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レアル・マドリーというストーリー(その2)・・さて、レアル・マドリーが「揺動」しはじめた・・(2004年1月26日、月曜日)

前節(先週の第20節)、アウェーで1-1と引き分けたベティス戦以降、レアル・マドリー選手たちの口から様々な不協和音が聞こえてくるようになりました。まあ以前にもあったのでしょうが、その不協和音の目立ち度(シリアス度)では、ちょいと今回は特別な感じがします(それまでたまっていたフラストレーションが一気に爆発した?!)。

 ベティス戦では、ケガから復帰したベッカムが、例によってエルゲラと守備的ハーフコンビを組みました。でもケガが完全に癒えたわけではないベッカムは、痛みと戦いながらのプレーだったようで(本人も、痛みと、それ故の慎重なプレーだったことを吐露・・)、どうもレアル中盤ディフェンスの機能性がうまく高揚してこない。そしてホームのベティスに、ここぞとばかりに攻めたてられて何度もピンチを迎えてしまうのです。

 レアルの守備ブロックに余裕なし。もちろんそれには、ベッカムの(ボール絡み&ボールなし両面での)ディフェンスが中途半端(怖々・・部分的にはアリバイ守備もあり・・)ということもあるのですが、そんななかでセンターバックのパヴォンが大きなミスをしでかしてしまうのですよ。そして(懲罰的に?!)ソラーリと交代させられてしまう。ソラーリはミッドフィールドですからね、当然エルゲラがセンターバックへ移動することになる。

 パヴォンのミスは、半分は中盤守備ブロックの責任です。相手攻撃に対する中盤の抑えがうまく効いていないから、最終ラインも余裕を持って相手の仕掛けに対処できないということです。最終ラインにとっては、ボール絡みの状況をベースに「次を読む」ことは決定的に大事。そのボール絡みシーンでの抑制が効いていないのでは、読みも不確かなモノになってしまうというわけです。エルゲラは、そのことを一番よく分かっていたはず。彼は、守備がそんなにダイナミックではないソラーリが中盤の底に入り、自分がセンターバックへ下がることで、「中盤ディフェンスの穴」のとばっちりを一身に受けてしまうに違いない・・と思っていたということです。

 でも実際には、ソラーリの攻守にわたる出来が素晴らしく、その後レアル守備ブロックはベティスの攻撃を最後まで抑えきったし、ジダンとロナウドの才能の爆発によって陥れたゴール(ジダンからのスーパースルーパスと、ロナウドのスーパーフェイントによるシュート!)によって同点でゲームを終えることができました。ただ、たしかに結果はよかったものの、エルゲラには、そのゲームでの経緯が我慢ならなかったようです。

 日刊スポーツ新聞によれば、試合の翌日にインタビューに答えたエルゲラが、「オレはボランチだ・・そこでプレーしたい・・レアルにセンターバックが足りないのは自明だ・・ベッカムはマケレレにはかなわない・・二人のボール奪取率を比べてみれば、そのことは明らかだ・・」等々、激情を抑えきれないといった発言をくり返したということです。

 そして、その次の日には、チェルシーとのコンタクトが取り沙汰されているロナウドが、「ディフェンスは、いまいる選手で十分だと思う。僕がゴールを決めるためのパスが届いて、チームが相手より1点多く取って勝てれば、それだけで僕はよしとする・・」なんて守備ブロック選手たちの神経を逆なでする発言する始末。それ以外にも、フィーゴが、「ベッカムは、オレにパスを出さない・・」と発言したり、今週には、ロベルト・カルロスのチェルシー移籍話が持ち上がったりしています(すべて日刊スポーツの記事から・・)。はてさて・・。

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 まあロベカルのハナシは別にして、選手たちが自分勝手に意見を公表してしまうという状態は、チームマネージメントにとって望ましいものじゃありません。サッカーは不確実なボールゲーム。だからこそ様々な見方が出てくるし、選手たちも、彼ら自身の主観的な評価によって、常に何らかの不満をもっているものです。逆に、選手たちに不満がないような平和ボケした状態だったら、確実にチーム力は奈落の底へまっしぐら。チーム内では、常に、適度の緊張エネルギーが、何らかのカタチでぶつかり合っていなければならないのですよ。それが組織を活性化し、組織の全体パフォーマンスを引き上げるというわけです。もちろん適度の緊張エネルギーですよ・・あくまでもネ・・。

 とはいっても選手たちは、戦術的評価や個人的な評価(≒不満?!)などを公の場で話すべきではないし、それはチームマネージメントの仕事だと、明確に割り切っていなければいけません。

 とにかく一度でも、千差万別にならざるをえない(非定型の)サッカー的な評価・見方(≒批判?!)を公の場で口にしたら(メディアに対して口を滑らせでもしたら)、途端にセビレ&オヒレがついて収拾がつかなくなってしまう。だからこそチームマネージメントは、選手たちの言動を厳しく管理しようとするわけです。でもネ・・逆に、(主にマネージメントが!)そんなメディアを逆利用するという側面もあるわけですよ(だからメディアと現場マネージメントは持ちつ持たれつ・・とはいっても私は、そのメカニズムには極力乗らないようにしていますがネ・・)。ただやはり選手は、より慎重に発言するのが原則です。何せ彼らは、常に不満をもっていなければ「ならない」のですから・・。

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 さて、原則に反し、選手たちが口々に不満を公にしはじめてしまったレアル・マドリー。問題が雪だるま式にふくれ上がらなければいいのだけれど・・という心配とはウラハラに、私は、適度な「不協和音」はチームにとって良い刺激になるはずだし、それをチームをまとめることにうまく「逆活用」できてはじめて監督さん(カルロス・ケイロス)のウデが認められるという見方もある・・そこのところの手腕に注目するのも一興だな・・なんてことを考えていました。

 要は、選手たちのフラストレーションの爆発を、逆に、チームをまとめるための(チーム・クラブの目的達成のための)エネルギーとして活用してしまうということです。何せ、不満を爆発させた選手は、その時点で「緊張感の剣が峰」に立たざるをえなくなるわけだし、マネージメントやチームメイトたちもそのことを十二分に意識しているわけですからネ(このポイントについての例は後述)。そんな「剣が峰テンション」をうまくポジティブ活用できてはじめて、カルロス・ケイロスが、プロ監督として敬意を払われるというわけです。

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 そして迎えた、リーガエスパニョーラ第21節。レアルは、ホームでビジャレアルと対戦しました。その時点でリーグ5位という、まさに登り竜の勢いを感じさせるビジャレアル。相手にとって不足なし(レアルの状態を評価するのに好都合!)。

 先発ですが、結局メンバーにエルゲラが入ることはありませんでした(出場停止でもケガでもないはず?!・・なんて書いたら、読者の方から、エルゲラは単にイエロー5枚で出場停止という訂正が入りました・・感謝します)。またジダンもケガで欠場。前節のメンバーとの変更は、パヴォンの代わりにメヒーアが入り、エルゲラの代わりに(守備的ハーフとして)グティーが入る。そしてジダンの代わりにソラーリ・・。

 さてどうなるかな・・なんて思いながら観はじめたわけですが、すぐに、「この試合では、気合の入った素晴らしいゲームを展開するに違いない・・」と確信した次第。それほど選手たち一人ひとりの攻守にわたるプレーがアクティブ&ダイナミックなのですよ。もちろんその「感覚的な評価」のベースは、彼らの、攻守にわたるボールがないところでのプレー。いいですよ。だからこそ最高潮のリズムでボールが動きつづける。もちろん横パスなどではなく、常に縦方向への仕掛けのボールの動きを織り交ぜるから、ビジャレアル守備ブロックも、どんどんとウラスペースを突かれてしまう。

 要は、この試合に限っては、エルゲラの発言と彼の欠場(チーム内サスペンション?・・と書いたのですが、読者情報によって、これも私の考えすぎでした・・申し訳ありません!)という刺激(ということで、刺激は、エルゲラの発言だけ・・)が、チームに戦う心理ソース(心理材料)を与えたということです。もちろんケイロス監督も、その状態を、闘う意志の向上にうまくつなげるという「優れたウデ」をみせた・・。

 とはいっても、グティーのボールがないところでの守備意識の低さ(彼のところで中盤ディフェンスの穴ができてしまう!)は相変わらずですが、ベッカムとソラーリが、それを補って余りあるダイナミック組織プレーを魅せるのですよ。ベッカムの足は、かなり回復したようです。またソラーリも、前節のベティス戦を上回るほどの素晴らしい出来です。

 もちろん、ソラーリが素晴らしい先制ゴールを決めたから言うのではありません(それにしても素晴らしい先制ゴール・・フィーゴとのコンビネーションを誘発した、ソラーリのボールがないところでの緩急を入れた動きが秀逸だった・・)。とにかくソラーリの攻守にわたる実効プレーには目を見張らされたのです。そして思ったものです。「ヤツは、こんなに守備意識が高かったっけ??」。まあようやく彼も覚醒ベクトルに乗ったということなんでしょうネ。やはり、現代サッカーで評価されるミッドフィールダーは、例外なく「ボランチ的なプレーイメージ」を備えているということです。もちろんここで言うのは、もう何度も書いているように、「ホンモノのボランチの積極プレーマインド」のことですよ。全員守備、全員攻撃をグラウンド中央でリードする真のゲームメイカー・・ドゥンガ、ヴェーロン、中田英寿(?!)・・。

 それにしても、ソラーリだけではなく、フィーゴもロナウドもラウールもベッカムも、切れまくっているじゃありませんか。もちろんボールがないところでの忠実な「汗かき」の動きと、ボールをもったときのシンプルプレーと勝負プレーのメリハリ(バランス感覚)を基盤にしてネ。

 たぶんヤツらも、自分たちの言動に刺激されたということか?! 何かネガティブなことを言ったり、やったりしたら、それはそれで「自分にはねかえって」きますからネ。そうなったら自分自身で解決せざるを得ない。ヤツらは、それを受け止め、はね返すため(解決するため)の武器は、グラウンド上でのパフォーマンスしかないということを心底理解しているということです。だからこそ、ホームでの強敵相手のゲームでとことん頑張る・・。

 この試合、レアルは(最後の5分間でのベッカムの興奮を除いて・・)終始ゲームを支配しつづけました。点差は1点でしたが、内容的には、まさに完勝だったのです。

 私は、そんな高質サッカーの背景に、前述した様々な「刺激」があったと確信しているのですが、そんな「揺動」が、これからどのように発展していくのか。レアルの動向から目が離せなくなってしまいました。

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 最後に・・。

 チームの「本当の実状」は、外部の者には絶対に分からないし、内実をある程度は知っている者にしても、様々な「人間絡みのニュアンス」を把握していなければ、それぞれの現象を正確に評価することなどできっこない・・。人間関係(個性・感性の絡み合い)は、そう簡単に俯瞰(ふかん)評価することなんてできない・・だからこそ安易で無神経な発言が、コトをより複雑なものにする・・まあだからこそ優秀なマネージャー(サッカーコーチ)に対する需要が大きくなるというわけですがネ・・。

 これまで何度も繰り返し書いてきたとおり、チームの内実は、外部の者には(基本的に)正確に把握できないモノです。だからこそ私は、グランウド上の現象だけを、極限の振幅で紆余曲折する「プロセス」の集大成として評価対象にするわけです。

 強いチーム(クラブ)は、そのような「極限の振幅で揺動するプロセス」を経ながらも、着実に発展していけるだけの「ポジティブな体質」を備えているモノです。レアルも、そのうちの一つのハズなのですが・・。




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