トピックス


2010_WM(28)・・とにかく、「イメチェン道半ば」のドイツが最後に結果を出せて良かった・・(ドイツ対ウルグアイ、3-2)・・(2010年7月10日、土曜日)

やっぱり、両チームとも、フィジカル的にもサイコロジカル(精神的)にも、とても疲れていた。これで、約一ヶ月のなかで7つ目の勝負マッチを戦ったことになるわけだからね。

 そのことは、もちろん全体的な動きの量と質に如実に現れていた。特にディフェンス。チェイス&チェック&インターセプト狙いから、ボールから遠いところでのマーキングまで、それらが一つのユニットになって機能しつづけなければならないわけだけれど、時間が経つにしたがって、どんどんと、「ブツ切りアクション」の積み重ねっていう具合になっていったと感じた。もちろん、両チームともに。

 全体的な評価だけれど、ゲーム内容からすれば、やはりドイツが順当に勝利を収めたとするのがフェアだろうね。とはいっても、ウルグアイも、120%のチカラをふりしぼり、最後の最後まで立派に闘いつづけたから、印象的には互角の勝負だったともいえる。まあ、微妙だね。

 ただし、両チームのサッカー内容からは、特筆すべきモノは見いだせなかった。もちろん、(蓄積された疲れが限界に達していたからこその!?)互いの限界精神力がぶつかり合うギリギリの闘いという視点では、とても興味深いドラマではあったと思うけれど・・。

 ドイツの得点は、まずシュヴァインシュタイガーの強烈なミドルシュートがこぼれたところを、トーマス・ミュラーが先制ゴールを決めた。同点ゴールは、この試合では右のサイドバックに入ったボアテングからのアーリークロスを、逆サイドの攻撃的ハーフに入っていたヤンゼンが、パワフルなヘディングで決めた。そして決勝ゴールは、コーナーキックからのこぼれ球を粘り強く押し込み、最後にケディーラがヘディングで流し込んだ。

 そう・・ちょっと前までの「無骨なドイツ的ゴール」!? まあ・・そうとも言える。何せ、この試合では、今大会で抜群に眩(まばゆ)い光を放っていた「ドイツのイメチェンという現象」を引っ張ってきた主役たちが風邪やケガでダウンしちゃったからね。

 キャプテンで右サイドバックのフィリップ・ラーム。堅実な守備だけではなく、右サイドを切り裂くオーバーラップや、なかへ切れ込んでいく勝負ドリブルや素早く鋭いコンビネーションなど、右サイドの切り込み隊長として、とても危険なニオイを放ちつづけていたのに・・

 スピード(=素晴らしいジャンプ力=強烈なヘディングの強さ)とテクニック、パワーまでも兼ね備えたドイツを代表するストライカー、ミロスラフ・クローゼ。彼が、最前線で魅せつづけていた確実なポストプレーがあったからこそ、周りも確信をもって押し上げていけた・・また、最前線からの、献身的な全力チェイス&チェックがあったからこそ、後方の守備ブロックが、より確信をもって効果的にボールを奪い返せていた・・

 そして、ドリブル突破や強烈なキャノンシュートの持ち主、ルーカス・ポドルスキー。ちょっとサボるクセはあったけれど、このところ徐々に調子を上げ、攻守にわたるハードワークにも全力を傾注できるようになっていた・・だからこそ、彼の才能プレーも、ホンモノの光を放つようになった・・

 この試合で、彼らの代わりに入ったのは、カカウ、ヤンゼン(たしかに強烈な同点ヘディングゴールは決めたけれど・・)、そしてデニス・アオーゴ。やはり、流れに乗りきれず、カカウとヤンゼンは、途中で交代ということになった。

 もちろん、バスティアン・シュヴァインシュタイガーやトーマス・ミュラー、メスート・エツィール、そしてサミー・ケディーラといった「イメチェンの主役」たちは良いプレーを展開したけれど、やはりサッカーはチームゲームだからな〜〜。

 全体的に、同じ組織プレーイメージを共有し、実際に、そのイメージをグラウンド上に現出させつづけるという「有機的なプレー連鎖の集合体ユニット」として機能できなければ、決して「良い流れ」を演出することはできないのですよ。

 でも・・まあ・・ドイツは、満身創痍の状態であっても、最後は粘り強く「逆転勝利」をもぎ取り、2大会連続の「三位」という栄光に輝いたわけだから、そのサッカー内容について(その背景要因がはっきりしているのだから・・)重箱の底をつつく必要はないかもね。

 とにかく、このところの三つのワールドカップを経て、着実にドイツサッカーが、「美しさの演出」という視点でも、ポジティブなイメージチェンジを積み重ねていると思いますよ。

 もちろん、あくまでも「組織プレーの美しさ」がベースではあるけれど、ここにきて、外国移民の人々の二世、三世プレイヤーが、ドイツ人として台頭し、彼らによって、局面でのエスプリプレー(=正確なトラップやフェイント、流れるようなボールキープや突っ掛けるドリブルなど)といった創造性プレーも出てくるようになっている。

 そのような正しいベクトル上を着実に進んでいるうちに、組織プレーと個人プレーがうまく組み合わさることで相乗効果が発揮され、そのことで美しさと勝負強さが最高レベルでバランスするような、以前の、バランスの取れたドイツサッカーが「甦る」かもしれない。

 そう・・世界中がリスペクトし、憧れた、1970年代のドイツサッカー。わたしも、それ(特に1972年のヨーロッパチャンピオンに輝いたドイツ代表チーム)があったからこそ、また最高のコーチ養成システムがあったからこそ、留学先をドイツに決めた。

 ちょっとハナシが逸れたけれど、このところのドイツの若手の台頭は目覚ましいよね。それは、皆さんもご存じの、若手育成システムがうまく機能しはじめているからに他なりません。ドイツ全土に張り巡らされた「スカウティング&データベース構築システム」。そして、プロクラブも巻き込んだ、コーチ派遣システムや、学業も含めた(上澄みの)選手を養成するシステム。

 それらが、とてもうまく機能しているのですよ。でも・・ネ・・。もちろん「システム」だけじゃない。そこでは、「ソフト的ノウハウ」も活かされている。要は、賢人のアイデア。

 例えば、以前に何度も書いた、ストリートサッカーの要素をレギュラートレーニングに取り入れるノウハウの伝播と徹底(リンクすべきコラムを見つけられない・・フ〜〜ッ!)とか、そのために必要な「コーチの忍耐力の育成」などなど。まあ、その「ソフト・パワー」は、どちらかといったら「行間ディスカッション」の範疇(はんちゅう)だから、現場でのディベートに参加しなければ分からない(体感できない)ことではあるけれどネ。

 とにかく私は、ドイツが、着々と進歩している(以前の栄光を取り戻す正しいベクトル上にいる)ことを体感できただけでも、南アフリカに来た甲斐があったと、とてもハッピーなのでありました。

 さて明日は、オランダ対スペインの頂上対決。自分たちのサッカーを貫くしかない強いスペイン(いや・・バルセロナ!?)。それに対して、ファン・マールヴァイクという現実主義コーチの下、もしかしたら、勝つこと「だけ」を最優先するようなガチガチのゲーム戦術を徹底してくるかもしれないオランダ・・。興味は尽きません。

 あっと・・メディアシート・チケットだけれど、準々決勝以降は、まったく問題なく、明日の決勝も含めて、すべて承認されています。ホントによかった・・

============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]