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2012_EURO(2)・・組織と個のクオリティーを併(あわ)せ持つオランダ・・でも・・(オランダvsデンマーク、 0-1)・・(2012年6月10日、日曜日)

まあ、よくあるサッカー的なドラマということになったね。めくるめく歓喜と奈落の落胆が交錯するドラマ。わたしはオランダを応援しているから、奈落の落胆にはまってしまった。

 それにしてもオランダは、期待どおり強かった。

 たしかに、デンマークが魅せる忠実な組織サッカーに、協力プレスを外される(最初の抑え=守備の起点=を効果的に作り出せなかった!?)シーンも目立ったけれど、それでも、ボールを奪い返さなければならないところ(ボール奪取チャンス)では、しっかりとボールをもぎ取っていたし、そこから高い頻度でチャンスも作り出した。

 それにしてもオランダは、いったい何本、決定的チャンスを潰したんだろう。もちろん自業自得だし、サッカーでは間間(まま)あることだからタラレバは禁句だけれど、あれほどの決定機を一本もゴールに結びつけられなかったんだからね、オランダを支持する世界中のサッカーファンのフラストレーションは推して知るべし・・

 まあ仕方ない。ということで、ここからは「オランダの強さのタイプ」というテーマにスポットライトを当てよう。それは、ドイツとはちょっと違う。

 たしかに人とボールが、素早く、広く動きつづける組織サッカーという「大きな傾向」は、両国に通じるトコロはある。でもオランダの場合は、常に、本当にいつも天才的な選手を輩出し、その彼らが、チームプレーのなかに「変化というアクセント」を挿入するんだよ。

 それに対してドイツは、あくまでも組織コンビネーションと、高速クロス、セットプレー、カウンターといった質実剛健な攻めに徹する。

 そのことを、ドイツプロサッカーコーチ連盟(BDFL)主催の、サッカーコーチ国際会議で一緒になったオランダ人コーチと話し合ったことがある。

 「もちろんドイツも、フランツ・ベッケンバウアーとかギュンター・ネッツァー、はたまたヴォルフガング・オヴェラートやベルント・シュスター(まあ、ピエール・リトバルスキー、ユルゲン・グラボウスキー、トーマス・ヘスラーなんかも・・)といった天才的なプレイヤーは輩出しているよ・・それでも、オランダほどじゃないよな・・オランダが輩出する大天才の量と質は、明らかにドイツ以上だよ・・それって、どんな背景があるんだろうか?」

 そのオランダ人(プロ)コーチは、ちょっと小声になって、こんなことを言った。

 「そりゃ、以前のドイツに見られた四角四面のコーチング(育成内容)に比べたら、オレ達(オランダ)の指導哲学は、より柔軟だっちゅうことだよ・・ドイツじゃ、才能がある若手が、パワフルなチームメイトに圧されて潰されちゃうケースが多いだろ・・そのことはオマエも経験しているはずだ・・でもオレ達には、そんな天才的な少年たちをパワーから守ろうという基本的な哲学があるんだよ・・とはいってもこの15年来、ドイツでも、才能ある選手を伸ばそうという機運が高まっているよな・・だから、1970年代のような、美しくて強いドイツが甦(よみがえ)っているよな・・残念だけれど・・あははっ・・」

 とはいっても、いまでもドイツには、スナイデル、ファン・ペルジー、ロッベン、はたまたアフェライといったクラスの天才的プレイヤーはいない・・よね・・

 ポルトガル戦で先発したトーマス・ミュラー、マリオ・ゴメス、またバスティアン・シュヴァインシュタイガーにしても、どちらかといったら、組織プレイヤー(戦術的なロジカル質実剛健プレイヤー!?)だよね。またルーカス・ポドルスキーやメスト・エジルにしても、たしかに才能レベルは高いけれど、天才的な・・っちゅう視点じゃ、ピタリと焦点が合わない。

 そんなところにこそ、ドイツとオランダの違いがあるのですよ。もちろん、『諸刃の剣』という視点も含めてネ。

 ドイツは、あくまでもロジカルな組織コンビネーション(パス)サッカーで仕掛けてくる。選手全員が、そのイメージで統一されている。要は、人とボールの「動きのリズム」が統一されているということだけれど、だからこそ、パスを基盤にした「点の勝負」を効果的に繰り出せる。

 それに対してオランダの場合、組織コンビネーション(パス)サッカーに、より多く「個人勝負ファクター」がミックスされる。

 ロッベンやスナイデル、はたまたファン・ペルジーやアフェライといった天才連中が、タイミングを見計らって個人勝負を挑んでくるんだから、そりゃ怖い。でも、その攻め方のイメージにフォーカスしておけば、以外と対処しやすい・・というのも事実なんだよ。もちろん、局面で抑え切れるかどうかというポイントは、まったく別次元のディスカッションだよ・・あははっ・・

 要は、オランダの場合、組織パスを主体に仕掛けてくる最終勝負と、個人勝負を仕掛けてくるシーンが、とても明確に「見える」ということです。だから、相手守備ブロックも対処しやすい(対処イメージを構築しやすい)。

 言いたいことは、オランダがブチかましてくる「勝負ドリブル」のなかに、最後のシュートまでいく個人フィニッシュと、味方へのラストパス(クロス)といった組織プレーの要素が「半々」程度にミックスしてきたら、オランダの仕掛けの破壊力は倍増するっちゅうことなんですよ。

 でもオランダの場合、まだまだ、最終勝負シーンが「見え」ちゃうんだよ。要は、ドリブルシュートか、相手を引きつけたラストパスかの判断がしやすい。

 ラストパスの要素をアップさせる場合、受け手の「動き」も同時にスタートしていなければならないから、難しいけれど、そんな組織コンビネーションの「あうんの呼吸」も醸成させることが出来たら、オランダは天下無敵だね。いや、ホント・・

 さて、次のゲームでは、そんなドイツとオランダが激突する。

 手負いのオランダと質実剛健サッカーを貫くドイツ。こりゃ、見逃せない。

 個人的には、オランダがドイツに、ポルトガルがデンマークに勝ち(それで4チームが勝ち点3で並ぶ!!)、グループ最終戦まで「最高テンション」が維持されたら堪えられないけれど。さて・・

「EURO」にも、オーストラリアにも行けなくなってしまいましたが、こうなったら、「とことんテレビ観戦で楽しむぞ!」と、セルフモティベーション機能に最大エネルギーを注入している筆者なのです。あははっ・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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