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2012_世界へのチャレンジ(番外編)・・ガチンコ勝負の意味合い・・「この」ブラジル代表の方向性・・ザックのチームマネージメント・・等など・・(2012年10月18日、木曜日)

昨日の夜、パリに帰り着きました。これから、まだ2-3泊する予定。

 今回は、パリでの時間を少し長めに取ることにしたんですよ。そう、久しぶりのパリで、チト命の洗濯。ということで、今週末の「J」については、(今回の欧州遠征の詳細分析も含めて)帰国してからビデオで確認・・ってなことにさせてください。悪しからず・・

 ということでリラックスしているわけだけれど、そんな雰囲気もあって、今回のブラジル戦について、総論(概論)的なディスカッションにトライしてみようかなと思った次第。いや・・というか、早朝に、様々なテーマが頭に浮かんで眠れなくなっちゃったんですよ。あははっ・・

 さて・・まず何といっても、ブラジル戦が、本物のガチンコ勝負になった・・という視点。

 選手のなかには、まだまだ「深く広い」はずのブラジルの「実力」を、すべて引き出すことが出来なかった・・なんていう「悔恨の念」があったとは聞くけれど、そうかな〜〜・・

 (フランスとは比べものにならないほど日本のことを熟知している!?)ブラジルだって、相手を軽く見るような「失礼」な心持ちでゲームに入ったハズはな いし、逆に、登り龍の勢いで発展をつづけている日本を(明確なカタチで)叩いておくことには意義ありと感じていたと思うわけですよ。

 もちろん彼らのやる気レベルが、ワールドカップやチャンピオンズリーグ、はたまた世界が注目するダービーマッチ・・とまでは行かないにしてもだよ・・

 でも・・そうね〜〜・・そう考えたら、ヤツらから、怒りとか憎しみといったギリギリの心理・精神領域まで踏み込むような「昂ぶる感情」までも絞り出すことが出来なかった・・という見方には、まあ、アグリーの部分もあるかな・・

 とはいってもサ、「そのレベルの感情」は、あくまでも、後世に世界中の誰もが思い出すような「本物の勝負の場」でのみ現れてくるモノだろうからネ。

 とにかく、ここでは、ブラジルが、「ほぼ全力」の勝負を仕掛けてきたという視点でハナシを進めましよう。

 そんな「学習機会」は、そうあるもんじゃない。

 だから、ここは、マンマークも含めた守備ブロックの強化とか、人数やポジショニングバランスを慎重に執りながら攻め上がっていく・・等などといった「ゲーム戦術」に縛られるのではなく、あくまでも『自分たちがやりたいサッカー』を積極的にブチかましていくしかない。

 アルベルト・ザッケローニにしても、「そのこと」を具体的なターゲットにしていた(それについては前回のコラムを参照してください・・)。

 そう、だから、ガチンコ勝負になったことで、かなりの程度、ブラジルに持てる実力を「吐き出させた!」ことは、監督にとっても、選手たちにとっても、まさに「我が意を得たり」だったんだよ。負けちゃったけど・・サ・・

 だからこそ日本の強者どもは、「本物の世界」を体感できた。これほど意義のあることはない。選手たちも、同様のニュアンスを異口同音にコメントしていたっけね。

 そんな日本と対峙したブラジル・・

 メネゼス監督は、とても良い仕事をしていると思うよ。本国じゃ、「あんな守備的サッカーなんて・・」といった『感情論』が渦巻いているとは聞くけれどね。

 2010南アワールドカップで、ドゥンガとジョルジーニョが指揮を執ったブラジル代表のように、攻守にバランスが執れているだけじゃなく、組織プレーと 個人勝負プレーにも素晴らしい平衡感覚を発揮する、とても強いチームになりつつある・・と思う。もちろん、内容的にも、とても魅力的なサッカーだよ。

 とにかく彼らは、まず守備からゲームに入っていくという「プレー姿勢」を鮮明に押し出しているんだ。まずボールを奪い返さないことには攻めをはじめるわけにゃ行かないからね。

 本国の「あんなサッカー」・・っちゅう批判。それって、ペレを擁して世界を制した1970年メキシコワールドカップ時代の栄光イメージからの縛り!?

 あの当時の運動量は、いまから比べれば、格段に少なく、そして全体的なプレースピードもまったく違った(スローテンポだった!)。だから、局面プレーでは、より個人技を披露できた。でも今は・・

 全体的な運動量が、以前の「倍」にも届こうかというレベルになり、スピードも格段にアップした。そして、誰もが守備に入ることを求められる、全員守備、全員攻撃という基本コンセプトを外れたサッカーは通用しなくなった。

 もちろん、ディエゴ・マラドーナのような「世紀の例外」がいるチームだったら、彼に合わせたチーム戦術を組む方が、内容的にも、結果でも、より高いモノが期待されるだろうけれどサ・・あははっ・・

 私も教えを請うたドイツ伝説のスーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーが、こんな内容の示唆を語りかけたことがある。曰く・・

 ・・もう、戦術的なコトは、ほとんど全て考え尽くされた・・将来的には、よりフィジカルな要素が求められるようになる・・オマエたち(若い、プロ志向の コーチ連中)は、これからは、才能のある選手たちに、いかに、攻守にわたるハードワークをやらせるかというテーマに、より真剣に取り組んでいかなければな らない・・

 ・・それは難しい・・ハードワークを求めすぎたら、多くのケースで、ヤツらの才能を潰してしまうことになるからな・・要は、これからのコーチには、優れたバランス感覚と、人を扱う(才能を開花・発展させられるだけの!)優れたパーソナリティーが求められるんだよ・・

 ・・そのことに自信がないのだった、いますぐに(プロ)コーチになることを諦め、他の職業を見つけるんだな・・その方が、お互い(ドイツサッカーにとっても、オマエたちにとっても!)ハッピーになるだろう・・

 あっと、ブラジル本国での、メネゼス監督に対する批判。

 それは、まったく見当違いだよね。天才たちが、自らの天才プレーを楽しんでいた(観客もソレに酔いしれた)時代は、もう、とっくの昔に過ぎ去っちゃったんだから・・

 いまでは、そんな天才プレーは、あくまでも組織サッカーの一環として表現されなければならなくなっているんだよ。

 そう・・自らの守備ハードワークによってボールを奪い返したカカーが、そのまま、天才的なドリブル&シュートをブチかましたシーン(日本戦での4点目)に代表されるようなネ。

 あっと・・またまた冗長になりはじめている・・

 最後に、アルベルト・ザッケローニの攻撃イメージについて。

 以前のコラムで、「・・何か、聞くところによると、ザッケローニは、ポジションチェンジを好まないということだけれど・・ホントに、そうなのかな〜〜!?」なんていう疑問を投げたことがある。

 でも、今回のゲーム後の選手コメントには、ザッケローニが、積極的なポジションチェンジを要求していた・・というモノも含まれていた。

 まあ・・ネ・・ワールドカップ予選や本大会(また来年のコンフェデレーションズカップ)では、勝つこと「のみ」をターゲットにしているわけだから、そんな(出来るだけポジションチェンジは避けるように・・なんていう)指示も、まあ、理解できる。

 そう、ガチガチの「ゲーム戦術」。

 でも今回のヨーロッパ遠征におけるターゲットは、何といっても、世界トップサッカーとの距離感を「体感」することだったわけですよ。だからこその(攻守にわたって全力でぶち当たっていくゾッ!!っちゅう)ザッケローニの指示だったと思うわけです。

 そう、チームの目的を応じた、コーチによるプレーイメージの構築・・。だからこそ、日本代表の強者たちは、まったく臆することなく(失点した直後は、ちょっとナーバスになったのかも知れないけれど・・)チャレンジをつづけた。

 ところで、そんな、設定されたゲームのミッションに応じて、リスクチャレンジ姿勢をコントロールするというテーマだけれど・・

 わたしは、あくまでも(どんな勝負マッチであっても!)、攻守にわたるリスクチャレンジは、絶対に避けてはダメだと思うんですよ。それは、「闘う意志」という、勝負の場において絶対的に要求されるファクターだからね。

 無責任な発言のように思われるかも知れないけれど、わたしが言っているのは、ケースバイケースで、リスクの(状況に応じた)内容や、その頻度に違いが出 てこざるを得ないにせよ、その(縦横無尽のポジションチェンジに代表される)リスクチャレンジの意志は、決して減退させてはならないということなのです。

 リスクチャレンジのないところに、決して発展もない・・

 だからこそ、監督さんには『優れたバランス感覚』が要求されるわけです。その視点で「も」、わたしは、アルベルト・ザッケローニに対して大いなる期待を抱いているわけです。

 唐突ですが・・ガンバレ〜!、ザック〜〜!!

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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