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2011_女子WM_28・・番外編_4・・サッカーコーチ国際会議の簡単なまとめ・・(2011年7月27日、水曜日)

どうも皆さん。

 五週間にわたる、とてもエキサイティングだった今回のヨーロッパ遠征も、そろそろ終わりに近づきました。いまは、国際会議から解放され、ホテルの部屋で、自分自身のためにも、会議の内容を簡単にまとめているところです。ということで、ドイツからは、これが最後のコラムということになります。

 今日は、このままボーフムに宿泊し、明日フランクフルトへ、そして日本へ・・。まあ、土曜日の「J」から日本での活動復帰っちゅうことになりそうです。

 ということで国際会議。とにかく、年を経ていくなかで内容が充実していくプロセスには目を見張ります。もちろん、ちょっと学術的に過ぎる講演もあるけれど、大半は、とてもプラグマティックな(現実に即した)内容でした。関係者の皆さんの努力に対して敬意を表します。

 ここからは、骨子となる内容を、箇条書きでまとめます。さて、読者の皆さんの参考になるかどうか・・

■素早い攻守の切り替えという、今回の国際会議での共通テーマ・・

 ・・前回のコラムでも書いたけれど、そこには、前線からの素早いプレッシング(コンパクト)守備からのボール奪取プロセスと、ボールを奪いかえしてからのカウンター&ショートカウンターという攻守両面のテーマがある・・

 ・・トレーニングのデモンストレーションでも、とにかく、選手たちの「意識と意志を途絶えさせない」というテーマに取り組んでいる・・一人の例外もない、素早く、効果的な「攻守の切り替え」というテーマ・・

 ・・もちろん攻撃側だけじゃなく、素早い切り替えでディフェンスに入るチームの全力の忠実プレーも要求しつづける・・トレーニングの形式によっては、ボールを奪いかえしたチームが直接シュートを決めたことで、休めるはずの第三のチームが、そのままとって返し、全力で守備に入らなければならなかったりする・・これは、とても刺激的だね・・

 ・・特に二日目のトレーニングデモンストレーションでは、現役のプロチーム(アレマニア・アーヘン)が登場した・・監督は、2年目の若手、ペーター・ヒュバラ・・

 ・・ところで、ちょっと脱線・・会議では、若手プロコーチの活躍も話題になっていた・・ドルトムントのユルゲン・クロップだけではなく、このアーヘンの監督、またHSVのミヒャエル・エニングなど、プロ選手を経験していない(または、下位のプロクラスで目立たなかった・・)ヤング・コーチが頭角を現している・・これは、とても良いことだ・・なんてネ・・

 ・・あっと、アーヘンのデモンストレーション・・1時間半のワンユニットを、きっちりと、そして全力でこなしてくれた・・観察する国際会議参加者からも、監督と選手に対して万雷の拍手が送られた・・

 そこで彼らが取り組んでいたテーマは、素早い攻守の切り替えからのディフェンス・・でも、もちろん、同時にオフェンス(=素早いイメージ描写!)もトレーニングできる・・そこでは、三つのチームが、入れ替わり立ち替わり対戦していたけれど、トレーニングの形式を工夫し、粘り強くつづければ、とても大きな成果が得られるかもしれない・・と感じた・・フムフム・・

■戦術に関する、スポーツ科学的な「統計」というテーマ・・現場にとっての価値は??

 ・・講演するローランド・ロイ博士は、まず、「男は、2分ごとにセックスを考えている・・」なんていう(統計的な)表現を大スクリーンに映し出す・・もちろん、我々の興味をそそるため・・心理学でいう「セット」としては、とても素敵だし効果的だ・・そしてそこから、われわれコーチにとって、とても刺激的な統計数字を並べ立てて挑発しつづける・・

 ・・1952年のサッカーでは、一試合での平均的な走破距離は「3.5」キロにしか過ぎなかった・・それが、1062年には「5.5」キロ・・1976年「8.7」キロ・・1991年「10.8キロ」・・2005年「11.5」キロ・・2010年「12.3」キロ・・と徐々にアップしていった・・

 ・・そりゃ興味深い統計数字じゃネ〜か・・なんて思っていたら・・「ワンツー・コンビネーション」が、サッカーのなかでもっともミスの出やすいプレーだ・・一試合に、二つ以上のワンツーが成功することはない・・ワンツーからゴールに結びつく確率は「1%」以下だ(ブンデスリーガ900ゴールのうち、ワンツーからのモノは10ゴール以下)・・

 ・・セットプレーは、ゴールを奪うのにとても重要だという考え方に対しては・・セットプレーからのゴールは「29%」にしかすぎない・・クロスボールからは「20%」・・でもパスからのゴールは「51%」にものぼる・・聞いているコーチ連中は、ちょっと苦虫を噛みつぶしている・・そりゃ、そうだ・・セットプレーやクロスボールの定義がはっきりしない・・パスといったら、全てがパスじゃないか・・とかね・・あははっ・・

 ・・それだけじゃなく・・ゴールの半分以上は「偶然の産物」・・「サッカーでは、偶然の産物という結果は、普通に考えられているよりも、とても大きな割合だ」・・オフサイドを正しく説明できたのは、男性が「53%」だったのに対し、女性は「63%」もいた・・とか・・とにかく、コーチ連中を逆なでしつづけるのですよ・・あははっ・・

 ・・でもね・・彼が言いたかったのは・・本質的な部分では、自分たちの「思い込み」を一度リセットし、最初から冷静に分析することが大事・・とか・・サッカーでは、迷信が多い・・監督やコーチは、それに囚(とら)われることなく、常に「実際」を、しっかりと自分なりに分析し、納得して仕事をしなければならない・・といったコトが言いたかったんですよ・・

 ・・だから、最終日の「スター監督」のパネルディスカッションじゃ、例外なく全員が、「ロイ博士」の提言を持ち上げていたっけネ・・面白いネ・・

■アディダスが提供する新サービス「miCoach」・・これは面白いかも・・

 ・・アディダス社から派遣された三人のエキスパートが、「マイ・コーチ」と呼ばれている新サービスをプレゼンした・・要は、選手個々が、それぞれに(効果的に!?)持久力トレーニングを積めるというプログラム・・もちろんコンピュータ&インターネットは、必須の環境でっせ・・

 ・・まずコンピュータをインターネットにつなぎ、自分のページを開く・・そして、手元に用意してある心拍数メーターを身体に巻き付けたり、測定チップを靴底にセットし、そしてコンピュータの通信機能をオンにする・・

 ・・そうすることで、走るスピードや距離などを記録する「小さな80グラム」のチップ端子などによって、どんどんとインターネットの自分のページに、アクチュアルな数字が記録されていくというもの・・もちろん、消費エネルギーも自動で計算される・・

 ・・興味はあったけれど、講演の後で、彼らのブースを尋ねる時間がなかった・・もちろん、ネットでも十分な情報が得られるだろうから、興味があったらご自分で検索してくださいね・・

 ・・断っておくけれど・・皆さんもご存じのように、筆者は、すべての組織や個人とは関係のない、まったくの「インディペンデント(中立)ジャーナリスト」だからね・・決して、アディダスからカネなどもらっていないよ・・でも、良さそうだから・・実際に試した方がいたら、その効果を教えてくださいネ・・あははっ・・

 ・・それにしても、バケーションへ出掛けた選手たちに、このプログラムでコンディション調整を課すのだろうか!?・・まあ、現実的ではあるけれど、難しいんじゃないかな〜・・とはいっても、持久力トレーニングほど、一人で効果を挙げるのが難しいモノはないからね・・とても強い意志が必要・・

 ・・でもサ・・耳にセットする「イヤフォーン」からは、女性の声で、「いまアナタの走っている速度は・・です・・もう少しテンポアップしましょう・・心拍数は・・です・・まだまだ上げられます・・とにかく・・まで行きましょう・・などと言ったアナウンスメントが流れてくるんだよ・・それに、そのプロセスは、すべて、インターネットで、監督やコーチがチェックできる・・

 ・・さて〜〜・・どうなんだろうね〜・・もし試したプロ監督やコーチの方がいたら(既に多くのプロチームで採用されているということだけれど・・)、その結果が知りたいよね〜・・持久力の低い選手の場合、もちろん意志の弱さもあるけれど、やっぱりコーチのモティベーション対策が必要だと思うしね〜・・

■フランク・ヴォアムートの講演・・彼は、エーリッヒ・ルーテメラーから、ドイツ(プロ)コーチ養成コース責任者のタスクを受け継いだ優秀なインストラクター・・

 ・・テーマは、「小さなコト」が大きな結果のバックボーン・・以前(まあ1980年代から1990年代にかけて・・)ドイツサッカーは、局面での競り合い(フィジカルのぶつかり合い)だけが前面に押し出されるパワーサッカーの権化であり、戦術的に後れているというイメージをもたれていた(1970年代の、美しさと力強さ・勝負強さが高みでバランスするドイツというイメージを知るサッカー人にとっては、耐え難いコト!!)・・

 ・・そのドイツサッカーが、徐々に、人とボールの動きをベースにしたコレクティブサッカーという側面でも存在感をアップさせてきている・・特に、この10年間のイメージアップは顕著・・もちろん、それは、以前から取り組まれていた、才能発掘プログラムをベースにした、技術と戦術的なテーマを重視する粘り強い「育成プログラム」の大きな成果だ・・

 ・・このところ、ドイツ代表は、ユースから若手プロ世代のトーナメントでも存在感を高めている・・もちろん、そこで展開されるサッカーは、創造性も存分に感じられるハイレベルなモノであり、世界からも認められている・・

 ・・ここに興味深い「統計数字」がある・・一昨日の「ロイ博士」の統計数字にも、とても興味深いコンテンツが山積みだった・・統計数字は、考え方によっては、とても有効だ・・ということで、ドイツ代表チームに関する統計の数字だが・・彼らは、ボールを奪いかえすディフェンスでのファールの率で、どの代表チームよりも優れている(ファールが少ない!)・・

 ・・また、どの代表チームよりも、攻守の切り替えが素早く、効果的だ・・そして、パスをコントロールする素早さでも、スペインよりも優れている・・また、正確なワンタッチ、ツータッチからボールを展開するシンプルな「タッチ&パス」に関する数字でも群を抜いている・・そして、コンビネーションプレーでも、その正確さや速さだけではなく、3人目や4人目を効果的に活用できるという視点でも、素晴らしい数字を残している・・

 ・・要は、そんなドイツ代表のサッカー内容こそが、ここ最近の彼らの大きな成果のバックボーンにあることを認識して欲しいということだ・・

 ・・ヨアヒム・レーヴ代表監督が、テレビインタビューで、そのようにサッカーの内容をアップさせるための秘訣を聞かれたとき、このように答えている・・それは、日々の積み重ねだ・・コーチは、常に、選手に意識させつづけなければならない・・そんな忍耐の要るプロセス(努力)を経なければ、どんなチームも、本当の意味で発展することはない・・

 ・・最後にヴォアムートは、こんな言葉で、彼の講義を締めくくった・・それは、どんなに優れた形式のトレーニングをやろうと、その本質的な効果は、誰が、そのトレーニングをやらせているかにかかっている・・要は、われわれコーチに求めらているのは、的確で効果的な「コーチング能力」なのだ・・と・・

 ・・いいね、ヴォアムート・・イケメンだし(アッ、関係ないか・・スミマセン・・あははっ)・・出来れば、定期的に意見交換したいね・・

■最後に、ユルゲン・クロップ(ドルトムント)、ミルコ・スロムカ(ハノーファー96)、ミヒャエル・オェニング(HSV)、フリードヘルム・フンケル(ボーフム)、そしてドイツサッカー協会スポーツディレクターとして、とても実効ある仕事をつづけているマティアス・ザマーが参加した、パネルディスカッション・・

 ・・ドイツ協会スポーツディレクターのマティアス・ザマーだけれど、選手としては言うまでもなく(ヨーロッパ最優秀選手に選ばれたという燦然たる事実!)、監督としても、ドルトムントをリーグ優勝に導く(歴代で最年少の優勝監督!!)など、ドイツサッカーにとって(プロの猛者連中がぶつかり合う現場でも!)一目置かれる存在です・・

 ・・もちろん、彼に対するレスペクトの多くは、そのインテリジェンスとリーダーシップ、プラニング能力や調整力、そして実行力にあるわけだけれど、それでも現場にとっては、彼がまだ現役プロだったころの活躍の方が、とても大きいんだよね・・あははっ・・

 ・・とにかく、プロの現場とデスクワーク(マネージメント)をリンクする人物として、彼ほどの適任者はいないというのが定評なのです・・実際、彼の活躍によって、ドイツサッカーが復活しつつあるという事実もあるわけだからね・・

 ・・そのマティアス・ザマーが言う・・

 ・・これまでドイツは、ヨーロッパのなかでも、サッカー内容的に中位というイメージを持たれていた時期があった・・それでも今は、トップの10パーセントの国々と肩を並べられるまでに復活した・・そう、70年代の(西)ドイツのように・・

 ・・その背景として、もちろん(ヴォアムートが述べた)技術的、戦術的なパフォーマンスアップに対する地道な努力もあった・・ただオレは、それ以上に、選手たちの勝者メンタリティーをアップさせられたこと・・いや、今でもアップさせつづけられていることが大事だと思っている・・

 ・・例えばスペイン・・1980年代や1990年代は、ベストエイトやベストフォーに勝ち残れば、選手たちは、スペインの役員から肩を抱かれて労(ねぎら)われていた・・ただ、プジョルとかシャビの時代になって、選手もコーチも、これじゃいけないと目を醒ました・・オレ達は優勝できるだけのチカラがあるんだ・・と・・そしてそこから、彼らの快進撃が止まらなくなった・・

 ・・ここ最近、代表チームだけじゃなく、バルセロナとレアルに代表されるクラブサッカーは、いったいどのくらいのタイトルを奪い取っただろうか・・彼らは、とにかく勝つことに対して渇望していたんだ・・その「渇き」を、現場のコーチだけじゃなく、選手たち自身も高揚させていった・・それが、いまのスペインの活躍のバックボーンにあるんだよ・・

 ・・そんな彼らの心理的な高揚プロセスを、われわれ現場も素直に感じ取っていたからこそ、ドイツの復活が実現したということさ・・

 ・・もちろん、パネルディスカッションでは、ユルゲン・クロップやミヒャエル・オェニングといった若手の論客も、彼らの視点から、さまざまなテーマを深めていたけれど、でも今日は、これから人に会わなければならないため、この辺りで筆を置きます・・

 ・・また機会をみてレポートします。最後のフォトは、ドイツ(プロ)サッカーコーチ連盟会長、ホルスト・ツィングラーフの「締めの挨拶シーン」でした。

 さて・・ということで、女子ワールドカップ絡みのコラムは、これで「28本目」ということになりました。もちろん最終回です。

 本当に充実した5週間ではありました。ナデシコの皆さんには、繰り返しになるけれど、本当に、心からの感謝を伝えたいですね。最後の最後まで諦めず、強烈な意志を放散しながら頑張り通してタイトルを奪い取ってくれた。

 ナデシコの活躍によって、世界中で、「日本」がかかわる様々なコトが、よりスムーズに、ポジティブに動いていると思いますよ。もちろん意識しなければ感じられないコトも多いだろうけれど・・。

 人類史上最高の「異文化接点パワー」を内包するサッカー・・。その「事実」を体感しているのは、私だけではないはずです。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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