The Core Column


The Core Column(34)__継続こそチカラなり・・湘南ベルマーレの場合・・・(2014年4月22日、火曜日)

■曹貴裁(チョウ・キジェ)のパーソナリティーパワー・・

「それは、リスクを冒す勇気を持ちつづけることです・・」

J2の第7節、ジェフ千葉対湘南ベルマーレの監督会見。

そこで、湘南ベルマーレ監督、曹貴裁(チョウ・キジェ)が、私の質問に対して、間髪を入れずに、そう応えてくれた。

いいね〜、曹貴裁。

私の質問は、こんな感じだった。

「ところで、湘南スタイル・・改めて、それは何かと問われたら、どのように表現しますか?」

湘南ベルマーレが志向する、チーム全体が、攻守にわたって一つのユニットとして機能しつづけるダイナミックな組織サッカー。それは、曹貴裁がベルマーレの監督に就任してから何も変わっていない。

いや・・、曹貴裁に言わせれば、少しずつ変えながら進化しているということだったけれど・・。

いま彼らは、攻守にわたるハードワークの勢いを、タイムアップまでダウンさせない素晴らしくダイナミックな組織サッカーで「J2」を席巻しているのだ。

残念ながら、昨シーズンの「J1」チャレンジでは、ツキにも見放され、結果を残すことはできなかった。でも、ゲームの内容自体は、相手が誰でも、物怖じすることなく、自分たちが志向するサッカーを追い求めるという立派な闘いを披露した。

そんな彼らが魅せつづけた、攻守にわたるハードワークには誰もが共感を覚えたモノだ。

そう、自分主体のハードワーク。

これまでに、何度も繰り返し書いてきたけれど、その絶対的ベースは、「強い意志」である。

強固な心理バックボーンがあるからこそ、主体的に考えながら、状況を把握し、素早く決断して、リスクにもチャレンジしていける。

彼らは、その「強い意志」を、チーム全体として、(ここが大したモノなのだが・・!)常に、そしてタイムアップの笛が吹かれるまで高みで安定させつづけるのだ。

だからこそ、相手が強くても、また物理的、心理・精神的な疲労が溜まってきても、「湘南スタイル」は、ハイエンドに機能しつづける。

この試合(ジェフ対ベルマーレ)でも、そうだった。

私は、ジェフ千葉の鈴木淳監督も、その優れた組織サッカーから、高く評価している。

彼らは、この試合の立ち上がりでも、ベルマーレに対して、まさに「ダイナミズムの応酬」という一進一退のゲームを繰り広げた。

どちらに転ぶか予断を許さないゲームの立ち上がり。ただ徐々に、ベルマーレの、ブレない首尾一貫サッカーが、ジェフを席巻するようになっていった。

そこで彼らが魅せた、粘り強い「継続エネルギー」。

それこそが、ストロングハンド、曹貴裁の優れたパーソナリティーパワーが集約された、グラウンド上の現象だったのである。

■選手たちの強烈な意志が、見える、見える・・

その「意志」の発露である、攻守にわたる積極アクションの表現には事欠かない・・

・・例えば、攻守の切り替えの素早さ、正確さ・・例えば、完璧に「イメージ連鎖」しつづける、ものすごく忠実でダイナミックな「組織ディフェンス」・・例えば、強烈な勢いのチェイス&チェックと、それに連動する、周りの忠実アクション・・

・・例えば、セカンドボールへの寄りの鋭さ・・例えば、攻撃に移った次の瞬間に、全力スプリントで押し上げていく人数の多さ(=それが、スーパーな先制ゴールを生み出した!)・・

・・例えば、あんなに積極的に人数をかけて仕掛けているにもかかわらず、次の守備で組織バランスが崩れないこと(=このバランシング能力も、曹貴裁の言う進化の一つ!?)・・

・・例えば・・例えば・・等など・・

そんな積極アクションだけれど、やはり、全てのスタートラインは、ディフェンス(ボール奪取プロセス)にありだ。そこにおいてこそ、強い意志がもっとも具体的に表現されるのである。

例えば、抜群に素早く、正確な攻守の切り替え。

ボールを失った瞬間、少しでも(チェイスで追いつける!?)可能性を感じたら、フルスプリントで相手を追いかけ、見事なスライディングでボールを奪い返しちゃったりする。

そんな、超絶の「切り替え」シーンを繰り返し魅せつけられるんだよ。そりゃ、ヤツらの「意志のプレー」に酔うしかないじゃないか。

もちろん、鋭く、勢いのあるチェイス&チェックも群を抜いている。そして、それと同時に、周りの守備アクションも風雲急を告げていくんだ。

相手のボールが「停滞」する気配を感じた次の瞬間にブチかます「協力プレス」の輪。 次のパスを読み切って仕掛ける、相手パスレシーバーへのクレバーな「寄せ」。ボールから遠いところで繰り出される相手フリーランニングへの忠実なマーキング等など。

それらの守備アクションが、見事なハーモニーを奏でるのである。

また、積極的にチェイスやカバーリング(守備ハードワーク)を仕掛けていくところと、しっかりとポジショニングしながら少し流す(ちょっと休む)ところのメリハリも、とてもスマートだ。

このメリハリについて、たぶんチーム内では特別なキーワードで表現されているはずだけれど、その「息抜き」が、次のディフェンスにおける、人数とポジショニングの優れた縦横バランスを司(つかさど)っているのだ。

そして、これもまた、(前述したポイントと同様に!?)曹貴裁のいう進化の一端だと思う。

そしてもう一つ、ボールを奪い返すダイナミックな連動アクションの「勢い」が、最後まで「大きく」減退しないというポイントもある。

■攻守の組織ハードワークが、最後まで大きくダウンしないという特筆ポイント・・

それもまた、強烈な意志のチカラという確固たる心理バックボーンの為せる業(わざ)だ。

でもサ、もちろん気の抜ける瞬間が、まったくないわけじゃない。それは、どんなに優れたチームにも起こり得る。

ただベルマーレの場合は、チームの「マジョリティ」が、攻守にわたって、全力スプリント満載のハードワークを繰り返すものだから、一瞬「気抜け」になった 選手も、周りのスピリチュアルパワーに刺激され(気圧され!?)、すぐにまた、全力ハードワークの流れに戻っていくんだよ。

チーム全体が互いに刺激し合うベルマーレ。

そこでは、「気抜け」というネガティブヴィールスが、チーム全体に蔓延していく・・なんていう気配さえ感じられない。

それは、本当にスゴイことなんだ。

■心理的な悪魔のサイクルを「自ら」断ち切ってしまうベルマーレ・・

不確実な要素が満載のサッカーでは、安全志向の(アリバイ!!)プレーばかりをやっていれば、ミスが目立つことはない。

でも、そんな受け身で消極的な「マインド」が支配するチームだったら、(ミスや失点や疲労などによって!?)少しでもチームの勢い(意志)がダウンしはじめたら、その「流れ」を食い止めることなんて、望むべくもない。

そう、(気抜けの!)ネガティブ・ヴィールスがチーム全体に蔓延した「心理的な悪魔のサイクル」がアタマをもたげてくるのだ。その「サイクル環」にはまり込んだら、そんなチーム体質では(!)、抜け出すのは至難の業(わざ)に違いない。

ただベルマーレの場合、ネガティブな(心理)ヴィールスが、チーム全体の「ダイナミズム」を減退させてしまうようなケースは、希だと感じる(あっと・・曹貴裁に言わせれば、そこに陥ってしまうことなど全くナ〜イ!・・ってなことになるんだろうな・・笑・・)。

そして、冒頭の、「湘南スタイル」を表現した曹貴裁の言葉にこそ、その背景コノテーション(言外に含蓄される意味)が込められているというわけだ。

あっと・・

もちろん、永木亮太という、グラウンド上の強いリーダーシップ(=曹貴裁のエクステンションハンド!?)の存在も忘れちゃいけない。まあ、言うまでもないだろうけれど・・

■攻守にわたって数的に優位なカタチを作りつづけるというテーマ・・

それを追求していくことについては、曹貴裁も、とても強く賛同していたっけ。

そのためには、「走りの量と質」を突き詰めていかなければならない。そう、今のベルマーレが志向しているように。

まあ、この「深いテーマ」については、別の機会に深掘りすることにしよう。ここでは、そのポイントと、「日本の夏」というテーマを組み合わせてディスカッションしていくのが面白いと思った。

「あの」日本の夏である。

そこでは、この時点でベルマーレがブチかましつづける「走りの量と質」を高みで維持するのは難しいでしょ。だから、とても興味深いテーマなんだよ。

私は、このテーマについて、このように考える。要は・・

・・日本の夏・・自然な成り行きとして、両チームともに、絶対的な運動量は減退する・・

・・だからこそ、攻守の目的を明確にイメージしたアクションを、よりクレバーに、効果的に「連動」させることで、より効率的に、洗練された組織サッカーを展開できる・・そう、「走りの質」のアップ・・

・・なんて、書きはじめようとしたけれど、シンプルに表現するのは、とても難しい。

コトはそう簡単じゃないってことなんだけれど、まあ、この「日本の夏」というテーマについても、別の機会に・・ということでご容赦アレ。

■継続こそチカラなり・・

さて、最後に、このコラムの主眼テーマ(コンセプト)を反芻しよう。

そう、継続こそチカラなり・・。

ベルマーレは、一試合のなかでも、長期的なビジョンに立っても、「湘南スタイル」をとことん追求しつづける。

ところで、その「継続こそ・・」というコンセプト(≒価値観)だけれど、ベルマーレのマネージメントも同様にシェアしているという視点はどうだろうか?

何せ、「J2」へ降格したにもかかわらず、曹貴裁を全面的に信頼し、「継続的」にチームマネージメントを託した(依頼した!?)のだから。

また曹貴裁は、こんなニュアンスの内容もコメントしていたっけ。曰く・・

・・私は、(湘南スタイルをとことん追求するという!?)思いに応えようと来てくれた選手たちと、ここに残ろうと思ってくれた選手の多かったことが、最高の補強だと思っている・・最初のミーティングでは、そんな自分の思いを選手たちに伝えたんですよ・・

そして、(その成果としての!?)今シーズン立ち上がりからのスーパーサッカー。

まさに、「継続こそチカラなり・・」を地でいっているということじゃないか。

PS:次戦の(一昨日のホーム)第8節。これまた、とても立派なサッカーを継続する「田坂トリニータ」とのエキサイティングな一戦も制したベルマーレは、開幕8連勝を飾った。私も、スタジアム観戦で、舌鼓を打った。そのゲームのコラムは、「こちら」をご参照アレ。

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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