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ヨーロッパの日本人・・中田浩二、高原直泰、中田英寿、そして小野伸二と中村俊輔・・(2005年3月14日、月曜日)

あっ、やられた・・。そのとき思わず声が出た。後半17分から左サイドバックとして登場した中田浩二。そこそこ安定したプレーを展開できていたけれど、ロスタイムに入った後半91分、相手の上手い身体使いに一瞬間合いを空けられ、決定的クロスを上げられてしまったのですよ。

 それは、マルセイユが一点リードしたゲーム展開で、残り僅かという時間帯。だからこそ、もっとも危険な、もっとも集中しなければならない勝負所。別な見方をすれば、そこでのプレー内容によって、チーム内での感覚的な信頼度ランキングが明確になってくる時間帯だとも言えるわけです。そこで(特にディフェンスプレーにおいて)キッチリとした勝ち切るプレーができれば味方から信頼されるけれど、逆に「軽いプレー」では、味方の評価は奈落の底へまっししぐら。中田浩二は、そんな大事な場面で決定的クロスを上げられてしまったというわけです。

 スローインを受けた相手選手にピタリと身体を寄せる中田浩二。次の瞬間、中田浩二に体重をあずけていた(要は中田浩二の身体を、自分の身体全体で押さえつけていた)相手選手が、スッとボールを押し出し、中田浩二の身体を「自分の体重の支持ベース」にしてズバッとダッシュしたのですよ。これで中田浩二は数メートル「置き去り」にされてしまった。これでは相手選手のクロスを上げるアクションに追いつけるはずがない。

 そのシーンでの中田浩二は、全身をつかった競り合い(ギリギリのせめぎ合い)で、一瞬「気持ち」で受け身に立ってしまったということなのかもしれない。柔軟に身体でプレッシャーをかけながら相手の動きを「主体的」に抑制コントロールすべきだったのに・・。そうすれば、相手の急激なアクションにも、自分の身体を「次のアクションの支持ベース」にされることもなかったということです。言葉で表現するのは難しいですが、そのシーンでの中田浩二は、相手のアクションに対してタイトに身体をあずけられたことで一瞬気が抜け、受け身で消極的な心理状態になっていたということなのかもしれません。失点にはつながらなかったけれど、自軍ゴール前で競り合う仲間たちの脳裏には、勝ち切るためにもっとも重要な状況で相手に良いクロスを上げられたという現象が残るに違いありません。

 中田浩二は、もっともっと「リスクチャレンジのマインド」を高揚させていかなければなりません。そこそこに安定したプレー・・という発想も大事だけれど、それだけになってしまったら、まさに「それだけの選手」と言うことで終わってしまう。特に彼は「外国人選手」ですからね。安定したプレーと、ギリギリの(目立つ)リスクチャレンジプレーとの「高質なバランス感覚」こそが求められるプレーマインド。まあいまの中田浩二には、攻守にわたって、より積極的な勝負マインドが求められているということです。

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 さて先発をつづける高原直泰。前半だけでマハダビキアと交代してしまったけれど、内容的には上々だと思いますよ。しっかりと「ブレイクスルー・ベクトル」上にある・・攻撃でも、守備においても。

 前後左右に動きまわってパスを呼び込もうとする高原直泰。彼の全体的なプレーコンテンツに対する信頼感が高まっていることもあって、味方ボールホルダーも、動きつづける高原を捜して「仕掛けのタテパス」を送り込むというイメージを持っていると感じます。もちろん、パサーとバスレシーバー(高原)のイメージコンビネーションがうまくシンクロしなかったことで、パスをトラップする瞬間に狙いを定められてしまうというケースもあるけれど、以前のように簡単にボールを失うというのではなく、不利な体勢でも、全身をつかったねばり強いボールキープや、ボールを奪われた後の爆発ディフェンスアクションを魅せてくれるのですよ。頼もしい限りじゃありませんか。

 もちろんほとんどのパスレシーブシーンでは、しっかりとボールをコントロールし、シンプルな展開パスを回した次の瞬間には爆発的なパス&ムーブへ移行するという「強烈な意志を込めた爆発ダッシュ」のオンパレードです。そんな爆発ダッシュこそが、アタマのなかで明確に描写されている勝負イメージの表象ですからネ。味方も、高原の勝負姿勢を高く評価する(頼り甲斐ありと感じる)はずです。なかなかの好循環がまわりつづけているじゃありませんか。

 また最終勝負シーンにおける「スペースへの飛び込みアクション」にも、彼の確信レベルの高揚が如実に投影されていると感じます。ハンブルク先制ゴールの場面では、彼のセンタースペースへの飛び込みによって相手ディフェンダー二人が引きつけられ、ファーポストゾーンにいたラウトがまったくフリーになったことで生まれたし、それ以外でも、高原の飛び込みが、それに彼自身もシュートできるようなタイミングと勢いがあるからこそ、相手守備にとって「怖いアクション」になっているというシーンがくり返されいました。まさにそれは、味方にチャンスを与えられる、ボールがないところでの勝負アクションというわけです。

 もちろんドリブル勝負でも、なかなかの存在感を発揮していました。基本的には組織プレーを主体にする高原ですが、たまに繰り出す個人勝負プレーにも勢いが乗っていると感じるのです。前述の中田浩二のところでも書いたように、組織プレーと個人プレーを高みでバランスさせることが大事・・でも、組織プレーに逃げ込んでしまったら全てが水泡に帰してしまう・・まず何といっても、最低限必要な安定プレーを基盤に、とにかく常にリスクチャレンジのチャンスをうかがいつづけるという積極プレー姿勢が大事・・その視点で、今の高原は、かなり高質なバランスを維持できている・・ということです。

 もちろんその「バランス感覚」は、攻撃と守備のあいだでも大事です。トップを張る高原は、そこでも存在感を発揮しつづけている。彼のマインドに深く浸透した「ホンモノの守備意識」のほとばしりを感じるじゃありませんか。最前線からのチェイス&チェックアクションだけではなく、味方とのタテのポジションチェンジをした後の守備参加アクションの実効レベルも相当なものです。前半の終了間際には、左サイドを突き進んだ相手左サイドバックを追いかけ回し、最後はギリギリのタックルで仕留めましたよ。とにかく発展している若者に触れることは本当によい刺激になるのです。

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 あっと・・中田英寿。今節もベンチに座りっぱなしということになってしまいました。そして彼のHPには、このところ生活感に変化があり、今はそれを実感しているといった趣旨のことが書いてある。まあね、変化こそ常態だから・・。

 要は、彼の「自己実現オブジェクト」が徐々に変容しはじめているということなんでしょう。それは、彼の生活でサッカーの占めていた領域が徐々に小さくなりはじめているということと同義のはず。まあ・・あれだけのレベルに到達したプレイヤーだし(もちろん自分自身の能力的な頂点もよく分かっている・・)、様々な社会現象に対して持っている興味にも深いモノがありそうですからネ、その変容現象は、これからも不可逆的に展開していくということなのかもしれません。

 こちらは、なるべく早い復調を心待ちにしているわけですが、今の状態からすれば、自身のセルフモティベーションパワー(スピリチュアル=気=パワー)の多くをサッカーに傾注するのは難しいかもしれませんね。もちろん何か大きな刺激があれば別なのだろうけれど・・。一度サッカーから完全に離れるとかネ。そうすれば、またプレーしたくなるに違いないし(自己実現という高いレベルでのハングリーさが蘇ってくる?!)、サッカーという社会的現象が内包する深く広い哲学的な意味が、より鮮明に見えてくる・・?! 

 あっと・・もちろん私は、彼が置かれている「状態の本当のところ」など知る由もないから、無責任な仮説コメントはここまでにします。まあ・・とにかく・・こちらは、これまでに何度も魅せてくれた「復活ドラマ」の再現を期待するしかありません。

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 さて、小野伸二と中村俊輔。両人とも、全体的にはまあまあの出来だとは思いましたが、逆に、どうもスッキリとした印象が残らないプレーも多々あったというポイントでも共通していました。

 まず小野について・・。例によって、中盤ディフェンスでは、ボール奪取勝負や、ボールがないところでの決定的な忠実マーキングに不安を抱えてはいるけれど、逆に攻撃では、後方からのゲームメイク(ボールのデバイダー)機能は十二分に果たしていたし、自らがパスレシーバーになる決定的なフリーランニングの量と質にも鋭いモノを感じました。またこの試合では、勇気あるドリブル勝負からの決定的クロスも魅せてくれましたしね。

 とはいっても、先発メンバーの中盤パートナーがホフスとバルト・ホールであることを考えたら、やはり彼が、中盤の底としてリーダーシップを発揮しなければならなかった・・。まあ、後半にホフスに代わってガリが登場してからやっとフェイエの中盤が安定したけれど、私としては、ガリという中盤ディフェンスのダイナモ(汗かきタイプ)が入ってくるまで、ホフスやホールに対して大声で指示を出してうまく相互コンビネーションを調整をするなど、小野には中盤の機能性をリードして欲しかったのですよ。でも実際は、誰もチェイス&チェックアクションを起こさなかったり(全員がインターセプト狙い!)、チャンスなのに協力プレスにいかなかったり、攻撃では人とボールがうまく動かなかったり等々、攻守にわたって中途半端なミッドフィールドによって、相手にかなり押し込まれるという展開がつづいてしまったというわけです。

 要は、中盤ディフェンスのダイナミズムがまったく高揚してこなかったということです。全てはディフェンスからはじまる・・それさえうまく機能したら(守備意識が高まったら!)確実に次の攻撃もダイナミックに回転しはじめる・・。そのポイントで、小野伸二にリーダーシップを発揮して欲しかったということです。

 対する中村俊輔。どうもこのところ、攻守にわたるアクションの量と質が減退気味だと感じます(主体的で積極的な勝負イメージ描写ファンクションが減退気味?!)。もちろんボールを持ったら、正確で危険なロング&中距離パス、素晴らしいキープからの決定的スルーパス、自らがコアになったコンビネーション、はたまた積極的で効果的なドリブル勝負などなど、才能を感じさせるプレー魅せてくれるけれど、どうも、そこに至るまでが鈍重だと感じるのですよ。そのことは、攻守にわたる、ボールがないところでの全力ダッシュの量と質が低落気味だとも表現できる・・。

 今節もプレーしなかった中田英寿について、あえて仮説コメントをしようと思ったことと、この二人のプレーコンテンツについて「スッキリしない印象」が残ったと書いたことの背景には、イラン戦を控えた日本代表に対する思いがありました。日本代表となったら彼らの意識も格段に変わるはずだし、それがステップアップや復調のキッカケになるに違いない・・ってネ・・。

 



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