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2011_天皇杯決勝・・立派なサッカーを魅せたエスパルス・・強烈な勝負強さを誇示したアントラーズ・・(エスパルスvsアントラーズ、1-2)・・(2011年1月1日、土曜日)

本当に素晴らしい勝負マッチだった。わたしは、心の奥底から、両チームへ、お疲れ様でした・・という声を掛けていた。もちろん、彼らが為した、日本サッカー(文化)への多大な貢献に対する感謝の意を込めて・・。格好つけているわけじゃなく、本当に、心からの素直な気持ちだよ。

 ラジオでしゃべり「過ぎ」たから、声が少ししゃがれてしまった。でも、あんな素晴らしいサッカーを魅せられたんだから、心からの感嘆を表現しないわけにはいかなかった。

 たしかに試合は、アントラーズの質実剛健な勝負強さが際立っていた。

 エスパルスが意図する両サイドからの仕掛けだけではなく、岡崎慎司の爆発的な飛び出しや、「小野伸二という仕掛けプロセス(チーム共通の仕掛けイメージ)」までも、とても効果的に抑制することでゲームのイニシアチブを握り、忍耐を重ねるなかで、徐々にペースアップしていくアントラーズ。そして、まさに勝負強さの権化とまで呼べるようなセットプレーゴールを二つも決め、最後は、「アントラーズのツボ」のゲームコントロールを徹底して勝ち切った。

 最後は地力の差・・。でもエスパルスも、その差を補って余りある闘志あふれる強烈な「意志プレー」を、最後まで諦めることなく、ブチかましつづけた。それは、本当に感動的な闘いだった。

 エスパルスでは、何といっても後半立ち上がりからのパフォーマンスアップが印象に残った。前半は、まったくといっていいほど活躍できなかった小野伸二を左サイドへ回し、右サイドの藤本淳吾とのイメージコンビネーションで何度も効果的なサイドチェンジを演出するなかで、サイドからの仕掛けプロセスをコントロールしていった。

 そんな揺さぶりに、「あの」強いアントラーズ守備ブロックが振り回されるシーンがつづく。そして、前後左右に揺さぶられたからこそバランスが崩れたアントラーズ守備ラインのウラに広がる決定的スペースを、本田拓也からのタテパスに反応したヨンセンが完璧に突いた。素晴らしい同点ゴールが、アントラーズゴールへ転がりこんでいった。

 これでゲームは分からなくなった。実際、その後のゲーム展開は一進一退を繰り返していた。でも、その同点ゴールの3分後に、フェリペ・ガブリエルに代わって本山雅志が登場してくるのですよ。そう、準決勝での(FC東京戦)大逆転ドラマを演出した立役者。そして、この試合でも、見事に、ゲーム展開を変容させてしまうのです。

 後方から「大きく」ゲームをメイクする小笠原満男。そして、その前で、前後左右に動き回ることで効果的にスペースを攻略しながらチャンスを演出していく本山雅志。もちろん彼は、個人プレー(ドリブルやタメ)だけではなく、味方との鋭いコンビネーションも駆使する。

 この後のアントラーズは、全員が本山雅志を探し、彼にボールを渡すようになっていったですね。ワンツー・スリーというコンビネーションでも、本山雅志の動きとボールを扱うプレーに合わせてチームメイトたちも動き回る。とにかくそれは、チームメイトたちの、本山雅志に対する信頼の深さを体感させられた時間帯ではありました。

 とはいっても、本山雅志の登場によって(それによる明確なアントラーズのペースアップによって!)エスパルスの勢いが大きく減退したというわけじゃない。彼らもまた、とても魅力的な、勇気あふれるチャレンジプレーをブチかましつづけるのですよ。

 だから、そこからのゲーム展開は、まさに「爆発的なエネルギーがぶつかり合う動的な均衡」といったエキサイティングなモノへと成長していったのです。それは、本当に、手に汗握るほどの盛り上がりだった。

 だからからかもしれない・・。最後の数分間にアントラーズが魅せた、レベルを超えた「落ち着き」の組み立てが、ものすごく美しい光を放ったと感じた。まさに、アントラーズのツボ。

 ボールを奪い返すために、必死に(複数の)プレッシャーを掛けつづけるエスパルス。でもアントラーズの猛者連中は、それをかいくぐるように、スマートに、そしてスムーズにボールを動かしてしまうのです。文化放送での解説でも言ったけれど、それは、相手のパワーを逆利用して投げ飛ばしてしまう、柔道の「空気投げ」を彷彿させた。

 もちろんそこでも、本山雅志が、大活躍する。ボールは、彼を中心に、クリエイティブに、そしてスムーズに動きつづけていたのですよ。天才的なテクニシャン本山雅志。そんな彼は、スキルフル名天才ドリブラーとしてだけではなく、攻守にわたる「忠実な汗かき組織プレイヤー」としても大きく開花した。私にとって彼は、一人のサッカー選手の成長プロセスとして、まさに「理想的なイメージ」でした。テクニックに優れた天才的なプレイヤーが、豊富な運動量を絶対的ベースに、攻守にわたる「汗かき組織プレー」にも精進する・・。だからこそ私は、もっともっとメディアは、本山雅志に注目すべきだと思っているわけです。

 ただ、本山雅志は、満身創痍だと聞いた。たしかに「線が細い」から、プロのフィジカルなぶつかり合いで、彼の身体が消耗しつづけたこともあるんだろうね。たしかに、まだまだ未熟な「J」では、危険なフィジカルコンタクトによるケガの発生率が高い・・ということなのかもしれない。

 でもサ・・ヨーロッパにも、彼と同様に「細い天才」は多いよね。例えば、ヨーロッパ年間MVPに輝いた(1977年のバロンドール)こともあるデンマークの英雄、「小さな巨人」とまで呼ばれた天才アラン・シモンセン。彼は、わたしと同じ歳です。

 わたしは、彼の、ドイツ・ブンデスリーガ当時を知っている。ドイツブンデスリーガの雄メンヘン・グラッドバッハ。当時の監督は、誰あろう「あの」ヘネス・ヴァイスヴァイラー。彼が自ら、デンマークでアラン・シモンセンを探し出してドイツへ連れ帰ったと聞いた。

 そんな(1974年の)ある日、メンヘン・グラッドバッハが、イングランドの雄リバプールとプレシーズンマッチ(親善試合)をボェッケルベルク(メンヘン・グラッドバッハのホームスタジアム)で戦った。わたしは、ひょんなことから、メンヘン・グラッドバッハの客人として、そのゲームを観戦していたというわけです。

 そして目を疑った。日本人よりも小柄なアラン・シモンセンが、大男のアングロサクソンをキリキリ舞いさせたのですよ。複数の相手に取り囲まれても、まったく動じることなく、スッ、スッと素早く、そして鋭くボールを動かして大男を翻弄し、詰まったら、スッとボールを浮かして相手の脇を抜き去ってしまう。

 そんな彼に、フィジカルなぶつかり合いが、どのくらい不利なのかを聞いたことがあった。

 彼が言うには、相手の動きを読んで、その逆を取るのがコツ・・だとか。それでも、身体ごと抑えられたら難しいだろ?? そんなときは、無理してこらえるのではなく、そのまま、勢いに逆らわずに吹っ飛ばされるのが、ケガをしないで効率的にファールを取れることのコツだというニュアンスのことを聞いた。そうか〜〜・・やっぱり頑張り過ぎたら危険も増すということか〜〜・・

 たしかに日本では、まだまだ危険なタックルが比較的多いように感じる。抜かれたくない・・ということで、相手の身体的な危険も顧(かえり)みずにパワーで潰してしまうようなチャージ。そりゃ危険だよね。だからこそ、自分を守るためにも、無理せずに(そのファールパワーに逆らわずに)倒れるのが肝要だということか。でも、やっぱり頑張っちゃうよな〜〜・・。難しいネ。

 とにかく私は、来シーズンの本山雅志が、完全に回復した状態で、以前のようなベストパフォーマンスを魅せてくれることを節に願っている次第なのですよ。

 あっと・・、オズワルド・オリヴェイラ監督には、大迫勇也についても聞いたっけ。「ところで大迫勇也・・この試合での彼は、一生懸命ディフェンスにも精を出していましたよネ・・!?」

 それに対して、満面に笑みを浮かべたオズワルドさんが(この笑みの意味合いについては準決勝コラムを参照して下さいネ・・)こんなニュアンスのことを言っていた。

 「準決勝のときは、経験豊富な36歳の選手と、まだまだ伸び盛りの20歳の選手を比べて質問されたから、あのようなコメントになった・・大迫が秘める潜在力は、とても大きい・・ただ、それを一朝一夕に最大展開させるなどということは出来る相談じゃない・・彼には、まだまだ時間が必要なんだ・・高校時代の彼はスターだった・・そしてアントラーズに来てからも、メディアでスター扱いされた・・そんな彼が、徐々に、攻守にわたる組織的な汗かきを学んでいったんだ・・またそこには、強いチームであるからこその強烈な競争もある・・彼は、そんな厳しいライバルバトルをも制して発展をつづけなければならない・・もちろん、そんな厳しいライバル環境こそが、人を育てることは言うまでもない・・最前線で突っ立ってボールを待つなんていうのは遊びのサッカーだ・・プロでは、つねに極限まで闘うことが求められる・・意識をもっともっとアップさせるという作業が必要なんだ・・いま大迫は、順調に発展している・・これからもライバルとの競争が待っている・・彼は、それを乗り越えて大きく羽ばたいてくれるはずだ・・」

 そうネ〜〜・・。

 この決勝戦をもって、「この」強いエスパルスは、一度解体されることになります。優秀なプロコーチ長谷川健太監督だけじゃなく、何人もの主力選手がチームを離れるとのこと。その背景事情については触れないけれど、まあ・・残念至極・・だね。

 特に長谷川健太さんには、これからも、日本サッカーを背負って立って欲しいと願って止まないのですよ。まあ彼のことだからダイジョウブだとは思うけれどネ。

 そんなエスパルスに対し、マルキーニョスが抜けた「だけ」のアントラーズ。オズワルド・オリヴェイラ監督の留任も決まったらしいし、もちろん外国人の補強もあるでしょ(大迫勇也のライバル!?)。だから来シーズンも、アントラーズから目が離せないネ。

 それにしても、一つの優れたチームが崩壊するのを見ることほど辛いことはない・・。フ〜〜・・

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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