湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第14節(2002年8月10日、土曜日)

押し詰まって本来の調子を取り戻しつつあるジュビロ・・ジュビロ対ベガルタ仙台(4-0)・・カッタるい試合でした・・グランパス対レッズ(2-1)

レビュー

 今日は、所用が重なったため、スタジアム観戦ではなく、テレビで二試合をレポートすることにします。ジュビロ対ベガルタ、そしてグランパス対レッズ。テレビ観戦ということで、この両試合については、エッセンスだけを、なるべく短くまとめようとしている湯浅なのです。

 さてジュビロ対ベガルタ。ジュビロの、ダイナミックな「流動ミッドフィールド」は、久しぶりに五人組が揃い踏みです。福西、服部、名波、そして西と藤田。ゲーム立ち上がりの数分間は、中盤での素早く忠実なプレスによってベガルタが攻め上がります。「そうなんだよな・・。ジュビロにとっては、この時間帯が、自分たちのイメージを固めるために大事なんだよな・・」なんて思っていました。

 ジュビロの流動ミッドフィールド。その意味の第一は、自分たち自身で、相手の仕掛けを抑えるためのイメージを確立するだけではなく、どのようにすれば、より高い位置で相手からボールを奪い返せるかという守備のテーマを処理することです。この立ち上がり数分間が、そんな「脳内処理」にあてられるのです。とにかく、相手の仕掛けの「スタンダード・シチュエーション(攻めのカタチ)」をよく観察していると感じます。相手ボールホルダーに対するチェックは当たり前ですが、その周りで「次を狙う」チームメイトたちが、仕掛けのタイプやタイミングを測る・・等々。

 そして、徐々にジュビロがゲームを席巻していきます。もちろん、効果的な「読みベースのボール奪取」をベースにして。

 前半も10分を過ぎるあたりからは、完全にジュビロのペース。何が「ペースを握る」ことの評価基準かって?? まず何といってもボールキープ率。それでも、ボールキープ率が高いチームがペースを握っているとも言い切れません。要は、ボールキープ率、守備ブロックの「余裕」、そして攻撃での「ツボ」がどのくらい機能しているか・・という要素の総体が「ゲームペースの掌握」に対する評価基準だということです。もちろんそれ以外にも、ケースによっては、より詳細な個人ファクターなどが絡んでくるわけですがネ・・。

 ということで、ジュビロのボールの動きは止まりません。彼らの素晴らしいところは、選手たちが、最終の「勝負シーン(決定的スペース)」を明確にイメージして組み立てているということです。右で素早くパスを回している状況で、逆サイドの藤田が、ススッと、タテのスペースを狙うポジションへ移動している・・、中盤(最終ライン)でゆっくりとボールを回している状況では、高原、中山ゴンが、猛禽類の眼光で、決定的スペースへの飛び出しを狙っている(もちろん一発ロングラストパスをイメージして!)・・等々。

 それでも、最高の時期から比べれば、やはりボールの動きの「質」は、ちょっと落ちると感じます。まあ、奥の離脱も大きかったし、相手も、ジュビロの組み立てに対する「イメージ・トレーニング」を積んで試合に臨んできている等、色々な要因があるのでしょうがね。それでも、この試合での出来は、ここ数試合では最高でした。ミッドフィールダーたちのプレーが、本当に生き物のように有機的に連鎖していました。もちろん守備においても、攻撃においても。

 20メートルを越える全力ダッシュで、相手の「次のパスレシーバー」へのチェックへ急行する名波。その動きに合わせ、周りの味方が、次のパスをカットできるポジションへ、スッと移動する。そんな、名波の全力チェックアクション、周りの味方のパスカットができるポジションへの忠実な移動が、「次のパスレシーバー」に対して、これ以上ないという心理的プレッシャーになる。そんなシーンを何度目撃したことか。守備における「有機連鎖」の典型シーン。

 まあ攻撃では、ボールのないところでの動き(クリエイティブなムダ走り)の積み重ねということに尽きます。そしてボールを活発に動かしつづけるなかで、どんどんと「起点(フリーでボールを持つ選手)」を作り出してしまう。それも、最終勝負ゾーンで・・。また、タテへの「仕掛けパス」が出るタイミングが早いことや、勝負の仕掛けパスが、例外なくスペースへ出されることなど、ベガルタとの「質の差」がアリアリです。要は、互いの「プレーイメージ」が、これ以上ないという高いレベルで「シンクロ」しているということなんですがネ。いや、素晴らしい。

 それにしても、ジュビロの四点目は素晴らしかったですね。中盤の高い位置。その右サイドから中へ切れ込んでいく名波。それが勝負の瞬間。ピピッと(もちろんアイコンタクト!)、名波と高原の最終章部イメージがピタリと一致したのです。それにしても、名波のラストパスも、高原の決定的フリーランニングスタートも見事の一言でした。ア〜アッ・・磐田までゲームを見に行けばよかった・・。

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 さて次は、グランパス対レッズ戦。

 レッズのペースはなかなか良かったですよ。攻撃は、例によって、トゥット、エメルソン、アリソンの三人「だけ」による演出。そして他の7人が専任で守るというというゲーム戦術がうまく機能したということです。要は、選手全員が、やるべきコト(役割分担)を明確にイメージし、忠実にそれを実行していたということです。

 逆に言えば、レッズのやり方が、はじめから明確に予測されていたにしては、グランパスのサッカーが鈍重だったとも言えます。何といっても、(前気味の平川も含め)レッズの後方の選手たちが上がってくるのは、彼らの最終ラインが押し上げた状況(つまり、グランパス守備ブロックの組織が整った後の「組み立て展開」のとき)だけでしたからね。

 レッズの「7人」の守備ブロックが展開する、早めの「マンマーク移行」というイメージの忠実ディフェンス。あれだけ後方の「密度」が高ければ攻めにくいことはよく分かります。それでも、だからこそ、レッズが押し上げた状況における「高い位置でのボール奪取」を明確に狙いつづける姿勢(もちろん、その状況における最前線への飛び出しをイメージしつづける心理的な姿勢のことですよ!)が重要な意味をもっていたのに・・。

 とはいっても、レッズのミスからの「ワンチャンス縦パス」で二点も先行してしまったのですからサッカーは分かりません。

 ヴァスティッチの先制ゴールの場面ですが、これは完全に、レッズ最終ラインによる「最終勝負のラインコントロール」のミス。ヴァスティッチは、まず「横方向へ」動いてから飛び出しましたからネ(このような状況が、一番、副審=ラインズマン=の判断ミスが出やすいモノ!)。こんな場面こそ、最後までマンマークをつづけなければならなかったのに・・。どうもレッズの守備からは、最終勝負シーンでの「中途半端な発想」が目立ってしまって・・。これについては、前節でも書きましたが、厳しくいかなければならない最終勝負の瞬間に、マークを「半身」離してしまったり(相手に身体を寄せ切れなかったり)、全力で最終の勝負ポイントへ急行するのではなく、「パスコースへ入って」しまったり(そんな状況では『アリバイプレー』以外の何ものでもない!)・・。

 全体としては(まあ分離サッカーではあるにしても・・)ある程度はうまくいっていたレッズの「ゲーム運び」。それが、こんな、最後の瞬間での「小さなミス(集中切れ)」でぶち壊しになってしまう。まだまだ、「首尾一貫したディフェンスイメージ(守備のチーム戦術)」という視点での、ハンス・オフトの「初期段階(!?)」での仕事はつづきそうです。とにかくレッズの選手たちは、一瞬の最終勝負シーンに関する「イメージ・トレーニング」を積まなければなりません。「ここが勝負所!」という瞬間に対する明確なイメージを「自分自身」で描けるようになるまでね。

 まあこの試合については、この程度のコメントにしましょう。ちょっとテレビ中継技術がネ・・。もっともイラつく「ズーム範囲」に終始するんですよ。パスが出そうになったら、すぐに「引け」ばいいのに・・。何がどうなっているのか観にくいことこの上ありません。とにかくフラストレーションがたまりにたまってしまいました。

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 明日は、鹿島まで出掛けます。優勝のかかったマリノスが、どのような試合を展開するのか。では明日また。



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