My Biography


My Biography(61)_日常のエピソード・・(プライベート)パーティー・・(2016年4月27日、水曜日)

■ドイツの冬は、寒く、そして暗〜い・・

ヨーロッパの冬だけれど、そこは、南へ行けばいくほど冬の平均気温が下がる。

内陸へ(南へ)行けば行くほど寒くなるという、チト奇妙な現象なのだ。

もちろん気候学のことはよく分からない。

とにかく、冬の平均気温が、もっとも北に位置する大都市ハンブルクの方が、もっとも南の大都市ミュンヘンよりも、1から2度ほど高いという事実があるんだよ。

また、私が留学していた、ライン川沿いに位置するケルンでの冬の平均気温は、その南北の大都市よりも、もう少し高い。

ケルンの位置は、緯度から言えば、前述のハンブルクとミュンヘンのちょうど真ん中あたりだ。

そんな、チト奇妙な「南北逆転現象」だけれど、聞くところによると、それは、メキシコ湾流という暖流が、大きく回り込みながらヨーロッパ周辺まで来ていることが原因らしい。

たしかに、ヨーロッパでも(もちろんドイツよりも!)北に位置するイギリス連邦の冬季平均気温は、その暖流に近いせいで(!?)ハンブルクやミュンヘンのそれよりも、かなり高めなのだ。

またケルンの平均気温が高めで推移することについても、その暖流で暖められた湿った空気が、ライン川をさかのぼってくるから・・というのが定説らしい。

フムフム・・

だから、ヨーロッパ全体を包み込む大気自体は冷えているわけだから、その冷たい空気と暖かい空気がぶつかりあうことで雲や霧が発生するのも当然の帰結ということか。

たしかに、冬のロンドンでは頻繁に霧が発生するし、ケルンを中心にしたライン地方の冬にしても、とても天気が悪く、暗い。

ドイツ語では、そんなライン川沿い地方の冬の天候のことを「ナス・カルト」と表現する。それは、「湿気が多く、ジメジメして寒い・・」という意味だ。

たしかに雪はめったに降らないけれど、とにかくケルンの冬は、そんな感じで、湿って寒く、暗いのである。

あっと、気候のハナシじゃなかった。

そう、ケルンの冬が、「暗〜い雰囲気」だということが言いたかっただけなんだよ。

だから人々は、積極的に、雰囲気を明るいモノにしようと努力する。そう、その典型が、至るところで企画される(プライベート)パーティーっちゅうわけだ。

学校の関係、サッカークラブの関係、また友人関係や家族関係などなど、パーティーに集う人々の関係性と、そのバックボーンのコノテーション(言外に含蓄される意味)については、枚挙に暇(いとま)がない。

でも、まあ、実際には、関係性なんて何でもいいから、楽しく過ごそう(素敵な出会いを期待しよう!?)っちゅうのが本音でしょ。へへっ・・

■ということで、留学2年目の毎週末はサッカーとパーティーに明け暮れた・・

サッカーの試合があれば、もちろんそちらが優先だけれど、我々のアマチュアリーグが開催されるのは日曜日の日中だから、プライベートパーティーとバッティングすることはない。

ということで、リーグ戦を終えた日曜日の夕方からは、(クラブ会員の)誰かの家に集まってパーティーをすることも多かった。

そんなだから、私にとってクラブは、徐々に、ドイツのファミリーのような存在になりつつあったのかもしれない。

サッカークラブには、以前にも登場したヘルムートとベアーテ夫妻だけじゃなく、もちろんウリもいたし、ケルン体育大学の学生も多かった。

とはいっても、もちろんクラブの主流は、大学とは関係のない、おらが村(地域)のクラブとして参加している地元の一般社会人だ。

それに対して学生は、ドイツ全土から集まってきている「外様」の連中である。

ちょっと微妙なんだけれど、学生連中が主催し、彼らだけが集うパーティーと、地元ベースのサッカークラブが主催するパーティーでは、かなり雰囲気が違うと感じたモノだった。

言うまでもないけれど、年齢層や社会的な立場などが、より広範囲になるクラブのパーティーとなると、ホントに様々な「文化」が混在しているんだよ。

ここでいう文化とは、人種や言語(ネイティブ言語)、年齢や性別、生まれ育った場所(国)や教育内容、宗教や職業などによって微妙に異なってくる「それぞれの生活の仕方・・」なんて定義できちゃうんだろうかね。

まあ私は、専門じゃないから、うまく表現できているかどうかは疑問だけどさ。

ということで、ここでは、学生たちが主催するパーティー、個人的な友人によるホームパーティー、地域コミュニティが主体の(サッカークラブによる)パーティー等など、その雰囲気が、主催者や、そこに集う人々の内容によって千差万別ということが言いたかった。

別な見方をすれば、それらの異なる雰囲気のパーティーが、様々な意味合いで、とても実効性の高い異文化接点(Cross Culturel Interface)だったとも言えそうだ。

もちろん今じゃ、日本でも、同様の異文化接点(機会)としてのプライベートパーティーが拡大しているけれど、ここで書いているのは、40年ちかく前の「西ドイツ」のハナシだからね。そこで私は、様々な「異文化接点」の内実を体感していたっちゅうわけさ。

もちろん私が、多くの参会者と同様に、そのパーティーを(特に女性との!?)異文化接点として大いに楽しんだことは言うまでない。

そうそう・・

私が、プライベートパーティーには、異性と知り合う機会の提供という重要な社会的ミッション(役割)があると感じていたことも付け加えておかなきゃ。

要は、ドイツには、「お見合い」なんていう社会的な風習がないということだ。だから彼らは、基本的には、自分のチカラで人生のパートナーを探さなきゃいけない。

本当は、プライベートパーティーには、暗い冬を楽しく乗り越えるため・・という意味合い以上に、「人生のパートナーを捜し出す機会・・」という背景ミッションもあるんだろうね。

もちろん、男性だけじゃなく、女性にとってもね。

ドイツ人にとっては、そんな「人と知り合う機会」を、自分たちが主体になって創りつづけるというのも、生活文化の一環ということなんだろうな。

■そんなだから、パーティーの雰囲気が積極的なモノになるのも自然な流れだ・・

参加している人たちの多くは、積極的に他の参加者と知り合おうとする。

そこはプライベートパーティー。誰でも、何らかの関係性を前提に参加しているわけだから、クナイペ(飲み屋)よりは話しかけやすいというわけだ。

もちろん中には、「壁のハナ」といった消極的な人たちもいたけれど、そんなときには、パーティー主催者が気を利かすのだ。

そう、知らない者同士を引き合わせたり、互いに紹介し合うように促したりするんだよ。

そんな雰囲気作りは、あくまでもパーティー主催者のパーソナリティーに拠るんだ。

だから、明るく開放的な主催者のパーティーには、自然と人が集まってくるっちゅうわけさ。

なかでも、ヘルムートとベアーテ夫妻が主催するホームパーティーは、ダントツに雰囲気がよく、人気があった。

まあそれは、どちらかといったら、とても明るく社交的で、自信にあふれた積極性を前出しするベアーテに拠るところが大きかったかな。

彼女の、ポジティブで明るく、創造的なパーソナリティーについては、以前のコラムでも書いたから、そちらを参照して欲しいけれど、とにかく彼女は、理想的なホステスなんだよ。

いまでも、ドイツへ行くたびに、彼女や、その弟(ラルフ)が主催するパーティーを心から楽しんでいる。

そんなホームパーティーの一つの例だけれど、本編コラムで紹介した、彼らのプライベートパーティーの「コラム」も参照して欲しい。

それは、2013年にブラジルで開催されたコンフェデレーションズカップの帰りに立ち寄ったドイツでのハナシだ。

そのサマーパーティーは、ラルフの主催だったけれど、そこでもベアーテ(ラルフの姉貴!)が抜群にポジティブな存在感を発揮していたっけ。

そんな、明るく前向きな雰囲気を演出し、盛り上げてしまうベアーテを観察しながら、彼女のコミュニケーション能力の高さに、いつも感心させられたモノだ。

そう、私は、そんなベアーテから、人とのコミュニケーションについても教えられたんだよ。

■自分から腹を割ってアプローチすることの大切さ・・そしてハナシが明後日の方向へブッ飛んでいく・・

「ダメよ、ケンジ・・あなた、ちょっと構えすぎ・・ロジカルな主張もいいけれど、そこに、自分の失敗談なんかもミックスするとか、もっと素直に自分の本音 の意見を出さなくちゃ・・人間的な部分を、さらけ出すということかな・・そうすれば、相手も、もっと近づいてくるでしょ・・」

あるとき、ベアーテが、そんなことを言った。

彼女は、私の話し方では、表面的なコミュニケーションに終わってしまうと言うのだ。

そんなこと言われても、当時の私のドイツ語のレベルでは、発言のニュアンスまで正確にコントロール出来るはずもなかったから難しい。

それでも、もちろん彼女が言わんとしているコトは、よく分かっていた。

ベアーテがつづける。

「みんな自分が傷つくことが怖いから、正論をぶつけ合うようになっちゃうのよ・・まあ、ウリもそういう傾向が強いね・・そうじゃなくて、変なプライドに支 配されずに、もっと素直にしゃべればいいのよ・・とにかく、どちらでもいいから、素直になることが大切なの・・そうすれば、ほとんどの場合、うまくコミュ ニケーションが深まっていくはずよ・・」

もちろん私も、注意深く慎重なドイツ人と同様に、人からバカにされるのはイヤだ。

だから、ありきたりの(本から引用した!?)思想などを、あたかも自分が考えたことのように語ることで、難しい会話シチュエーションに近づかないように「逃げ」るわけだ。

でも、それじゃ・・

そう、ベアーテが正しい。

だから、あるときからは、変に構えず(傷つくかもしれないという怖さを断ち切って!?)、自分の失敗をさらけ出したり、相手をよりよく理解すること(ハナシを聞くこと!)に努めるなど、素直にコミュニケートするようにしたんだ。

もちろん最初は(自分の中に!?)抵抗があったし、イヤな思いをさせられることもあった。

でも、そのことが、自分のコミュニケーション能力を発展させていると体感できるようにもなっていったんだ。

もし会話の相手が、私の失敗談を逆手にとって自分の立場を「優位」にしようとする人格だったら、次からは距離を置けばいい。

ところで、そんな素直なコミュニケーション姿勢。

それは、コーチとして仕事を始めてからも、とても役に立った。

プロ選手たちにしても、プライドが高く、傷つきたくないという心理は普通だけれど、そんな彼らの心の揺動も、より敏感に把握できるようになったんだ。

彼らは、プロであるからこそ「自己」を主張したいだろうし、もし出場できなかったら、不満もどんどん高じていくだろう。

とはいっても、彼らの「論理」が、常に正しいとは限らない。いや、そんな彼らの主張については、自分勝手なモノであることの方が多い。

それでもコーチは、出場機会に恵まれなかったり、自分の能力に対する評価が不当に(!?)低いと感じているプロ選手たちの、ネガティブな情緒とコミュニケートしなければならないんだよ。

そして、相手がどんなに難しいパーソナリティーでも、話し合うことで彼らを正しい方向へ導いていく「努力」を怠ってはいけないんだ。

もちろん基本は、プロ同士のフェアな関係だよ。でも、相手のパーソナリティーに応じて、そのなかに、「誠実に」自分の人間性も「さらけ出して」いくっちゅうわけさ。

あっと・・。ところで、ここで使った「導いていく」という表現だけれど・・。

最初から、そんな「大上段」の態度だったら、個人事業主であるプロ選手たちと、前向きなコミュニケーション成立させること自体が難しくなるかもしれない。

だから我々コーチは、変に構えたり、「はき違え」のプライドをもってアプローチするのではなく、あくまでも素直に、「そちらが許すなら相談にのりたい・・」という誠実なコミュニケーション姿勢で臨まなきゃいけないんだよ。

もちろん、「それ」でも拒否したり、相手を否定するネガティブな態度が改まらない(素直になれない!?)プロ選手もいるよ。

そんな場合は、時間や距離を置いたりして「待つ」のがいいよな。そう、あくまでもプロ同士のフェアな関係性という前提のうえでネ・・。

でも・・

もし、コーチの本質が、そのような姿勢(人間性)ではなかった場合、選手は、そのことを敏感に感じ取り、厚い「心の壁」を築いてしまうに違いない。

もちろん、前述したように、その選手が「甘えて」いる場合、そのことへの批判を「誠実に」ブチかますことが、その後の「実りある本音コミュニケーション」を成立させる可能性を高めるという意味合いでも、とても大事だとは思うけれど・・ね。

私は、読売サッカークラブだけじゃなく、ドイツのプロの現場でも、「最後は人間的な誠実さ・・」であるという事実を、何度も体感させられているのである。

ウソや間違ったプライド、また着飾った態度なんていうのは、百害あって一利なし・・なのだ。

何か、プライベートパーティーという話題から、錯綜したチーム(心理)マネージメントの話題までハナシがブッ飛んでしまったように感じる。

フ〜〜ッ・・

とにかく、ドイツという「哲学の国」への留学を通して、本質的なコミュニケーション(ディベート)のメカニズムについても、大いに学ばせてもらったということが言いたかった。

次のエピソードでは、ヨーロッパを股にかけた個人旅行という話題なんていかが?

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これまでの「My Biography」については、「こちら」を見てください。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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