トピックス


2006ドイツワールドカップ南米予選ブラジル対アルゼンチン・・やっぱり地域予選が最高に面白いし、深いコンテンツも満載されている・・ちょっと「脱線」が多くなってしまったけれど、そのレポートです・・(ブラジルvsアルゼンチン、3-1)・・(2004年6月3日、木曜日)

世界の超一流がフルパワーでぶつかり合う・・やっぱりワールドカップ地域予選は、肉を切らせて骨を断つホンモノの闘いだし最高のドラマだ・・それもブラジル対アルゼンチンだし、両チームともに持ち味を存分に発揮していたしね・・まあ持ち味とはいっても、ブラジルの場合は、「運命的な両刃の剣」ってなところなんですが・・。

 一発トーナメントではなく、長期にわたるリーグ戦だからこそ、規制ファクターよりも解放(発展)ファクターの方が目立つ・・攻守わたって常にリスクにチャレンジしつづける両チーム・・もちろん、自分たちの「売り物」を前面に押し出しながら・・ってなところなのですよ。個人プレー勝負のぶつ切りシーンをツギハギしたブラジル・・組織と個が高質にバランスしたアルゼンチン・・。

 まあ、あまり風呂敷を広げず、テーマを絞り込んでレポートすることにしましょう。ちょっと脱線しますが、この「テーマを絞り込んで・・」というのが、いまのところ、レポートをまとめる上での私のテーマでもあるのですよ。書きたいことはたくさんあるのだけれど、そのなかで厳選した要素を抽出する・・ということです。もちろん、「厳選することの評価基準」が、レポートの普遍性という視点で一定していないなど問題はあるけれど、とにかく、常にトライ&エラーをくり返すことで発展していこうと七転八倒している湯浅なのですよ。まあ、チャレンジ&エラーを発展の糧にする・・という姿勢自体には普遍性があるとは思っているのですが・・。ちょっと脱線し過ぎでした。

 さて試合。ホームゲームを戦うブラジルが、ロナウドの「ワザありのPK呼び込みドリブル」が冴えに冴えて「3-1」で勝利を収めました。もちろんキッカーはロナウドだから、終わってみれば彼のハットトリック。あっと・・ブラジルの三点ともに、ドリブルするロナウドが倒されたことで得たPKからのものだったのですよ。こんな試合は初めての経験。ビックリしました。

 それにしても、ロナウドの「PK呼び込みドリブル」は巧みの極み。まずペナルティーエリアに入る・・そして例によっての「1/2リズムの細かなボールタッチ」で進みながら相手アタックを誘う・・そして最後のインパクトの瞬間に、チョンとボールを前に運ぶことで、それまでボールのあったポジションに自分の足をさらす・・というわけです。もちろん、自分の足とアタックを仕掛けたディフェンダーの足が交錯して倒れた後に、強烈な表情で痛がってみせるのも大事なのです。あっと・・もちろん倒れ方もドラマチックでなければネ・・。

 さて、巧みな「PK呼び込みドリブル」ですが、そこでは、細かなステップでのボールタッチが基本です。1/2リズムの細かなボールタッチ。チョンとボールを「運び」ながら、その「チョンと運んだ足」を着地せず、そのまま「トットンッというリズム」でつづけてボールタッチできるように構えつづけるのです。言葉で表現するのは難しいけれど、とにかくそんな「1/2リズムのボールタッチ」こそが成功の秘訣だということが言いたかった湯浅なのです。マラドーナしかり、ジダンしかり、フィーゴしかり、アイマールやサビオラしかり、そしてもちろんロナウドしかり・・。

 このことを表現するのは、やはり映像がなければ不可能だよな・・今度、「1/2リズム」だけじゃなく、様々なモダンテクニック(もちろん個人戦術!)シーンをまとめたビデオを企画してみようかな・・チャンピオンズリーグだったら、ピックアップできるシーンがてんこ盛りだし・・でも、権利関係をクリアするのが大変だから、そんなビデオを作るのは不可能なんだろうな・・とにかく今のプロサッカーは、サッカーそのものの普及・発展という視点で、さまざまな現象が逆行ベクトル上にあるように感じられて仕方ない・・なんてネ。

 まあとにかく、そんなロナウドの「個の才能」によってブラジルが勝ちを拾ったという試合だったというのが、このレポートでの「抽出テーマ」だというハナシに戻りましょう。

 個の才能プレーを前面に押し出し、それを結果につなげてしまう・・。その意味で、この勝負マッチは、まさにブラジル的な展開だったということです。でもそれって、どう考えても、ブラジルにとっては「両刃の剣」。そんなイメージで試合に臨みつづけたら、確実に、前回の「日韓ワールドカップ地域予選での苦い経験」をくり返してしまうことになる・・なんて心配しているのは私だけじゃないに違いない?!

 ちょっとここで、また脱線・・。1982年スペインワールドカップに代表される、組織プレーと個人勝負プレーがハイレベルにバランスしたサッカーは、ブラジル的じゃないのですかね・・。1982年の、ジーコやソクラテス、ファルカンやトニーニョ・セレーゾを中心にした夢のような高質サッカーがブラジルのメインストリーム(イメージ的な主流)になれば、彼らは、まさに鬼に金棒なのに・・。でもやはり、個の才能が高すぎるから、どうしても「それ」を活用して勝利を収める方向にはしってしまうんだろうな・・ブラジルのサッカーファンも「それ」を要求するのだろうし・・オレがコーチでも、やっぱりそうするかもしれないしな・・でも、そんな上手い連中に、攻守にわたるクリエイティブなムダ走りや必死のディフェンスをやらせることで彼らのプレーイメージを発展させるという作業にかかわられるのだとしたら、それこそコーチ冥利に尽きるっていうものじゃないか・・とか、ブラジルのサッカーを観ていて、本当にいろいろな「コト」がアタマを駆けめぐったものです。

-----------------

 とにかく、サッカー内容では、負けたアルゼンチンの方が数段各上だったということです。それも、攻守わたる多くの主力をケガで欠いていたにもかかわらず・・。

 とにかく、この試合で魅せたアルゼンチンの高質な「バランス感覚」は見応え十分でした。人とボールが、素早く、広く、よく動くハイレベルな解放サッカー・・。

 彼らの場合は、常にボールホルダーが「二つの可能性」を視野に入れてプレーしていると感じます。もちろん、パスとドリブル。だからこそ、周りの味方も、ボールのないところでしっかりとパスレシーブの動きをつづけられるし、最終勝負シーンでも、しっかりと人数をかけた高質なコンビネーションを決められる・・。そこに絡んでくる、三人目、四人目の動きを見るにつけ、本当にアルゼンチンサッカーは世界を引っ張る存在だな・・なんていう思いを強くしていた湯浅です。

 それに対してブラジル。彼らが仕掛けに入った場合、ボールホルダーは、ドリブルで抜け出すことしかイメージしていないと感じます。だから周りのサポートの走りが十分ではない・・だから、一発のワンツーアクションではなく、何人も絡む組織コンビネーションを仕掛けていく頻度も低すぎる・・だから、相手守備ブロックのウラをパスで突くというシーンも本当に希・・これでは、強引なシュートシーンばかりが目立ってしまうのも道理・・この試合では、後半持ち直せたことでアルゼンチンと互角のシュート数までいけたけれど、決定的チャンスの数や内容という視点では、この試合のブラジルは、完全にアルゼンチンに凌駕されていた・・。

 もちろんそれでも、ツボにはまれば世界一危険だし美しい・・だからこそ誰もが「それ」に期待し、「それ」を前面に押し出すプレーイメージ(それをコアにしたチーム戦術)を優先する・・でも、相手のゲーム戦術がうまく機能することで、ツボにはまらなくなったりしたら・・。我々コーチに、やっぱりサッカーの基本はパスゲームなのだと体感させてくれるためにブラジルサッカーがあるわけじゃないでしょ・・なんてネ。

-----------------

 最後に、クロス攻撃について感じたことを短く。もちろん、素晴らしく鋭く危険なアルゼンチンのクロス攻撃から見えてきたこと(再認識したこと)なのですが・・。

 テーマは、意図が込められた高質なクロスと、なかで待っている選手の「ちょっとした動き」。要は、そのイメージシンクロレベルによって勝負が決まってくるということなのですが、それについて、前半にこんなシーンがありました。左サイドを突破して一瞬の余裕を演出したキリー・ゴンザレス・・彼が、狙いすましたクロスを上げる・・なかで待っている二人のアルゼンチン選手は、ロベカルたちにしっかりとマークされている・・でも彼らは、最後の瞬間に「ほんのちょっと動く」で、マークするブラジルディフェンダーとの間に「数10センチの間合い」を空けてしまう・・それで勝負あり・・もちろんクロスを上げたキリー・ゴンザレスも、明確に、その「ちょっとした動き」を意識してクロスを送り込んだ・・最後は、アルゼンチン選手のフリーヘディングシュートが僅かにブラジルゴールのバーを越えてしまった・・。そのシーンを観ながら、このちょっとした動きにクロスが「合わされたり」「合ってしまったり」で勝負が決まってしまう・・という事実を再認識していた湯浅だったのです。

 当たり前だろ・・って?! まあ・・そうですが、この「ちよっとした動き」によって、相手ディフェンダーは、身体を寄せることが出来なくなるという事実を再認識しておくことには価値がある思ったので書いた次第なのです。

 とにかく、だからこそクロスを上げる方も、その「ちょっとした動き」を常にイメージしたクロスコースを意識すべきだし、そのシーンだけを「抽出したトレーニング」も、イメージシンクロレベルを上げるために繰り返し行わなければならないということが言いたかったわけです。もちろん、クロスを上げる選手たちの、これから最終勝負スポットで起きることに対する「イメージ描写能力」の向上というトレーニング目標も含めてネ。

 ブラジル対アルゼンチン戦に満載された、様々な意味を深く噛みしめていた湯浅でした。

 最後に、骨折という不運に見舞われてしまった稲本潤一へのメッセージを短く・・。とにかくいまは焦らず、ジックリと気持ちに余裕をもって治療に専念するのがもっとも大事な生活イメージです。もちろん、たくさんのサッカー以外の本を読んだり、テーマを厳選した「ピックアップビデオ」を観てイメージトレーニングに励むなど(彼の周りには、そんなまとめビデオを作る人はいるんでしょう?!)、毎日をクリエイティブなものにしなければならないことは言うまでもありませんがネ。とにかく、身体と気持ちをいたわって、早く元気になってください。

=============

 蛇足ですが、もう一度、私の代表作の一つである『サッカー監督という仕事』が新潮文庫に収録されたことの報告をします。文庫化にあたり、3万ワード以上(本文で60ページ以上)を加筆しました。要は、いくつかの項目を書き加えたということです。それについては「ここ」を参照してください。




[ トップページ ] [ Jワンポイント ] [湯浅健二です。 ]
[ Jデータベース ] [トピックス(New)] [ 海外情報 ]