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2011_日本フル代表(WM3次予選)・・ピッチが悪いアウェーゲームだったからこそ、日本の実力が光り輝いた!?・・(タジキスタンvs日本、0:4)・・(2011年11月11日、金曜日)

このゲームのテーマをピックアップするための背景要因は、何といっても、この試合がタジキスタンのホームゲームだったことと、ピッチコンディションがとても悪かったという事実に集約されるでしょ。

 要は、ゲームの構図が、第一戦とは全く違ったモノになるのは道理だったということです。もちろん日本代表が、「サッカーのやり方」をしっかりと順応させたということも含めてネ。

 ・・失うモノなど何もないホームのタジキスタン・・ゲーム立ち上がりからガンガンと前へ攻め上がっていく・・そのことで、(まあ、アジア予選では希なことだけれど)日本代表がカウンターを狙うっちゅうシーンも続出する・・

 ・・もちろんそれは、ピッチコンディションが悪いことに対応した現実的なゲーム戦術イメージ(ゲームプラン)でもあった・・カウンターだけじゃなく、一発ロングパスで決定的スペースを突いていったり、ガンガン中距離シュートをブチかましたり・・

 ・・要は、前述したように、日本代表が、「ゲームの環境」をベースに計画した「チーム戦術イメージ」をもってピッチに立ち、それを徹底したということ・・アルベルト・ザッケローニの良い仕事がうかがえる・・そして、だからこそ、(たしかに前半36分まで実際のゴールは奪えなかったけれど・・)何度もタジク守備ブロックを翻弄するような決定機を作り出した・・

 ・・そのチャンスメイクだけれど、いつものように、3人目、4人目が絡むようなハイレベル組織コンビネーションじゃなく、確実なボール回しと、タイミング的に「これしかない」という人の動き(シンプルなフリーランニング!)を組み合わせた仕掛けが主体だった・・またシンプルなタイミングでクロスを放り込んだり(この試合でのマイクは、厳しいマークに四苦八苦していたっけ・・まあ、良い学習機会)中距離シュートをブチかましたり・・

 ・・ということで、環境にしっかりと対応した「大人のサッカー」を展開した日本代表でした・・ところでピッチコンディションが悪いという現象の意味・・

 ・・まず何といっても、ボールを止め、コントロールするときに、より気を遣う・・要は、より頻繁にボールを見ながらボールをコントロールしなければならないということ・・

 ・・普通だったら、多くのケースで、ボールを見ずにトラップし、そしてコントロール出来る・・だからこそ、より素早く正確に周りの状況を確かめられるし、チームメイトとのアイコンタクト(仕掛けイメージの連動性)も着実にアップさせられる・・

 ・・だからこそ、相手ディフェンダーのイメージを「凌駕」しちゃうような、人とボールが素早く、広く動きつづける高質なコンビネーションだって繰り出していける・・そして(まあ、アジアレベルではという意味合いだけれど・・)相手の守備イメージの上を行っているからこそ、ボールウォッチャーになった相手ディフェンスの背後の決定的スペースを(個のドリブルや組織コンビネーションで!)楽々と攻略していける・・

 ・・でも、タジキスタンのピッチは事情が違った・・

 ・・日本代表は、しっかりと落ち着いてボールを止め、そして、これまたしっかりと落ち着いて周りの状況を確かめながら(ボールへ視線を落とす頻度を上げながら!)仕掛けてかなければならなかった・・要は、スペース攻略をターゲットにした人とボールの動きを、少しスピードダウン(止めて、見て、ボールを動かすという段階を踏んだ=同時にいくつかのプレー要素を並列させるのではないような=着実な展開)しなければならなかった・・

 ・・まあ、こんな状況だから、チャンスの量と質が(前回の長居での対戦と比べて!?)限られてしまったのは仕方ない・・逆から言えば、日本代表は、あんな厳しいピッチコンディションにもかかわらず、相手守備ブロックのウラを突くような(スペースを攻略した)惜しいチャンスを作りつづけた・・そして最後は4点も叩き込んだ・・ってな表現も出来る・・

 まあ、ちょっと内容が冗長になりはじめているから、ここからは「個人」にスポットライトを当てましょう。まず、何といっても今野泰幸。

 彼については、プレーの実効レベルがあまりにも高みで安定していることで、どうも話題にする機会(彼のプレーを殊更にピックアップする機会)に恵まれない。要は、彼が素晴らしいプレーでボールを奪い返したり、目の覚めるようなカバーリングや協力プレスを決めても、「今野泰幸としては」当たり前・・ちゅうことになってしまうんだよね。あっと・・彼がディフェンダーだということもあるよ・・

 とにかく彼の場合、基本に忠実な効果的ポジショニングや、マークする相手を、出来る限りボールと一緒に視野に入れる「工夫」とか、観ているこちらがアタマが下がるような「目立たないスーパー守備プレー」のオンパレードなわけですよ。

 これまで何度、彼によって日本代表が(オリンピック代表もフル代表も・・)助けられたことか。守備においてだけじゃなく、攻撃(ゴール)という視点でも・・

 この試合でも、ものすごく重要な意味が内包された先制ゴールをブチ込んだのは今野泰幸だったんだぜ。そのシーンを観ながら、自然とガッツポーズが出た。そう、それは、彼にとっては、まさに正当な報酬と言えるゴールだった。

 このゴールだけれど、わたしは、今野泰幸が魅せた積極的な仕掛けプレーの心理的&物理的なバックボーンに遠藤保仁がいたと思っています。それは・・

 ・・タジキスタンのカウンターシーン・・前戦まで攻め上がっていた遠藤保仁が、攻め上がる相手ドリブラーを全力スプリントで追いかける・・だから、そのドリブラーは、仕方なく右サイドの味方へパスを出し、そのまま走り抜けようとした・・でも遠藤保仁の全力スプリントマークが忠実&効果的だったから、背後の決定的スペースへの飛び出しはノーチャンスだった・・

 ・・そんなこともあって、そのドリブラーからパスを受けたタジキスタン味方選手にとっちゃ、とても慌てるシチュエーションになった・・何せ、ダイレクトで「ワン・ツー・パス」が出せなくなってしまったんだからね・・そこに、(その選手にとっての!)もう一つの不運が重なった・・そう、そのタジキスタン選手をチェックしていたのは「あの」今野泰幸だったんだよ・・

 ・・一瞬のボールコントロールミスを見逃さず、素晴らしくフェアで効果的なタックルを仕掛けてボールを奪いかえした今野泰幸・・迷うことなく、そのままドリブルで押し上げていく・・

 ・・このシーンでの今野の心境・・

 ・・オレが上がった背後ゾーンにはヤットが戻ってくれている・・そのとき、もしかしたら遠藤保仁から、「コンちゃん・・行け行け〜・・」ってな声が飛ばされたのかも知れない(私は、ヤットが今野泰幸を前へ送り出したと思っているわけです!)・・とにかく今野泰幸は、まったく後ろ髪を引かれることなく、どんどんとドリブルで相手守備ブロックへ突っ掛けていった・・

 ・・だからこそ、タジキスタン守備が引きつけられた・・そして今野泰幸は、左サイドのタッチライン沿いにポジションを取る香川真司へパスを出し、そのまま香川真司を追い越すカタチで、タジキスタン最終ラインのウラに広がる決定的スペースまで飛び出していった・・

 ・・普通だったら、香川真司へパスを出したら、自分の持ち場へ下がるよね・・なんたって今野泰幸はセンターバックなんだから・・でも彼は、オレがシュートまで行く!、と、決定的スペースへ飛び出していくのですよ・・フムフム・・まあ、この「やり切る」というプレー姿勢は、彼の真骨頂でもあるわけだけれどネ・・

 ・・でも私しゃ、そんな積極性もまた、後方に遠藤保仁が残ってくれているという安心感がバックボーンになっていたと思うわけです・・

 ・・そして今野泰幸は、日本代表にとって、ものすごく大事な先制ゴールを、ズバッと決めた・・こぼれ球を、まったく臆することなく、そのまま蹴り込んだ・・それは、素晴らしい「呼び水ゴール」だった・・そして終わってみれば4ゴール・・フムフム・・

 あっと・・、今野泰幸というテーマだけれど、結局オフェンスに言及することになってしまった。まあ・・ネ・・彼の素晴らしい守備プレーについては、また機会を改めて書くことにしますよ。何せディフェンス(ボール奪取プロセス)は、究極の「組織(連動)プレー」でもあるわけだから・・ネ・・

 あと・・遠藤保仁の大人のゲームメイクっちゅう視点もあったね。

 攻撃の目的はシュートを打つことだけれど、そこに至るまでの「当面の目標イメージ」は、出来るかぎり多く「仕掛けの起点」を作り出すこと。そう・・スペースで、ある程度フリーでボールをキープする味方の演出ですよ。

 そんな、仕掛けの起点選手を作り出す「流れ」の演出家として、遠藤保仁は、本当に素晴らしくクレバーなゲームメイクぶりを披露しつづけていた。

 具体的なシーンについては、それぞれのケースをピックアップするしかないから大変な作業になるけれど・・。まあ、簡単に言ってしまえば、常に、相手ディフェンスの(ボール奪取勝負へ向けた!)仕掛けの意図を「逆手にとって」しまう天才・・っちゅうことになるかな。えっ・・簡単な表現じゃないって・・!? フム〜〜・・

 例えばサ、相手がアタックしてきたら、スッと、やる気なさそうに「ソフトなパス」を展開してしまう・・とか、逆に、相手が当たりに来なければ、自分からどんどんドリブルで仕掛けていったり、コンビネーションをスタートさせたりとか・・ネ。

 また彼は、ピッチコンディションに合わせて(まあ彼が主体になって!?)ボールの展開をうまくリードしていた。そう、ボールの動きの量と質を、うまく落としたり、スピードアップさせたりの調整。まあ、素晴らしい。

 そんな風に遠藤保仁のコトを書くのだったら、大人のダブルボランチの相方、「心の整った」長谷部誠についても言及しなきゃいけないじゃないですか。でも・・まあ・・今日のところはここまでにしようっと・・。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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