湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第12節(2001年11月3日、土曜日)

これですよ! リーグ終盤ドラマの主役は・・横浜Fマリノスvs鹿島アントラーズ(1-2、決勝Vゴール!)

レビュー

 タイトルの意味は、もちろん「優勝争いチーム」と「降格争いチーム」が対戦するカードのことです。今節では、このカード以外にも、アビスパ対ジュビロの試合も、同時刻に始まりましたからネ。

 マリノスでは、ブリット、上野、ナザといった主力級が欠場。そして川口はもういない・・。対するアントラーズは、ほぼベストメンバー。さて・・

 「構図」は、予想されたとおり、アントラーズが「全般的」にゲームを支配し、マリノスが、これ以上ないというほど「忠実」な守備をベースに、ワンチャンスのカウンターを狙う・・というもの。マリノスが繰り出すカウンターの「コンダクター」は、言わずと知れた中村俊輔、そして突撃隊長は、これまた言わずと知れたドゥトラです。そして前半の20分ころまでに、「突撃隊長」のドリブル突破を起点に、二度ほど「決定的に近いカタチ」を作り出してしまいます。それにしても、ドゥトラのドリブル突破は、危険なことこの上ない・・。

 フムフム・・これは面白くなるな・・なんてことを思っていたら、前半36分に、「構図のイメージ」としては「伏兵」ともいえるゴールが決まってしまいます。スコアラーは、マリノスの坂田。それも、「突撃隊長」が絡まない展開から・・

 まず「コンダクター」が、アントラーズペナルティーエリア直前の右サイドでボールを持ち、「一瞬のタメ」を演出します。二人のアントラーズディフェンダーが引きつけられる・・。それは、マリノスの「周りの選手たち」にとっては、明確な「仕掛けイメージ」を描ける瞬間でもあります。中村俊輔がタテパスをトラップして振り向き、相手守備ブロックの視線と意識を引きつける・・それです。その瞬間を逃さずに反応したのが坂田。中村俊輔の後方から「回り込み」、その左側のスペースへ入り込んだのです。そこへ、一瞬「タメ」た中村から、ベストタイミングの「横パス」が通されたことは言うまでもありません。これで坂田は、完全にフリー。トラップし、そのまま左足を振り抜いたという次第。それにしても見事なシュートではありました(ボールは、もの凄い勢いでアントラーズゴールの左上隅へ吸い込まれていく・・)。

 対するアントラーズは、前半5分に作り出した完璧なチャンス(ビスマルクから、熊谷、名良橋とわたり、最後は、名良橋の完璧なラストパスから、ビスマルクがフリーシュート!)の後は、セットプレーを除いて、流れのなかでマリノス守備ブロックを崩し切る(ウラの決定的スペースを突く)ところまでいけないという展開が続きます。マリノスのディフェンスが「忠実&ダイナミック」なことで、フリーでパスを受けられない状況が続いたアントラーズの選手たちの「足」が、前半の半ば過ぎから止まり気味になっていったんですよ(足許パスのオンパレード!)。たしかに「勝負所」での柳沢や鈴木のフリーランニングは健在なのですが、そこで「起点」をつくっても、サポートする選手たちが完璧にマークされ、思うように「決定的なサポートの動き」を繰り出すことができない・・。

 ということで、このゲームでは、とにかくマリノスの守備にまずスポットを当てなければ・・。

 人数をかけて守れば、アントラーズを抑えられるのも当たり前!? いやいや、その中にも、数々の「創造的なキーファクター」が隠されています。相手ボールホルダーへの忠実なチェック(特に戻ってくる選手によるアクティブチェック!)・・、安易なアタックを仕掛けるのではなく、(パスコース切るような)「我慢」のウェイティング・・、チェックを外された「後」の、忠実な「カバーリングへの戻り(全力ダッシュ!)」・・、ボールのないところでの「絶対にスペースへ入り込ませないぞ!」という強烈な意志が伝わってくるような忠実マーキング・・等々。要は、選手たち全員が、「自分主体」でディフェンスをしているということです。この、守備の目的を強烈に意識した「自分主体に考えつづける姿勢」こそ、集中力の本質。特に、守備ブロックを「リード」する松田のプレーが目立ちます。

 そして試合が、「このまま(マリノスが一点リードで)、アントラーズが攻めあぐむなかでタイムアップを迎えてしまう・・」なんていう雰囲気に支配されはじめた後半32分、唐突にアントラーズの同点ゴールが決まります。右サイドからの「ロング・アーリークロス」。それを、ファーポストゾーンにいた平瀬が折り返し、そのボールを、ビスマルクが、絶妙の「ヘディング・ラストパス」へとつなげたのです。ビスマルクの、「一瞬の判断(自分のヘディングシュートでは弱すぎる!)」、そして、ゴールを決めたアウグストの、決定的スペースへの「一瞬の飛び出し」。素晴らしい・・。

 そのゴールを見ていて、湯浅はあることを考えていました。「ゲームの流れ」からすれば、「唐突」という感覚を抱かせるアントラーズの同点ゴール。もちろんそれは、アントラーズのハイレベルな意図が結実した、「必然的」なゴールではありましたが、最後の瞬間における、マリノス守備陣の「ディフェンス・イマジネーション」が、やはり「世界」と比べたら落ちる・・、だから「神様の領域(ツキと捉えられる領域)」も広がってくる・・ということを思っていたんですよ。

 「世界レベル」では、ビスマルクがボールに触る「直前」に、その「体勢」を読んだ(シュートではなく、ヘディングでのパス!)相手ディフェンダー、またGKが、ここしかない!という「最終勝負スポット」へ向けて、アクションを起こしたに違いない・・ということです。それは、「体感」をベースにした無意識レベルのアクションかもしれない(自然と身体が動く!)・・。そして、そんなハイレベルな守備アクションがあるからこそ、神様が取り仕切る「ツキの領域」も狭められてくる・・。もちろんそれには、平瀬がヘディングで折り返す「直前」の段階で、ビスマルクに対するマークをタイトにすることも含まれていますがネ・・。

 以前、レッズに在籍していた「世界のディフェンダー」、ギド・ブッフヴァルトが、私に言っていたモノです。「オレたちだったら(あの当時のドイツ代表のことです!)、守り切ろうと思ったら、たぶん90%は、その目標を達成できるだろうけれど、日本のサッカーでは、かなりその確率は低いものになるんじゃないか。オレたちだったら、必然レベルはもちろんのこと、偶然レベルのピンチでも、もしかしたら・・で、自然と身体が動いてしまうことだってあるしネ。それが経験と呼ばれるモノの本質なんだろうけれど・・」。

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 そして延長前半での、アントラーズ、中田浩二の決勝Vゴール。そこでは、ビスマルクからタテパスが出てくることを、そして逆サイドの最前線にいる中田浩二の前に決定的スペースがあることを「事前」にイメージし、ダイレクトでそこへパスを回した平瀬に大拍手。それにしても、二列目でボールをもったビスマルクを「フリー」にしてしまったマリノス中盤守備ブロックにとっては、悔やんでも悔やみきれない決勝ゴールではありました。

 疲れもあったんでしょうが、それまで最高の「集中力」を発揮し、アントラーズ選手たちの「攻めの心理ダイナミズム」を抑制しつづけたマリノス守備ブロックが、一瞬、集中を切らせてしまった・・!? 相手のボールホルダーを実効あるカタチで「抑える(チェックする)」こと、そしてそれをベースにして「次、その次の勝負」をしっかりとイメージすることが守備の基本であり、それを忠実に、そしてダイナミックに実行しつづけたマリノス守備陣の「闘うマインド」は感動的でさえあったのに・・。

 このマインドさえ維持できれば、また最後の瞬間に「体感」させられた屈辱をバネにできれば(体感をベースに、イメージレベルを引き上げることができれば・・)、残り3試合でも立派なゲームを展開してくれるに違いないと確信する湯浅です。

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 さて、マリノスが敗れ、「降格リーグ」で主役を演じているアビスパも、同じような展開でジュビロに「Vゴール負け」を喫してしまいました。また、最下位のセレッソは降格が決定してしまいましたが、ビリ二位のヴェルディーは、ヴィッセル相手に引き分けを演じ、14位のマリノスとの勝ち点差を「1つ」縮めるにとどまりました。リーグ終盤における、もう一つの「本物ドラマ」が、クライマックスを迎えようとしている・・。

 所用が重なっているため、思うように時間がとれません。ということで、コンサドーレ対レッズの試合については、明日(日曜日)の夕方以降にレポートしようと思っていますので・・。



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