湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第1節(2002年8月31日、土曜日)

チームの雰囲気(プレー姿勢)に「ポジティブな変化の兆し」が・・ヴェルディー対パープルサンガ(5-0)

レビュー

 「あっ、タメた・・」。その瞬間、そんな小声まで出てしまいましたよ。

 前半7分に挙げたヴェルディー先制ゴールのシーンです。パープルが、攻撃に移ろうと前へ重心を移動させていた途中で、ヴェルディーにボールを奪い返されてしまったのです。すかさず、前線に残っていたエジムンドにタテパスを送り込むヴェルディー。それを柔らかくトラップしながらスッと振り向くエジムンド。そして、ドリブルしながら一瞬キープし(これが小声のシーン!)、そこから平本の爆発ダッシュに合わせて、スパッとスルーパスを決めたんですよ。ベストタイミングの決定的フリーランニングスタートとスルーパス。それこそ決定的なイメージシンクロ! 素晴らしい。

 また、そこからの、相手GKのアクションをしっかりと見極めた平本のゴールへのパスも見事。これも、平本の「一瞬のタメ」から生まれました。二つの「タメ」が得も言われない美しいハーモニーを奏でる。「才能の饗宴」にため息しきりの湯浅でした。

 とはいっても、前半でのゲームの全体的な内容ではパープルサンガに軍配が上がります。中盤の「構成とプレイイメージ」のレベルの差とでも表現しましょうか。構成とは、選手の基本ポジショニングと選手タイプの組み合わせのこと。プレイイメージとは、攻守にわたって、どのように相手からボールを奪い返すか、そしてどのようにシュートにつなげていくのかについて「アタマに描かれる」プレイ内容が、うまく連動しているということ。組織プレーでは、パープルに一日の長があるということです。

それにしても、パープルの「前の三人(パク、松井、そして黒部)」は抜群の破壊力を秘めているじゃありませんか。長い間一緒にやっていることでの「成熟」を感じます。要は、互いのプレーイメージが連鎖すれば、選手たちの「個のチカラ」が最大限の相乗効果を発揮する・・というサッカー的なロジックを如実に体現しているということです。また、特に左サイドの鈴木慎吾が魅せる、自信にあふれた危険な攻め上がりも、良いアクセントになっています。

 ただ、冒頭で紹介した先制ゴールの後、ほとんど効果的な攻めを展開できていなかったヴェルディーが、前半残り10分くらいになってから、持ち前の「一発の爆発力」を魅せはじめます。もちろん「才能ベースのカウンター」。演出家は、言わずと知れたエジムンドです。彼が振るタクトに、マルキーニョス、平本が、「ココゾ!」の爆発ダッシュを繰りかえすのです。それは、彼らのアクションが噛み合いはじめた時間帯でした。とはいっても、ヴェルディーの追加ゴールは、エジムンドのFKがポストに当たって跳ね返ったところを山田が決めたもの(要はセットプレーゴール)でしたがね。

 両チームともに、特に中盤のディフェンスに見所が集中しています(まあ、相手最終ラインを崩し切るシーンがほとんどないから仕方ない・・!?)。私は、それに目を凝らしていたのですが、ボールチェッカー、インターセプター、協力プレスアクションなどなど、瞬間的な「駆け引き」の応酬に、「その視点でゲームを見はじめて良かった・・」なんて思っていた次第。

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 さて・・。こうなったら(2-0でヴェルディーがリード)、後半のパープルは、ガンガン攻め上がらなければならない。対するヴェルディーは、カウンターを狙う・・。ということで、パープルサンガのエンゲルス監督は、後半、中村の代わりに中払を投入し、エジムンドには(そこにカウンターの起点が集中するということで!)石丸をピタリのくっつけるというマイナーチェンジを施します(限りなく、オールコートマンマーク)。それでも、うまく止められない・・止まらない・・。サスガにエジムンドだな・・なんていうシーンが続出でした。

 そして後半19分には、エジムンドにPKを決められ、逆にリードを「3-0」と広げられてしまって・・。このシーンでは、ヴェルディーが演出した、爆発的なテンポアップからの組織的オフェンスがインプレッシブでしたよ。まあ数少ない組織プレーのシーンだったから目立ったということなんですがネ。

 とはいっても、後半の半ばまで見てきて、ヴェルディーのサッカーに、ポジティブな変化が明確に見える・・と感じはじめている自分に気付きました。フォーバックの前にバランス良くポジショニングする「トリプルの守備的ハーフ(小林大悟、山田卓也、そして横浜FCから出戻ってきた高木成太・・でも本当は、三角形を意図しているんでしょうが・・)」。その守備ブロックが、才能あふれる前線の三人をバックアップする。ヴェルディーは、守備ブロックの忠実ディフェンスを基盤に、ステディーな(安定した)サッカーを展開しながら、ココゾ!のチャンスを粘り強く狙いつづけます。そんな彼らのサッカーに、(忠実さをベースにした!)攻守にわたるダイナミズムが増大していると感じていたんですよ。

 この、前線の三人の「構成」内容と、攻撃は基本的に彼らに任せるという「攻撃のチーム戦術イメージ」は、相対するパープルサンガと酷似しているじゃありませんか。それは、「創造性プレーヤー」と「汗かきプレーヤー」のバランスってなところですかネ・・。

 あっと・・話題がそれてしまうところでした。さて、ヴェルディーのポジティブな変化ですが、その(心理的な)背景に、皆さんも報道でご存じの「数人の選手の追放」があることは明らかですよね。ヴェルディーの場合は、何といっても「選手のプレー姿勢」が(≒クラブの体質)が、課題のコアでしたからね。まずそれを克服しないことには、ニッチもサッチもいかなない・・。彼らのプレーに、本質的な意味での「アンチサッカー要素」が目立ち過ぎていたということです。どんなに能力が高くても、攻守にわたる「クリエイティブなムダ走り」に代表される「汗かきプレー(互いに使い、使われるプレーの高質なバランス!)」がなければ、絶対にサッカーの「クオリティー」を上げることなんか出来ませんからね。

 「もっとクレバーに、効率的にサッカーをやろうぜ・・」なんていう発想の連中が集まったら(ソイツらが上手い選手だからこそ!)、その「心理ヴィールス」が、すぐにでもチーム内に蔓延してしまうということです。サッカーの歴史のなかで繰りかえされてきたネガティブ現象・・。

 その意味で、ロリ監督は、自身の「リスクチャレンジ」という意味も含めて、良い仕事をしていると感じます。この試合内容を見て、セカンドステージのヴェルディーの存在感が、ファーストと比べて格段に上がると確信していた湯浅だったのです。

 たしかにゴールは、カウンターからの二発(平本の先制ゴールと、この試合最後の桜井の5点目)、エジムンドのPK、そしてエジムンドが放ったFKのこぼれ球ゴールが二発と、しっかりとした組み立てフローのなかでの決定的チャンスメイクはほとんどありませんでした(まあ、現代サッカーの傾向を象徴しているということですがネ・・)。

 それでも、とにかく守備ブロックをカッチリと固め、辛抱強くチャンスを待って、ココゾ!のチャレンジをつづける(そこでの活動量と質が抜群に上がっている!)・・という選手たちの基本的な「姿勢」が明確に感じられたことが、この試合での大きな収穫だったというわけです。創造性と、「真摯な汗かき」がハイレベルにバランスしはじめているヴェルディー・・!?

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 最後になりましたが、この試合でもまた、流れのなかでのチャンスメイクには、バックアッププレイヤーによる後ろ髪を引かれることのない「一瞬の攻撃参加」が不可欠だって再認識していたことを付け加えなければ。まあ、当たり前ではありますが。だからこそ、チームメイトによる「バックアップ」への相互信頼レベルを上げることがトレーニングの重要な課題でもあるということです。

 この試合で見事だったのは、後半に交代出場した、パープルサンガ中払の「抜け出し」からのフリーシュート。最後方から、最前線の「三人」をうまく活用し(タイミングの良いタテパスと、そこでのタメ)、最後は、両チームの攻守全員を「追い抜いて」決定的スペースへ飛び出し(=パスを呼び込むフリーランニング!)、そして完璧なシュートを放ちましたよ。右サイドのバーに阻まれたとはいっても、とにかく見事なチャンスメイクではありました。

 またヴェルディーでも、田中隼磨、相馬、はたまた山田等がタイミングの良いオーバーラップを仕掛け(特に田中!)たときに、素晴らしくクリエイティブな攻めが成就しかけるシーンが演出されていました。やはり、そうということですよネ・・。

 まあ、両チームともに、下がり目のハーフを「厚く」することで、両サイドの攻め上がりをサポートするという基本イメージでプレーしていたわけですがネ・・。

 この試合では、ファーストステージの「お返し」をされてしまったパープルサンガ(そこでは「5-1」でサンガの勝利・・その後彼らの快進撃がはじまる・・)。それでも彼らの高質な組織サッカーは健在だと感じました。もちろん「内情」については、詳しくは分かりませんし、彼らをつづけて観ているわけではないので、そんな評価も、この試合の「スポット」ということですがネ。もしかしたら、彼らは調子を崩しつつあるのかも・・。まあこの両チームについては、次のゲームも注目することにします。

 さて明日はグランパス対エスパルスをテレビ観戦し、気付いたところをピックアップしましょうかネ。では・・



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