The Core Column


The Core Column(46)_USAサッカー事情・・あるハイスクール教師(サッカーコーチ)との対話・・(USA発)・・(2015年5月27日、水曜日)

■アメリカ東海岸ハイスクールのサッカーコーチ(教師)・・

「たしかに穏やかなスピードではあるけれど、オレ達の国でも、サッカーが本格的に浸透しつつあると感じますよ・・まあ女子サッカーは、以前からメジャーだったけれど・・」

いま、長女の大学卒業式に参列するため、USAに来ている。出発直前にアップしたコラムでも告知したように、場所はアメリカ東海岸だ。

そこでも書いたけれど、以前、新連載「The Core Column」で、サッカーの教育的な価値という視点から、「こんなコラム」を発表したことがあった。

イレギュラーするボールを足で扱うサッカー。だから不確実な要素が満載であり、瞬間的に状況が変化したり、ミスを重ねてしまったりする。それは、サッカーでは当たり前の「環境」だ。

そしてそのコラムで、サッカーほど、互いに助け合い、協力し合わなければならない団体スポーツはないと強調した。

そう、サッカーは「本物」のチームスポーツなのである。

だからこそ、アメリカの生意気盛りハイティーン女子が「正しい社会性」を身につけるために、とても効果的な教育ツールになり得るのだ。それが、当時発表したコラムの骨子だった。

今回は、長女と一緒のアパートに住んで地元の公立ハイスクールに通う親戚の子に「動いて」もらい、その学校の教師で、サッカー部のコーチも務めているライアン・キャファティーさんとハナシをすることができた。

彼のチーム(学校のサッカークラブ)は、昨年シーズン、地域のユースリーグで頂点に立った。その優勝カップと賞状が、誇らしげにハイスクールのレセプションスペースに飾られていたっけ。

ということてでキャファティーさんとの対話。

最初に話題にのぼったのが、プロサッカーが盛り上がりつつある(構造的な変化の胎動が聞こえる!?)USAのサッカー事情だった。

冒頭の発言は、もちろんキャファティーさんである。

そして徐々にハナシが盛り上がっていく。

■ハードワークこそが、相互信頼のベース・・

「そうですね〜・・私には、アナタが言う、ティーン女子の社会性改善にとってサッカーが効果的な教材だという定説が、一般の社会に浸透しているかどうかは、よく分かりません・・でもわたし自身は、サッカーが秘める効用については確信していますよ・・」

キャファティーさんがつづける。

「私のチームにも、自分勝手なプレーをする選手はいますよね・・まあそれが、アナタが言うように、才能に恵まれている選手に多いことも事実だと思います・・だからこそ私は、感情をコントロールできるように、選手たちに考えさせるようにしているんです・・」

「ライアンさんの基本的な方針は、選手たちに、主体的に考えさせるというコトなんですね?」

「そうです・・問題があるプレイヤーとは、忍耐づよく、膝詰めで話し合うんですよ・・いかに攻守のハードワークがチームプレーにとって大事か・・それがあるからこそ、自分が楽しむだけじゃなく、チームも成功できるし、本当の信頼関係も築き上げられる・・」

「もちろん選手は、積極的なハードワークによって、チームメイトから、より信頼され、人間的にもレスペクトされることを体感できる・・」

「一度でも、そんな心理メカニズムの善循環を経験すれば、逆に、ハードワークが楽しいモノになるだろうし、それが当たり前の環境にもなりますよね・・」

 「でも、特に才能があって自己主張の強いプレイヤーの場合には、ハンドリングが難しいケースもあるでしょ?」と、わたし。

「もちろん・・だからこそコーチには、忍耐と自己犠牲の精神が求められるんだと思います・・そして、選手との信頼関係を深めていくなかで、ハードワークの重要性を、より深く認識させていく・・」

「以前のハナシですが、3人の才能ある選手に恵まれたことがあるんです・・」

キャファティーさんのハナシは止まらない。

「私は、その3人を、タテに並べることにしました・・前戦と中盤、そして守備ラインですよね・・そして彼らのパーソナリティーや能力を観察しながら、そのタテの並びを調整していくことで、チームの機能性を格段に向上させられたという経験があります・・」

「心理マネージメントのプロセスを間違えなければ、最終的には、良い結果に落ち着くケースがほとんどだと思います・・とにかく、なるべく早く、ハードワークの重要性を理解させ、それを自分のモノにさせることが大事なんです・・」

「ちょっとクサイ話になるかもしれませんが・・」と、前置きしてから、ライアン・キャファティーさんがハナシをつづけた。

「チームスピリットという発想も大事ですよね・・昨今の社会的な変化によって、そのチームスピリットに対する感覚が、かなり薄れてきていると思うんですよ・・だから私は、いくら選手たちがクサイって感じても、しつこく、その大事さを説き聞かせるようにしているんです・・」

「たしかに時間はかかりますが、結局は、コーチの基本的な姿勢にブレのないことこそが、チームマネージメントにとって、もっとも大事な要素なのかもしれません・・あっ、こんなことをアナタに言うのは釈迦に説法でした・・あははっ・・」

■ある女子チームコーチのケース・・

「ハナシを戻してもいいですか?」

私は、対話が進んだところで、最初のテーマに戻りたいと提案した。

「できればここで、サッカーの社会教育的な価値という、チト固いテーマに戻りたいんですよ・・以前、わたしの友人が、アメリカの東海岸地方で、サッカーが 秘める効用について話してくれたことがあるんです・・そう、自分勝手になりがちなティーン女子の社会性をアップさせるために、サッカーが、とても効果的だ というディスカッションです・・」

そこまで聞いたキャファティーさんは、敏感に反応してくれる。

「先ほど、このテーマについては良く分からないと言いましたが、いま考えてみたら、たしかに、そのような内容を、保護者の方から聞いたことがありました・・」

「私は、女子を指導したことはないのですが、友人に、女子チームのコーチがいましてね、その彼も、そんなニュアンスの内容を語ったことがありました・・」

「ご友人は、サッカーによって、女子選手たちの生活態度が良くなったと言っていたのですか?」

「そうそう・・そんな感じの内容を語っていました・・何せ、彼女たちにしても、チームが良いサッカーをしなきゃ、自分たちだって楽しめないわけですからね・・」

「そうだ、思い出してきた・・その私の友人は、チームの主軸になる中心選手と、何度もディスカッションをしたと言っていたっけ・・その主力選手は、もちろんチームのスターで、優れた才能に恵まれていたということです・・」

キャファティーさんの語りの勢いが、何かを思い出しはじめたことで(!?)、どんどんヒートアップしていった。

「そうだ、そうだ・・彼は、その中心選手の子と、かなり激しくやり合ったこともあったって言ってましたよ・・それで、一旦はその子がサッカークラブを辞めるっていうところまでハナシがエスカレートしてしまったらしいんです・・でも・・」

こうなったら、キャファティーさんの勢いは、まったく止まらない。

「ここが大事なポイントなんですが、彼が、そのときの自分のアプローチ姿勢について、コーチ(教師)として反省せざるを得なかったとも言っていたんです・・もちろん、そのコトを、その子にも素直に吐露した・・」

「そして、その子と、本当の意味で打ち解けた・・それからは、その子も、素直にハナシを聞くようになったということだったんです・・」

「もちろん最初は、自分がやりたいプレーを主張していたらしいんですが、それは、チームがうまく機能していればのハナシですからね・・そのとき、その子は、自分のプレー内容が悪いとは、まったく思っていなかったんですよ・・でも現実は、違った・・」

「そこからが、とても忍耐の要る作業だったらしいんですが・・」

「何せその子は、素晴らしい才能プレーで決定的な仕事ができますからね・・そう、自分にしか出来ない、チームにとって価値あるプレー・・だから彼女は、周りのチームメイトは、自分がうまくプレーできるように、サポートに徹するべきだって言うんですよ・・」

「でも、アナタもご存じのように、サッカーは本物のチームゲームでしょ・・攻守のハードワークが、その子のところで途切れちゃったら、そりゃ、うまくいく はずがない・・何せ彼女たちには、多くの足りない部分があるんですからね・・だから、その中心選手の子も、しっかりとハードワークしなきゃ、チーム全体の 機能性が地に落ち、彼女も良いプレーができない・・」

私は、キャファティーさんのハナシに、相づちを打ちながら聞き入っていた。

「でも、結局、その中心選手の子も、ゲームに勝てないことの原因が自分にもあるという現実を自覚せざるを得なかった・・彼女にしたって、チームメイトから、本当の意味でレスペクトされたいはずですからね・・」

たぶんその子は、サッカーにおける成功と失敗を通して、社会生活にとって有益な、様々なコトを学んだはずです。

21世紀社会のイメージリーダーともなり得るサッカーの面目躍如ってな、いい話じゃないか。

■サッカーの社会教育的な「価値」・・

キャファティーさんが言う。

「このテーマを深くディスカッションするのは難しいですよね・・でも、そんな私も、感覚的にですが、サッカーが、選手の社会性の向上に役立つことは体感しているんですよ・・」

「どうなんですかね・・そのことは、本当に、アメリカの社会で、ある意味で定説として広く理解されていると思いますか?」と、たたみ掛ける私。

「いや・・そのディスカッションが難しいんですよ・・私は、サッカーをやったことがある人たちは、何となく理解していると思っています・・でも・・」

「まあ今度、女子サッカーに関わっている友人にも聞いてみることにします・・私にとっても興味深いテーマですからね・・」

ということで、残念ながら、アメリカ東海岸に住むティーン女子の社会性向上に、サッカーがとても有用だという理解が、一般の生活者のなかに広く定着しているという確証(実感)を得るまでには至らなかった。

でも、ライアン・キャファティーさんとの会話から、サッカーの、教育的にもポジティブなメカニズムが、広く、そして深く理解されていることは体感できた。

まあ、ということで、自分勝手になりがちな(!?)アメリカティーン女子の社会性をアップさせる「性能の定説」については、また別の機会に、改めて掘り下げていこうと思う。

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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