湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第11節(2002年10月27日、日曜日)

私は、様々な視点で、大いに楽しんでいました・・(レッズ対ヴェルディー=0-1、延長Vゴール!)

レビュー

 この原稿は、ちょっと落ち着いてから・・ということで、テレビ埼玉で今夜放送された「レッズナビ」に出演した後、一度読み返してからアップすることにしました。ということで、ちょいとアップが遅れ気味。ご容赦アレ。

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 前節のアントラーズ戦では、エメルソンが出場停止。そして今度はトゥットが・・。でも、「しっかりと守ってスリートップの決定力に賭ける」というチームの基本コンセプトはそのまま。私は、降格がなくなったレッズだから、そろそろ「発展の方向性が見えてくる」ような「チーム戦術的なベクトル」を示しはじめてもいい頃かな・・なんていう興味で、この試合を観戦しようと思っていました。

 対するヴェルディー。「局面勝負の天才」小林慶行に代わり、この試合では、玉乃が先発に名を連ねました。この交代によって攻守にわたるダイナミズムが向上するのか・・。注目しましょう。とにかく、いまのヴェルディー中盤のプレーからは、攻守にわたるダイナミズムを高揚させようとする「意志」自体が感じられなかったですからネ。あれほどの能力を備えた選手たちを抱えているにもかかわらず・・。また、ケガから復帰した三浦淳宏にしても、まだ「積極的に仕事を探す」という姿勢では本調子じゃない・・。

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 さて試合。

 最初の時間帯でゲームの流れをコントロールしたのはヴェルディーでした。それでも、やはりというか、レッズのディフェンダーにピタリとマンマークされることで、徐々にボールがないところでの動きとボール自体の動きが停滞気味になってきます。もちろんそれでは、決定的チャンスを作り出すところまで行けるはずがない。それに伴ってレッズの前への勢いが増幅していきます。

 ヴェルディーの攻めは、本当に「動き」に欠ける。それは、すべての仕掛けイメージを演出するのがエジムンドだからということもあるのでしょう。いつも書いていることですが、一人の天才は、チームにとっては諸刃の剣だということです。組み立てベースの攻めでは、ボールがないところでの「揺動の動き(クリエイティブなムダ走り)」に欠けることで、どうしても「前が詰まり気味」になってしまいます。

 それでも、カウンターなど、レッズの守備組織が整わず、最終勝負を仕掛けていける状況になったときには、「急に」動きが出てきます。そして、それまでの「停滞」がウソのように、数人が正確に連動する危険なコンビネーションを仕掛けていく。まあヴェルディーの場合は、選手たちが、この「緩急の使い分け」を強く意識してプレーしているということなのですがネ・・。

 対するレッズも、危険な仕掛けを演出することがままなりません。ヴェルディー守備陣が魅せる、優れたポジショニングバランスをベースにした高質なクリエイティブディフェンス。本当に「巧み」にレッズのスリートップを抑えてしまいます。要は、後方からレッズが繰り出すパスの「ねらい所」が決まっているために、そのコースが簡単に「読めてしまう」ということなのですが、それにしても、パスの出所に対する抑制(追い込み=パスコースの制限)と次の守備がうまくリンクしていると感じます。ということで、レッズの攻撃が、どうしても「力ずく」になってしまうのです。まあ元々、しっかりと守り、攻撃は「個人の突破力」に望みを託すというのが基本的な発想ですけれどネ・・。

 そんな展開のなか、両チームともに、チャンスが出来そうになるのはカウンターの状況だけということになってしまいます。

 前半では、ロスタイムに飛び出した、カウンターからのエメルソンのチャンスが、両チームを通じて、唯一「決定的」と呼べるものでした。それにしても、やはり「ツボ」にはまったときのエメルソンはすごい。とにかく、我慢に我慢を重ねて、一本でも「カタチ」になれば、確実に決定的チャンスにしてしまうのですらね。いや、もう本当に、何といおうか・・。

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 後半は、動きのある面白い展開になります。両チームともに、チャンスを作り出しはじめたんですよ。レッズがペースを握ったと思ったら、今度はヴェルディーが押し返す。そして、前半よりは相手ゴールに近いゾーンまで攻め入ることができる。

 でもゲームは、そんなシーソー的な内容から、徐々にレッズがペースを握るようになり、対するヴェルディーがカウンターを狙うという流れに変容していきます。この傾向は、レッズの石井が交代出場してきてからは、より顕著になったと感じます。石井の登場によって、レッズ中盤の攻守にわたるダイナミズムが向上し、より「組織的」にゲームを支配しはじめたと感じられるようになったのです。

 とはいっても、「タテ方向」のボールの動きは活発になったものの、どうしても決定的チャンスを作り出すまでは行けないレッズ。ボールがないところでの、複数の「連動した動き」がベースになっていないから、仕掛けのアイデアが単純になってしまうのです(中盤での組み立てにおけるシンプルパスとは意味が違いますよ!)。そして最終的な仕掛けイメージは、「個のドリブル勝負」に集約されていく。これでは、クレバーなヴェルディー守備ブロックを崩し切れないのも当然か・・。

 後半最後の時間帯におけるヴェルディー選手たちは、完全に、守備を固めてカウンターを狙うというイメージでプレーしていました。そして実際に、後半ロスタイムにはエジムンドが、決定的シュートまでいってしまいます。

 この、後半最後の時間帯での「グラウンド上の現象」は面白かったですよ。互いにペースを奪い合いながらも、組み立てベースの攻めでは、どうしても崩せない。そこで作り出されたチャンスのほとんどは、押し込まれている方が繰り出したカウンターからのものだったのです。互いに、カウンターでしかチャンスを作り出せなくなっている!?

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 そして延長。互いに決定的なチャンスを何度も作り出すなど、俄然、白熱の様相を呈してきます。レッズは、組み立てからもチャンスができるようになってきましたからね。とにかく、中盤の積極的な攻撃参加さえあれば、確実にサッカーのレベルが一段階アップするということです。あれだけ「守備意識」が高まってきているのですから、そろそろ「後方と前方が融合」するような発想を注入してもいい頃なのでは・・なんて思っている湯浅です。

 延長のゲームは、どちらに転んでもおかしくないというエキサイティングな展開でした。両チームともに、ちょっと守備が「開いてしまっている」とはいえ、攻めるところはしっかりと行く。レッズではエメルソンや永井、ヴェルディーでは、エジムンドが決定機を迎えました。

 米山の「サンデーシュート(信じられないようなスーパーゴールのことを、ドイツではそう呼びます=日曜日は、静かに神様と対峙する日だから、そこで起きたことは神様の仕業!?)」については、コメントの必要などないですよネ。ヴェルディー最終ラインで、クリエイティブ&ステディーな守備プレーをつづけた米山ですから、その決勝ゴールは、まさに正当な報酬・・。

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 最後にレッズについて一言。

 降格の不安から解放された・・。全員の「守備意識」が格段の高まりをみせ、相手に点を取られないという確信レベルも大きく高揚している・・。そして、守備ブロックの心理的な安定(しっかりと守っていれば、アイツ等がいつかは決めてくれる・・という強い期待をいだけること)を保証する「攻撃の才能」もいる・・。

 そんなレッズだからこそ、徐々に、発展方向(サッカーのレベルアップ方向)へ舵を切りはじめてもいいかな・・と思うのですよ。

 これは「微妙」なことなのですが・・。いま彼らが展開している「セキュリティー・サッカー」は、たしかに「連続した粘勝」のバックボーンであるし、それに対する選手たちの確信レベルも深まっていることでしょう。たぶん、このまま全く何も変えない方が、「J」での優勝争い、ナビスコカップ決勝、はたまた天皇杯での「結果」も、良い方向へ転ぶ可能性が高いと思います。それでも少しは、レベルアップのための「リスクチャレンジ要素」も欲しいな・・と思うのですよ。

 例えば、両サイドバックと、スリートップのサイドとの「タテのポジションチェンジ」だとか、中盤の底の(そのうちの一人の!)積極的な押し上げ(縦方向のボールの動きの演出や、中央ゾーンでのタテのポジションチェンジ等々)などのことです。

 もちろん、守備のチーム戦術を大幅に変えるなどという愚行を望んでいるわけではありませんし、エメルソン、トゥットという「個の才能」を最大限に活かすいまの攻撃のやり方を、大きく「組織方向」へ振れなどと言っているわけでもありません。

 上記した「(例えばの)発展的プレー」は、そのまま取り返しのつかない結果に直結する危険性が大きすぎるというわけではないし、逆にそのことで、レッズのサッカーが、結果を残しながらも、「美しく強いサッカー」という理想へ近づいていけるとも思っているのですよ。

 とにかく、ハンス・オフトのお仕事に注目することにしましょう。



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