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2011_ヨーロッパの日本人・・「もっと出来るぞっ!」の家長昭博と、安定プレー志向に過ぎる(!?)内田篤人・・(2011年3月10日、木曜日)

まず、ホーム、バレンシア戦での家長昭博から。

 前回のレポートでは、彼のことを才能の宝庫と書いた。この試合でも、右サイドでの一発ドリブル勝負や、素晴らしいヒールパスで決定的チャンスを演出したり、中盤からの鋭いドリブル勝負&ミドルシュートにチャレンジするなど、とてもインプレッシブ(印象的)な勝負シーンを何度か魅せた。また、その素早く正確なボールタッチ、力強く巧いボールキープ、そしてシンプルなタイミングの展開プレーからも、彼が秘める優れたサッカーセンスが透けて見えた。

 でも・・何か不満。

 まあ、その不満のバックボーンは、天から与えられた才能を活かし切れていない・・という一点に絞り込まれるだろうね。要は、「もっと出来るのに・・!!」という不満ということだね。

 ・・(例えば守備では)・・何故「そこ」でチェイス&チェックに入らないんだ〜・・「行ったら」高い確率で家長自身がボールを奪い返せるのに〜・・あっ、フリーで上がっていく相手を(家長しかいないのに・・)マークせず、行かせてしまった〜・・あっ、そこは協力プレスに入らなければダメだろ〜〜・・あっ、そこは、狙っていたら(家長の才能だったら!?)確実にインターセプトできただろ〜・・

 ・・(攻撃だったら)・・もっと走ってパスを要求しなければダメだろ〜・・あっ、パス&ムーブのチャンスなのに、足を止めて「足許パス」を待ってしまった〜・・

 ・・たしかに周りのチームメイトたちの、ボールがないところでの動きも緩慢だけれど、そんなカッタるい流れに一緒に乗るこた〜、ネ〜んだよ・・それこそ、オマエがチームを引っ張るチャンスじゃネ〜か!!・・オマエのチーム(マジョルカ)は、ホームなのに負けてんだゾ〜(結局ゲームは、1-2の敗戦!)・・などなど・・

 要は、ボールがないところでの動きや守備プレーに、積極的に仕事を探す(リスクへチャレンジしていく)ことに対する『意志の爆発』が感じられないということだね。とにかく、家長昭博の才能ならば、もっともっと出来る・・からこそ、とても残念に感じるわけなのです。

 別な表現をすれば、攻守にわたって、積極的な意志を爆発させるような「全力スプリント」のシーンが少なすぎる・・とも言える。攻守にわたる(ボールがないところでの)全力スプリントは、その選手が、具体的な「勝負イメージ」を持っていることの証明だからね。

 このままだったら(日本での評価と同様に)周りの雰囲気に呑み込まれ、単なる「その他大勢のプロ・・」っちゅうことになってしまうかもしれない。

 ・・ボール絡みでは、本当に素晴らしい「才能の宝庫プレー」を魅せつづける家長昭博・・でも、全体的な仕事の中身じゃ、(優れた才能に恵まれているのに!?)結局は期待はずれで目立たない・・

 そんな評価に「落ち着いてしまう」ことに対する心配がよぎるのです。もっとどん欲に、攻守にわたって常に「仕事を探しつづける(闘う)意志」を高揚させなければ、すぐに忘れられてしまう・・かもしれない。「そこ」は、ものすごく過酷な競争環境なんだから・・

 とにかく、ガンバレ〜〜、家長〜〜・・

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 さて次は、大逆転でバレンシアを破り、UEFAチャンピオンズリーグ準々決勝へと駒を進めたFCシャルケ04の内田篤人。

 それにしてもシャルケは、本当によく勝った。まあ、シャルケは、ドイツ代表正GKマヌエル・ノイアーに感謝しなければならないね。その意味合いも含め、この試合は、ゲームの流れが大きく変化しつづけるという、とても興味深い内容だった。

 ところで、地元(ゲルゼンキルヒェン)出身のスターGK、マヌエル・ノイアー。

 スタンドでは、「マヌー・・移籍せずにシャルケに留まってくれよ〜!」なんていうニュアンスの言葉が書かれた白いボードを、本当に多くの観客が掲げていた。あれは、誰がオーガナイズしたんだろう。とにかく、白いボードと書かれている言葉は、統一されていた。それが、マヌエル・ノイアーが入るシャルケのゴール裏スタンドを埋め尽くしていたんだよ。なんか壮観。そして、いかにマヌエル・ノイアーが(もちろん、そのパフォーマンスと人間性が)愛されているかを実感した。

 あっ、そうか、ゲーム展開の大きな揺動っていうテーマだったっけ。それは、こんな感じ・・

 ・・まず、勝たなければならないバレンシアが攻め込んで先制ゴールを決めた(この時点でバレンシアが勝ち抜け)・・その後、ようやくペースを持ち直したシャルケが、前半ロスタイムに得たフリーキックをファルファンが決め手追い付く(これでイーブン)・・後半7分に、シャルケが勝ち越す(これでシャルケが勝ち抜け)・・

 ・・「その後」は、バレンシアが攻め込んで何度も決定機を作り出し、それをシャルケが必死に守るというエキサイティングな展開へとゲームが成長していく・・それでも最後は(後半のロスタイムに)、カウンターから、シャルケのファルファンがループシュートで決着をつけるのであ〜る・・

 ホント、手に汗握るゲームになりましたよ。あっと・・もちろん私は「ドイツ」を応援していたわけだし(そこでの参加意識や当事者意識がいいんだよね〜〜・・)、シャルケでは、古くからの友人がユース関連の役職に就いていることもあって(!?)そのシャルケのピンチの連続に、握った拳にチカラが入ったというわけです。あははっ・・

 あっと、またまた前段が長くなった。ということで、内田篤人。例によって、攻守にわたって、とても安定したプレーを展開しました。安定したディフェンスを絶対的ベースに、たまに繰り出していく勝負のオーバーラップは、とても魅力的だったりする。でもサ・・、ちょっとプレーが安定志向に振られすぎ・・なんていう印象もあるのですよ。

 要は、彼のプレーが、時として、「石橋を叩いて渡る」っていう雰囲気に映るのですよ。それは、もっとフッ切れたリスクチャレンジ(レベルを超えた自己主張)をブチかましてもいいんじゃネ〜の・・なんていう感覚ですかね。

 例えば(まあ・・最終的に準々決勝に進んだから書くけれど・・)、 バレンシアとのアウェー第一戦で失点につながったシーンでは、ボールホルダーの大外をオーバーラップしてくる相手パスレシーバーへのチェック&マーキングアクションを、「エイヤッ!」で、もっと早いタイミングでスタートすべきだった(タテのスペースへ、もっと早いタイミングでスタートすべきだった!)と思う。

 もちろん「そんなリスクチャレンジアクション」には、相手ボールホルダーが、パスを出さずに切り返してセンターゾーンへ突っ掛けていくとか、内田篤人がスタートしたことで空いた眼前のスペースを危険なカタチで使われてしまう・・といった危険因子が付きまとう。

 それでも「行く」んだよ。もちろん、微妙なギリギリのタイミングを正確に見計らってネ。それもリスキーな判断と決断だけれど、それがなければ、やっぱり世界じゃ通用しないでしょ。もちろん、このシーンでの内田篤人は、相手のスピードを誤って判断した(自分のスピードを過信していた)だけなのかもしれないけれど・・ネ。あははっ・・

 ここで言いたかったことは、内田篤人ほどの才能に恵まれた選手なんだから、長友佑都のように、もっとリスクにチャレンジしても(もっと強烈な自己主張をしても)いい・・ということなんだよ。

 どうも内田篤人は、「気持ち」の部分で課題を抱えていると感じるのです。ミスをしたくない・・という消極的な姿勢が見え隠れする、ミスなし安全プレー志向!? だから、時には、逃げの姿勢だからこその「ミスパス」を出してしまったり、守備でも、局面でのギリギリの勝負所でアタックが遅れてしまったりする。

 とにかく、内田篤人の課題は、ひとえに「心理・精神的な部分」にあると認識している筆者なのであります。まあ、ブンデスリーガという、激烈な競争が渦巻く世界の舞台だからね、環境こそが人を育てる・・という普遍的なコンセプトに期待しましょう。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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