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2006_チャンピオンズリーグ決勝(バルセロナ対アーセナル、2-1)・・アッ! サッカーの典型的な「勝負の展開パターン」が覆された!!・・(2006年5月18日、木曜日)

この試合で、もっとも重要だったシーンは、何といっても、後半24分にアンリが外した決定的チャンスだったよね。それは、一点をリードするアーセナルにとって、絶対的な「突き放しゴール」のチャンス。それが決まっていれば、もちろんバルセロナは万事休す・・。

 その決定機とは、こんなシーンでした。タテパスを受け、まったくフリーで、飛び出してくるバルセロナGKと対峙するアンリ。誰もが、「あ〜あ、これで試合は決まったな・・」と確信した瞬間でした。でも、狙いすましたサイドキックのシュートは、セービングしながら飛び込んだバルセロナGKの懐にピタリと収まってしまうのですよ。ホントにビックリした。そしてすぐに、「これは、サッカーの神様は、もう一発、オレたちの度肝を抜こうとしているな・・」なんて、大いに期待が高まったモノです。何せ、そこまでの展開は、完璧にアーセナルのツボにはまっていましたからね。もしこの「突き放しゴール」が決まっていたら、サッカーの歴史に何度も刻み込まれた、サッカーでは典型的な「勝負の流れを決める展開パターン」の確率高さが再認識されていたはずです。

 さてゲーム。前半17分のことでした。互いに注意深く立ち上がっていたゲームの流れのなかで、一瞬のひらめきでバルセロナが決定機を演出します。エトーとロナウジーニョの天才コンビ・・。

 ハーフウェイライン付近でボールを持ったエトーが、素早く前方のロナウジーニョへパスを出し、例によっての忠実なパス&ムーブでタテへ走りながらロナウジーニョを追い越していく。イメージするのは、もちろん、アーセナル最終ラインの背後に広がる決定的スペースでのパスレシーブ。そして、この忠実なアクションが報われる。エトーが決定的スペースへ抜け出そうとした瞬間、ロナウジーニョから、「これしかない!」というタイミングでスルーパスが放たれたのです。完璧にフリーでボールを持つエトー。そして、飛び出してきたアーセナルのドイツ代表GKレーマンのセービングを軽くかわして先制ゴールへ・・と、誰もが確信した次の瞬間、レーマンが伸ばした腕がエトーの足を引っかけてしまうのです。

 決定的シュートシーンを意図的なファールで阻止したんだからネ、もちろん「レッドカードで即退場」なのですよ。レーマンもそのことを知らなかったはずはありません。彼だったら瞬間的にその判断がつくはずです。まあ実際は、願わくばファジーな「見え方」で、イエローで済むことを願っていたんだろうけれどネ。

 でも私は、その後のゲーム展開を観ながら、レーマンが繰り出した「あの引っかけアクション」が、何らかの「明確な意図」をもった瞬間的な判断だったのかもしれない・・なんて思いはじめました。レーマンは、瞬間的に、「相手は強力なバルセロナ・・ここで失点したらジリ貧になってしまう・・とにかく、何としても失点だけは防がなければならない・・」という判断で、危険なアクションを繰り出したのかもしれないと・・。

 その後のアーセナルは、完全に、「やることは一つ」という深いプレーイメージで完璧にまとまったと感じました。素晴らしいポジショニングバランス・オリエンテッド守備ブロック(例のボックス的なゾーンディフェンス)。そして、忠実で爆発的なチェイス&チェックアクション(守備の起点プレー)をベースに、互いのポジショニングを完璧にバランスさせた効果的なボール奪取勝負を繰り広げる。

 トゥーレ、エブーのコートジボワール代表コンビ、キャンベルとコールのイングランド代表コンビ、そしてジウベルトとファブレガスのセンターボランチコンビと、フレブ、リュンベリのサイドハーフコンビが、抜群に忠実でダイナミック、そしてクリエイティブな中盤ディフェンスを展開するのです。そしてそれが、前半37分、アンリが放ったフリーキックからの「ここぞの集中力」を発揮したキャンベルのヘディング先制ゴールにつながる・・。

 「あの瞬間」、そこまでレーマンがイメージしていたとは言わないけれど、とにかく「先制失点」が、バルセロナと戦うアーセナルにとって致命傷になるという瞬間的な感覚は正しかったわけですよ。そして、一人足りないという危機感がサッカーの方向性をソリッドに統一し、それに対するチーム全体の集中力を極限まで高めていった・・。まさに、機会と脅威は表裏一体という普遍的コンセプトを地でいくような展開じゃありませんか。

 ものすごく堅牢なアーセナル守備ブロック。いくらバルセロナでも、そう簡単に崩せるはずがありません。何度も、何度も、タテのスペースへチャレンジし、そのたびに跳ね返されてしまうバルセロナなのです。もっとサイドから・・もっとシンプルなロングボールやアーリークロスを・・もっと中距離シュートを・・。バルセロナを支持する私は、心のなかで、そんな「攻撃の変化」を叫んでいました。

 それでも、前半の終了間際には、ロナウジーニョからの一発タテパスを受けたエトーが、決定的シュートチャンスを作り出してしまうのですよ。例によっての「足首トラップ」で、一瞬のうちにマークするキャンベルを外し、そのままシュートを放ったのです。たしかに、アーセナルGKが伸ばした手に当たったボールは左ポストを直撃してしまったけれど、「あんなどツボにはまった展開でも、一瞬のヒラメキでシュートチャンスを演出してしまう天才たちに、舌を巻いていた湯浅だったのです。そして、後半への期待も高まっていく・・。

 でも後半は、「サッカーの典型的な・・」というゲームの流れがより先鋭化していくのですよ。これは、バルセロナは難しいな・・。そんなことを思いはじめたときに飛び出したアンリの決定的チャンスだったというわけです。あっと・・、その3分前にも、タテパスを飛び出したリュンベリがシュートを放つというアーセナルのチャンスはあったけれど、やはりアンリのチャンスの方が絶対的だったから・・。

 そんな微妙な「流れの変化」が、またライカールト監督が打ち出した選手交代が(イエニスタ、ラーション、ベレッチの登場)、カチッと決まったゲーム展開イメージの枠組みを微妙にほぐしていったということなんでしょう。とにかく、交代した選手たちが目立ちに目立っていたからね。要は、交代したフレッシュマインドの選手たちは、それまでの「試合展開のイメージ呪縛」に影響され難いということ。それこそが、ライカールト監督の意図するところだった・・。

 それにしても、ラーションのアシストは見事だったし、同点ゴールと勝ち越しゴールを挙げたエトーと(交代出場の!)ベレッチのパスレシーブの動きは素晴らしかった。バルセロナ選手たちは、優れたサッカーが「クリエイティブな無駄走りの積み重ね」だと、心底理解しているということです。だからこそ、10本の1本の決定的チャンスをしっかりとモノにすることが出来る。ライカールト監督が為した優れた仕事に対して心からの拍手を送っていた湯浅でした。

 久しぶりに、美しさと勝負強さが素晴らしく高い次元でバランスしたチームが頂点に立った。本当に良かった・・。

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 さて、湯浅は、今週の土曜日にはドイツへ向かいます。私のビジネスも含め、色々と事前にやることがあるし、出来る限り多くの「プレマッチ」を観たいし・・。

 今回は、出来るかぎり「写真付き」でコラムをアップする予定です。ご期待あれ。では・・。

 



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