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2013_コンフェド杯_その6・・ブラジルで盛り上がる一般市民によるデモのこと・・そして、素晴らしい組織サッカーを展開したウルグアイに乾杯!!・・(ナイジェリアvsウルグアイ、 1-2)(2013年6月20日、木曜日)

「あのデモは、言われているほど単純なモノじゃないんだ・・要は、支配階級と、一般庶民の闘いというかさ、貧富の格差に対する鬱積した憤りとか、そんな長いあいだに蓄積された不満エネルギーが爆発したっちゅうことなんだよ・・」

 いま、ブラジルでは、デモが頻発しています。

 実はわたしも、そのデモの不満エネルギーを、コンフェデレーションズカップ開幕戦が行われたブラジリアで体感した。

 スタジアムに到着し、メディアの入り口へゆったりと歩いていたとき、急に、左側から大群衆がスタジアムへ向けて押し寄せてきたところに居合わせたんです。

 右からは、警察の機動隊(!?)が、左からはデモ隊が。スタジアム側では、入場を待っていた観客が、蜘蛛の子を散らすように逃げまどう。

 わたしは、そのまま、少し小走りに、衝突ゾーンを避けようとしていたんだけれど、そのとき、近くで催涙弾が爆発した。ちょっとビビッた。だから、小走りが、大走りになった。フ〜〜・・

 それから、デモが全国へ拡大していくプロセスを、興味を持って追いかけるようになったのですが、その流れで、コンフェデで知り合ったブラジル人ジャーナリストに、デモの背景要因について聞いてみたのですよ。そこで出てきたのが、冒頭のコメントだったというわけです。

 今日は、サルバドールで、ナイジェリア対ウルグアイ戦をスタジアム観戦するのですが、そこでも散発的に、プラカードや垂れ幕をもったグループが、あちこちで気勢を上げていた。

 そんな人々を、その何十倍もの人数のブラジル機動隊(!?)が取り囲んでいる。

 わたしも、そのトバッチリを受け、途中で移動手段を変えざるを得なくなった。

 ホテルをタクシーで出発したけれど、スタジアムの、かなり手前で、道路が封鎖されていたことで、にっちもさっちもいかなくなってしまったのです。

 「しまった〜・・メディアホテルへ行って、メディア・バスに乗った方がよかった・・メディアシャトルだったら問題なく中まで入れたのに・・」

 でも、後の祭り。もう、どうしようもない。歩いたら45分以上かかる距離らしい。こんな赤道近くの炎天下を、30分も、それも強烈な上り坂をテクテクなんて・・

 そんな暗い気持ちになっていたとき、タクシードライバーの方が、親指を立てて何やら叫ぶんですよ。そして不意にタクシーを発車させた。こちらは、何が何だか分からないけれど、もう任せるしかない。フ〜〜・・

 結局彼は、私のことを、スタジアムの公式バスの停留所へ案内してくれました。ボランティアや役員専用の移動用バス。だから、そこからは、問題なく、スタジアムの近くまで来られたという次第。タクシードライバーの方には感謝しきりでした。

 このデモだけれど、聞くところによると、バス料金に代表される公共料金を、「少しずつ」値上げしていることに対する不満の爆発がキッカケになったらしい。

 要は、官僚や政治家(時の権力者)が、目立たないように、人々からカネを吸い上げようとした・・でも・・

 そう、そんな「姑息なやり方」が人々の怒りに火を点け、それまで鬱積(うっせき)していた不満と相まって、大爆発しかかっているっちゅうことなんでしょうね。

 もちろん、その流れで、コンフェデレーションズカップに多大な予算を支出することに対しても、「そんなことをするよりも、道路や公共交通機関の充実など、使うところはたくさんあるだろ!」っちゅうわけです。

 そんな社会の動きは、もう「暴力」じゃ、止められない。もう、そんな時代じゃないんだよね。

 「あの国」だって、暴力を残虐に行使したことを「昔のように闇に葬る」ことなんて、今じゃ、もう完全に不可能だからね。

 物理的な暴力をアンフェアに行使した次の瞬間には、その映像が、瞬間的に世界中へ出回っていく。もう、そういう時代なんですよ。だから権力者は、とにか く、しっかりとコミュニケーションを取る中で、互いに、様々な妥協を積み重ねてソルーション(互いに抱える不満のバランシング!?)を見出すしかない。

 あっ・・またまた脱線。

 いや、ちょっと待てよ・・もしかしたら、コンフェデレーションズカップが、中止に追いやられてしまうかもしれないということに触れたかったんだっけ。

 まあ、ここはブラジルだし、今大会でのセレソンの調子はいいからね。このデモが、どれほど社会全体の共感(エネルギー)を獲得できるのか・・。そのことにも、とても興味があります。

 あっと・・ホントに脱線しすぎ。ということで、ナイジェリア対ウルグアイです。

 ニュアンスは、とても難しいけれど・・

 やっぱり、骨子のテーマは、「組織と個の対峙」っちゅうニュアンスになりますかね。

 個のチカラが抜群に強いナイジェリア(特にスピードとパワー・・だから、ドリブル突破にも威力がある!)。だから、彼らが、個人勝負を、仕掛けイメージのメインに置くのは、よくわかる。

 それに対してウルグアイ。

 決して個のチカラが大きく劣っているわけじゃない。それでも、世界的にみれば「超」一流ではない。そのこともあって彼らは、組織プレーを「より」重視する!?

 いや・・、というか彼らは、伝統的に組織ベースのサッカーをやるよね。その組織マインドに、とてもバランスよく「個」をミックスしていくっちゅうのが、彼らの伝統(発想ベース)なんだよ。

 とにかく彼らの仕掛けは、基本的に、とてもコレクティブ(組織的)。

 ここで言う「仕掛け」とは、相手の裏のスペースを攻略していくプロセスのことです。

 相手守備ブロックのウラに広がる決定的スペース。そこを、「どのように」攻略していくのか・・というテーマです。

 ウルグアイの場合、あくまでも組織パス(コンビネーション)が発想の原点にある。

 だからこそ、最終勝負となったら、ボールがないところでの動きの量と質が、グンとアップし、相手守備の「目線を盗んで」決定的スペースへ入り込み、そこで、オフサイドギリギリにスルーパスを受ける・・なんていう、スマートな組織コンビネーションを魅せてくれる。

 それに対してナイジェリア。

 もちろん彼らも、しっかりとボールは動かす。でも、スペースを攻略していく最終勝負の「やり方」のメインは、何といっても、個人のドリブル勝負なんだよ。

 もちろん、相手守備ブロックへ「突っ掛けていく」ドリブルが鋭いから、相手守備ブロックも「引きつけ」られ、それで空いたスペースを、フリーランニングとスルーパスで突いていく・・なんていう攻めも繰り出せる。

 要は、基本的なイメージが「パスとフリーランニング」にあるのか、勝負ドリブルを仕掛けることがメインで、それによって作りだされるチャンスの芽を、そのままドリブルで掴むのか、相手を引きつけたスルーパスで掴むのか・・っちゅうのがテーマだということです。

 誤解を避けるために確認しておくけれど、ウルグアイだって、抜群に危険な勝負ドリブルをブチかませるよ。そこには、スアレスがいる、フォルランがいる。

 彼らの、ドリブルからの最終勝負だって、とても危険なんだよ。でもね・・

 そう、あくまでも、基本的な「仕掛けのイメージ」のことを言っている。とても微妙なニュアンスだけれど・・さ。

 とはいっても「個」のナイジェリアにしたって、その個のチカラが「諸刃の剣」としてばかり目立っていた以前とは、かなり様変わりしているからね。

 とてもスマートに、個の才能を「組織的にも」活用していると思う。でもネ・・

 やっぱり、まだまだ、微妙に「諸刃の剣」。だから、ドリブル突破の「効果」を極大化するために重要な、ラストパスが、うまく通らない。

 要は、ナイジェリアのパスによる最終勝負が単純だから、強力なウルグアイ守備に、完璧に「読まれ」パスをインターセプトされてしまうケースが多いんだよ。

 なんか、とても「入り込んだ」テーマになってしまったように感じます。でも私は、「その視点」で、ゲームを追いかけ、そして心の底からゲームの内実を楽しんでいた・・ということが言いたかった。

 そしてもう一つ。ウルグアイをサポートしている筆者は、彼らが勝利を収めたことで、とてもハッピーになった。やっぱりサッカーは、エモーショナルなモノだからネ。あははっ・・

 とにかく、このグループも、最終節へ向けて、とても面白い展開になってきた。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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