ですが、私は、「流石にサンガはよくトレーニングされたチームだな・・。これはいいゲームになる・・」なんて思っていたものです。サンガが展開する、ハイレベルなプレーイメージを基盤にした組織ディフェンス。ジュビロトップ選手への、臨機応変な忠実マークばかりではなく、下がりすぎることなく、中盤の起点(パス出しステーション)に対するチェックも、忠実でクリエイティブなのです。

 ここでクリエイティブといったのは、ジュビロ中盤での「次のボールの動き」をしっかりと読む(予測する)という姿勢でプレーをつづけているという意味です(もちろん実際に読みが外れることもありますが・・)。ジュビロは、一つのゾーンに相手を「集中させる」ようなボールの動かし方が得意ですからネ。そして、相手が集まったことで別のゾーンに出来る「穴」へ、パスとフリーランニングをシンクロさせてしまう・・。そんなジュビロに対し、サンガは、ボールホルダー(次のパスレシーバー)への、素早く忠実なチェックをベースに、次、その次というディフェンスイメージでジュビロの攻撃を抑えていたのです。だから、ジュビロトップの高原、中山が、彼らが欲しいタイミングとコースのパスをもらえるシーンの演出がままならない。そして、ジュビロ攻撃の途中でボールを奪い返したら、素早く、直線的に前線へつないでワンチャンスに賭ける・・。

 そんなふうに、ゲーム立ち上がりの15分間は五分の展開だったのですが・・。

 このジュビロの先制ゴールシーンは、ココゾ!のチャンスを明確にイメージし、その判断を、実際にボールがないところでのアクション(決断)に結びつける能力の高さの証明でした。それにしても、決定的パスを「呼び込む」素晴らしいフリーランニング。藤田に乾杯!

 その6分後。CKから、ジュビロが追加ゴールを挙げます。これまた、名波と高原の、最終勝負スポット(勝負シーン)に対する高質なイメージシンクロが生み出したゴール。ニアポストゾーンへの高原の走り込みと、その動き(軌跡)を明確にイメージした、名波の正確なキック。いや、鳥肌モノでした。

 後半立ち上がり三点目も素晴らしかったですよ。高原が、ワンツーをイメージして藤田へパスを出し、爆発的な「&ムーブ」を仕掛けます。ただ藤田は、サンガの守備が「ツーのパス」を狙って、そのスポットに集中していることを事前にイメージしていました。もちろん、反対サイドで中山ゴンがフリーになっていることも含めてネ。そしてワントラップで、素早く中山ゴンへラストパスを通したというわけです(もちろん中山の泥臭い確実シュートも例によってゴンゴール!)。

 ジュビロについては、来週発売のサッカーマガジンの連載でとり上げました。まだ発売前ですから、原稿をそのまま載せるわけにはいきませんが、テーマは、「規制と解放」というファクター(要素)がハイレベルにバランスしたジュビロ・・そのベースは、選手全員に深く浸透した抜群の守備意識・・等々です。

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 ここでチャンネルをチェンジ。

 今度はアントラーズ対サンフレッチェを観戦です。そして見はじめてすぐに(後半11分)、サンフレッチェが、カウンターから追加ゴールを叩き込んでしまいます(森崎浩二)。完全にサンフレッチェのゲームイメージがツボにはまったゴールでしたね。前半43分にサンフレッチェ大木が挙げた先制ゴールで一点リードされているアントラーズが、カサにかかって攻め込んでくるウラを突いたカウンター・・というわけです。その直後にも、同じようなカタチから、またまたサンフレッチェが惜しいシュートを放ちます。フ〜〜ッ。

 この後は、もう完全にサンフレッチェペースになります。変化を演出することがままならず、ゴリ押しの力業オフェンスを繰り返すアントラーズ。だから、サンフレッチェゴールへは迫れるものの、まったくといっていいほど相手守備ブロックを崩せない。もちろんそれは、サンフレッチェが守備を厚くしていることと、ものすごい集中力で粘り強く守っていたからなのですが(ものすごい集中力で、タイトにマークをつづける!)、あれ程アントラーズがタテ、タテと、(迫力はありますが)単調なリズムで突っかけていけば、サンフレッチェにしても明確に次を予測することができますからネ。次のポイントの選手が最高の集中力で、回されてくるに違いないボールを全力で競り合う(その勝負に心理的に備えている)というわけです。

 そしてゲームは、そのまま「0-2」でサンフレッチェの勝利でタイムアップになります。これで、アントラーズの優勝はなくなり、逆に降格リーグに再び火がつきました。サンフレッチェのゲーム内容は悪くはありませんから(あれだけのサッカーができるのに何故ここまで追い込まれたのか・・)、これからの肉を切らせて骨を断つ闘いに目を凝らしましょう。

 この試合では(後半だけですが)、久保の積極プレーに目を見張らされました。あれ程の才能の持ち主なのに、これまでは期待を裏切られてばかり。それでも、あんなパフォーマンスを見せられたら、またまた彼に対する期待がふくらみつづけるってなもんじゃありませんか。とにかく、次節の、柏とのギリギリの勝負に期待しましょう(広島まで行こうかな・・)。

 さて私は、これから駒場へ単車を飛ばします。レッズ対ガンバ。さて・・。

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 あ〜寒かった。本当に、急に冷え込んでしまった・・。

 さてこの試合、両チームにとっては、アントラーズが脱落してしまった優勝争いに生き残るための本物の勝負ということになります。とはいっても、90分勝ちでも、ガンバが「25」、レッズが「24」と、勝ち点「30」に達したジュビロに大差をつけられていますがネ。

 この日のレッズは、スリートップという明確な前後分断サッカーから、少し元に戻すような発想のゲーム戦術を立ててきました。ということで、エメルソンとトゥットのツートップ。二列目に福田と鈴木。内舘が守備的ハーフ。たぶんこれには、両サイドが、もう少し積極的に前へ仕掛けていくように・・、また鈴木啓太や福田も、チャンスを見計らって・・という、攻撃の変化を演出することに対する意図が込められているのでしょう(少なくとも外部からはそう見えましたが・・)。

 それでも、相手のツートップとサイド(新井場と橋本)だけではなく、二列目の二川(内舘)、三列目のファビーニョ(福田)、遠藤(鈴木啓太)と、完璧なオールコートマンマークですからネ。これでは、選手たちが「次のこと」を常に気にかけてしまい、そうそう簡単には「上がり切れない」のも当然の成り行きです。もちろん、レッズ守備の組織が整わない状況でガンバに攻め上がられた場合は、臨機応変のマークの受けわたしはしますがネ。それでも選手たちが、最初に決められている、誰が誰に付くのかという「マーク・オーダー」をかなり気にしているということが如実に見えてくるのです。これではネ・・。

 また山田と平川の両サイドにしても、ガンバ攻撃のコアともいえる新井場と橋本の両サイドハーフを気にし過ぎているから、そうそうは上がりきるところまで行けません。とにかく、ツートップに戻したことで、「前後分断ゲーム戦術」が、攻守にわたって、より中途半端になったと感じていた湯浅なのです。

 レッズの攻撃ですが、もちろんガンバの選手たちが下がったら絡んでいく人数は自然と増えます。でもそんな状況は、相手の守備組織が完全に整っているということですから、崩すのが難しくなるも当然。

 私が言っているのは、相手の守備ブロックが整わない状況を狙い(カウンター気味の攻撃で!)、自分のマークを放り出してでも、何十メートルも上がり切って攻撃の最終シーンに絡んでいくようなリスクチャレンジプレーのことです。それこそが、本当の意味で、攻撃に絡んでいく人数を増やすということなのです。でも実際は、そんなシーンは希。だから、チャンスになりそうな状況で仕掛けていくのは、どうしてもトゥットとエメルソンだけになってしまう・・。それでも、後半に石井が登場してからは、少しは中盤のダイナミズムが向上したと感じましたがネ。

 対するガンバですが、彼らもまた、忠実なレッズ守備を崩し切るところまでどうしても行けません。マグロンにピタリと付く室井は、ヘディングでも簡単には負けませんし、何せ、サイドからのクロスを上げるところまでも行くことがままならないんですから・・。たしかに、前半の立ち上がり15分くらいは、素晴らしくスピーディーなボールの動きで、サイドからチャンスを作り出してはいましたけれど、それ以降は・・。

 そして後半34分、出てきましたよ、天才マルセリーニョが。そしてガンバの攻めに、明らかに変化が出てきます。その変化のコアは、何といってもボールの動き。マルセリーニョがどんどんと動きまわり、クリエイティブな中継ポイントになりつづけるのです。そして、新井場からのクロスを中山が惜しいシュートを放つなど、どんどんとガンバの攻めの危険度が増していくのです。

 最後は、マルセリーニョからのタテパスを中山が胸で落とし、それをマグロンが左足一閃。それが決勝ゴールということになりました。

 ガンバでは、二川のプレーが印象的でした。前半からも、彼が絡んだチャンスメイクが目立っていました。二列目での大きな動き。才能あふれるボールコントロール。そして勇気ある個の勝負。マグロンを「柱」に、その周りを動きつづける効果的な衛星プレーは実に印象的でした。

 さてレッズ。これで優勝争いから完全に脱落しました。残念ではありますが、まあ仕方ない。それにしても、「あの」オールコートマンマーク戦術。いろいろな見方はあります。いつも書いているように、天皇杯まで、このまま突っ走ってもいいとは思います。何といっても、トーナメントでは威力を発揮する忠実ディフェンス戦術ですからね。それでも、サイドや中盤まで、相手を一人残らずマンマークというのはどうですかネ・・。

 ハンス・オフトの優れた仕事によって、選手たちの守備意識は、抜群に発展しています。それこそが、レッズ躍進の明確な背景なのですが、ここまで守備意識が高まっているのですから、少し、守備にクリエイティブな発想を導入してもいいかな・・なんて思うのですよ。まあこれも、いつも書いていることですが・・。

 例えば、「オールコート」は、相手トップと二列目のチャンスメイカーだけにし、それ以外は、臨機応変にマークを受けわたすとか、サイドも含めた中盤でコンビを組ませ、上下のバランスを保つとか・・。そうすれば、確実に、トゥット&エメルソンコンビに対するサポートも厚くなるでしょう。まあ、ハンス・オフトは、失点をゼロに抑えていれば、トップの個人技で一点は入れるだろう・・ということなんでしょうがネ。

 残りのリーグ戦二試合、彼らのチーム戦術が変化の兆しを見せるのか、そのままなのか・・。注目しましょう。



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