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06_ヨーロッパの日本人・・まず稲本潤一と中村俊輔、そして中田英寿・・(2006年1月16日、月曜日)

実際のゲームの順番とは違うけれど(実際は、中村俊輔、中田英寿、そして稲本とつづく)、今週はまず稲本潤一からいきましょう。

 稲本の全体的なパフォーマンスだけれど、相変わらず高みで安定した守備的ハーフとしての機能性じゃありませんか。彼のプレーをキーワードでまとめると、こんな感じですかね。守備的ハーフとして優れたバランサー(チェイス&チェッカー、インターセプター、穴埋め、カバーリング・・等々)・・ココゾの全力ダッシュ(描写イメージの爆発)によるボール奪取勝負や着実なマーキング&カバーリング・・ボール奪取勝負での抜群の強さ・・速さも含めた身体能力の高さ・・攻撃でのシンプルな展開プレー・・そして機を見計らった最終勝負シーンへの飛び出し・・。

 特に、センターバックのムーアが退場になってからのプレーには、クリエイティブな判断と決断力に抜群の安定感が感じられましたよ。もちろんそれは、中盤ディフェンスでの存在感のベース。たしかに様子見シーンもあるけれど、その背景ファクターは前とはまったく違う。以前はイメージ空白状態もあったけれど、今じゃ、その背景に、確固たる「次の勝負に対するイメージ描写」があるということです。常に、「次のボール奪取勝負イメージ」を明確に描きながらポジショニングしているから、「空白」じゃなく「勝負エネルギーのタメ」と表現できるというわけです。だから、必要に応じて繰り出す全力ダッシュの「量と質」も以前とは段違いに実効レベルが高いというわけです。

 そんな稲本のプレーコンテンツを、監督だけではなく周りのチームメイトたちも高く評価し、深い信頼を置いていると感じます。そのことが、とても頼もしい。何せそこは、世界の強者たちが集うプレミアリーグですからね。そんな強者たちが、1対1の状況で対峙する稲本を「レスペクト」していると感じるのですよ。いいね・・。

 それにしてもウエストブロムウィッチ・アルビオンはよく勝った。何せ現在リーグ6位のウィガンとのアウェー戦だし、ジャマイカ代表のムーアが、自らの愚行ファールで退場になったにもかかわらずですからね。たしかにウエストブロム全員がよく頑張ったけれど、特にGKのポーランド代表クシュチャクが凄かった。まさに神懸かりのセービングを連発したのですよ。1970年代、ポーランドには、世界サッカー史に残るスーパー・ゴールキーパーがいました。ヤン・トマシェフスキー。クシュチャクが繰り出しつづけたスーパープレーに舌鼓を打ちながら、同じポーランドということで、すぐにトマシェフスキーの名前が浮かび上がったという次第。彼については、日本代表が2002年3月にアウェーでポーランドと対戦したときのレポートでも登場します。「あのゲーム」は、様々な意味で私にとって記念すべきものでした。だから「リンク」張っちゃいます。あっと・・それから、そのポーランド戦が行われたウッジという町へたどり着くまでのプロセスも面白い経験だったっけ・・。その経験も写真付きでレポートしたのですが、もしよければ「それ」もご参照あれ。

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 さて次は、ホームにキルマーノックを迎えた中村俊輔。まず、「あること」を象徴する「このシーン」から入りましょう。

 「それ」は、前半18分のことでした。セルティックCKのシーン。ファーサイドでこぼれ球に追いついたマクマナスが、後方に控えていた中村俊輔にヘディングでパスを送ります。ボールをコントロールする中村。ただ、グチャグチャに両チーム選手たちが入り乱れる相手ゴール前へのラストパス(クロス)よりも組み立て直し(いったん落ち着くこと)をイメージした彼は、そこから後方へバックパスを回すことを選択します。でもそのパスが狙われていた。またパスコースも微妙にズレてしまった。後ろ向きという悪い体勢で中村のバックパスを受けざるを得なくなったセルティック選手の背後からは、全力ダッシュのキルマーノック選手が迫っている。これでは、そのパスを受けたセルティック選手が、仕方なくダイレクトで最終ラインへボールを下げざるを得なくなるのも道理。結局、そのバックパスを受けたセルティック最終ラインの選手にも相手の全力ダッシュが迫ったことで、ボールはゴールキーパーまで戻されてしまったという体たらくでした。要は、中村のバックパス「ミス」によって、セルティックが攻撃を最後方から組み立て直さざるを得ない状況に陥ってしまったということです。

 ただそこから、中村俊輔のプレー姿勢が光り輝くのですよ。バックパスを出した瞬間、彼は、「アッ・・マズいカタチになっちゃった・・」と意識したに違いない。そして次の瞬間、自軍ゾーンへ向けて、右タッチライン際を全力ダッシュで戻っていったのです。もちろん、自分の「判断ミス」が原因でネガティブ展開になってしまった責任をとる意味も含めた(ボールがないところでの)リカバリープレー。ものすごい勢いでしたよ。だからこそ、バックパスを受けたセルティックGKにも、そんな中村の戻りアクションがよく見えていた。一瞬逆サイドを見たゴールキーパーは、すかさず、中村俊輔へパスを出していました。

 この状況をまとめると、こうなります。セルティックのコーナーキック・・そのこぼれ球を中村俊輔がバックパスしたことで、逆にキルマーノックにカウンターチャンスが生まれる・・実際にボールはキルマーノックのゴール前からセルティックのゴール前まで戻されてしまっている・・この状況では、キルマーノック全体が押し上げてくるのは当然のこと・・もちろんセルティック選手たちも戻ってくる・・要は、その時点で両チーム選手たちのポジショニングが、グラウンド全体に「伸び切った」状況にあったということ・・。

 そして中村俊輔。彼は、そんな状況を、全力で「戻りながら」明確にイメージ描写していたに違いありません。そして、ゴールキーパーから送られたボールが中村に到達するまでに、そのイメージが、実際のプレー現象としてグラウンド上に投影される・・。

 この状況で、中村には、もう一人のキルマーノック選手が迫っていました。この相手選手はもちろん、前からのプレスと相手ゴール前でのボール奪取をイメージしています(自分が奪い返せなくても、中村にプレッシャーを掛けることで周りの味方がボールを奪い返してくれるという確信ベースのプレッシャー)。でも中村のイメージは、相手を完璧に凌駕していたのですよ。中村は、身体をひねりながら、ズバッという音が聞こえてくるくらい鋭いモーションで、自分の背後にいる(要は、中村よりもキルマーノック側にいる)味方へのダイレクトでのタテパスを決めてしまうのです。そしてもちろん、鋭い「パス&ムーブ」が連続する。そのダイレクトタテパスを受けたセルティック選手にも相手選手がプレッシャーを掛けていたけれど、中村との「ワンツー」が決まったことで、プレスを掛けにきた二人のキルマーノック選手たちが置き去りにされてしまうのです。

 コンビネーションはつづきます。ワンツーパスを受けた中村は、そのまま、両チーム選手たちが「伸び切って」しまったことで中央ゾーンでフリーになったペトロフへの素早い「コントロール&パス」を決めてしまう。とにかくこの一連のプレーで、中村俊輔は、セルティック全体に「プレーリズム・イメージ」を与えたと確信している湯浅なのです。その後、中村からのパスを受けたペトロフは、最前線に張るハートソンとのダイレクト・ワンツーを決め、どんどんとボールを逆の左サイドへ運びつづけ、最後は、最後尾からオーバーラップしてきた(多分)ウォレスへのタテパスが決まり、そこから決定的クロスがキルマーノックのゴール前へ送り込まれたという次第。

 この25秒間にもわたる一連のプレーで言いたかった「あること」とは、いまの中村が、セルティックの中盤リーダー(仕掛けリズムの演出家)としての存在感をより浸透させられるところまで発展しているということです。だからこそ私は、敢えて、「もっと・・もっと・・」と言いたいのです。続けざまのフリーキックで大逆転ドラマのヒーローになった前節だけではなく、素晴らしいドリブルシュートをぶち込んで勝利の立役者になった前々節でも、そんな天才ヒーロープレー以外のプレーでは、ちょっと不満もあった湯浅だったのですよ。「ちょっと左サイドに張り付きすぎ・・もっと積極的にセンターへ出ていくなどの要求プレーを前面に押し出せば、もっとボールがうまく集まるだろうし、中村がリードする仕掛けコンビネーションも演出できるじゃないか・・もっともっと声を出したり派手なアクションでデモンストレーションすることでリーダーシップを発揮しなければ・・」なんてネ。それがこの試合では、(前半の中盤過ぎになってから)彼が中央ゾーンでリードする素晴らしい仕掛けがより頻繁に観られるようになっていきました。

 運動量にしても(ボールがないところでのプレーコンテンツ!)、守備での貢献度にしても、ボール絡みの「魔法」にしても、全体的なパフォーマンスはそれなりの発展をつづけている中村俊輔。ここからは、リーダーシップという「具体的テーマ」をもってチャレンジをつづけて欲しいと思っている湯浅なのですよ。安全欲求やサバイバル、愛情や社会的ポジションなど、ある程度のベースを整備した中村俊輔。もう彼の場合は、「自己実現領域でのアクション」を活性化させていくしかありません。その絶対的なベースは彼自身の意志ですからね。もちろんそれは、厳しい闘いが控えているワールドカップでの日本代表チームにおいても活きてくるはずです。オーストラリアやクロアチアとの勝負マッチでは、必ず意気消沈する時間帯がくる・・そのときにこそ自分主体のリーダーシップの真価が問われる・・中田英寿、稲本潤一、そして小野伸二や他のチームメイトたちとの「ポジティブなスピリチュアルエネルギーのぶつかり合い」がなければ、確実に日本代表は悪魔のサイクルに落ち込み、そのネガティブチェーンを断ち切ることはできない・・。だからこそ、闘うリーダーシップが求められるのです。

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 さて最後は中田英寿。攻守にわたってまあまあのプレーコンテンツだったから、さてこれからペースアップしていくぞ・・というタイミングでの二枚目イエローが残念で仕方ありませんでした。でも「あのシーン」は全くイエローじゃなかった。ボールを持ったベントリーの「切り返し」を読んだ上での足出しでしたからね。ちょっとタイミングが遅れてベントリーの立ち足と接触しただけだし、すぐに足のチカラを抜いたのに・・。中田のアタックイメージは、確実に「ボールに触れる」というものだったけれど、それがほんの少しタイミングが遅れた・・要は相手のベントリーを引っかけてやろうという意図はまったくなかったということ・・あの場面で、切り返しを予測して足を出さないのだったらプロの資格なし・・ってなことだよね。そんな日常茶飯事シーンだったけれど、ベントリーの痛がり様がシリアスだったことで(たしかに痛かったとは思いますよ)、コトが荒立ってしまった。まあ、ホントについていない。

 ズバッという勢いがあるチェイス&チェックアクション・・全力ダッシュでのインターセプトアクションやマーキングアクション・・攻撃でも、シンプルなサイドチェンジパスや仕掛けのタテパス、はたまた最終勝負コンビネーションの仕掛けパスといったリスクチャレンジ姿勢を前面に押し出す積極プレー・・等々。「そこまで」の中田のプレー姿勢と実効レベルからは、これからペースアップしていくというエネルギーがみなぎっていました。だから、本当に残念。

 それにしても、またまた中田は、逆境と対峙している?! その背景ファクターには、アラダイス監督の中田に対する高い要求レベルがあるわけだけれど、私はそれを、ものすごくポジティブな流れだと思っているのですよ。中田は、そんな「逆境」を、自身のモティベーションとして必要としているからね。オレに対する評価を見直させてやる! そんなチャレンジャースピリット。これまでの中田は、何度も、本当に何度も、そんな「逆境」を跳ね返してきたからね。そこに彼のプライドがあるというわけですよ。だからこそ最高のモティベーション。今回の退場劇にしても、状況が悪くなればなるほど、中田の「反撃エネルギー」も冷静にヒートアップしてくるだろうから、私はポジティブに捉えているというわけです。脅威と機会は表裏一体・・。

 まあ、とはいってもネ・・この二つのイエローカードシーンでのアタックタイミングは、ちょっと遅れ過ぎでしょう。中田も、ビデオなどを駆使した、ボール奪取勝負イメージの調整トレーニングが必要かもしれないね。




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