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2013_天皇杯決勝・・レイソルの順当な勝利・・また、ネルシーニョの采配に乾杯!・・(レイソルvsガンバ、 1-0)・・(2013年1月1日、火曜日)

とても、とても、興味深いファイナルになりました。

 まずゲームの流れから。

 立ち上がりは、皆さんもご覧になったとおり、ガンバが全体的なイニシアチブを握った。

 ネルシーニョ監督も、「ゲームへの入りが良くなかった・・」と言っていたっけネ。彼は、準決勝でのマリノス戦のような立ち上がりをイメージしていたんだろうか・・!?

 でもレイソルは、そんな思惑とはかけ離れたゲーム展開に四苦八苦することになる。ガンバに押し込まれ、思うように押し返していけないんだよ。

 ということで、立ち上がりの時間帯は、ガンバがペースを握っていた。でも「それ」は、あくまでもボール支配率という視点をベースにした評価だよ。

 ここで言いたかったコトは、ボールを支配するガンバではあったけれど、簡単には、レイソル守備ブロックの穴(決定的スペース)を攻略していけなかったということです。

 いつも書いているように、攻撃の目的はシュートを打つこと。

 そして、「そこ」へ至るまでの当面の目標イメージは、相手陣内の奥深くのゾーンで、ある程度フリーでボールを持つチームメイトを演出することです。そう、その現象こそが、スペースを攻略するという表現の実質的な意味というわけです。

 でもガンバは、ボールは支配するけれど、どうしても流れのなかではシュートまで行き着けない。チャンスを作り出せるとしたら、セットプレーから「だけ」なんだな。そして、その傾向には、ゲームが終了するまで大きな変化はなかった。

 それに対して、忠実で活発なハードワークの積み重ねとしての組織ディフェンスと、そこから「カタチをもった効果的な攻撃」を繰り出していくレイソルは、とても実効あるサッカーを魅せつづけていた。

 カタチをもっている・・という表現の意味合いは、選手一人ひとりが、どのように攻めていくのかというテーマについて、具体的なイメージを描けている(そして各人のイメージが、うまく重なり合っている!)ということです。

 例えば、素早くサイドゾーンをタテへ攻略し、素早くクロスを送り込む・・とかね。だからレイソルのサイドからのクロス攻撃のときには、少なくとも2人とか3人のチームメイトが、相手ゴール前ゾーンに入り込んでいるよね。

 それは、ゴールを奪うために、とても大事な「イメージ・コンビネーション」なんだよ。そんな実効ある「イメージ・シンクロ」が、レイソルでは成り立っていると感じる。そう、仕掛けのカタチ・・

 ということで、その視点も含め、この試合は、内容的にもレイソルの順当勝ちという評価がフェアだと思う。

 前述したように、ボールを支配するガンバ(コンパクトな組織をベースにボールをしっかりと動かしつづけるガンバ!!)だけれど、それでも、最後のところで、レイソル守備の背後の決定的スペースを突いていけない。

 そのプロセスでレイソル守備が魅せつづけた、ボールホルダーへのクレバーなチェイス&チェックや、周りの味方の巧みなポジション取り、はたまた、パスを出させることで効果的にボールを奪い取ってしまうクレバーディフェンス等など・・、見所豊富だった。

 そんな強力なレイソル守備が相手なのだから、ガンバ選手たちは、ボールがないところでの動きの量と質を、大幅にアップさせなければならなかったと思う。でも、それもままならず・・

 たしかにガンバ選手たちは、それぞれの局面では、パスの受け方にしても、トラップやボールコントロールにしても、とてもハイレベルだと思う。もちろん遠藤保仁のゲームメイクやタテパス能力は、例によって冴えまくってもいた。

 ただ、パスの受け手の動きが良くない。そう、パスを呼び込む動きが活性化していかないんだ。

 遠藤保仁から出された勝負のタテパス。例えば、右サイドの加地亮のオーバーラップや、レアンドロの決定的スペースへの走り抜けに合わせた勝負パス。

 たしかに何本かは、レイソル守備ブロック背後の決定的スペースを攻略した。でも、そんな効果的コンビネーションがつづかない。

 そんなだから、ガンバがチャンスを作り出せるのは、そのほとんどがセットプレーから・・ということになってしまうのも道理だった。そう、遠藤保仁の正確なキック。

 でもサ、前回のゲーム(マリノス対レイソル戦)でも書いたけれど、優れたキッカーを擁しているということには、諸刃の剣になる可能性も隠されているんだよ。

 マリノスでは、言わずと知れた中村俊輔。彼の場合も、遠藤保仁の場合も、中央ゾーンで待つディフェンダーは、「最終勝負スポット」を、とても明確にイメージできるんだよ。

 中村俊輔にしても、遠藤保仁にしても、ニアポスト勝負(そこで流されたボールをファーポストゾーンにいる味方が決める!)か、一山越える(ファーサイド の相手ディフェンダー目掛けて飛ぶ)鋭いロビングに、後方(大外)から走り込んだ味方が「ヘディング一閃!」っちゅうシュートをブチかますなんていうイ メージがメインだよね。

 そのことは、彼らのキックの正確性も含めて、相手もしっかりと把握している。だから(逆から言えば)守備側も、より明確に勝負スポットを予測し、対処できるっちゅうわけです。フムフム・・

 そういえばガンバは、コーナーキックから、ニアポスト勝負で「流れた」ボールを、ファーサイド側にいたレアンドロが決めるというゴールシーンを作り出したっけね。

 結局オフサイドということで「幻のゴール」になってしまったけれど、その後のガンバのセットプレーへの期待が高まったものです。でもガンバは、結局その後は、セットプレーからも、チャンスらしいチャンスを作り出すことは出来なかった。

 わたしは、ガンバのセットプレーに目を凝らしていたけれど、レイソル選手たちは、明らかに、昌プスポットを意識してポジショニングして(動いて)いたっけね。フムフム・・

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 ということで、ここからは、このゲームの最重要ポイントに入っていくことにします。そう、ネルシーニョの采配・・

 「立ち上がりの展開を観ていて、ここは(ゲームの良い流れを取り戻すために!)監督として重要な決断をしなければならないと思ったんだ・・」

 ネルシーニョさんが、記者会見で、そんなニュアンスの内容をコメントした。要は、前半32分の、水野晃樹と田中順也の交代劇のことだよ。

 ネルシーニョは、水野晃樹が、うまくゲームの流れに乗っていけてないと判断し、彼に代えて、田中順也を入れる決断をした。そして、その交代が、誰もが目を見張る抜群の効果を生み出したというわけだ。

 田中順也が入ってからというもの、レイソルの「前へのダイナミズム」が数倍に跳ね上がった・・なんていう印象さえ残った。それほど、田中順也が魅せつづけたボールがないところでのダイナミックな動きと、パスを受けてからの効果的なプレーが目立ちに目立っていた。

 タテパスのほとんどが、田中順也を経由して「次のスペース」へつながっていく・・なんていうイメージ。そのこともあって、2列目へ下がった澤昌克(もち ろん田中順也と縦横無尽のポジションチェンジを繰り返す!)、ジョルジュ・ワグネル、レアンドロ・ドミンゲスの4人で組む前線カルテットの機能性が、とめ どなくアップしていったんだよ。

 そこからは、ゲームが、より動的に均衡していったわけだけれど・・

 でも結局は、ガンバの(より多くの人数を掛けた!)パスサッカーによる仕掛けだけではなく、レイソルの必殺カウンターも(ガンバの)意地の忠実ディフェンスに潰される場面が多いなど、両チームの攻撃が、相手ディフェンスを崩し切るシーンを演出したとは言いがたかったね。

 それでもこちらは、1点を追いかけるガンバの「最後の爆発」を期待しちゃうわけだよ。特に最後の15分間・・

 血湧き肉躍る、ギリギリの攻守のせめぎ合いドラマに対する大いなる期待・・

 でも結局は、ガンバの攻めには何かが欠けていた。そう、結局ゲームは、今シーズンのガンバを象徴するような後味の悪い終焉を迎えてしまったんだ。

 何度かチャンスらしい流れは作り出したガンバだったけれど、それを、本物の決定機・・というところまで熟成させることができなかった。

 やはり、最後は「意志のチカラ」なんだよ。どんな苦難や、失敗(ミス)に対する恐怖感をも超越してしまうような強烈な意志・・

 こんなシーンがあったね。

 後半から登場した「ガンバの天才」家長昭博。彼が、中盤から、例によっての迫力満点の「テクニカルな勝負ドリブル」で、レイソル守備ブロックを切り裂いたんだ。

 こちらは、「そうだ〜!・・そのまま突破してシュートをブチかませ〜!!!」なんて、心のなかで叫んじゃう。でもヤツが選択したのは、右サイドにいたレアンドロへのラストパスだった。

 そのパスは、無残にも、レイソルゴールの右ポストを外れていっちゃった。そのときの落胆といったら、まさに筆舌に尽くしがたかったネ。そして思った。

 ・・そう・・だからオマエ(家長昭博)は、カッコつけマンだって言われるんだ・・素晴らしい天賦の才に恵まれたオマエだったら、最後まで突破していくべきだった・・可能性の大小を問う「言い訳ディスカッション」なんて、まさに無意味なんだよ・・

 ・・イレギュラーするボールを足で扱うことで不確実な要素が満載されたサッカーだからこそ、最後は、主体的な(強烈な意志に裏打ちされた)積極プレーが求められるんだ・・それが、人の目には、エゴイストとして映ったとしても・・

 ・・そう、勇気(強烈な意志)こそが、本物へブレイク(スルー)していくための唯一のリソースなんだよ・・日本の歴史に残るほどの素晴らしい才能に恵ま れた家長昭博・・オマエが、普通にハードワークをこなせるようになったら、ホント、もう日本にはライバル等いなくなるに違いない・・

 ・・だから、そんなアンタの「逃げのアリバイ・プレー」を観るにつけ、本当に、地団駄を踏むほどに残念で悔しい思いにかられるんだよ・・

 最後は、ちょっとエモーショナルにまとめることにした次第。いや、本当に、家長昭博については、「誰かに何とかして欲しい・・」という懇願の情でアタマが一杯になっちゃうんだよ。ホント、「あの」ままじゃ、惜し過ぎる・・

 最後は、才能という「諸刃の剣」にもてあそばれる2人の天才(的)選手に、気を奪われてしまったという体たらくでした。そう、水野晃樹と家長昭博・・

 日本で、正しい育成プロセスが深いところまで効果的に機能するまでには、まだ時間がかかるかもしれないけれど、とにかく私は、もうこれ以上、天才の没落は見たくないのですよ。

 ハードワークをサボる天才への心理マネージメントには、言葉だけじゃなく、ビジュアル素材や心理・精神的トリートメント、はたまた、影響力のある第三者への協力依頼など、さまざまな方策が考えられるよね。

 とにかく、ユース育成のコーチ諸氏には、考え得るすべての方法を駆使し、天才連中を正しい方向へ導いていくことを願って止みません。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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