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2006_ナビスコカップ決勝・・順当な勝利をおさめたジェフ・・また、芸術と競争力のバランスというテーマについても・・(ジェフvsアントラーズ、2-0)・・(2006年11月3日、金曜日)

「後半の8分から18分あたりで我々が作り出したチャンスをしっかりと決められていたら、ゲームの流れはまったく違ったものになっていたはずだ・・」。アウトゥオリさんの記者会見での弁ですが、タラレバとはいえ、確かにこの時間のアントラーズは、効果的なインターセプトから(まあ、その半分はジェフのパスミスといった方が正確かも!)堅牢なジェフ守備ブロックのウラを突けていた。

 抜け出した野沢がフリーでシュートを打ったり、右サイドの(新井場&野沢との)コンビネーションから抜け出した青木が、アレックス・ミネイロのアタマにピタリと合うラストクロスを上げたり(アレックスのヘッドは僅かにバーの上!)。とはいっても、ゲーム全体を俯瞰(ふかん)すれば、ジェフの勝利には確固たるバックボーンがあったと言わざるをえません。本当にジェフは、会心のゲームを展開したのですよ。

 「リーグで、アントラーズに4-0で勝ったわけだけれど、内容的には、このゲームの方が4倍も5倍も良かった・・何が良かったかって?・・それは、試合の主導権を握れていたことだ・・4-0で勝ったリーグ戦では、必ずしもイニシアチブを握れていたわけじゃないからね・・また(我々が志向する)いつもの自分たちのサッカーが出来たことに対しても心から満足している・・このような重要な勝負の場で、そのパフォーマンスを発揮できたことは本当に素晴らしい成果だった・・」。ちょっと編集しちゃったけれど、ジェフ監督アマル・オシムさんのコメントでした。

 いいね、「必然的」に良いサッカーを展開できたことに対する自信がみなぎっているじゃありませんか。反省や自戒も含め、アマル・オシムさんの学習能力「も」一流だと思いますよ。

 ジェフが展開したサッカーだけれど、まさにアマル・オシムさん言うとおり、攻守にわたって素晴らしく内容のあるダイナミックなプレーを展開していました。アントラーズのアウトゥオリさんは「効率という視点でジェフは良いサッカーを展開した・・」と表現していたけれど、堅牢な「マン・オリエンテッドな守備ブロック」をベースに、効率的に(高い位置で)アントラーズからボールを奪い返した次の瞬間には守備から攻撃へ切り替え、アントラーズ守備の薄い部分を素早く突いていくのですよ。そんなジェフだから、まあ効率的という表現が当てはまらないこともない!? フム・・。

 その「攻守わたる効率サッカー」だけれど、それを高みで安定させるためにもっとも大事になってくる要素は、何といっても、ボールがないところでのアクションの「量と質」です。要は、ボールがないところで勝負は決まるという普遍的なコンセプトのこと。ここでは攻撃にテーマを絞りましょう。

 パスレシーバーの動きの量と質という視点で、明らかにジェフに軍配が上がります。ボールを奪い返し、間髪を入れずに攻めへ転換していくわけだけれど、その流れに乗ってくるパスレシーバーの人数と、その勢いが、アントラーズよりも格段に多く、そして強烈なのです。その飛び出しの勢いには、「確信」という心理バックボーンがあると感じます。

 勝負ゾーンで、出来る限り多くの「数的に優位なシーン」を作り出す! それこそがジェフの真骨頂ということなんだろうね。そして実際に、フリーなパスレシーバーを演出しつづけるジェフなのですよ。

 そんなスピーディーでダイナミックな攻撃の絶対的なベースは、もちろんディフェンス。言わずと知れた、忠実なマン・オリエンテッド守備です。基本的にはオールコート・マンマーク。でも臨機応変に、効果的なカバーリングも機能させてしまう。そんな忠実なジェフ守備に対して、前回のリーグ戦同様、アントラーズは、まったくといっていいほどスペースを活用することができませんでした。

 その背景は、もちろんボールがないところでのアクションの量と質で劣っていたからに他なりません。いくらパスレシーブの動きを入れても、ジェフのしつこいマークを振り払えない・・また、パスをうまくコントロールして良い体勢でボールをキープできても、ジェフの忠実なマークを外してフリーになった味方(パスレシーバー)は皆無・・だから仕方なく、横パスや後方への足許パス(無為な安全パス)を回すしかなくなってしまう・・ってな具合の(擬似の!?)悪魔のサイクルにはまり込んでいたアントラーズだったということなのかもしれないね。まあ逆から見れば、ジェフの守備が、それだけうまく機能していたということなんだけれどね。

 もっとボールがないところでのアクションの量と質を上げなければ・・もっと全力ダッシュのパス&ムーブを繰り返さなければ・・もっと積極的にドリブル勝負を仕掛けていかなければ・・。個のチカラ(本来的な能力ベース)では、明らかにアントラーズに一日の長があるはず。だからこそ、ちょっと歯がゆい思いがあった湯浅だったのです。

 まあ、例によって深井は、ボールの有無に関係なく、素晴らしくダイナミックなチャレンジプレーを繰り広げていたけれどね。私は、野沢拓也のリーダーシップに期待していました。秘められた才能レベルは、自他ともに認めるところだからね。でも結局は、周りの流れに乗るだけで、主体的なリスクチャレンジ姿勢は出てこなかった・・。

 とにかく、全体的なサッカーの内容で、ジェフが順当な勝利を収めたといったナビスコ決勝でした。

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 ところでアウトゥオリさん。記者会見で、「守備のバランスを崩してまでも仕掛けていく勝負のポイントを探っていたが、そんなときに失点してしまった・・」という興味深い発言がありました。守備ブロックのバランスをギリギリまで維持しながら蜂の一刺しを見舞うという「一発勝負のゲーム戦術」で立ち上がり、そのなかで勝負を仕掛けていくタイミングを測っていたアントラーズだったということです。

 そしてハナシは、魅せるサッカーと競争力(コンペティティブネス)のバランスというテーマへと発展していく。

 アウトゥオリさんがよく使う「競争力」とは、チーム(グループ)戦術的な規律(規制)とプレーコンテンツ(相手に勝つための手段)だけではなく、個の能力が問われる局面での1対1の競り合いまでも含む「勝負を左右する要素」のことなんだろうね。そんな、勝負至上ファクターと、サッカーの美しさを演出する芸術的な要素との相克・・ってな具合なのです。まあ、美しさと勝負強さが高い次元でバランスした理想サッカーというテーマのことだよね。

 多分ブラジルと日本では、農耕民族と狩猟民族の違いとか、そのバランス感覚の多くの部分で「差異」があるんだろうね。例えば、美しさを標榜する才能集団に、攻守にわたる組織プレーという勝負志向の規制をかけなければならないブラジルに対し、組織プレーという基盤のなかで(個人責任ベースの!)リスキープレーへもチャレンジ「させなければ」ならない日本とかネ。クリエイティブなルール破り(チーム戦術を超越したリスクチャレンジ!)を志向するマインドを育成するのは、日本の社会体質では難しいというテーマも含めてネ。

 これに関する分析は錯綜したモノになるだろうけれど、アウトゥオリさんとは、是非一度、そのテーマに関するディベートの機会を持ちたいモノです。




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