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2006_ドイツサッカーコーチ連盟主催の国際会議(その2)・・エーリッヒ・ルーテメラーの分析報告・・また川端康生さんへのメッセージも・・(2006年8月4日、金曜日)

やっぱり、2006大会に関するエーリッヒ・ルーテメラーの(ドイツ協会が組織したアナライズチームの)分析内容についても、主なところだけは伝えておいた方がいいかな・・と思い直し、セルフモティベーション機能を全開にして、再びキーボードに向かった湯浅でした。

 エーリッヒ・ルーテメラーについては、もう説明の必要はないとは思うけれど、まあ、簡単に。彼は、プロも含む全てのコーチ養成コースの総責任者としてDFB(ドイツサッカー協会)と契約しているプロコーチ。実際には、私も卒業した最高レベルのコーチングコースを主に担当しています。また、UEFAとFIFAのテクニカル・コミティーのメンバーであり、メイン・インストラクターの一人でもあります。また2002ワールドカップでは、ルディー・フェラーのもと、ドイツ代表チームのコーチも務めました。

 今回のワールドカップでは、元ドイツ代表監督ベルティ・フォクツがリーダーになった分析チームにおいて、実際のフィールドワークと「まとめ作業」を担当したというわけです。彼自身も多くの試合を現場で観戦したけれど、我々メディアの人間とは「アクセスゾーン」が違うから、結局スタジアムで会うことはありませんでした。

 大会前は、(ドイツサッカー協会がある)フランクフルトに立ち寄る機会があったら電話をしろよな・・オレたちの仕事内容を見せられる思うから・・と言ってくれたけれど、いかんせん時間がネ・・。

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 また前置きばかりが長くなりそうだから、とにかく彼の講演の内容をかいつまんで紹介することにします。一枚だけ紹介する写真は、壇上の大ディスプレーに映し出された「まとめ」です。

 まず、プレイヤー基本ポジションのディストリビューション(配分)について。要は(数字で表される)システムなんて呼ばれているモノです。皆さんもご存じのように、ベストフォーに残ったうちの3チームがワントップで戦いました。ワントップとはいっても、それぞれのチームで役割のコノテーション(言外に含蓄される意味)は違う。もちろんそれは、仕掛けプロセスにおける、チームメイト間でのイメージシンクロ内容に差異があるということです(要は、パスコンビネーション、ドリブル、サイド攻撃、中距離シュート、ロングパスなどの戦術ファクターの使い方イメージが違うということ)。

 それに対してドイツだけは、クローゼとポドルスキーのツートップで戦いました。ただし、彼も言っていたように、あくまでも「それ」は基本的なポジショニングバランスに関するイメージ。実際の状況では、様々に(前後左右に)ポジションが入れ替わることは言うまでもありません。そんなハナシを聞きながら、やはり、いかに効果的なポジションチェンジを機能させることで「組織的な変化」を演出するのかというポイントがもっとも重要なテーマだよな・・なんてことを思っていた湯浅でした。

 次の大事なポイントは、ドリブラー。いかに彼らを、実効あるカタチで「チームワーク」に組み込んでいくのか。言うまでもなく、非常に重要なテーマです。個人的な総合力や戦術的なチーム力がある程度互角ならば、最後の勝負は彼らの「個のチカラ」によって決まるというケースが多いからね。とにかく、ドリブルに才能がある選手は、積極的にチームに取り入れていくべきだというアピールでした。

 もちろんドリブラーは「諸刃の剣」だよね。だからこそ、コーチにとって、優秀なドリブラーの「組織プレーへの効果的な組み込み」こそが、もっとも魅力的なチャレンジ(魅力的な仕事)というわけです。また別な視点から言えば、組織プレーを、いかにドリブラーの才能を最大限に活かす方向で機能させるのかがテーマになるとも言えます。エーリッヒのハナシを聞きながら、そんなことに思いを馳せていた湯浅でした。

 次はサイド攻撃。ドイツチームでは、シュヴァインシュタイガーとラームのコンビということになりますが、とにかくサイドでの「前後のコンビネーション」が、外側からの仕掛けの効果レベルを決める非常に重要なポイントになるという指摘です。

 そして、中距離シュートの重要性。この大会では、積極的にタテパスを送り込むなど、タテへの、素早くリスキーな仕掛けプロセスはそんなに多くはなく、どちらかといえば、ボールを奪い返した後、まずポゼッションをイメージするチームが多かったという分析があり、それが、カウンターゴールの数が大きく減った原因にあるという指摘がありました。まあ、だからこそ中距離シュートが重要な仕掛けツールになったという見方もできるわけです。通常の中距離シュートからのゴールの割合は「13パーセント」くらいだけれど、この大会では、その数字が「23パーセント」に跳ね上がったということです。「通常の」という表現の定義は明確ではなかったけれど、とにかく中距離シュートもまた、強化守備ブロックの対抗策として非常に有効だという結論でした。

 もちろん、最後は「バランス感覚」ですよ、バランス感覚。闇雲に打ちゃあいいってな姿勢はマイナスです。まあ日本人の場合は、自己責任を回避する傾向が強いから、どちらかといったら、打たない傾向を矯正する(積極的にチャレンジさせる)というのがコーチの仕事になるだろうけれどね。

 同じく、タテへのロングパスを効果的に活用して仕掛けていくケースも多かったという指摘もありました。要は、明確な意図をもって「セカンドボール」を狙いつづけるということです。ロングボールを放り込み、そこで「意図的に」流されたセカンドボールを拾ってシュートへいくといったプレーのことです。

 守備では、システマティックな「プレッシング」が目立ったという指摘がありました。とはいっても、ラインをどんどん上げるというのではなく、どちらかといったら下がり気味のラインをベースに組織的なプレッシング守備を仕掛けていく傾向が強かったということです。フムフム・・

 ドイツチームは、サイドからの(ペアを組んだ)仕掛けだけではなく、コンビネーションで抜け出して仕掛けていく個人勝負プレー、(ブレイク&ポジショニングバランスの繰り返しなど!)柔軟なポジショニングやカバーリングが効果的に機能するフォーバック、積極的なボール奪取勝負、そしてゴールキーパーのフィールドプレー要素などで、大会の「トレンド・セッター」の役割も果たしていたという(自信の)発言もありました。

 そして最後に、ドイツの課題として、攻撃の戦略的なイメージの進化だけではなく、成果(勝負強さ)と魅力(サッカーの美しさの演出)のバランスというテーマが提示されたというわけです。

 やはり、どの国でも最後に出てくるのは「バランス感覚」なのですよ。それが「偏った」とき、組織や個人の衰退がはじまるということです。もちろんそれは、チームの現場に限らず、組織のマネージメントなど、全活動領域に及びます。

 ドイツサッカーをリードするスタッフによる「そんな課題セッティング」を見ながら、ホッと胸をなで下ろしていた湯浅でした。美しさと勝負強さのバランス。それがないがしろにされたら、確実にサッカーが衰退していくからね。まあそれは、エーリッヒと話すたびに話題になったテーマだったけれど・・。

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 最後に、フリーランスライターの川端康生さんへのメッセージ。

 大会中のことでした。川端康生さんから質問されたのですよ。「湯浅さん、ボルシア・ドルトムントとかボルシア・メンヘングラッドバッハで使われているボルシアという言葉ですが、その意味をご存じですか?」。「いや、クラブの名称の一部として自然に捉えていたから、その正確な意味にについて考えたことはなかったですよ。そうか・・。言われてみれば、どういう意味なのか興味がわくよね」。

 ということで、メディアセンターで働くボランティアの方に質問するため、ちょっとインテリ風の男性に声を掛けました。彼は学生ということで信頼性は高かったのですが・・。「正確な意味を定義するのは難しいですが、まあ、いくつかの組織や個人などが『まとまる』という意味ですよね」と、その御仁が説明してくれました。

 ところが、それから一ヶ月以上が過ぎた昨日、私のコラムにも何度か登場している親友のウリ・ノイシェーファーと話しているなかでその話題になったとき、ウリがすぐに反応したのですよ。「そりゃ、大きな間違いだ」

 「ボルシアっていうのはラテン語で、ドイツ語のプロイセンのことなんだよ。英語ではプロシアだよな。18世紀にプロイセン王国が形成されたんだけれど、フリードリヒ大王のときにヨーロッパの一大強国になった。その後、ドイツ帝国の基盤になったこともあって、今でもドイツでは畏敬の念を持たれているというわけさ。もちろん、当時からライバルだったバイエルン地方には今でも嫌われる名称だけれどね。だから、強さの象徴として、プロイセンという呼称をクラブ名のアタマに付けるんだよ。プロイセン・ミュンスターというクラブもあるよな。まあ語呂が良くないから、プロイセンの代わりにラテン語のボルシアという呼称の方が多く使われているということなんだろうな。ちなみに、フォルツナ・デュッセルドルフなんかで使われているフォルツナっていうのは、英語のフォーチュンで、幸運を意味するよな」

 ナルホド。ということでした。この記事を読まれた方は、申し訳ありませんが、川端康生さんにもお知らせ下さい。では・・。
 



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