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2011_女子WM_21・・日本が、信じられないドラマの末に世界の頂点に立った・・フ〜〜ッ!・・(日本対アメリカ、 2:2, PK戦、3:1)・・(2011年7月17日、日曜日)

「あなたの表情は、そんなに嬉しそうには見えませんが・・」

 顔見知りになったドイツTVの記者の方から、そんなことを言われた。ナデシコが世界一に輝いた後のメディアスタンドでのこと。

 いや、決してそんなことはありません。わたしは、全身で悦びを表現していたし、ナデシコの選手たちを心の底から祝福していた。

 読売サッカークラブコーチの時代から、女子サッカーという恵まれない状況で必死にボールを追いかける彼女たちを知っているからこそ、「やっと」最高のスポットライトを浴びるところまで頑張り通した彼女たちを、心の底から祝福できる。そして、結果という事実だけに気持ちを集約させたとき、本当に涙がこみ上げてきそうになった。

 でも私はサッカーコーチだから・・

 試合中から、何度も、何度も、「あり得ない・・こんなゲームは経験したことがない・・ホントに、あり得ないコトが起きているんだ・・」と心のなかで繰り返していた。

 立ち上がりから、ゲームが落ち着きはじめた20分くらいまで、何度日本は、絶対的ピンチに見舞われただろうか。ワンバックのヘディングや全くフリーで抜け出したシュート(バー直撃)それ以外にも、まったくフリーでのヘディングシュートシーンや決定的なカタチの中距離シュートシーンなどなど。フ〜〜・・

 その後に落ち着きはじめたゲームのなかでも、日本は、いままでのように軽快にボールを動かせたわけじゃなかったし、何度も、アメリカの素早く力強いタテ勝負やクロス勝負に大ピンチに陥った(決定的シュートを打たれ、実際にゴールも決められた)。

 準決勝から決勝までの三日間で、ちょっと「欲張り心」が出たのかもしれないが、ナデシコのボールがないところでの動きの量と質が、明確に減退していたと思う。それは、日本に原因があるというよりも、やはり、アメリカの実力の故だということなのかもしれない。

 このゲームのメインテーマは、何といっても、走る、飛ぶ、投げるという基本的な運動能力(フィジカル能力)というポイントで「これほどの大差」があるチーム同士の闘いになった・・ということです。

 走りっこになったら、数メートル後方からスタートしたアメリカ選手に、簡単に追い付かれてしまう・・ドリブルで抜いても、体勢を立て直したアメリカ選手に追い付かれてボールを奪い返されてしまう・・ヘディングはタイミングだから、常に負けていたというわけじゃないけれど、やはり、両選手が狙いを定める肝心な勝負所では、不利な競り合いがつづいた・・

 またアメリカ選手たちは、佐々木則夫監督がいみじくも語っていたように、基本的な運動能力だけではなく、技術的にも戦術的にも、とても優れたサッカーを展開した。

 シュート数やチャンスの数よりも、とにかく、決定的なチャンスの量と質という視点で、アメリカは、完璧にナデシコを凌駕していたのです。

 アメリカは、日本が演出するボールの動きを、しっかりとイメージしていた。だから、安易にアタックを仕掛けることなく、しっかりとチェイス&チェックを繰り返すなかで「ボールの動きを減退させ」そしてそこへ協力プレスを仕掛けていった。

 意図的に、ボールの動きを抑えられたナデシコ。佐々木則夫監督は、ベンチから、「もっとボールを動かせ〜っ」と声をからしたということだったけれど、結局は、アメリカの組織ディフェンスの前に、かなりの部分が抑制されてしまった。

 そして、そんなジリ貧の展開のなかでアメリカが、1点、そして2点と先行するのですよ。もちろん観ているこちらは、お恥ずかしながら、ちょっと「めげて」しまうわけです。でも・・

 ここから二つ目の重要テーマに入っていくわけだけれど、それは、もちろんナデシコの「心理的な粘り」です。

 最初の同点ゴールを入れた宮間あや。彼女が、「こぼれるかもしれない・・」というモティベーションで、かなり長い距離をスプリントしていった。だからこそ、相手のギリギリのクリアボールを身体に当てて前へ落とすことができ、それで同点ゴールをたたき込めた。

 二つ目の同点ゴールを、ワザありの「チョ〜ンッ!」という引っかけシュートで奪った澤穂希。それは、延長後半12分のコーナーキックシーンでした。その粘りの集中力。絶対に同点ゴールを奪ってやるという強烈な意志の放散。どれをとっても、感動そのものでした。

 わたしは、この二つの同点ゴールが決まったとき、まったく自然にガッツボーズをしながら立ち上がっていた。嬉しかった。感動した。でもその直後には、サッカーコーチとして、これは、ワンチャンスのラッキーゴールだった・・というニュアンスを強く意識せざるを得なかった。

 とはいっても、この二つの同点ゴールには、ナデシコの粘りの意志という必然的な要素も強く内包されていたという事実を無視することは出来ない。

 偶然と必然が交錯するサッカー。この試合では、本当に、攻守にわたって、さまざまな偶然現象が日本を後押ししたと思う。でもそこには、彼女たちの不屈の(粘りの)闘う意志という「必然要素」が、とても大きく作用しつづけていたという確かな事実「も」あったのです。

 最後にPK戦だけれど、あれほどの圧倒的なサッカー内容で先制ゴールや勝ち越しゴールを奪い、「勝ち」をほぼ手中にしたと確信していたはずの(そして最後の最後で、その確信をひっくり返された!?)アメリカチームの心理プレッシャーは、日本の比ではなかったはずだよね。

 たしかに海掘あゆみのスーパーセーブもあったけれど、あのアメリカのPKの失敗には、何らかの心理的プレッシャーが関わっていたと確信する筆者なのです。フムフム・・

 今日の出来事が、あまりにも大きく、深いモノだったから、どうも筆が進まない。また日を改めて書きます。国際会議出席などで、まだ10日はドイツに滞在しますからね。

 とにかくナデシコの皆さん・・心から祝福します・・本当におめでとうございました・・そして、有難うございました・・国際会議では、ホントに鼻がピノキオになっちゃうゼ!・・あははっ・・

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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