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05_ジーコジャパン(72)・・まず怒りを吐き出してから分析に入りました・・(ウクライナvs日本、1-0)・・(2005年10月12日、水曜日)

「えっ!? ウソだろ・・あのヤロ〜、ホントにPKにしやがった!」。そのとき思わず、そんな口汚い罵りの言葉が口をついていましたよ。この試合のレフェリーは、まさに「偏りホイッスル」のオンパレードだったから、「アイツは、虎視眈々とPKにするチャンスを狙っているよ・・レフェリング内容からも明白だな・・」、隣に座る後藤健生さんに半分冗談でそんなコトを話しかけたものです。でも、まさか本当に・・。

 記者会見でのジーコも、怒り心頭に発していました。「まずレフェリーを呼んできて欲しい・・とにかく彼の真意を正すのが先決だ・・この試合は、あのレフェリーに盗まれた・・だから、このままでは試合のコメントはしない・・ラトビア戦については成果はあったと思う・・でも、このウクライナ戦は、すぐに忘れたいゲームだ・・これまで我々が為してきた血のにじむような努力が、あのレフェリー(そのアンフェアな意図!?)によって台無しにされてしまったことが残念で仕方ない・・等々」。この怒りは、まさに本物でした。その本格的な憤怒の雰囲気は、誰も真似できるモノじゃありません。何せ、彼は「ジーコ」なんですからね。昨年のドイツ戦の後でも、ドイツメディアの仕切り屋の一言に、「無礼者!」なんていうニュアンスの憤りを表現したのですが、その仕切り屋さんが「スミマセン」と謝っただけではなく、ドイツメディアも、ジーコの迫力に気圧されていましたからね。その圧倒的な雰囲気は、まさに「世界」なのです。

 冷静に分析しても、本当に残念な(理不尽な)結末になったと感じている方々がほとんどだと思います。日本代表が、あれほど立派なサッカーを展開していたのに・・。私は、記者会見の後すぐにホテルへ帰ろうと、タクシーを拾うために雨が降っている外に出たのですが、そこで目にしたのは、まさかの大渋滞。キエフの町中はいつも渋滞しているのだけれど、そのときは尋常じゃなかった。もちろんタクシーなど拾える状況ではありません。渋滞が微動だにしないのですからね。仕方なく、ホテルまで30分以上かけて雨の中を歩くことにしたわけですが、途中で大渋滞の理由が分かり、また怒り心頭に・・。信号機が働いていない交差点があり、そこに四方八方からクルマが入り込んで身動き取れない状態になっていた・・また信号が機能している交差点でも状況は同じだった・・ルールを守ろうとする者は一人もいないのだろうか?・・。そして私は、そんな状況を横目で睨みながら、革ジャンをアタマからかぶってスタスタ歩き続けていたというわけです。そんなわけで、このコラムは、どうしても怒りを吐き出さなければ書き始められなかったという体たらくだったのですよ。さて、ちょっと落ち着いた・・。

 ウクライナですが、このゲームに臨んだメンバーは「二軍」でした。勝負の試合で先発に名を連ねるのは、このなかの四人くらいだと、斜め前に座っていたウクライナのジャーナリストが教えてくれました。それでも、そこはウクライナ。強いことに変わりはありません。数日前に対戦したラトビアよりも一回りも二回りも手強い。相手にとって不足なしじゃないか・・これこそが、フットボールネーションと戦う本物のアウェーゲームなんだ・・だからこそ素晴らしい学習機会になる・・」なんて、立ち上がりの展開を観ながら思っていたモノなのですが・・。

 とにかく両チームともに、守備が(中盤ディフェンスが)しっかりとしている。中盤守備がまったく機能していなかったラトビアに比べ、ウクライナにしても日本にしても、さすがに、ルーズとタイトの「予測マーキングのコツ」をしっかりとわきまえていると感じていました(日本・ウクライナともに、ボールホルダーに対するプレッシャーの量と質がラトビアの比ではない!)。だから、立ち上がりから、激しい中盤のつぶし合いになったというわけです。もちろんディフェンス主体の受け身のつぶし合いではなく、次の積極的な仕掛けを意図したボール奪取勝負の繰り返しだから、ゲーム自体はエキサイティングそのものなのです。まあ、パワー的にウクライナにちょっと分があるし彼らのホームゲームということもあるから、序盤は、ウクライナの方が優位に立っているように見えたでしょう。実際には、まさに互角だったわけだけれど、湯浅は、時間の経過とともに、攻守の「実効レベル」で、日本の方がウクライナを上回りはじめたと感じていました。たしかに頻度ではウクライナに劣るかもしれないけれど、ひとたび仕掛けがスタートしたら、しっかりと人数をかけ、うまく組織コンビネーションを機能させる日本なのですよ。仕掛けの「質」では、日本の方が確実に上だったのです。

 仕掛けのタテパスからの(タイミングの良い押し上げによる)組織コンビネーションやサイドチェンジパスを活用して徐々にペースを握っていく日本代表。中田英寿のリーダーシップや(まず守備、そして攻撃でも率先して相手に仕掛けていく役割を担っていた!)、中村俊輔の魔法も冴えはじめます。そんななかで、サイドからのクロスや、そこからのバックパスで中距離シュートを狙うといった変化のある仕掛けも出てきます。中村俊輔が出した、左サイドに開いた柳沢への素晴らしいアタマ越えのロビングパスは秀逸でした。そのシーンでは、柳沢が完全にフリーでラストクロス(グラウンダーのトラバースパス!)を出せるという絶対的なチャンスになったのに・・。また前半36分には、ヘディングでの折り返しが中田英寿にピタリと合ういった、ウクライナ守備ブロックを振り回すようなチャンスメイクもありました。そんな日本に対し、ウクライナの仕掛けはパワー主体。効果的なサイドチェンジを活用した大きな展開から早いタイミングでクロスを「放り込む」という発想です。でも、この日の日本代表の守備ブロックは、まったく崩れる気配がありませんでした。

 そんななかで起きた、中田浩二の退場劇。ラトビア戦では、サイドから「中」に入ったことで、どうも抑え(守備での起点機能)が十分に効いていないと感じたわけですが、この試合では、そんなネガティブな印象を完全に払拭してくれました。素晴らしい「中盤の底ぶり」でしたよ。だからこそ、中田英寿、稲本潤一、中村俊輔が、縦横無尽に、ボール絡みでも、ボールのないところでも実効あるディフェンスを展開できた。だからこそ、最終ラインが崩れる気配もなかった。そんな素晴らしいディフェンス機能性のコアになっていた中田浩二の不可解な退場ですからね、アッタマに来ていたというわけです。

 そしてそこから、日本代表は、新たなテーマに取り組むことになるというわけです。一人足りないという逆境を耐え、カウンターやセットプレーなどのハチの一刺しでウクライナを葬り去るという目標イメージ。そこからのジーコの采配も見事でしたね。柳沢と箕輪を交代しスリーバックにする・・どうも良いプレーが高みで安定せず、ポカが多いアレックスを下げて村井を投入する・・そして、ちょっと疲れが見えはじめていた中村俊輔の代わりに松井大輔を投入する・・。それによって日本代表のサッカーが明確に活性化しはじめたと感じました。要は、中盤ディフェンスの機能性が再び高揚しはじめたということです。そしてゲームが、ホンモノの勝負の雰囲気をかもし出してくる。それこそガチンコ勝負。本番のために、これ以上ない学習機会になるはずだったのに・・。まあ仕方ないけれど、選手たちは体感していたはずです。前半での「盛り返し」と、数的に不利な状況をはね返せるところまで再び自分たちのサッカーを盛り返せたことによる自信の深化・・。

 最後に、個人を何人か採り上げます。まずアレックス。全力でのディフェンスや吹っ切れた仕掛けでは、素晴らしい能力を誇示するシーンも多々あります。ただ逆に、完全に「気抜け」のプレーも目立ち過ぎます。要はパフォーマンスが不安定だということ。私はレッズの試合で、その不安定さに何度も舌打ちをしたものです。それは、自分の高い才能に恵まれているが故の「傲慢さ」に他なりません。ボールがないところでの不誠実なディフェンス・・ボールの無為なこねくり回し・・ボールがないところでの「パスを呼び込むフリーランニング」を仕掛ける姿勢の欠如などなど・・。一つひとつは小さなことかもしれないけれど、チームにとっては致命傷になりかねない・・。やはり彼には、心理療法士が必要なのかもしれない・・。

 次に稲本潤一。良かったですよ、この試合でのパフォーマンスも・・。特に、守備から試合に入っていたこと・・攻守にわたって、全力で「仕事を探し続けた」こと・・攻撃でも吹っ切れた勝負ができていたこと・・等々、ラトビア戦での復活劇がホンモノだったことを如実に証明してみせました。やはり、自ら仕事を探しつづけるというプレー姿勢が大事です。それが、攻守にわたる全力ダッシュの量と質に如実に表現されてきます。全力ダッシュは、イメージ(意図)が集約されたアクションに他なりませんからね。その意味で、稲本のプレー姿勢に、久しぶりに本来のダイナミズムを感じていた湯浅だったのです。

 ラトビアとウクライナの二連戦。結果はついてこなかったけれど、内容的には、素晴らしい成果がありました。前述した、選手たちの「体感コンテンツ」は貴重ですよ、ホントに・・。まだまだメモは尽きませんが、今日はこんなところにしておきます。

 さて湯浅は、明日ドイツへ戻り、今週末はハンブルクとケルンのブンデスリーガマッチを観戦する予定です。ではまた・・

 



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