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2006_ヨーロッパの日本人・・中村俊輔、様々なイメチェンと抜群の決定力・・また、06年最後のマザウェル戦も追加・・(2006年12月30日、土曜日)

このところヨーロッパの日本人をコメントするモティベーションが大幅にダウンしていました。まあ、各人のパフォーマンスに大きな変化の予兆がないというのが、その理由だったんでしょうね。でも中村俊輔についてだけは、今年最後の景気づけということでレポートすることにしました。

 まず、1-0で勝利したフォルカーク戦(12月23日)。前半24分に決勝ゴールを挙げたのはトマス・グラヴェセンだったけれど、そのヒーローを取り囲む祝福の輪のなかに俊輔が入っていったとき、彼に気づいたグラヴェセンが俊輔に何か耳打ちしたのですよ。そして俊輔のガッツポーズと弾けるような笑顔。グラヴェセンは何を言ったのかネ・・。そのゴールは、確かに、俊輔の素早い判断ベースの、グラウンダーのサイドチェンジパスが起点になったけれど・・。とにかく、グラヴェセンと俊輔の間で起きていた「小さな出来事」こそが、チームマネージメントの重要なリソース(心理マネージメント・リソース)だと思っていました。

 中村俊輔に、そこで交わした会話の内容を聞いてみたいけれど、「その」雰囲気から感じ取れたのは、グラヴェセンが、中村俊輔をレスペクトしている(敬意を払っている)ということです。「あの」スーパー組織プレイヤーのグラヴェセンが認める「クリエイティブ・タイプ選手」。単にボールコントロールやフリーキックが上手いだけじゃ、決して「あの耳打ち」はなかったに違いないよね。

 このフォルカーク戦でも、高みで安定している「走り」の量と質をベースに、攻守にわたって、ボールがないところで「も」魅せてくれた俊輔なのでした。まあ、強烈な意志を叩きつけるような攻守にわたる(ボールなしの)全力ダッシュなど、「もっと、もっと出来る!」という不満は、部分的にはあったけれど、全体としては、実効ある組織プレーコンテンツを魅せつづけていたというのがフェアな評価でしょう。

 そんな攻守にわたる組織プレーのなかでは、特にボール奪取テクニックが俊輔の「隠し味」だと思っていました。このことは以前に何度か書いたことがあるけれど、俊輔には、相手がどのようにボールをコントロールするのかが明確に「見える」んだろうね。この試合でも、相手パスレシーバーとの間合いを、タイミングよく「スッ」と詰め、そのトラップやボールコントロールの方向を完璧に読み切ったアタックを仕掛けてボールを奪い返してしまうシーンを何度も目撃しましたよ。美しいインターセプトも、何度も成功させていた。まあ、「才能あふれるスリ」ってなボール奪取。ホント、上手いよ。

 そんな、攻守にわたる(汗かきの)組織プレーをベースにしながらも、要所のボール絡みシーンでは、誰にも真似できない実効プレーを魅せる。グラヴェセンが心底レスペクトするのも当然の成り行きっちゅうことでしょう。

 それにしても、シンプルなタイミングの(逃げではない)仕掛けパスと忠実なパス&ムーブがいい。要は、中村俊輔がコアになった効果的なコンビネーションが繰り出されるというわけだけれど、そんな組織プレーの流れのなかに、たまには、危険なドリブル突破やクリエイティブな「タメ(タメキープ)」といった個人勝負を散りばめるのだから相手はたまったものじゃないよね。

 次のダンディー・ユナイテッド戦(12月26日)でも、好調を維持していた中村俊輔。ゲーム立ち上がり早々の前半6分には、左サイドへ「進出」し、ベストタイミングでタテのスペースへ抜け出し、マクギーディーからのタテパスを受けてギリギリのダイレクトシュートを放ったりする(右サイドポストを数センチ外れた!)。

 今の中村俊輔は、右足キック(右サイドを魔法のフェイントで突破して右足クロス!)や、自らシュートするために決定的フリーランニング(パスレシーブの動き)をどんどん仕掛けていくなど、プレーイメージを広げつづけていると感じます。

 特に、シュートに対する積極性は特筆すべきことだろうね。狭いスペースでも、優れたテクニックで何とかシュートまで持っていってしまうし、スペースへ走り込む動きの流れのなかでピシッと叩く鋭いダイレクトシュートもある。

 前にも書いたけれど、いまの中村俊輔の「決定力」は、たぶん日本一なんじゃないだろうか。何といっても、キックに対する自信レベルが半端じゃないからね(決定力のバックボーンは心理的要素!)。中距離でも、とにかく打てば、必ず可能性の高いシュートになる。頼もしい限りです。

 また(ダンディー・ユナイテッド戦でも)守備でも存在感を魅せつづける中村。ボール奪取勝負シーンでの効果レベルが高揚しつづけていると感じます。前述した「読み」だけではなく、うまく身体を使うなど、接触プレーでの「強さ」も格段に向上したと感じるのですよ。だからこそチームメイトからの信頼度も際限なく高揚していく。それが、前述した、闘う個人事業主同士の、(要は、グラヴェセンと交わした)相互レスペクトシーンの背景にあるということです。

 ところで、このダンディー・ユナイテッド戦のゲーム展開だけれど、ホームにもかかわらず、リーグ順位で下位に沈んでいる相手に「0-2」とリードを奪われてしまうセルティックなのです。

 そんな状況で、またまた中村俊輔が、これまでとは何かが違うアグレッシブなプレー姿勢を前面に押し出すのです。縦横無尽に動き回ってボールに触る俊輔。そして、シンプルでスマートな仕掛けパスを繰り出すだけではなく、突破ドリブルや、相手を引きつける「タメ・キープ」など、リスキーなプレーにチャレンジしつづけるのです。

 右サイドから鋭いサイドチェンジパスを繰り出したかと思えば、次の攻撃シーンでは、左サイドでパスを受け、そのままドリブル突破にトライしたりする。また、ボールを奪われた後のディフェンスでも、「スリ」的なスマート守備プレーだけじゃなく、身体全体を使ったパワフルな(泥臭い)競り合いも仕掛けていく。ホント、そこで彼が魅せた逞しい「闘う意志」は、まさにイメチェンそのものでした。

 そんな積極的なプレーがあったからこそ、彼が絡んだ2得点(一点目は彼のフリーキックからオディーがヘディングシュートを決め、二点目は、俊輔マジックのループシュートが決まる!)は、まさに正当な報酬でした。

 それにしても俊輔自身が決めた、相手GKのアタマを越えるループシュートは美しかった。このシーンだけは、DVDに残しておくことにしよう。

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 年末の景気づけだからね、最後のマザウェル戦についてもレポートしちゃいましょう。とはいっても、中村俊輔の攻守にわたるプレー内容のポイントについては、前述したことでほとんどカバーされているはずだから、ここでは、仕掛け(最終勝負)イメージのリーダーという存在意義にスポットを当てましょうか。

 とにかく、このマザウェル戦でセルティックが作り出したチャンスは、そのほとんどが俊輔の創造性によって演出されたものだったのですよ。セルティックが挙げた先制ゴールにしても、スーパーな切り返し(カット)でマーカーを翻弄し、鋭く振り抜いた中村の中距離シュートを相手GKが取り切れずにファンブルしたところを味方のライオダンが押し込んだ「ゴッツァン・ゴール」だったからね。俊輔の「0.5点」ってなところ。

 それ以外でも、常に、前線への仕掛けというイメージを前面に押し出しながらボールをコントロールしつづける中村。そして、ワンツーで抜け出してラストパスや決定的なサイドチェンジパスを通したり、自らシュートへ持ち込んだり。

 ここで重要になってくる視点が、中村俊輔のプレーが、周りの味方の最終勝負イメージをも引っ張っている(リードしている)というポイント。彼が二列目でボールを持ったら、チームメイトが、ココゾとばかりに、脇目もふらずに決定的スペースへ走り込むなど、ボールがないところでの仕掛けの動きをスタートするのですよ。

 中村俊輔のボールコントロール能力が、「創造的なタメ」として最高の効果を発揮しているということです。だからこそ、俊輔の「タメ」によって、味方も余裕をもって(ボールがないところでの)決定的フリーランニングをスタートできる。また、中村俊輔がコアになった素早いダイレクトパスによる仕掛けフローでも、三人目の味方がしっかりと「反応」する。それこそが、中村俊輔が秘める仕掛けリーディングパワーに対する信頼の証というわけです。

 




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