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2006_ワールドカップ日記・・ドイツの船出・・(東京新聞に2006年6月10日から7月10日まで隔日で連載したコラムです)・・(2006年7月12日、水曜日)

「そうだな〜、やっぱり、ドイツを誇りに思えたということなんだろうな〜」

 「今回のワールドカップでは、国内の期待が盛り上がらなかったにもかかわらず、結局ドイツ代表は最高の存在感を発揮したわけだけれど、そこで残ったモノでもっとも大事だったのは何だったと思う?」。そんな私の質問に、友人たちが、異口同音にそんなことを言っていました。そして、私のコラムでも何度か登場した商工会議所のディレクター、ラルフ・ダウメーターが、「例えばミヒャエル・シューマッハーがF1で世界チャンピオンになるとか、ポリス・ベッカーやシュテフィー・グラーフがテニスのウインブルドンやフレンチ・オープンなんかで活躍するとか、とにかく、スポーツでドイツ人が活躍したら嬉しいよ。まあ、それだけスポーツの影響力が大きいというわけだけれど、その意味では、やっぱりワールドカップのパワーはレベルを超えていた。まあ、地元開催ということもあったんだろうけれど、今回のように国旗が出てくるなんて、本当に今までになかったことだしな・・」という解釈を付け加えるのです。

 ワールドカップで活躍したドイツ代表は、ドイツ人にとって、確実にアイデンティティー(誇りに思えること)として機能していたということです。今回は、そのドイツ代表の開幕ゲームを取り上げたコラムです。

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 やはり、現実に目覚めたときのドイツは強い。自分たちは、個人の才能では明らかに限界がある・・美しさを求め過ぎるのではなく、最後の汗の一滴までも絞り出すような闘う意志を基盤にした忠実なサッカーこそが俺たちの本来の姿じゃないか・・。そんな覚醒だ。

 攻撃の実効レベルは、それぞれの選手たちが脳裏に描くイメージを、いかにうまくシンクロナイズさせられるかに掛かっている。ボールを持つ選手とパスを受ける選手の仕掛けイメージがうまく噛み合えば、チャンスの芽が実を結ぶ。この試合でのドイツがまさにそうだった。目覚めたからこその、互いのイメージがピタリと噛み合う、シンプルなサイドからの仕掛け。素晴らしい。

 とにかく、様々な意味で吹っ切れたドイツ代表が順調なスタートを切った。これでドイツ国内の雰囲気は、情緒的な期待も含め、急激な盛り上がりをみせることだろう。そこで忘れてはならないのは、安易に攻め上がったことで、きついカウンターパンチを喰らった日本とのテストマッチ。それが良い薬になったことは、ドイツチームの関係者も素直に認めている。

 日本戦の監督会見が終わった後、ドイツ語だけだったが、選手へのインタビューも行われた。そこで、ドイツ人記者から、こんな厳しい質問が飛んだ。「ドイツチームの個人的な能力は限られている・・ドイツがいいところまで勝ち進めるとは思えないのだが」。それに対してGKのレーマンが、「皆さんもご存じのように、現実をしっかりと自覚したときのドイツは強いんですよ」と、微笑みながら答えたものだ。

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 紙面スペースの関係でカットせざるを得なかった文章がありました。このコラムのテーマは「吹っ切れたドイツ」というものだから、それに「2002年ワールドカップ」のことを重ね合わせたのです。

 「2002年ワールドカップ。ドイツは、ショル、ダイスラーなど、次々とクリエイティブな選手たちを失っていった。メディアはネガティブなことを書きつづけ、ドイツの人々の興味も大きく減退していく。これ以上ないという程のどん底状態。そして、追いつめられたドイツチームは吹っ切れ、よみがえった。徹底した忠実ディフェンス。徹底したサイドからのクロス攻撃。そしてドイツは、決勝まで駒を進めたのである・・」ってな具合。

 東京新聞用のコラム執筆では、一つのテーマに沿った文章ブロックをいくつもランダムに書き連ね、それらのブロックを取捨選択して構成し直し、推敲するわけです。本当に、よいトレーニングになりました。
 



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