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ジーコジャパン(55)・・本当にタフな勝負マッチだった・・その「タフ」の意味と、それを乗り越えていくためのファクターとは・・(日本vsバーレーン、1-0)・・(2005年3月30日、水曜日)

本当に勝ててよかった・・。ゲーム終了間際にバーレーンが放った中距離シュートとコーナーキックからのヘディングシュートの場面では、まさに息が止まりました。とにかく日本代表には、来年のドイツW杯には是が非でも行って欲しいのです。何せ、ドイツの次に欧州フットボールネーションでW杯が開催されるのは、大陸持ち回りということで、少なくとも10数年後になるはずですからね。

 もちろん「良かった・・」とはいっても、単に第一関門を突破しただけ。これからもイバラの道がつづくことは皆さんもご存じの通りです。「本当にタフな試合だった・・ワールドカップ予選はすべてこのようなタフなゲームになる・・」。試合後の会見でジーコがしみじみと語っていました。私は、その「タフ」という言葉の背景コンテンツを、こんなふうに質問しようかと思っていました。「ジーコさんが使ったタフという表現の意味と、それを乗り越えるためにもっとも大事なファクターは・・?」。でも止めました。聞くまでもないことだから・・。

 皆さんも見られたとおり、イランにしても、バーレーンにしても、日本よりも優れた「個の強さと速さ」を備えています。またテクニックでもまったく引けをとっていない・・。日本が唯一誇れるとしたら、優れた戦術イメージをベースにした組織プレーということになるでしょう。要は、ボールのないところで勝負を決められるだけの戦術ポテンシャル(イメージ描写コンテンツ)では、日本に一日の長があるということです。でもこの試合で皆さんが見られた通り、相手のバーレーンは(イランもしかり!)、日本の組織的な攻撃に対する確実なイメージを構築していました。だから日本は攻めあぐんでしまう。

 日本が「組織的な仕掛け」を成就させるためには、攻撃にしっかりと人数をかけなければならないし、二列目や三列目の選手たち(シャドープレイヤーたち)による思い切った飛び出し(追い越しフリーランニング=タテのポジションチェンジ)も必要になってきます。要は、ボールがないところでリスクへチャレンジしていく強固な意志が必要になってくるというわけです。それも、肉を切らせて骨を断つというギリギリの闘いのなかで繰り出していかなければならない・・それに対してイランやバーレーンは、持ち前の「高い個人勝負能力」を主体に仕掛けていくのだから、次の守備という視点では、より危険因子が少ないというわけです。

 そんなだから、日本にとって「タフなゲーム」になるのも道理というわけです。それでは、そんなタフなゲームを乗り越えていくためのもっとも大事なファクターは・・? ジーコは、そこのところを、闘う意志の強さとか気持ちの強さとか表現します。今日の会見では、「攻めに入ったとき、どのくらい周りの選手たちが、その仕掛けの波に乗って(リスクにチャレンジして)いくか・・そこでの強い気持ちが、勝ち抜くためのもっとも重要なファクターになる・・」と言っていました。まさに、そういうことです。

 このところのジーコが放散する雰囲気(オーラ)に、監督としての本格感の高揚を感じている湯浅なのですが、その雰囲気が、選手たちのリスクチャレンジマインドの大前提になる「自身と確信レベル」をどこまで引き上げられるか・・。

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 さて試合レポート・・。前半は戦術プレーに徹していた日本代表が、後半は、より積極的に攻めに転じます。その起点は、両サイドでした。アレックスと加地。ハーフタイムにおいてジーコが、「もっと一歩か二歩前でフェイントをかけてみろ・・」というヒントを与えたとのこと。要は、もっと(準備ドリブルで)相手に突っかけていくという積極姿勢からフェイントをかけていかなければドリブルで相手を抜き去れないぞ・・ということでしょう。逃げ腰のドリブルからフェイントをかけても相手を振り回すコトなんてできっこないということです。そんなアドバイスが効いたのでしょうね、後半のアレックスと加地のドリブル突破勝負が格段に危険なモノへと大変身を遂げましたよ。そして、そこからのクロスや、ペナルティーボックス内への持ち込みによってチャンスが演出されはじめます。そして高原がドリブルシュートを放ったり、鈴木やアレックスが惜しいチャンスを迎えたり・・。とはいっても、まだまだゴールは遠い、遠すぎる・・。

 そんなネガティブな思いが出てきたのは、前半からのセットプレーをほぼ完璧に抑えられていたこともありました。本当によくトレーニングされている。バーレーンのジードカ監督は、「日本に正確で巧みなキッカーがいることはよく知っている・・ただ狙い目はイメージできていたし、こちらにもヘディングに強い選手が揃っているから、うまくコントロールすることができた(日本のセットプレーをうまく抑制できた)」と言っていました。その言葉通り、ニアポストゾーンでの勝負ボールをことごとくはね返される等々、日本は、セットプレーからチャンスを作り出すことがままなりませんでした。日本のことをよく学習し、対抗策をうまくトレーニングする。なかなかのモノじゃありませんか。

 決勝ゴールは自殺点だったけれど、もちろんそれは、日本がしっかりとプレスを掛けて詰めていたから生まれたものです。決して偶発的なモノじゃなかった。それでもスッキリとした勝ち方じゃない・・だからこそ「タフな勝負マッチ」という表現があてはまる・・ということです。

 とにかくこれでバーレーンは、次のホームゲームでは勝ちに行かなければならなくなりました。もちろんそれは、より積極的に攻撃に人数をかけてくること(比較的大きく守備ブロックが開くこと)を意味します。私は、そのことが日本にとってポジティブな現象だと確信しています。この試合でも、決勝ゴールが入った後、バーレーンが攻め上がってきたわけですが、そのことで(もちろん攻守のバランスを取るなかで!)逆に日本の攻撃も活性化され、ドリブル突破チャレンジだけではなく、ワン・ツー・スリーコンビネーションや、タメや相手を引きつけるドリブルからの決定的スルーパス等々、危険な組織プレーも繰り出されるようになりました。私は、そのゲーム展開に、6月3日にマナマ(バーレーン首都)で行われる試合イメージを重ね合わせていたというわけです。さて・・。

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 今回は、選手個々についても簡単にコメントを・・。まず何といっても中田英寿。私は、イラン戦からの彼のプレーコンテンツの軌跡をこのように見ています。

 ・・イラン戦の立ち上がりはちょっとミスが目立っていた中田ヒデ・・ボールを変なカタチで奪い返され、そこからカウンターを食らったシーンでは、仲間も度肝を抜かれたに違いない・・攻撃の起点としての絶対的なイメージに解れが見えたのだから・・ただ、そんなどん底から、試合のプロセスを通して立ち直ってしまうのもまた、中田英寿ならではの現象・・試合の経過とともに、どんどんと調子が上向きになっていく中田ヒデ・・予想したとおり、イラン戦が復活のキッカケゲームになった・・そんな好調さを、バーレーン戦でも維持する・・前半はちょっと中盤ディフェンスに気を遣いすぎていたけれど(中盤守備の実効レベルは高い!)、後半にかけては、その行動半径が広がっただけではなく、攻守にわたるプレーコンテンツにも広がりが出てきた・・私は以前から、中田英寿は理想的なボランチだといいつづけてきた・・もちろん、創造性と力強さと忠実さなどを併せもつ汗かきパートナー福西がいればこそなのだけれど・・とにかく福西のプレーは、全体的に秀逸だったし、中田ヒデも彼に感謝しているに違いない・・また、決勝ゴールを入れた後では、攻守のバランサーとしての彼のリーダーシップを感じた・・

 ・・良かったといったら、もちろん中村俊輔も・・彼は、イタリアでの好調さを高みで維持している・・ちょっと前半は、ボール絡みのプレーが「よどんで」いる場面も多かったけれど、後半になったら、シンプルなリズムでのコンビネーションを主導したり、例によってのクリエイティブなキープやドリブルから決定的パスを繰り出したりと、持てるチカラを存分に発揮した・・

 ・・鈴木隆行も良かった・・とにかく、攻守にわたる最前線での汗かきプレーは健在・・ベルギーリーグで培われた自信あふれるキープや巧みなタテパストラップがあるからこそ、最前線での効果的ポストとして機能できるし、勝負を焦る相手のファールを誘ったりできる・・それにしてもこの試合の審判のレベルは低かった・・普通のレフェリーだったら、この試合の二倍は鈴木がフリーキックを稼いでいたにちがいない・・それほど、鈴木隆行が魅せつづけたパスレシーブアクションの量と質は素晴らしかった・・

 ちょっと疲れたから、今日はこんなところにしておきましょうかね。とにかく本当に勝ってよかった・・

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 最後に、前回同様の告知を・・。しつこくてスミマセン。

 まず、ケータイサイトの「ブンデスリーガ公式ムービー」ではじめた連載コラム「湯浅健二の独壇場」。URLはこちら→http://i.bundesliga.jp。PCのプロモーションページはこちら→http://www.bundesliga.jp/

 また、3月3日から「BS Japan」で放送がはじまった「サッカーTVワイド」では、Jリーグ監督とのインタビューを担当することになりました(インタビューは4月から放送されます)。最初のゲストは、浦和レッズ監督のギド・ブッフヴァルト。この番組の放送日は、毎週木曜日の2100時〜2254時。また翌週の金曜日の深夜には再放送される予定です。ということで、「サッカーTVワイド」に関する基本的な情報は「こちら」から・・

 



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