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2006_ワールドカップ日記・・やっぱりプロサッカーは、地域社会やそこに住む生活者のものだよネ・・(2006年5月23日、火曜日)

「最初の頃は、気合いを入れてチケット取りに奔走したけれど、途中から嫌になってしまったんだよ。決勝のチケットが、プレミアがついて3000ユーロ(約42万円)なら買えるよなんていうフザけたハナシも耳にしたからな。そんなことにエネルギーを使うのは馬鹿げたことだと思いはじめたんだ。それに、ドイツの大会なのに、我々に回されるチケットの割合もアンフェアなくらい低いしね・・」

 今日は、知り合いの知り合いが誕生日ということで、そのパーティーに相乗りさせてもらうことになりました。その「知り合いの知り合いの男性」は、前に何度か会ったことがあるけれど、私よりも向こうの方がよく覚えていて、「是非来てくれ・・」ということになった次第。

 皆さんもご存じのように、欧米人のホームパーティーは、彼らの生活文化に深く根を張っています。それこそが、地域社会や友人知人関係の接点という意味で、彼らのコミュニケーション文化を形づくっているのですよ。もちろんディベートに対するトレーニングという意味合いも含めてネ・・。まあ、個人主義が浸透しているからこその生活文化的な「アイデア」ということでしょうかね。個人主義が浸透しているからこそ、「社会的な結びつき」を、自分たち主体で積極的に高揚させようとするポジティブな姿勢。人は、やっぱり一人では生きていけない・・だからこそ、社会的な結びつきを常にメンテナンスしなければならないというわけです。

 地域社会の結びつきが低下し、それぞれの社会構成グループの「核ユニット化」が進行している日本でも、そんな積極的な社会性メンテナンスが必要な時期に来ている?! だからこそ、サッカーという、人類史上最強の「異文化接点」の存在感や意義が高揚してくれば・・なんていう期待をもちつづけ、思い上がりでも何でもいいから、とにかく、サッカーを媒介にしたコミュニケーションを活性化させるための「ネタ」を提供している「つもり」の湯浅なのですよ。

 さて、友達の友達の誕生パーティー。冒頭で紹介したのは、そこで知り合ったフランクの言葉でした。彼がつづけます。「俺たちが住んでいるのは、ドイツでもっともサッカーが盛んなノルトライン・ヴェストファーレン州じゃないか・・そこには、ルール工業地帯を代表するシャルケやドルトムントだけじゃなく、ケルンというワールドカップスタジアムがあるんだぜ・・それが、地元の観客がほとんどいない状態でゲームが行われるんだからな・・そのことだけでも白けちゃうよ・・もちろん運営組織は、大会がはじまれば、自然と盛り上がるだろうとタカをくくっているんだろうけれどな・・」。

 ドイツには、オペラやコンサートも含む「観劇」の文化が浸透しています。そんな背景もあって(?!)、ドイツのプロリーグである「ブンデスリーガ」の観客動員力もヨーロッパ随一だと高く評価されています。当事者意識や参加意識がかなり高い国民性だということ・・?! そんなことも、ワールドカップの現場観戦に対するニーズがものすごく高いことの背景にあるということなんでしょうね。でも、だからこそ逆に、不満や落胆の度合いも大きい・・。

 そんなこともあって、結局話題は、ワールドカップを素通りして、ブンデスリーガに集中するようになっていきます。そこでの話題の中心は、もちろん彼らが支持する地元の誇り、シャルケ04。より身近な、オラが村の誇り(≒アイデンティティー)ですからね。応援しようにも、現場に入ることさえ出来ないワールドカップと違って気合いの入り方が違う・・っちゅうわけです。もちろんドイツ代表が勝ち進めば、いやが上にも盛り上がるだろうけれど・・。

 隣に座るペーターが、フランクの発言を受けてつづけます。「昔は良かったよ。プロサッカーというイベントでは、地域に根ざしたファンが主役だと明確に実感できたからな。もちろん本当のところは、もっと複雑なんだろうけれどな・・。それが今では、主役はビジネスマンになってしまった。ドイツの大会なのに、そこを代表するビール産業やクルマ産業のスポンサーとして、アンホイザーブッシュ(バトワイザービール!)やヒュンダイ(自動車)といった外国企業が名を連ねるんだからな・・」。

 プロサッカーは誰のもの?? もちろんそれは、社会全体が共有すべき文化的な財産です。決して「株主やオーナー」の私有物ではありません。その原則が生きているからこそ、地域社会やそこに住む生活者にとって、様々な意味を内包するアイデンティティー(誇り)としても機能できるのです。そう、上記したシャルケ04のようにネ。だからこそ運営(経営)当事者は、「主役」である地域社会やその生活者を大事にしなければいけないのです。

 



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