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2012_なでしこ・・様々な意味合いの収穫(脅威と機会は表裏一体!)にも恵まれたスウェーデン遠征・・(米国戦とスウェーデン戦)・・(2012年6月21日、木曜日)

所用が重なったことで、なでしこのスウェーデン遠征は、まとめてコラムを書くことにしました。

 まず初戦のアメリカとのゲームだけれど、どんどん選手が交代しはじめた後半の半ばまでのゲーム展開について簡単にまとめます。

 前半のアメリカは、なでしこの人とボールの動きを「前で潰す」という積極ディフェンスで効果的にボールを奪い返し、そこからダイナミックでスピーディーなショートカウンターを仕掛けていくというイメージで、ゲームを支配した。前半は「2-1」だったけれど、チャンスの量と質からすれば、もっとゴールを奪われても仕方ない・・という内容だった。

 なでしこは、アメリカが仕掛けてくる「プレッシングの勢い」に気圧され、縮こまったパス回し(逃げの足許パス)しか展開できずに、組織サッカーを潰されつづけた。また守備でも、チェイス&チェックを絶対的なベースに次のボール奪取プロセスを連動させなければならなかった組織ディフェンスをうまく機能させられなかった。

 あっと・・、忠実な(最初の!)チェイス&チェックが甘く、守備のダイナミズム(連動した動きの連続アクション!)をうまくアップされられなかったことが、次の攻撃に悪影響を与えた・・というのが本当のところだったんだろうね。守備こそが全てのスタートラインなのだから・・

 これでは、「次」の攻撃で思うようにボールを動かせないことで(簡単にボールを失いつづけたことで!?)どんどん自信を喪失して「もっと」足が止まっていったのも道理。まあ、心理的な悪魔のサイクルにはまってしまった・・とも言える。

 たしかに、時間の経過とともに、(アメリカのプレスの勢いがちょっと減退したこともあって!?)なでしこ得意の組織サッカーが見られるようになっていったけれど、それでもちょっと心配なこともあった。それは、アメリカが、なでしこのパス回しに対して、次、その次のボール奪取ポイントに対して「イメージ」がしっかりと描写できていた(守備のイメージ連鎖がうまく機能しはじめていた)こと。

 それが、ちょっと不気味だったね。もしかしたらアメリカは、そんな組織ディフェンスを明確に意識して試合に臨み、そして「コツ」を掴んだかもしれない・・

 なでしこが魅せる「人とボールの動き」は、相手が仕掛けてくるボール奪取エネルギーを逆手に取るというのが基本線だよね。要は、積極的にボールを奪いにくる相手の「鼻先」で、次のフリーな味方へ(素早く、正確な)パスを回してしまうことで、スペースを活用しちゃうというイメージ。相手が仕掛けてくるボール奪取アタックの「ウラを取る」。

 でも、この試合でのアメリカは、忠実でダイナミックなチェイス&チェック(忠実なマーキング)を基盤としながらも、次、その次の「なでしこのボールの動き」をしっかりと見極めてアタック(協力プレス)を仕掛けていくというイメージだったと感じた。そして、「それ」が殊の外うまく機能した。フムフム・・

 もちろん、なでしこにとって、4月以来久々の代表ゲームだったこと、また代表ブランク明けの澤穂希もまだ本調子ではなかったことで、彼女たちが「しっかり」とゲームに入っていけてなかったという側面もあるよね。

 とはいっても、アメリカが魅せた「あの」圧倒的なサッカーを体感させられたことで、ちょっと不安がつのったのも確かだった。彼女たちは、なでしこが魅せる組織サッカー攻略の「コツ」を掴んだかもしれない・・ってね。

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 そんなアメリカ戦と比べれば、(日本時間の)今日の朝方おこなわれたスウェーデン戦は、まあまあ集中したディフェンスからゲームに入っていけたと思う。

 アメリカ戦の主力メンバー構成(!?)から8人が入れ替わったけれど、組織的な連動ディフェンス(積極的なボール奪取プロセス)を絶対的なベースに、彼女たちの基本的なチーム戦術は、ある程度は表現できていたと思う。

 ただ、メンバー構成があれだけ変わったら、そりゃ、攻守にわたる組織プレーイメージをシンクロさせるのは容易じゃない。

 たしかに素晴らしい決勝ゴール(どんどんパフォーマンスをアップさせている永里優季!)は奪ったし、ある程度はゲームを支配できていたけれど、どうも最終勝負のイメージシンクロ状態が高揚していかない。逆に、球出しのところでのチェックと(受け手の)マークの甘さを突かれたタテパスコンビネーションから、スウェーデンに絶対的チャンスを作り出されてしまった。

 さて後半。立ち上がりから澤穂希と丸山桂里奈が交代出場してきた。そんな「なでしこ」に対し、一点を追いかけるスウェーデンは、もちろん前から来る。解説の早野宏史が言っていたように、私も、「もっと来い・・もっと来い!」って思っていた。それがあってはじめて効果的なトレーニングマッチになる。でも結局は(ある程度)動的な均衡状態がつづくことになった。

 そんな落ち着いた雰囲気のなか、後半17分に、澤穂希と(後半の途中から入った)川澄奈穂美のタテのコンビネーションから(澤穂希の素晴らしいスルーパスと川澄奈穂美のフリーランニングが美しくシンクロした〜!)完璧にスウェーデン守備ブロックのウラの決定的スペースを攻略した。

 最後は安藤梢がシュートをミスっちゃったれど、その直後にスウェーデンがブチかましそうになった危険なカウンタースタートの芽を「高い位置」で摘んでしまったのも澤穂希(必殺タックルでタッチラインへ逃げた!)。思わずガッツボーズが出た。

 澤穂希。たしかに全体的なパフォーマンスは「まだまだ」かもしれないけれど、それでも「良い復活の流れ」は明確に見えた。よかった・・

 川澄奈穂美も、例によって、攻守にわたって、素晴らしい汗かきと、勇気ある創造性プレーのコラボレーションを魅せてくれた。また丸山桂里奈も、以前のような怠慢プレーの雰囲気はかなり払拭できていると感じた。

 あっと・・、先発し、中盤の底で、汗かきディフェンスやゲームメイクに奔走した宮間あやにも賞賛の拍手を送りたい。以前、澤穂希の代わりにボランチに入ったときは、まったくといっていいほどディフェンスでの仕事を探せなかった宮間あや。そのときのネガティブなイメージがあったから、私にとっては、この試合の宮間あやは、素敵なイメチェンを果たしてくれたんだよ。

 さて、これから、選手にとっては厳しいサバイバルゲームということになる。そう、ロンドンオリンピック最終メンバーをめぐる競争。

 もちろん、昨年のWMコアメンバーが中核になるのは当然として、そのなかに、どんな新顔や古株がミックスされてくるのか。期待されていた選手のケガもあるからね、佐々木則夫監督とコーチングスタッフの選択を、興味深く注視しよう。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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