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2011_アジアカップ・・ゲームを観ながら考えていた・・本田圭佑にとってホンモノのブレイクスルー機会!?・・(オーストラリアvsバーレーン、1-0)・・(2011年1月19日、水曜日)

オーストラリア対バーレーンの試合を観ながら、ちょっと、世界サッカーにおける「大枠の動き・傾向」について思いを馳せていました。

 ちょっと大袈裟な言い回しになってしまったけれど、要は・・

 ・・個のチカラが、国際化、情報化の進展という「世界的な変化」に応じて、どんどんと「高次平準化」してきている・・フィジカルやテクニックは当たり前として、戦術的なイメージレベルや心理・精神的なタフさ(意志のチカラ≒自己犠牲精神やチームスピリット等々)も含めて・・そんな背景要因があるから、昨年12月のクラブワールドカップ準決勝で、初めて南米代表(インテルナシオナル)がアフリカ代表(マゼンベ)に敗れたという事実も含め、フットボールネーションとその他の国々との「最後の僅差」がどんどん縮まってきているのも道理・・なんていうことかな・・

 もちろん、このコラムの視座はアジアカップだから、いくら、日本や韓国、オーストラリアが、実力的に一歩抜け出しているとはいっても、他の中東諸国や中国との差は、推して知るべしだというこことなのです。

 特に、原油価格の高騰によって(原油マーケットに流れ込んでいる『投機』マネーは、ヤツら自身の仕業じゃネ〜のか!?)経済的バックボーンがどんどん強化されている中東諸国は、欧米の一流プロコーチを導入することで、オートマティゼーションのレベルにまで至る、本当の意味の組織プレーに対する「実効あるイメージ」を手に入れつつある。

 また、そんな「産油国」のレベルアップに呼応するかのように、シリアやヨルダンといった「非(極少量!?)産油国」も実力をアップさせている。彼ら「非産油国」の努力に対しては、心からの拍手をおくりたいよね。とにかく・・、これから中東諸国は、2022年カタールW杯という強大な刺激も含め、とても手強い競争相手になるということが言いたかった筆者なのです。

 そんな中東諸国のなかで、特異な発展タイプという意味合いでも異彩を放っているバーレーン。たしかに彼らも産油国(中東諸国のなかで最初に油田が発見された国!)。でも、その後に発見された周辺諸国の油田埋蔵量からすれば、彼らの埋蔵量はとても小さい。そのこともあって、バーレーン政府は、早くから石油精製へ進出していっただけではなく、金融、交易、観光といった、石油に左右されない複合的な産業を、粘り強く育てていったと聞きます。

 ということで、イスラム諸国のなかでも、バーレーンの社会文化はとてもユニークでモダンなのですよ。イスラムの戒律が厳しいサウジアラビアの人々が、週末にはバーレーンで羽を伸ばすというのも分かる。そして、そんな社会文化的なバックボーンは、もちろん、彼らのサッカーにも色濃く反映しているっちゅうわけです。

 ご存じの通り、これまで日本代表は、ワールドカップやオリンピック予選などで、彼らに苦しめられてきました。

 もちろん、日本というアジア強国との勝負マッチに臨むバーレーンは、強化守備からの必殺カウンターという現実的なゲーム戦術を徹底してくる。だから、とても闘いにくいことは皆さんもご承知の通りです。でも彼らが、勝負を意識し過ぎることなく、イーブンな(オープンな)サッカーを展開したときは(もちろん、このオーストラリア戦のように=特にその後半!=勝ちに行かざるを得ない・・という状況も含む!)、驚くほどクリエイティブな組織プレーを繰り出してくるのですよ。それは、まさに、攻守にわたるモダンな組織プレー。

 韓国とバーレーンが対峙したグループリーグ初戦。そこでも、韓国は、バーレーンのハイレベルなサッカーに苦しめられたよね。そして、この試合でのオーストラリアも。

 そこで、ハタと考えた。そんな、かなりイーブンなゲーム展開だったにもかかわらず、韓国は「2-1」でバーレーンを退け、この試合でのオーストラリアは、「1-0」でガッチリと勝ち切った。そして私のアタマには、その結果が、とてもフェアなモノだったという印象が残った。

 基本的な視点は、ボール奪取(そのプロセス)の量と質。そして、シュートチャンス演出(そのプロセス)の量と質。その評価基準(評価ファクター)で、明らかに、韓国とオーストラリアに、一日の長があったのです。では、そのバックボーンは、何??

 それは、簡単に言ってしまえば、攻守にわたる組織プレーの基本を、いかに忠実に、全力で精進できているか・・というポイントになるでしょうか。

 具体的なグラウンド上の現象としては、ボールを奪いにいくアクション(チェイス&チェック、マーキング、インターセプト狙い、協力プレスへの備え・・等々)や、攻めにおけるボールがないところでの動きにおいて、とにかく(コンビネーションへの強烈な意志として)『全力スプリント』の量と質に大きな差があった・・というポイントを挙げなければいけません。

 要は、韓国にしても、オーストラリアにしても、全員が、攻守にわたってサボらず、常に全力で「仕事を探しつづけている」っちゅうことです。だからこそ、瞬間的にターゲットイメージをアタマに描写できる。そんな「具体的イメージ」があるからこそ、それを達成しようとする意志の爆発としての全力スプリントが出てくる・・というわけです。

 たしかに、勝たなければならないバーレーンは、ものすごい勢いで押し上げていった。もちろん、その絶対的ベースは積極ディフェンス。でもオーストラリアは、それに輪を掛けた強力なプレッシング(積極的なボール奪取プレー!)で対抗していった。

 高い位置でボールを奪い返したバーレーンが仕掛けに入ろうとする・・ただ、いかんせん、バーレーン選手のイメージは、まだまだ単独で局面を打開していこうとする傾向が強い・・オーストラリア選手は、そんなバーレーン選手のイメージを見透かすように、強烈で忠実な意志の発露としての協力プレスの輪をスムーズに作り出してしまう・・

 ・・そんなだから、ボール奪取の量と質でオーストラリアが(もちろん韓国も!)優位に立ってしまうのは道理・・要は、バーレーンが、悪いカタチでボールを失うというシーンが続いていたということ・・それは、もちろん、バーレーン選手の、後方サポートアクションが足りないことを意味するだけではなく(意志パワーが足りない!)、ボールホルダーが、より孤立してしまうという現象を招く・・

 攻撃にしても、やはり、ボールがないところでの動き(スペースへの決定的フリーランニングや味方にスペースを作り出すフリーランニングなど)の量と質に差があると感じる。もちろんそれは、人とボールのクリエイティブな動きという、組織プレーの絶対的基盤の有意差となってグラウンド上に現れてくる。まあ・・たしかにバーレーンは、ドリブル勝負からのミドルシュートでは気を吐いていたし、組織的な崩しでも、何度かは可能性の高いシュートチャンスを作り出してはいたけれど、でも・・

 最後に、このコラムのロジック展開を基に、ちょっと提言めいたコトを書くことで文章を締めたくなった筆者なのです。

 それは・・組織サッカーこそが目指すべきベクトルであり、そのレベルをアップさせるために、例外なく全員に、上記した組織マインド(攻守にわたる忠実な汗かきプレーに対する=積極的に自分主体で仕事を探しつづけることに対する!=強烈な意志!)を活性化しながら闘うことが求められる・・ということです。

 本田圭佑が、メディアインタビューで、こんなニュアンスのことを言っていたそうな。

 ・・これからの自分の発展プロセスでは、守備に参加するという意味で、また、そこから素早く効果的に次の攻撃の流れに乗るという意味合いでも、タテの動き(上下動)の内容をいかに高めていけるのかというのが、もっとも重要なポイントになる・・

 そう・・まさに、そういうことです。

 その意味でも、このアジアカップが、本田圭佑にとって、ホンモノの(世界トップレベルへ向けて進化していくための)ブレイクスルー機会になることを願って止みません。

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 またまた、出版の告知です。

 今回は、後藤健生さんとW杯を語りあった対談本。現地と東京をつなぎ、何度も「生の声」を送りつづけました。

 悦びにあふれた生の声を、ご堪能ください。発売翌日には重版が決まったとか。それも、一万部の増刷。その重版分も、すでに店頭に(ネット書店に)並んだそうな。その本に関する告知記事は「こちら」です。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓しました。

 4月11日に販売が開始されたのですが、その二日後には増刷が決定し、WMの開幕に合わせるかのように「四刷」まできた次第。フムフム・・。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。岡田ジャパン(また、WM=Welt Meisterschaft)の楽しみ方という視点でも面白く読めるはずです・・たぶん。

 出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 




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