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05_夏のテストマッチ(2)・・ドイツ代表、ハンブルクにつづいて「ドイツブランド」の価値を高めたバイエルン・・でもまずレアルから・・(FC東京vsバイエルン・ミュンヘン、0-4)・・(2005年7月28日、木曜日)

昨日のゲーム(ジュビロ対レアル戦)では、時間の経過とともに、キーボードを打つ指の動きが鈍化していったものです。内からわき出てくるはずの観戦モティベーションも高揚する気配をみせないし、ここはレポートを諦めるのが精神衛生上よいのではとコンピュータをバックパックにしまい込んだ次第。

 レアルに期待しているのは、最高の個人プレーと最高の組織プレー、そしてそれらの最高のバランス。それが「夢のような人とボールの動き」となって、相手ディフェンスの予想のウラを突いていく。でもそんな期待に反し、レアルのプレーは足許パスばかり。パスレシーブの動きをくり返していたのはラウールただ一人ってな体たらく。数日前のヴェルディ戦だけではなく昨日の試合でも、「これくらいでいいや・・」といった怠慢マインドがミエミエでした。まあ、今回ツアーの殺人的なスケジュールからすれば、選手をモティベートするのは至難のワザなんでしょうがネ。

 とはいっても、そこはレアル。足許パスばかりでも、タイミングや強さ、正確性、そしてトラップの質(局面でのエスプリボールコントロール)などで相手を完全に凌駕してしまうのですよ。そして最終勝負シーンでは、希にしか出てこない「ココゾ!の三人目の動き」を活かしてチャンスに結び付けてしまう。すごいよネ、ホント。

 ということで、今回のジャパンツアーで彼らが展開したのは「究極の効率サッカー」なんて表現できそうです。足許パスを回しながら、絶対にチャンスになるという決定的シーンにだけボールなしの動き(=パスレシーブの動き)を繰り出すことで相手守備ブロックのウラを突いてシュートチャンスを演出してしまうレアル。そりゃサ、そんなサッカーができれば、それに越したことはないし、それは世界中の全てのプロ選手たちの「夢」でもあるよね。それが出来れば、まさに究極の効率性を達成できるわけだし、何といっても運動量を減らせるからネ。でもサ、そんな効率サッカーなんて、所詮ホンモノの勝負の場で通用するものじゃありません。世界中のトップサッカーにかかわっている連中は、そのメカニズムを心底理解しています。だからこそ彼らに共通するもっとも重要なコンセプトは「良いサッカーは、クリエイティブなムダ走りの積み重ね・・」ということで統一されるのですよ。「こんなレアル・マドリー」だって、ホンモノの勝負となったら、ボールなしの動き(クリエイティブなムダ走り)が何倍にも活性化されるからネ。彼らは、それがなければ、トップレベルサッカーにおけるギリギリの勝負には絶対に勝てないことをよく知っているというわけです。だからこそ逆に、この二試合でレアルが展開したような、観る方の期待に応えられないサッカーでは、マイナスイメージの方が先行してしまうのではありませんか・・と言っているわけです。「何だ、レアルも結局は観光旅行じゃないか・・それとも集金ツアーか!?・・これじゃ期待感が高揚するはずがないね・・」。

 とにかく、今回のレアルのアジアツアー(あっと・・ワールドツアーでしたっけネ・・)からは、以前は後光のように放散されていた「ホンモノ感」が大きく減退していたことは確かな事実でした。試合前に、記者席で話したスペイン人記者も、「とにかくマーケティングツアー以外の何ものでもないよね・・チーム作りには決してプラスだとは思えない・・」と、ヴェルディー戦からのフラストレーションを吐き出していしまたよ。

 私は、マーケティング営業ツアーが主眼だとしたら、やり方を変えなければ、確実に、彼らが意図するブランディング(ブランド価値創造)がマイナス方向へ振れていくと感じていました。これでは、スポーツ的な効果だけではなく、マーケティング(経済性ファクター)的な効果も期待できない。まさに二兎を追う者は一兎も得ず・・ってなことになるわけです。

 サッカーが創造する価値の基盤は、もちろん「コンテンツ」。プレー内容のみが、全ての付帯価値(その方向性)を決めるといっても過言ではありません。「オレたちの名前と人気さえあれば、グラウンドに出るだけで観客は満足するさ・・」。そんなバカなことを、あのレアルの選手たちが考えているとは思わないけれどネ・・。とにかく、有名になればなるほど、人気が出れば出るほど真摯にプレーすることが(謙虚になれることが!)ものすごく大事な要素になってくるというわけです。

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 そんなレアルに対し、「知名度・人気度」で劣るバイエルン・ミュンヘンは、ブランディングのための価値の源泉をしっかりとアピールしていましたよ。ドイツ的な、素晴らしくダイナミックなサッカー。試合後の記者会見で、FC東京の原さんが、こんな風にシャッポを脱いでいた・・。

 個々の選手の能力が非常に高い・・1対1の競り合い(局面の勝負・・ドイツ語でツヴァイカンプフという・・原さんはドイツとの交流もあるから、ドイツ語の表現も知っている)に対する意志のチカラも素晴らしく、それをベースにほとんどの局面でボールを自分たちのモノにしてしまう・・ものすごく足が長い感じ・・予測ベースで、常に次のボール奪取勝負シーンに効果的に参加してくる・・また攻撃でも、常に勝負所をわきまえたアクションを起こしている・・とにかく身体能力の差はどうしようもない・・等々・・

 まあ・・そんなところですかね。湯浅は、例によって、彼らのディフェンス姿勢を「まず」深く観察していました。そして、彼らの高い守備意識を感じ、こんなふうに確信したものです。「そう・・このバイエルンだったら恥をかかない・・」。そして徐々に、FC東京を凌駕していくバイエルン。守備ブロックの安定度(余裕度)、攻撃でのチャンスの量と質、ともにバイエルンが大きく水を空けていました。

 ところで試合後の記者会見。ミヒャエル・バラック選手に、今シーズンからバイエルンに加入したアリ・カリミ(イラン代表)について質問してみました。「この試合で中盤のパートナーとしてプレーしたアリ・カリミ」についてコメントが欲しいのだけれど・・?」。「彼は、素晴らしい能力を有したサッカー選手だと思う・・ヨーロッパに来るのは初めてと聞いたけれど、とにかくオレたちのサッカーのテンポに慣れれば良いプレーができるようになると確信するよ・・」と、ミヒャエル。

 ワールドカップ最終予選で日本を苦しめたイラン代表の中心選手アリ・カリミ。イラン代表では、彼が仕掛けのリズムを演出していました。要は、シンプルにパスを回しても、ボールを持ちすぎても、周りがそれが合わせてくれるのですよ。でもスター揃いのバイエルンでは事情が違う。少しでも組織パスプレーのテンポが遅れたら、確実にチームのお荷物になってしまうでしょう。私は、ミヒャエル・バラックが、そんなカリミの「悪いクセ」を素早く察知していたと思いました。ヤツは、ちょっとボールを愛し過ぎているよな・・もっとシンプルなタイミングでパスを出すだけじゃなく、ボールのないところでパスレシーブの動きもくり返さなければならないよな・・またディフェンスもちょっとお座なりだな・・等々。だからこそこの試合でのバラックは、シンプルなタイミングでカリミにボールを回しつづけたと思うのですよ。それだけじゃなくバラックは、彼にパスを出した後すぐにダッシュして次のパスを受けられるスペースへ移動するのです。「あのバラック」にそんな忠実な汗かきプレーをくり返されたら、「あのカリミ」でも、シンプルなタイミングでパスを出さざるを得ないというわけです。またバラックは、どんどんとスペースへのパスも出していましたよ。もちろん、カリミが「そこ」へ入り込んでくることを前提にしてネ。だからカリミも走らざるを得ない。なかなかのリーダーシップじゃありませんか。

 バイエルンのダイナミックサッカーだけではなく、そんなチーム内メカニズムにも舌鼓を打ちながらゲームを堪能していた湯浅でした。

 



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