湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第4節(2001年4月7日、土曜日)

ジュビロ中盤の「攻守にわたり自分から仕事を探す」という姿勢・・フム、素晴らしい・・アントラーズvsジュビロ(1-2)・・

レビュー

 本当に内容のある面白い試合でした。でもゲーム後、ヤボ用があったため、アップがちょっと遅れてしまって・・。ご容赦アレ・・

 でも、まずこれだけは言っておかなければ・・。たしにかハイレベルな内容があり、面白い試合ではあったのですが、それでも湯浅は「まだ」不満だということです。それは、「ゴール前での最後の仕掛け」が、うまく決まらなかった・・、最後の仕掛けにおける「ボールとパスレシーバーの動き」が、相手の虚を、うまく突くことができなかった(ハイレベルなイメージのシンクロをベースにした決定的スペースの攻略が、まだまだ・・)、ということです。

 もちろんそれは、パリで、フランス対日本の試合を見た後だったからです。私が言いたいことは、あのゲームにおいて獲得した「イメージ」を、強烈な刺激とともに保ちつづけなければ、あの「大敗の価値」を、今後に生かすことなどできるはずがない・・ということです。私は「観察者」として、日本サッカーが「直接的」にかかわった、あの「世界と相対した試合」を、常に、今後の「評価の基準」にしようと思っているのです。そのマインドは、名波、服部、はたまた高原も同じだった!? 彼らの「プレー姿勢」が、まさに、「世界を志向」したものだったと感じたのは私だけではなかったに違いないと確信するのですが・・

 とにかくそれが、「世界との僅差を体感する」ということの本当の意味だということが言いたかった湯浅なのです。あっ・・と、前段が長くなりすぎてしまって・・では・・

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 とにかくまず、ジュビロが素晴らしいゲームを魅せてくれたことに触れなければ・・。中盤でのアクティブ守備・・、そして攻撃でのボールの動き・・、本当に心地よいサッカーではありませんか。

 その「秘密」は、(システムもあるのですが・・)何といっても中盤選手たちの、攻守にわたり、自分主体で、積極的に「仕事を探す」という姿勢です。でもまず「システム」から・・

 彼ら(中盤選手たち)の、全体的なポジショニングバランスですが、最終のスリーバック(鈴木、田中、大岩)の前に、「後ろ気味」に福西と服部がポジションします。前気味には藤田と奥。そしてその「中心」に、戦術的な(たぶん心理・精神的にも・・)チームリーダー、名波が君臨するという基本的なポジショニングです。もちろんツートップは、高原と中山。

 要は、「3-5-2」っちゅうわけですが、そこには明確な「サイド(ウイング)バック」がいません。明確な・・といったのは、「キミの基本的なポジションは、サイドバックだよ・・」と言われている選手がいない(・・のではないか・・)という意味です。

 これが面白い(・・というか、進歩的!)。スリーバックは、基本的に相手ツートップをケアーします。一人のフォワードが(基本的には柳沢)中央に位置し、もう一人が(基本的には鈴木)「ロービング」するようにサイドに開くというのが、アントラーズ攻撃におけるベーシックなスタートラインになるわけですが、その二人をスリーバックが確実にマークしつづけます。そしてその周りで押し上げてくる、ビスマルク、小笠原、はたまた熊谷や名良橋などを、ジュビロの中盤が、臨機応変にマークしてしまうのです。この「臨機応変」という自分主体の守備プレーが、うまく機能していることが特筆モノなのです。

 それも、福西、服部、名波、藤田、そして奥の「守備意識の高さ」の証明といったところなのですが、選手たちにしても、限りなく「自由度」が高いチーム戦術だから、モティベーションを高く保つことができるのでしょう。

 サッカーの本質的なコンセプトの一つは、「最後は、自分主体で、自由に積極プレーをやらざるを得ない・・」というものです。ジュビロのサッカーには「進歩することへの積極的な姿勢」を感じます。そして、そのチームが現在のリーグをリードする・・。日本サッカーにとって素晴らしいことじゃありませんか。

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 対するアントラーズですが、やはりまだまだ「重い」。

 開幕当初は、ファビアーノ、熊谷、そして相馬という、前シーズンにおける三冠王メンバーが欠けていました。いまはファビアーノ、熊谷は戻っていますが(それでも熊谷は完調からはまだほど遠い・・)、相馬がいないことで、まだ機能不全に陥っているのです。

 アントラーズの強さのベースは、まず何といっても守備にありました。そして、そのソリッドな守備ブロックをベースにした(中田浩二と熊谷のステディーなマーキング、カバーリング、攻撃でのオーバーラッピングなどが秀逸!)両サイドの名良橋、相馬なども含む「後方から」の攻撃参加が、(守備にも積極的に参加する)ビスマルク、小笠原の「バランス感覚」とともに、大きな武器だったのです。それがこの試合では・・

 やはり「守備に不安」を抱えていたら、良い攻めなどできるはずがありません。この試合でのアントラーズは、ほぼ完全に「前線、中盤、守備」と分かれてしまっていました。だから、タテのポジションチェンジなど、攻撃での「変化」を演出することがままならない・・

 昨年だったら、左サイドからは相馬、右サイドからは名良橋、機を見計らったタイミングで熊谷や中田浩二などが最前線に顔を頻繁に見せていたモノなのですがネ。もちろんそこでは、ビスマルクや小笠原、はたまた鈴木などとの、美しい「タテのポジションチェンジ」が決まっていたものなんですよ。

 まあ、アントラーズには「まだ」時間が必要だというこでしょう。

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 この試合でキーになったシーンを二つだけ・・簡単に・・(これは、次のサッカーマガジンで記事になるので・・)。

 それは、ジュビロの決勝ゴールのシーン(8分)と、「唯一」ともいえる、アントラーズの決定的シーン(26分)。両方とも後半です。

 ジュビロの決勝ゴールのシーンでは、とにかくジュビロ選手たちの、攻守にわたる「俯瞰イメージ」に関心させられました。アントラーズの鈴木のバックパスミスから、ジュビロのチャンスがはじまったのですが、その鈴木のバックパスミスにしても、ジュビロの「組織的なディフェンス(次のボールの動きを読んだ効果的プレス!)」の賜だったということが明らかなのです。そして、その鈴木のバックパスミスを「感じて」いたかのような、その後のジュビロ選手たちの「押し上げ」。素晴らしいじゃありませんか・・

 鈴木のバックパスを奪い、タテへドリブルする奥。この時点で、すでに中山隊長は、決定的スペースをイメージしたフリーランニングをスタートしています(はやり言葉では・・ウェーブの動き)。隊長の真骨頂! 素晴らしい・・

 もちろん奥も、そのフリーランニングを意識し、当たりにきたファビアーノ、名良橋を切り返して、決定的スペースへロビングのパスを送り込もうとします。ただそれが少しズレてしまって・・。でも、秋田にヘディングでクリアされたボールには、後方から「イメージを持って」押し上げていた藤田が、「計画通りだヨ・・」ってな具合で、最初に詰めていました。ヘディングで、「次の動きをしてフリーになっていた」隊長へ正確なパスを送る・・。素晴らしい。そして隊長は、後方で満を持していた高原へ、胸でラストパス! 素晴らしい。高原の、左足でのダイレクトシュート。素晴らしい。そのシュートが打たれる前から、「最初」に動き出して詰めていた藤田。素晴らしい。その右サイドには、後方から走り込んだ福西までいました(まあシュートに反応したらオフサイドをとられていたんでしょうが・・その最終勝負シーンに絡むぞ、という姿勢が・・)。素晴らしい・・

 次に、本当に「起死回生」ともいえる、アントラーズ、名良橋の決定的チャンス。この瞬間、私は「サッカーの本当の怖さ」を実感していました。それは、ジュビロにとって、まさに「悪魔のワナ」。

 センターサークル付近で、中田浩二からのタテパスを受けた本山。まず、そのパスをインターセプトしようとして当たりにきた福西を置き去りにし、その福西のアタックアクションで、一瞬、動きを止めてしまい、本山への対応アクションが遅れた名波をまでも外し(引っかけられたのに転ばなかったのは、次の勝負パスを完璧にイメージしていたからに違いない!)、最後は、自分のイメージ通りの「サイドチェンジ・ラストパス」を、右サイドで爆発ダッシュをスタートした名良橋の前のスペースへ送り込みます。

 この状況における名良橋の「心理プレッシャー」は、ワールドカップ決勝でのシュートチャンスに匹敵するものだった!? いや、本当にそうだったのかも・・。何といっても、ファビアーノが退場になり、その後も押し込まれつづけていたアントラーズでしたから(もちろん数分間はアントラーズの時間もありましたが、全体的には、ジュビロが、数的な優位性を存分に活用していた!!)、それは、まさに「千載一遇の大チャンス」だったのです。

 シュートがミスになったあと、名良橋だけではなく、後方で倒れ込んでしまったチームメイトたちの心情は、察して余りあります。それにしても、サッカーは怖い。あれは、ジュビロに対する「悪魔のワナ」だったに違いない・・なんて思っていた湯浅なのです。

 またこのシーンでは、名良橋を最後までマークしつづけなければならなかった奥にとっても、レベルを超えた「刺激」になっただろう・・ということを付け加えておきましょう。

 この試合では、攻守にわたる「クリエイティブな中盤」の一翼を担い、良いプレーを展開していた奥(私はこれまで彼のことを、かなりクサしていましたが、この試合でのプレーで、少しは認識が改まるかも・・)。ただ、サッカーでは、ほんの一瞬、本当にほんの一瞬でも「集中」を切らせたら(ここでの現象は、奥が、ドリブルする本山を見てしまい、マークすべき名良橋に消えられてしまったという事実のこと!)、それまでのプレー内容が、すべて水泡に帰してしまうのです。彼は、「冷や汗」とともに、その「サッカーにおける真実」を体感したに違いありません。彼には、真摯な姿勢で、さらなる進化を願っている湯浅です。何といっても「才能レベル」だけは十分なんですからネ。

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 さて、最後の最後になりましたが、一言だけ・・

 『攻守にわたり、感動的ともいえる活躍をしたチームリーダー、名波に乾杯!!!』



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