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2013_コンフェド杯_その8・・デモ翌日の情景・・そしてスペインの組織と個のバランス・・(スペインvsナイジェリア、 3-0)(2013年6月23日、日曜日)

どうも皆さん・・

 今日は、これから「スペイン対ナイジェリア」をテレビ観戦します。でも、その前に・・

 日本でも大きく報道されましたが、ここベロ・オリゾンテでも、昨夜、大規模なデモがありました。

 昨日は、とても早いタイミングにスタジアム入りしたことで、そんな「外の喧噪」は、後からテレビなどで確認するという体たらくだったのでした。

 まあ、帰りの「メディア・シャトル」が、交通規制のために、通常の3倍以上の時間を要したことで、間接的にデモを体感させられたわけですが・・。

 あっと、もう一つあった。

 メディアホテルへたどり着いたまでは良かったのですが、自分のホテルへ帰るためのタクシーが拾えないんですよ。もちろん、デモと交通規制の影響。

 仲間のジャーナリスト連中も、困り果てていた。夜道を歩くのは、ちょっと勇気が要るからね。でも私は、歩ける。行きは、散歩がてら、40分くらいかけてメディアホテルまで歩いたから、ルートも、しっかりとロケハンできている。

 そんな困っている方々のなかに、大住良之さんもいた。彼とは、同宿。

 そして彼が、渡りに船・・ってな感じで寄ってきたんですよ。一緒にタクシーで帰りませんか・・でも、捕まらないだろうな〜・・なんて感じでね。

 ・・いや、わたしは歩きますよ・・えっ!? 歩いてホテルまで帰れるんですか?・・それじゃご一緒させてください・・もちろん・・それに、帰り道は大通りばかりだから安全でしょうしね・・

 そんな会話のあと、色々な話題に花を咲かせながら帰路についた次第。

 でも、帰り道は、まさにデモが繰り広げられたルートだったんです。もちろん、まだまだ大勢の人々が、あちこちに「たむろ」している。そして警官隊が、それを遠巻きにして監視している。

 まあ、でも、差し迫った雰囲気はほとんどなかったから(たぶん昼間はすごかったんだろうけれど・・)、こちらも、安心して歩けた。まあ、一度だけ、女の子のグループから、「ノ〜、フィ〜ファ〜ッ!!」なんて罵声をぶつけられはしたけれどネ。

 コンフェデレーションズカップやワールドカップに多くのカネを使うより、病院や学校、公共の施設の充実といった社会インフラにもっと出資すべきだ・・というのも、彼らの主張の一つ。

 根底には、「南北問題」的な、格差の拡大という社会的な課題があるっちゅうわけです。

 とはいっても、コンフェデレーションズカップやワールドカップは、様々なイメージ資産のアップといった目に見えない資産の高揚も含めた総体的な「収支決算」は、確実に黒字になるよね。

 でも、そんな「目に見えない効果」よりも、目の前でやり取りされる現実的なカネなんだろうね。

 また、多大な予算が組まれても、医療機関や学校関連にカネが落ちてくる前に、コラプション(汚職)などで、大きく総額が減っちゃう(カネがかすめ取られちゃう!?)という事実も、大衆が共有している情報なんでしょ。そりゃ、怒りも増すよね。フ〜〜・・

 でも、ちょっと視点を変えたら、興味深い「構図」も見えてくる。

 そう、社会政治的なファクターと、サッカーという社会文化的ファクターの相克。

 それも、ブラジルだからね。「あの」ブラジルだよ。一部の社会活動家の「正論パワー」が、大衆のエモーショナルエネルギー(情緒パワー)を取り込んでいくとは、到底思えない。

 要は、今回のデモが、コンフェデレーションズカップやワールドカップを「ブチ壊す」ような方向へは行かないと確信しているわけです。

 掲載した写真ですが、それは、一夜明けた町の風景。

 熱帯雨林気候(!?)で、ものすごく蒸し暑かったレシフェやサルバドールから比べれば、高原に位置するベロ・オリゾンテは、まさに楽園でっせ。ホントに、よく寝られた。

 あっと・・一夜明けた街中・・

 まあ、昨夜のうちに、デモで発生した「ガレキ」は、ほとんど片付けられたようです。昨夜、大住良之さんと歩いたときには、至るところに、ガレキや、何かの燃えカスなどが散乱していたよね。

 私のホテルは、まさにデモの中心地の一つに隣接しているんですよ。だから、ちょっと歩いたら、デモ中心地の一つだった広場(中央に尖塔が立っているロータリー)がある。

 また、昨日のデモで破壊された、ポリスの「監視塔」も、しっかりと写真に収めてきました。

 このデモ、どこまで拡大していくのだろうか。今では、ブラジル発で、世界中に飛び火しているとか。そりゃ、そうだ。まだまだ多くの国が、同じような「社会体質的な問題」を抱えているわけだからね。

 まあ、とにかく、これからどうなるのか(特にブラジルが決勝に進出した場合!?)しっかりと見届けようと思います。

 ところで、昨日の「ブラジル対イタリア」だけれど、先ほど、ホテルのテレビで録画放送を観た。

 ブラジルが、高いモティベーションを基盤にした優れたサッカーで勝利を収めたけれど、彼らは、「いまは自分たちが頑張ることが大事・・そのことで、事態をポジティブな方向へ引っ張っていけるかもしれない・・」と思っているのかもしれないね。

 たかがサッカー・・されどサッカー・・。

 サッカーは、人類史上最大パワーを秘める『異文化接点』なんですよ。

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 さて、ということで、スペイン対ナイジェリア。

 これほど「構図」が明確なゲームは、久しぶりかもしれない。

 要は、仕掛けプロセス(仕掛けの発想イメージ)が、両チームでは、かなり違うということです。

 個の勝負(ドリブル突破チャレンジ)を前面に押し出して攻め上がるナイジェリア。それは、それで、とても危険。

 ツボにはまったときは、スペイン選手を抜き去って決定的スペースへ入り込んでいくことで、多くのオプションを作りだしてしまう。

 そのままドリブルシュートへ入ってくのか、相手を引きつけて送り出す必殺スルーパスでシュートまでいくのか。

 ここで言う「仕掛けプロセス」だけれど・・

 それは、いつも書いているように、シュートへ至るまでの「当面の目標イメージ」のことですよ。そう、決定的スペースで、ある程度フリーでボールをキープする最終勝負の起点(選手)を作りだすプロセス。

 対するスペインは、例によって、人とボールを動かしつづけることでナイジェリア守備ブロックを振り回し(またはフリーズさせて、考えることと動きを止め てしまい!?)、そして最後の瞬間に、レベルを超えた「イメージ・シンクロ」から、決定的なコンビネーションやスルーパス(決定的なフリーランニングとの 組み合わせ!)をブチかます。

 彼らは、あくまでも人とボールの動きで決定的スペースを攻略し、そこから、必殺コンビネーションやドリブル突破でシュートまでいってしまうのです。

 先制ゴールシーン。

 左サイドの決定的スペースで、イニエスタからの「タメ&スルーパス」を受けたジョルディ・アルバは、ナイジェリア選手が、ゴールまでの直線的なコースを「切った」ことで、中央ゾーンへ切り返してドリブルで突進し、そのままシュートを決めた。

 後半の2点目シーン。

 例によって人とボールがよく動くコンビネーションから、左サイドへの「スペースパス」が決まり、まったくフリーでボールを持ったペドロ。

 彼から、もう「ここしかないっ!」という、相手ディフェンダー眼前のスポットへ(後方から回り込んで飛び込んだ!)フェルナンド・トーレスのアタマに、狙いすましたペドロからのラストクロスがピタリと合った。

 それは、この大会でのベストゴールの一つに違いない。これでフェルナンド・トーレスの得点王も決まりでしょ。

 とにかく、王者の貫禄とでも表現できそうなチカラ差を魅せつけてナイジェリアを葬り去ったスペインに乾杯!

 最後に、確認しておかなければならないことがあります。それは、ここで書いたことは、あくまでも「傾向」だということです。

 仕掛けの当面の目標イメージとしての決定的スペースの攻略だけれど、それを達成するための手段は、ドリブル突破とパスコンビネーションしかない。

 ということで、ここでは、ナイジェリアが「ドリブル主体」、スペインが「パス主体」というニュアンスで書いたわけです。でもそれは、あくまでも全体的な「傾向」なですよ。

 ナイジェリアだって、たまにはパスコンビネーションで決定的スペースを攻略するし、スペインだって(例えばイニエスタの爆発ドリブル突破とかサ・・)ドリブルで決定的スペースを攻略しちゃったりするよね。

 そう、あくまでも、チーム戦術として共有されている仕掛けプロセスイメージの全体的な傾向こそがテーマなのです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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