トピックス


2011_女子WM_16・・興奮のドラマ・・これまでのベストマッチでした・・(USA対ブラジル, 2:2, USAがPKシュートアウトで勝利)・・(2011年7月10日、日曜日)

オオ〜ッ・・アアアッ・・ヤッタ〜〜ッ!!

 そのとき、言葉にならない奇声が口をついた。

 最初のは、左サイドでボールを持ったUSAのラピノーが、祈るような表情でクロスボールを送り込んだとき、そして「ヤッタ〜ッ!」は、ワンバックが、そのクロスをヘディングでブラジルゴールに叩き込んだときの奇声でした。もちろんガッツポーズとともにネ・・

 それは、アメリカが、全力を尽くして闘い抜き、最後の最後に同点に追い付いた瞬間(延長後半のロスタイム、122分だったんだゼ!)。そのとき、スタジアム全体が興奮に包まれた。

 ちょっと、その背景要因は明確ではないけれど(記者会見でも明確にならなかった・・)、わたしも含めて、徐々にスタジアム全体がアメリカに肩入れするようになっていったモノです。

 多分それには、一人を退場で失ったアメリカが、延長も含めて55分間も「10人」で闘い抜いただけではなく、多くの時間帯で、完璧にフッ切れた爽やかなサッカーを展開することでゲームのイニシアチブを握るなど、立派なゲームを魅せたからに違いないと思っている筆者なのです。まあ・・なかには、ブラジル的な時間稼ぎなどもあったわけだけれど・・

 とにかく、この試合が、今大会で最高の勝負マッチになったことに異論をはさむ方はいないに違いありません。サッカー内容的にも、勝負ドラマとしても。観ているこちらも、手に汗握りつづけた。

 全体的な構図は、究極の組織サッカーを志向するUSAに対し、前戦の「個の才能」を前面に押し出して勝負しようとするブラジルといったものです。

 「アメリカは闘うチームだ・・我々は、いつもそのようにサッカーをやってきた・・一つのチームとして、ユニットとして全力を尽くして闘い抜く・・それこそがアメリカ魂なのかもしれない・・」

 感動的な言葉だけれど、それは、このゲームの「MVP」に選ばれたことで、監督とともに記者会見に参加したアメリカGKのソロ選手が発したものでした。

 そう・・その言葉どおり、アメリカは、「ワン・フォー・オール・・・オール・フォー・ワン」という気概にあふれた究極の組織(協力)サッカーを展開したのですよ。誰でも、味方のミスをカバーする強烈な意志にあふれている・・誰もが、チームのために全力の汗かきプレーを展開する強烈な意志を放散しつづける・・

 彼らの組織サッカーについては、もうここで具体的に表現しようとは思わないけれど、とにかく、最後の最後まで諦めず、攻守にわたってリスクにチャレンジしつづける彼女たちを(一人足りない10人で、相手の一点リードを追いかけていた!)、驚きをもって見つめていた筆者でした。

 対するブラジル。

 大会がはじまったときと比べ、全員が、チーム戦術イメージをより深く理解してシェアし、忠実に実行していたと思う。要は、前戦の三人の才能を(マルタ、クリスティアーネ、そしてロザーナ)活かすために、周りが、攻守にわたって汗をかきつづけるというイメージですかね。

 特に、守備的ハーフコンビのエステルとフォルミガは、リンクマンとして、両サイドバックの押し上げをサポートすることも含め、互いのポジショニングバランスを上手くマネージしていた。もちろん、両サイドバックが、サイドのゾーンで、前線の才能プレイヤーをしっかりとサポートすることは言うまでもありません。

 要は、マルタ、クリスティアーネ、そしてロザーナが繰り出すドリブル勝負を最終勝負の「起点」とすることについて、チーム全員が同じイメージを共有しているということです。

 だから、特にマルタやクリスティアーネがドリブルをはじめたら、周りの味方は、彼女たちを追い越さずに(彼女たちのドリブルコースを塞ぐようなことをせず!)、ドリブルに詰まったときに逃げのパスを出せるようなポジションに入るなど、効果的サポートに回ることに徹する。

 また、もし彼女たちへのマークが厳しくなったら(人数を掛けてマークしてきたら)、そのことで空いたサイドのゾーンを、両サイドバックが、ズバッとオーバーラップしていくことで、タテのポジションチェンジを実行するっちゅうわけです。

 マルタやクリスティアーネにしても、サイドバックがオーバーラップしていったら、そのことで空いた後方のスペースを、次の守備でカバーしていた。それもまた、チーム発展のバックボーンになっているというわけです。

 とにかく、そんなチーム戦術の徹底レベルのアップこそが、大会を通じたブラジル進化の証だと思っている筆者なのです。

 でも・・どうなんだろうネ・・やっぱり、マルタとかクリスティアーネといった天才ドリブラーがいれば、その才能を最大限に活用していかざるを得ないでしょ。でも、相手は、そんなやり方を明確にイメージして抑えに入ってくる。そう・・天才は、諸刃の剣になり得る存在なのですよ。

 だからこそブラジルは、守備的ハーフコンビという「専門のバランサー」を置くことで、守備ブロックの機能性をよりアップさせた。そう・・2002年ワールドカップで、スコラーリに率いられて優勝を果たしたブラジル代表のようにね。

 そんなブラジルのチーム戦術の変化(改善や進展)を目の当たりにし、とても素敵な学習機会に恵まれたことに対して感謝していた筆者なのです。

 それにしてもアメリカの闘う意志。これは、もう、尋常じゃない。彼女たちの心からの闘いを観ながら、本当に感動し、心からの敬意を表していました。

 さてこれで、「フィジカル系」のチームが二つと、「クリエイティブ系」のチームが二つ、準決勝に生き残った。ちょっと、この分け方には問題があるとは思うけれど、でもサ、読んでいる皆さんにはご理解いただけるモノと思いますよ。

 とにかく、日本対スウェーデンの準決勝が、いまから楽しみでしかたありません。

===============

 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

==============

 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]