湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第8節(2001年5月6日、日曜日)

最終勝負への「仕掛けイメージ」を、もっとハイレベルに共有できなければ・・鹿島アントラーズvs清水エスパルス(3-4)

レビュー

 さて「J」第八節。グランパスがヴィッセルに負け、ジュビロがガンバに勝利をおさめた後の国立競技場です。こうなったら、「内容的」にジュビロと対抗できる可能性を残しているのは、もうエスパルスしか残されていない!! 大いなる期待を込めて、1600時キックオフのゲームを観戦しようと集中力を高めていた湯浅だったのです。

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 そして・・、エスパルスのVゴール勝利を見届けた後、すぐに愛車のオートバイを駆って駒場でのレッズ対ヴェルディーの観戦へ馳せ参じ、その後、東京へとって返してこの原稿を書いているという次第。駒場でのゲームについては、ポイントを絞り、火曜日にアップされる予定の「Isize Sport 2002 Club」で書くつもりでいますので、そちらもご参照アレ。

 さてそれでは、アントラーズ対エスパルス戦について・・

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 アントラーズは、相馬はもちろんのこと、ファビアーノも再びケガで欠場、中田浩二もいない(出場停止かケガ!?)・・、鈴木(ベンチスタート)や熊谷もまだ完調ではない・・、そしてそれが原因で、チーム戦術的な、攻守にわたる「意志の疎通(イメージ的なコンビネーション)」でも調整に手間取るなど、まさに満身創痍。とはいっても、自力はありますし、前シーズンのトリプルチャンピオンとしての意地もあるでしょう。優勝を争っているエスパルスといえども、簡単にゲームペースを握れるはずがありません。

 ゲームの立ち上がり、中盤でのせめぎ合いでは互角・・、ただ「最終勝負の仕掛け」では、アントラーズに一日の長があると感じる湯浅だったのです。

 というのも、まずボールの動きがスムーズで広く、最後の「勝負所」での仕掛けのクオリティーが、アントラーズに軍配があがると感じたからです。たしかにエスパルスも、ボールをしっかりと動かしてはいます。でも、今シーズン開幕の前におこなわれたゼロックススーパーサッカーで魅せたような、明確な「最終勝負の仕掛けイメージ」が薄れてしまって・・。それも、バロンがいるにもかかわらず・・

 バロンは、ここ数試合、先発ではなかったということです(この試合では先発メンバーです!)。

 それが原因なのでしょうか・・、最終的な「仕掛け」に、首尾一貫したイメージシンクロプレーが出てこないのです。アレックスや市川のドリブル勝負にしても、「次の仕掛けパス」をイメージしているというよりは、昨年シーズンのように、ガムシャラにセンタリング(ラストパス)を上げにいく・・といった雰囲気ばかりが漂ってしまって・・

 ゼロックスのときは、バロンが、味方全員の「ターゲットマン(=仕掛けイメージをアタマに描くときのコア)」としてうまく機能していたのに・・。この試合の立ち上がりでは、「単なる受け身のセンターフォワード」・・ってな存在になってしまって・・

 それに対しアントラーズは、相変わらず、ビスマルク、小笠原、柳沢、そしてこの試合では平瀬たちが、活発なボールの動きをベースに(熊谷や両サイド、特に名良橋のサポートも受けながら)、決定的スペースを狙いつづけます。彼らは、エスパルスとは違い、明確な「最終勝負イメージ」をもって攻撃を組み立てていたのです。

 そしてそれが功を奏し、アントラーズが先制ゴールをあげます。平瀬からビスマルクとボールがわたり、そこから、ベストタイミングで「決定的スペース」へ飛び出した柳沢へ、これまたベストコース、ベスト球種のラスト・ロビングパスが送り込まれたのです。こうなったら柳沢の独壇場。エスパルスディフェンダーのハードマークを身体でブロックしながら、落ち着いてエスパルスゴールへシュートをたたき込みます。またその11分後には、ショートコーナーからパスを受けた名良橋の、ファーポストスペースを狙ったセンタリングに、金古がうまく合わせて追加ゴールまで奪い取ってしまいます。さて・・

 これでエスパルスが負けてしまったら、ファーストステージはもうオシマイだ。私の元気は、すっかり萎えてしまって・・。試合内容からすれば、アントラーズの「順当なリード」ではあったんですがネ・・。

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 ただドラマは、そう簡単には終わりませんでした。前半27分のこと。上がり目の右サイドでパスを受けた伊東が、すかさず、アントラーズのゴール前へアーリークロスを入れたのです。私は一瞬、「イメージがシンクロしたピンポイントじゃなく、またアバウトなセンタリングかヨ・・」なんて思ったものですが、どっこい、アントラーズ守備陣のミスから、そのボールが、逆サイドにポジションをとっていたアレックスの目の前に転がってしまったのです。シュート! 追いかけゴ〜〜ル!!

 そして前半31分。名良橋が、このゲーム二枚目のイエローカードで退場になってしまって・・。俄然、勢いづくエスパルス。でも、相変わらず、最終勝負の仕掛けでのコンビネーションが稚拙で・・

 全体的にはゲームを支配し、攻めに攻めつづけるエスパルス。安永が、右サイドからフリーシュートを放つ・・、またバロンが、フリーでヘディングシュート見舞う・・。でも、まだまだ最後の仕掛けに、「相手の発想のウラを突く」ような「決定的な意図」が感じられなくて・・

 エスパルスには、攻撃のコアになるべき「チャンスメイカー(攻撃のリーダー)」がいない・・、だから最終勝負シーンでイメージをシンクロさせることがままならない・・。そんなことを思っていました。

 ゼロックスでのアントラーズ戦では、たしかに中盤の上がり目で「仕掛けイメージ」をリードする選手は明確ではなかったにせよ、両サイドのアレックス、市川という「攻撃の仕掛け人」たちが、バロンの存在を強烈に意識したプレーをしていましたからネ。早めにバロンのアタマを狙ったロビングを上げ、同時に周りが、彼からの「次のヘディングパス」を狙って決定的フリーランニングを仕掛けるとか・・、バロンのポストプレーから、後方から、二列目、三列目の選手たちが(もちろん両サイドのアレックス・市川も含めて)どんどんと決定的スペースへ飛び出していくとか・・

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 後半の展開はもう一本調子。エスパルスが怒濤の攻撃を仕掛けつづけ、アントラーズが、柳沢、ビスマルク、そして状況に応じた「プラスアルファー選手」たちによる危険なカウンターを仕掛ける・・というものです。

 そんな展開のなか、たしかにエスパルスは、バンバンとシュートを打ちます。それでも、中盤でのボールの動きが(彼らのベスト時から比べて)遅滞気味で、かつ狭い。だから、アントラーズ守備陣も余裕をもって「次の仕掛け」に備えることができている・・逆にアントラーズのカウンターは危険そのもの・・これでは・・なんて思ったモノです。でも・・

 「よしっ! それだよ、そのボールの動きだよ!」。そんな声が出てしまって・・

 後半27分のことです。エスパルスのボールが、それまではとは違ったイメージで動いたのです。素早く、広く、逆サイドまで・・。そしてそれが(私が声を出した直後に)、本当に同点ゴールに結びついてしまって・・

 素早く動かされたボールは、最後は、左サイドに上がっていたアレックスにわたります。そしてアレックスは、これまた「イメチェン」したかのように、素早いタイミングで、シンプルに、逆サイドへラストパス(ピンポイントセンタリング)を飛ばしたのです。そこにいたのは、もちろんバロン。ただボールが少し高すぎたために、彼のヘディングはこぼれ球になってしまいます。でも、それを拾ったのは安永。それまで何度も決定的チャンスを潰していた安永でしたが、そこでは、本当に落ち着いて、同点ゴールをたたき込みました。そしてその2分後には、右サイドの市川からのセンタリングを、アントラーズGKの高桑が痛恨のキャッチミス。そしてボールが後方へ流れたところを、アレックスが蹴り込んで、「大逆転」勝ち越しゴール!!・・ってな、ドラマチックな展開になっていきます。

 でも後半37分には、エスパルスの斉藤が、ドリブルで抜け出し、フリーシュートのチャンスを作り出したアントラーズの鈴木(本田と交代出場)を、ペナルティーエリア内で倒して一発レッドカード。もちろんPKです。ビスクルマが、そんな状況でのPKを外すはずはないですよね。というわけで延長戦に突入です。

 そこでも、二度目のイエローで、柳沢が退場させらるというドラマがありました。これでアントラーズの9人に対し、エスパルスは10人。絶対的な人数が減った場合、「数的な優位性」はより際だつモノです。ということで、そこからは、またまた完全にエスパルスペースに・・

 そして最後は、迫力攻撃の混戦からバロンがヘディングシュートを決め、ドラマチックなシーソーゲームに決着がついたというわけです。さてこれで次節の、ジュビロとの静岡決戦が楽しみになった・・

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 ちょっとコラムが長くなってしまいましたが、早く、なるべく早く、エスパルスの選手たちが、明確な「最終勝負のイメージ」を共有できることを願っていると強調したかったもので・・。そう、今週土曜日の「静岡決戦」へ向けて・・

 その意味では、この試合のなかで、エスパルスの攻め(最終勝負の仕掛けプロセス)が改善する兆しだけは感じ、少しはホッとしている湯浅ではありました。

 他を寄せつけないほどに美しく、強いサッカーを展開しているジュビロ磐田。エキサイティングなゲームを期待しましょう。



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