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06_ジーコジャパン(77)・・ウクライナ以来のガチンコ勝負・・やはり本場ネーションとの厳しいアウェーこそが発展の糧・・(日本vsボスニア・ヘルツェゴビナ、2-2)・・(2006年2月28日、火曜日)

ウクライナ戦以来のガチンコ勝負という展開になったボスニア・ヘルツェゴビナとのフレンドリーマッチ。はじまった次の瞬間には、「ほぼ」アウェー環境での、本場ネーションとの「実が詰まった学習機会」が明確にイメージされ、まさにその通りのゲーム展開になっていったという次第。うれしかったですよ、本当に。国内での「ぬるま湯フレンドリーマッチ」じゃなく、やっぱり「こういった厳しい勝負」を何度も体感しなきゃ、絶対にチームは強くならないからね。そして、本場ネーションとの厳しい勝負だからこそ、中田英寿の素晴らしい価値が光り輝きもした・・。

 本場とのガチンコ勝負では、とにかく、様々な意味を内包する「自己主張」を前面に押し出し闘わなければ、確実に「淘汰」されてしまう。ということで、今回の書き出しは、試合前の記者席で起きた、あるストラグル(=struggle)から入ることにしました。それは、まあ、文化・文明的な衝突とも表現できるモノだったかな?! 

 コトは、こんな風にはじまりました。あるボスニア・ヘルツェゴビナのジャーナリストが隣に座ろうと、私に「ここは空いているのだろうか・・?」なんて質問する。記者席はほとんどが指定なしだから、早い者勝ち。私の隣の席は、既に日本のジャーナリストの方が日本の新聞を置いて確保している。だから私は、「知らないけれど、そこには人が来るはずだよ」と、一応は注意する。でもヤツらは、置いてある日本の新聞や書類を横にどけて、図々しくも座っちゃうのですよ。よっぽど言ってやろうと思ったけれど、そんな次の瞬間、ぶ然とした日本の記者の方が、その荷物を取りに来る。そして、ぶ然とした表情で、別の空いている席へ移動していく。それに対して、ボスニア・ヘルツェゴビナのジャーナリストは、我関せずと平然とした態度を貫く・・。

 もちろん、その日本人記者の方の態度は「大人」だけれど、そんな「テロ」を見せつけられたこちらは不愉快千万。それに、ソイツは周りの迷惑も顧みずにタバコまでプカプカ。ついに堪忍袋の緒が切れた湯浅は、「このままタバコを吸い続けるつもりかい? アンタの周りに座っているほとんどの人はノンスモーカーだと思うんだけれどね・・」と、ヤツを睨みつける。しばし「バチバチッ」と視線が交錯した後、ソイツは、「オー・・ソリー・・」とタバコを消した次第。

 狩猟民族は、自分がやりたいことを、「まず自分のやり方で」何としてもやり遂げようとする(なるべく少ない労力で効果的に達成しようとする)・・それが、様々な状況で無理と判断したときにだけ、その次の方策を考える・・もちろん、(常識で)許されるギリギリのところをスレスレに通っていくようなやり方でね・・。常識で許容されるギリギリの自己主張?! ここでいう常識って、「誰が見ても、誰が考えても、そりゃそうだよな(そりゃダメだよ!)」と思ったり感じたりすること・・なんていう風に定義しちゃいましょう。とにかく私は、ボスニア・ヘルツェゴビナの「テロ・ジャーナリスト」が展開した、社会的な協調性など微塵も感じられないエゴイスティックな自己主張を体感しながら、「この試合は、日本にとって厳しいモノになるだろうし、それこそが望むところだよな・・」なんて思っていた次第でした。

 ついでですが、そのことに関連して、ボスニア・ヘルツェゴビナのスルシュコビッチ監督も、試合後の会見で、「日本はフェアなプレーを展開した・・」と言った後、日本人記者の「日本はクロアチアに勝てるか?」という質問に対して、「この試合でのプレー内容ではクロアチアには勝てないね・・」と突き放していましたよ。それはそれで、非常に真摯なコメント態度だったから、私は、心のなかでスルシュコビッチさんに感謝していましたよ。そして同時に、この二つの言葉を結びつけていました。スルシュコビッチ監督がいう「フェアネス」っちゅうのは、限りなく、ナイーブ(=naive)というニュアンスに近いモノだろうな・・ってね。前述の「struggle」と、この「naive」については、スミマセンが、ご自分で辞書を引き、ご自分の判断で適当だと思う訳を付けてくださいネ。

 さて試合。前半は、日本が全体的なゲームの流れは制していました。でも相手守備ブロックの「ウラスペース」を突いてシュートチャンスを作り出すというところまではいけない。「個」では崩せないのだから、とにかく「組織」で仕掛けていかなければならない日本代表。そのためには、とにかく攻撃に人数をかけなければならないのに・・。たしかに、高原の迫力あるドリブル勝負からのシュートが飛んだり、小笠原のミドルシュートが枠内に飛んだりしたけれど、全体としては、消化不良といった展開なのです。

 そんな詰まり気味の展開のなかでも・・いや、全体として消化不良といった感覚だったからこそ、中田英寿のプレーコンテンツ(意志やイメージのコンテンツ)が光り輝いていたとも言える。まさに中盤の底に君臨する本物のゲームメイカー(本物のボランチ!)といった雰囲気じゃありませんか。もちろんミスもあるけれど、素晴らしく忠実で実効あるディフェンスを基盤に、ボールを持ったら、「まず遠いところ」をイメージしたリスキーな仕掛けにチャレンジしつづけるプレー姿勢には、前述した本場の自己主張がてんこ盛りなのです。ズバッと音がするくらい鋭いタテパスを最前線まで通したり、ドカン!と大きなサイドチェンジや勝負のタテパスを送ったり・・また、自ら(多くのオプションを生み出す!)ドリブルで仕掛けていったり・・。いいね。

 前半40分・・相手守備ブロックを深くえぐる日本の攻撃・・中田英寿からの仕掛けのタテパスと、高原との大きなワンツーを駆使した素晴らしい仕掛け・・また前半44分の先制ゴールにつながった(これまた相手ブロックを深くえぐる)仕掛けも、中田ヒデのタテパスが高原へ通ったことが起点になった・・そしてその仕掛けがキッカケで得たCKから(キッカーはもちろん中村俊輔)最後は、相手ゴールキーパーと競り合った高原のヘディングが決まった・・まあ「それ」は、相手GKのミスだったけれどネ。とにかくこの試合を通じて、攻守にわたって中田英寿が誇示した素晴らしいパフォーマンスは、やはり(様々な意味を内包する)チームリーダーは彼しかいない・・と確信させてくれる。

 そして逆転された後の、ミッドフィールドの選手交代(後半25分)。福西と稲本が代わり、小笠原と小野伸二が入れ替わる。たしかに、互いのイメージを有機的に連鎖させるまでに5-6分はかかったけれど、それがうまく回り始めてからは、やはりヤツらだな・・と感嘆させられるような力強い中盤を演出してくれましたよ。押し込まれる展開を、効果的なディフェンスを基盤に、まさに「順当」と言える勢いで押し返していく日本代表。仕掛けプロセスでのシュートへつながる危険度も、確実に上がりました。

 稲本潤一、小野伸二、中田英寿、中村俊輔。この四年間で、彼らもまた大きく成長しました。それは、黄金のカルテットと呼ぶにふさわしいところまで・・?? いや、それについては、まだ何とも言えない。たしかに全員の守備意識は格段に向上しているけれど、実際の「ボール奪取勝負コンテンツ」や「ボールなしの汗かきマーキング」等々、中盤ディフェンスの機能性を評価する際にベースとなるファクターの評価がまだ定まらない・・また誰が「前気味リベロ役」をこなすのか、全員が交代交代にこなすのかも分からない(このテーマについては、以前のコラムを参照してください)・・。

 また攻撃でも、互いの「使い、使われるメカニズム」がうまく機能するかも確かめられていない・・等々、とにかく確信を持てないファクターが多いのですよ。それでも私は、この試合でのカルテットのパフォーマンスに対して、大いなる期待を抱いていました。彼ら全員が、守備からゲームに入っていくことの重要性を認識していると感じるし、互いに使い、使われるメカニズムに対する理解度も高いと感じる・・。

 それ以外では、立ち上がり数分での大ピンチ(相手のクロスが、バルバレスに合いそうになったシーン)の原因について、ハーフタイムに、元ドイツ代表で、80年代から90年代にかけて世界屈指のストッパーという評価を欲しいままにしていたユルゲン・コーラー(現デュイスブルク監督)と話した内容が面白かったので少し紹介しましょう。

 彼はまず、「日本は相手よりも長くボールをキープしていたしラッキーなゴールでリードしたけれど、実質的なゲーム内容は、まったくの互角だったと思うよ・・逆に後半はボスニア・ヘルツェゴビナに攻め込まれるかもしれないぜ・・」と言った後、「立ち上がりのクロスからのピンチの場面だけれど、日本のディフェンダーのマークにミスがあったと思うかい?」という私の問いかけに対し、「そうだな・・とにかく最後の瞬間は、どんなことをしても、相手の身体をフリーにしちゃ負けなんだよ・・」とポツリと一言、名ストッパーとしての感覚的な感想を述べていました。要は、最終勝負に入る状況では、絶対に相手の身体をフリーにしてはいけないということです。どんなことをしてでも、相手の身体を、確実に「感じて」いなければならないということ。その方法は、選手によって千差万別だろうけれどね・・。

 この試合では、そのシーンだけじゃなく、後半にも二回ほど、バルバレスや他の選手に、タイミングの良いクロスをフリーでヘディングされるシーンがありました。要、ビデオチェック!

 最後はネガティブなコメントになってしまったけれど、とにかく、本場ネーションとのガチンコ(アウェー)マッチを、ヨーロッパ組が揃うなかで戦えただけではなく、最後は粘りの同点ゴールまで奪ったんだから(中村俊輔のタメと才能クロス・・そして中田英寿の冷静にねらいすましたヘディングシュートに乾杯!!)、また、本場ネーションとの「僅差」の本質が「内的ファクター」にありという事実と、このような厳しいフレンドリーマッチこそが成長のための本物の糧になるという事実を再認識できたのだから、私はとてもハッピーでした。

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 余談ですが、先週末に「はしご観戦」した今節のブンデスリーガについて、スポーツナビでレポートをアップしました。「そちら」もご参照アレ。ところで、私は明日、アメリカ経由で、今週末の「J開幕」に間に合うように帰国する予定です。いまは、ドイツ時間で28日の夜中。このレポートを書いているのは、エッセンという町です。明日のフライトはフランクフルトから。ということで、雪が降るなか、明日の朝には250キロを走らなければなりません。ちょっと不安だけれど、まあ良いクルマを借りたし、それにはスノータイヤも装着されているから・・。

 



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