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2010_WM(22)・・雑感・・そして「組織と個」が最高レベルにバランスした世界トップ同士の世紀の一戦・・(ブラジルvsオランダ、1-2)・・(2010年7月2日、金曜日)

この二日間の「中日」だけれど、いったい何をやっていたのか覚えていない。

 あっ、そうか〜〜・・一昨日は、買い物をしたり洗濯したり・・インタビューを受けたり、原稿を書いたりしていた・・でも明確に記憶に残っていない・・でも昨日のことは、体感とともに、よく覚えている。

 決勝が行われる、ヨハネスブルクの「サッカー・シティー・スタジアム」に隣接するメディアセンターへ仕事をやりにいった。宿舎のB&Bは、とてもWiFiの電波が弱く、つながり難い。たぶん、そのB&Bが、通信量の「総量規制契約」をしているということなんだろうね。フ〜〜・・

 ということで仕事をやりに、メディアセンターへ行ったわけですが、同時に、今日のゲーム(サッカー・シティーでの、ウルグアイ対ガーナ戦)の駐車証を、何とかもらえるようにチャレンジしたのですよ。これが大変だった。基本的に、駐車証は、重い機材を運ぶカメラマンが優先だからね。実は、メディアシート・チケットは承認されたけれど、駐車証は断られてしまったのですよ。だから、何とか・・

 駐車証を扱う「メディアオフィサー」の方は、南アフリカ人の女性。とても親切だけれど、「ソリー・・ソリー・・もうない・・」と言う。でも最後に、「でも・・もしかしたら・・会議が終わる1700時まで待てますか?」とおっしゃるのですよ。午後5時までは、まだ三時間以上ある。でも、仕方ない・・ここで粘りの誠意をみせなければ本も子もない。「もちろん待ちますよ」と、わたし。

 そして1700時。10分すぎても、20分すぎても、役員スペースから彼女が出てこない。そして1730時になって、ようやく彼女が姿を現した。でも、浮かぬ顔。そして案の定、「まだ待てますか(待つ気がありますか)?」。「もちろん待ちます」。でも、試合が行われない日のメディアセンターは、1800時には閉館してしまう。さて・・

 そして1800時。ボランティアの方々が、中日で仕事をしている我々の退去にかかるのです。まあ・・仕方ない・・これまでは、うまくいったけれど・・

 そして、荷物をまとめて帰ろうとした私の背後から、例のメディア・オフィサーの女性が追いかけて来るじゃありませんか。そして・・「はい・・これ・・」と駐車票を差し出すのです。

 ・・一体何が??・・まあ、背景事情なんて、もう関係ない・・とにかく、駐車票が手に入ったことでハッピーだったのです。駐車票がなければ、近くの公共駐車場にクルマを駐め、そこからシャトルバスに乗らなければならない・・もちろん、クルマやわたしの安全は保証されないですからね・・まあ粘りの誠意が功を奏したっちゅうことか・・フ〜〜・・

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 ということで、メディアセンター近くの(安全で便利な!)プレス駐車場にクルマを駐めて、ウルグアイ対ガーナ戦に来られた次第。

 でも、何といっても、今日の目玉マッチは、ポート・エリザベスで行われるブラジル対オランダ戦だよね。もちろんメディアセンターでは、ほぼ全員がテレビに釘付けになっている・・いや、釘付けなのは半分くらいかな・・原稿に夢中のジャーナリスト連中は、たまに、メデイアセンター内にコダマする歓声に、ビクッとテレビへ顔を上げる・・ってな具合。

 ということで、もちろん私もテレビ画面に眼を奪われていた。やはり、スゴイ勝負マッチになった・・今日は、まず「こちら」のポイントを整理しておこう・・。

 その第一のポイントは、何といっても、ブラジルの強さ。

 相手がオランダだからこそ、彼らの「底力」の凄さを感じるのですよ。相手に関係なく、天才たちが奏でる「美しい組織プレーのハーモニー」が光り輝く。

 彼らは、心の底から知っている。勝負は、ボールがないところで決まるという明確な事実を知っている。それは、人とボールをしっかりと素早く、そして広く動かすことの背景意義ともいえる。そう、なるべく効果的に、ボールを、相手ディフェンスの「薄いゾーン」へ運び、そこで、ある程度フリーなボールホルダー、つまり「仕掛けの起点」を演出する。

 組み立て段階での中盤組織プレーは、あくまでも、シンプル。それでも、ボールをトラップする瞬間に仕掛けてくるオランダのタックルをかわす「局面でのエスプリプレー」も健在。美しい。そして、スッ、スッっとボールを動かしながら、オランダ選手を翻弄し、その最終守備ラインのウラに広がる決定的スペースを攻略してしまう。

 前半10分にロビーニョが挙げた先制ゴールでも、決定的スペースへのロビーニョの飛び出しと、その瞬間にボールを持っていたメロの「最終勝負イメージ」がピタリとシンクロしたからこそのベストタイミング・コンビネーションが成立した。

 そんな、攻守にわたる組織プレーに対する意識を高めたのは、もちろんドゥンガ。

 彼は、ブラジルという「天才集団」だからこそ、守備意識と、シンプルな組織プレーに対する意志の向上を目指した。そして、だからこそ、「個人プレー」に偏りがちなロナウジーニョとアレッシャンドレ・パトを選ばなかった。

 彼らが入ったら、毎回「そこ」でボールの動きが止まる。彼らのプレーのプライオリティーは、個人勝負だからネ。だから彼らは、彼らの個人の勝負プレーをチーム戦術として活用する傾向の強いイタリアでプレーしている!? まあ、それは別な話題だね・・スミマセン。

 とにかく、彼らの(状況をわきまえない!!)個人プレーは、もちろん、周りのコンビネーション・イメージの崩れを意味するということが言いたかった。そうなったら、徐々に、チーム全体の足が止まりはじめるも道理なのです。

 もちろん、チームメイトたちも、自分より才能レベル(美しさ)では上のロナウジーニョとアレッシャンドレ・パトが選ばれなかったことの「本質的な意味合い」をしっかりと理解している。だからこそ彼らは、しっかりと守備をし、そして攻撃でも、シンプルなパスプレーだけではなく、ボールがないところでもしっかりと走るのです。そして、だからこそ、相手が嫌がる、ウラのスペースを効果的に突いていける。「だからこそ・・」が多い!? スミマセン・・

 ロビーニョが挙げた前半10分の先制ゴールの後は、ブラジルが、まさに十八番(おはこ)のサッカーを展開します。

 安定したディフェンスから(だからオランダも、より攻撃に人数を掛けていかざるを得ない・・)蜂の一刺しカウンターを見舞う。これは、もう、完全にブラジルペースだな・・でも、実力的には、やはり今大会のピカイチだから、まあ順当な展開ということだな・・そんなことを思っていた。ところが・・

 その後半。オランダが、少し攻勢に出ていた立ち上がり8分のことです。やってくれたのですよ、ブラジルGKジュリオ・セザール。右からスナイデルが上げたクロスボール。もう完全にGKのモノだった「はず」。でも、ブラジルGKジュリオ・セザールが飛び出し、ディフェンダーのメロと交錯してしまったのです。

 ジュリオ・セザールは、ボールに触れなかったばかりか、メロと接触してしまったことで、バランスを崩したメロのアタマに触れたボールが、あろうことか、そのままブラジルゴールへ転がりこんでしまったのです。

 ホント、ビックリした。わたしの目の前で観ているオランダ人記者が、はしゃぐこと。彼とは、試合前に、ドイツ語で、かなり深いディスカッションをしていたからね、わたしも(冷静に!)手を叩いて祝福しました。ちょっと複雑な心境ではあったけれど・・

 彼ら(フットボールネーションのベテランジャーナリスト連中)は、ものすごい「場数」を踏んでいるからね。「そんなゴール」でも、そこで作用したかもしれない「運」とはまったく関係なく、それが、自分たちが勝ち取った(奪い取った)ゴールだという意識を、何のこだわりなく持てるのですよ。そんな側面もまた、フットボールネーションの強さの秘密でもあるわけです。

 歴史という心理バックボーンに支えられた、強烈な鈍感力・・!? フムフム・・

 そして、その(わたしにとっては、アトランタオリンピックを彷彿させるラッキーゴール)から、俄然オランダが勢いを加速させていくのです。後半の立ち上がりも、かなり「来て」いたけれど、同点ゴールの後からは、まさに全員一丸となって、高い位置からのボール奪取勝負のエネルギーが格段に高まっていったと感じました。

 その同点ゴールまでは、まだ何となく、(ブラジルの凄さを体感したことで!?)確信レベルを最高潮まで高揚させられず、「意志のチカラ」だけで攻め上がっていったという感じ。でも同点ゴールを境に、彼らの「確信パワー」が、その意志パワーを下支えしはじめたと感じた。ホンモノの心理ゲームであるサッカーの面目躍如・・。

 そして、後半23分、コーナーキックから、オランダが決勝ゴールを奪うのです。ゲームの流れからすれば、まさに「必然的な逆転ゴール」だったかもしれない。オランダは、強烈に強いブラジル守備を相手に、一発では決められないのは分かっているから、ニアポストに入り込んでいたカイトが「スリップヘッド」で流したボールをスナイデルがヘディングで決めた。まさに、ワザありのゴール・・

 その後、焦りとフラストレーションで、プレーが荒っぽくなったブラジルのメロが、あり得ないラフプレーで一発退場になった。

 もちろん、それでゲームが終演を迎えたワケじゃない。ブラジルは、後のことは考えず、どんどん攻め上がっていく・・そして何度か、完璧なオランダのカウンターに遭って失点を重ねそうになる・・でも、ツキに恵まれたことで、決定的な追加ゴールはまぬがれる・・これは、もしかしたら「サッカーの神様のイタズラが・・」なんてことまで思っていた・・実際、誰もがフリーズするチャンスもあった・・でも結局は・・

 わたしは、向かいのオランダ人記者と握手をしながら、ちょっと複雑な心境だった。やはり、優れたサッカーという視点じゃ、今大会のブラジルはピカイチだったからね。

 でも・・まあ・・仕方ない。

 最後に、西村雄一レフェリー。あんな展開になったハードな勝負マッチを、とても巧くコントロールしたと思う。外国人記者連中も(オランダ寄りだけじゃなくニュートラルなヤツらも含めて!)、異口同音にポジティブな評価をしていた。

 とてもクリティカル(批判的)な、フットボールネーションのジャーナリスト連中だからね、ポジティブな評価というのは、とても素晴らしいことだと思いますよ。もちろん、わたしの、とてもストレートでアグレッシブな問いかけに対しての返答だから、まあ・・本音であることの信憑性は高いと思う。わたしも、岡田ジャパン同様に、西村さんにも、2006年ドイツワールドカップの上川徹さんも含めて、「アイデンティティー」を感じていた。今度の国際会議で自慢してやろう。

 明日は、早朝の0500時にB&Bをタクシーでスタートし、空路ジョージへ(日本代表の合宿地)。そこからレンタカーを駆り、430キロを一気にケープタウンまで飛ばします・・あっ・・いえ・・安定して走行します。

 要は、ヨハネスブルクからケープタウン行きの飛行機が、まったく予約できなかったのですよ。岡田ジャパンが負けた次の瞬間からネットで検索しつづけた。でも、結局は、まったくダメだった。だから、一旦ジョージへ飛んで、そこからクルマで馳せ参じることにした。間に合うだろうか・・

 その試合は、言わずと知れた「ドイツ対アルゼンチン」。とても調子が上がっているドイツ。対するアルゼンチンは、まだまだ「個人勝負と組織プレーのバランス」に課題を抱えている。要は、メッシという諸刃の剣というテーマのことです。さて・・

 あっと・・これからはじまるウルグアイ対ガーナの勝負マッチ。終わってB&Bに帰り着けるのは夜中になるだろうし、前述のように明朝はとても早いから、気付いたテーマがあれば、後日、アップすることにします。ご容赦アレ・・

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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