湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第7節(2001年9月29日、土曜日)

ちょっと長くなってしまいましたが、二試合をレポート・・マリノスvsジェフ(1-1)、FC東京vs浦和レッズ(3-2)

レビュー

 まずマリノス対ジェフ。この試合は、レポートが難しい内容でした。「変化」が乏しいことで(=両チームの守備が安定していたことで!)、相手の「発想のウラを突くプレー(個人勝負でも、コンビネーションでも)」が少なすぎましたからね。

 前回のレッズ戦(第4節)でレポートしたように、ジェフの「強さのソース」は、何といっても攻守にわたる「忠実さ」。要は、プレーヤー一人ひとりが、自分たちの基本タスク(守備の役目!)を確実にこなしながらも、攻撃では、常に(忠実に)「吹っ切れたリスクチャレンジ」のチャンスを狙いつづけている・・ということです(ちょっと、クリエイティブな変化には乏しかったですが・・)。

 まあアタリマエのプレー姿勢なんですが、それを90分間とおして保ちつづけられるようになったことが、ジェフ躍進の原動力になっているというわけです。良いゲームをやりながらも、最後は集中切れで失点し、負けてしまう・・、それが、いつもジェフが陥っていた悪魔のサイクルでしたからネ。

 守備では、何といってもミリノビッチ。先を読んだ効果的な「インターセプトのアクション」や、ここぞ!のカバーリングなど、彼の統率力が光り輝きます(マリノス先制ゴールのシーンでは、緩慢なプレーで、ブリットにボールをかっさらわれてしまいましたがネ)。また武藤と長谷部(後半には阿部)が組む守備的ハーフも抜群の出来。その中盤ディフェンスに、ムイチン、そして大柴等が、積極的に絡んでくるというわけです。

 攻撃の「コア」は、トップのチェ・ヨンス。彼を「最前線のポイント」に、周りがその能力を最大限に活かそうという基本イメージで、これまた「忠実」に仕掛けつづけるのです(サイドからのセンタリング・・、彼のヘディングでの「落とし」を正確にイメージした突っ込み・・、はたまた彼をポストにした二列目、三列目のオーバーラップ等々)。

 とにかく、ジェフは、ミリノビッチ、チェ・ヨンスという「最高の補強」によって、持てるチカラを最大限に発揮できるようになった・・ということです。

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 前半の最初の時間帯は、(マリノスが、早い時間帯での先制ゴールで引き気味になってしまったこともあって・・)ジェフの攻撃に、マリノス守備ブロックがタジタジ。

 それでも、20分を過ぎたあたりから、マリノスの守備ブロックにも安定感がもどってきます。特に、最終ラインの「中央」に入ったヤング小原。もちろんナザのバックアップもあったのでしょうが、どんどんと、ポジショニング、ボールを持ったときの処理などに落ち着きが感じられるようになっていきます。実戦のなかで成長する若手・・。見ていて、これほど元気の出る「現象」はありません。

 マリノスですが、この試合では、ゲーム戦術的な「構図」が明確になっていました。守備的ハーフの金子と永山は、決して上がらず、両サイドから抜群の攻め上がりを魅せつづける、ドゥトラと石川の「穴埋め」に徹します(もちろん数回は、前線への攻め上がりはありましたがネ・・)。もちろん攻撃のリーダーは中村なのですが、後方からの「クリエイティブな組み立てサポート」が、この試合では、ちょっと不足気味だと感じました。

 ブリットの先制ゴールの後は、攻められっぱなしだったマリノスですが、後半になって、やっと積極性がもどってきます。それも、守備的ハーフのコンビも含む「守備ブロック」に対する「信頼レベル」が上がったからに他なりません。そしてゲームが、どんどんと「ダイナミックな均衡」という様相を呈してきます。とはいっても、ゴール近くまではうまく攻め上がりはみせるものの、どうしても「最終勝負シーン」を演出することができない両チーム。

 後半32分のジェフの同点ゴール(コーナーキックから、この試合でも大活躍だった大柴のヘディング一閃!)ですが、それは、追いかけるジェフが、ミリノビッチを最前線へ上げるという「エマージェンシー・タクティック」に変更したことが功を奏したゴールだったと考えることにしましょう。最前線へ上がっても(チェとの巨人ツートップ!)、確実に「自分の特徴」を活かすプレーができるミリノビッチ(ヘディングやポストプレーで、効果的に周りのチームメイトを使う!)。そんなところにも、彼のプレーヤーとしてのクオリティーの高さを感じます。

 延長ですが、内容的には互角。互いにチャンスを作り出していました。ジェフは、相変わらず「忠実なボールのないところでの動き」をベースに・・、そしてマリノスは、中村を中心にした「攻撃の変化」を武器に・・。そして結局は痛み分け。

 ジェフは、最後の最後まで「組織で守り、組織で攻め」ました。この、選手全員が共有する「強固なプレーイメージ」さえあれば、またそれを発展させられれば・・なんて期待が沸いてきます。

 対するマリノスですが、数日前に行われた「ナビスコ」でのグランパス戦に魅せたアクティブなボールの動きが、この試合では、ジェフの守備が厳しかったことで、ちょっと停滞気味になってしまって・・。(中村俊輔も含め)まだ「完全な復調」には時間がかかるということでしょう。

 さて湯浅は、これから調布の「東京スタジアム」へ向かいます。FC東京vs浦和レッズ。横浜国際競技場からは、単車(オートバイのことですよ!)で40分くらい・・、キックオフまでには、楽に間に合うだろう・・なんて思っていたんですが・・

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 首都高速だけではなく、とにかく道はクルマで一杯(まあ土曜日の夕方ですからネ)。横浜国際から、調布まで、一時間もかかってしまいました。渋滞するクルマの間をすり抜けていくのですが、もちろんリスキーな運転ですし、本当に神経をスリ減らしてしまうんですよ。

 ということで、調布へ到着したときには疲労困憊・・ってな具合(到着したのはキックオフ2分前!)。でもメンバー表を見て、フムフム・・。またエネルギーが沸きだしてきました。ようやくピッタ監督が決断し、アドリアーノをベンチスタートにしたのです。さて、このメンバーでどのようなサッカーになるのか・・。私は、メンバー表を見て、これでレッズのサッカークオリティーは確実に数段アップする・・と確信していました。

 先週のコラム(レッズ対アントラーズ戦)、またテレビ埼玉の「レッズ・ナビ」で、アドリアーノのパフォーマンスに対する「クリティック」をブチ上げたわけですが、それも、彼が「高い潜在能力」を持っているからに他なりません。持てるチカラを出し切らないプロ選手。全力で闘わないプロ選手。それは、ファンに対する、またサッカー文化に対する裏切り行為(ちょっと言い過ぎ!?)・・、だから彼には猛省を促したい・・なんて書いたり、言ったりしたものです。

 とにかく、この「メンバー落ち」が、彼にとっての大いなる「刺激」になって欲しい・・、そして気持ちを「入れ替え」、ブラジル代表に選ばれることを目標に、自分自身に対する「誇り」をもって全力でプレーして欲しい・・、そう願わざるを得ません。

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 さて試合。思った通り、レッズが、素晴らしい内容のサッカーを展開します。少なくとも前半は、相手を凌駕した・・と表現しても過言ではありませんでした。でもそれは、ある意味では、東京にとって「思うつぼ」ともいえる展開とも言えます。そうです。ケリー、アマラオ、佐藤といった才能を活用した爆発的なカウンター・・。

 レッズが、コーナーキックからの二次展開で「もの凄く美しいミドルシュート」を決めた(鈴木啓太の先制ゴ〜〜〜ル!)4分後、流れのなかでボールをもったFC東京の佐藤由紀彦が、これまた「ここしかない!」というコースに中距離シュート(同点ゴール)を決めます。そしてその8分後のこと、東京が、真骨頂ともいえるカウンターで逆転ゴールを決めてしまうのです。ケリーが、右サイドから中央ゾーンへ持ち込み、左サイドの福田へパスを出します。そこからの福田のシュートを、レッズGK、西部が弾いたところを、再びケリーが押し込んだというわけです。ツボにはまった、見事なカウンターではありました。

 その数分前の24分にも、東京にカウンターを食らったのですが(石井が見事にカバーリング!)、少し「中盤のバランサー(この試合では鈴木啓太!?)」が、意識的にケアーしていたらナ・・なんて「タラレバ」の心理になってしまって・・

 とはいっても、レッズの勢いは止まりません。東京が危険なカウンターを繰り出してくるという「心理的な不安要素」が出てきた状況でも、素早く、広くボールを動かしつづけるクリエイティブな展開から(つまり人数をかけた組み立てから!)、トゥットが、エメルソンが、はたまた永井が最終勝負を仕掛けつづけるのです。

 レッズの攻撃をリードしたのは、もちろん阿部(守備的ハーフが基本ポジション)。彼が起点となってシンプルにボールを動かしながら、勝負所では、どんどんとリスキーパスにチャレンジしつづけます。そして最前線では、エメルソン、トゥット、そして永井が、縦横にポジションを変えながら、シンプルなボールの動きに絡みつづけるのです。それは、それは「高質」な攻撃でした。

 私は、そんな彼らの「積極姿勢」に、ちょっとエキサイト気味でした。何といっても、ロスタイムに入った時間帯に同点ゴールまでも奪い取ってしまったのですからネ(阿部からトゥット、そしてエメルソンと、右、右へ展開しての素晴らしいゴール!)。

 後半は、東京も「組織的に(=人数をかけて)」攻め上がるようになってきます。そして試合が、「ダイナミックな拮抗状態」へ・・。それでも私は、レッズの攻撃のクオリティーの方が、東京のそれを上回っていると思っていました。たしかにエメルソンは、ちょっと「持ちすぎ」のシーンが目立ってはいました。それでも、全員が「素早い判断から、しっかりとボールを走らせる!」という意識をもちつづけ、「組織と個」が、かなりのレベルでバランスしたサッカーを展開していると思っていたのです。それでも最後は、ワンチャンスを勝ち越しゴールに結びつけられてしまって・・(オフサイドぎりぎりの展開のなかで、右サイドでフリーになったケリーからアマラオへとラストバスを通されて万事休す!)

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 レッズの選手たちは、結果に「うなだれ」てはいけません。彼らは、「オレたちは良いサッカーをやったんだ! 最後まで集中を切らさずに、全力で、より質の高いダイナミックサッカーを目指したんだ!」と胸を張らなければいけません。この試合内容には、それだけの「コンテンツ」が詰め込まれていました。

 それでも反省点はあるでしょう。一つは、相手が「カウンター」が得意だというイメージを持って試合に臨んでいなければならなかったこと。それが明確にされていたら、自分たちの攻撃のときにでも、最終ラインも含め、中盤の一人は(鈴木啓太だけではなく、両サイドや阿部、はたまたトップスリーで、その時点で戻っていた選手!)、「この状況だったら、もしかしたら・・」という注意深い意識をベースに、もっと「明確」に次の守備に備えられたかも・・。

 またこの試合では、(たしかに何度か良いシーンはあったものの!)山田が心配になりました。最終ラインの中央で、リーダーとしてプレーしていたときは素晴らしくアクティブだったのに、この試合では、「意識的な空白」が、「再び」目立つようになってしまって・・。

 相手はカウンターが得意なのですから、足が速く、守備がうまい彼を中央に据えていたら完璧だったかも・・なんて思っていた湯浅だったんですよ。スリーバックにせよフォーバックにせよ(この試合でのレッズは、従来型のスリーバックで、ケースバイケースで「ラインコントロール」にもトライしていましたからネ・・それがうまくいかずに三点目の失点につながった!)、「ボール奪取」からの縦へのスピードが格段にアップしている現代サッカーでは、とにかく最終ラインの選手は、「足が速い」ことが絶対条件ですからネ。まあ、このテーマについては、これ以上突っ込まないことにしましょう。

 最後にトップ。永井は良くなっていますし、エメルソンとトゥットの(単独)突破能力はたしかに群を抜いています(また組み立て段階でのボールを動かすという意識の高さもオーケー!)。それでも、まだまだ「最終勝負におけるイメージ・コンビネーション」に課題があると感じます。決定的な勝負所で、「ウラ取り」の意識が欠けている・・というシーンを何度も目撃したのです。

 一人が爆発フリーランニングをスタートする・・、そして空いたスペースへもう一人が入り込む・・、そこへワン・ツー・スリーのダイレクトラストパスが飛んでくる・・、はたまた、トップへの「足許パス」をスタートラインに、逆サイドの選手が決定的スペースを突くフリーランニングをスタートする・・、そんな、ボールのないところでの仕掛けの動きをベースにした、「トンッ、トンッ、ト〜〜ン」というリズムのコンビネーション。

 彼らには才能があります。それを、単独ドリブル勝負「ばかり」に使うのでは偏りすぎ。相手守備にとっても、守りやすいことこの上ありませんからネ。

 この「オフ」に、守備コンビネーションも含めて、互いの共通イメージ(イメージのシンクロレベル)をどこまで深めていくことができるか・・、ピッタ監督のウデに期待しましょう。



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