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おめでとう、オリンピック代表!!・・最後の最後で、完全に「何か」から解放された若武者たち・・それが何かは、リーグ戦や、オリンピック本大会で体感することになる・・(日本対UAE、3-0)・・(2004年3月18日、木曜日)

試合前、この試合のテーマについて、こんなことを考えていたので、それをランダムに書き記しておきます。

 勝つしかないという状況のなかで、選手たちが持てるチカラを120パーセント発揮できるかどうか(リスクにチャレンジしながらも、次のディフェンスにも必死の形相で戻ってこられるか・・その意志のチカラがあるか!!)・・もちろん選手たちのプレー姿勢は、立ち上がりからの攻守にわたるボールがないところでのプレー内容に如実に現れてくる・・そこで、チャンスなのに走り切らなかったり、パスが来ないかもしれないというイージーな心理で足を止めてしまったり、ボール奪取アタックできるのにチャレンジしていかなかったりというのでは、もう彼らに何も期待することはできない・・そんなことでは、決してUAE守備ブロックのウラを突くことなどできない・・パスを信じて走り切るためには、自分が描写する(まだレベルが低い?!)勝負イメージを超越しなければならない・・このようなホンモノの勝負の場で「ボールがないところでの勝負の抜け出しプレー」が出てこないようならば、彼らにはもう、将来にわたって勝負イメージの「壁」を超えることはできないだろう・・また、実際のゲームの結果は別にして、ここで、まさにこの状況で、全力を出し切った闘いを展開できなかったら、自分の狭いプレーイメージの殻を破れなかったことも含め、世界への扉はピタリと閉じられ、それを開くためには、これまで以上の血のにじむ努力が必要になるだろう・・。

 もう一つ、この試合でのUAE最終ラインは、二日前のバーレーン戦と同じメンバーというファクターにも思いを巡らせていました。あの試合では、単にラインを維持するだけで、それを効果的にコントロールできないばかりか、バーレーン選手たちが繰り出す、本当に単純な「すり抜けフリーランニング」にズタズタにされていましたからね。だから私は、そのことについても思いを巡らせていたというわけです。山本監督は、そんな愚鈍なUAEの最終ラインのチカラを分かっているだろうか・・それをイメージした攻めを構築できるだろうか(選手たちに、相手の間をすり抜けるフリーランニングとスルーパスという勝負イメージを植え付けることができただろうか)・・。あっと、忘れてはならない観戦ファクターもあった。もちろんそれは、日本代表が、いかに「平山の高さ」も効果的な仕掛けツールとしてミックスする勝負イメージを発展させられるか・・。さて・・。

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 そして、試合がはじまってすぐに思っていました。やはり、流れのなかでUAEの堅守ブロックをこじ開けるのはまだヤツらには難しいかもしれない・・正確なキックの阿部や、高さの平山がいることだし、ここはセットプレーを大事にしなければいけない・・それをイメージして、相手のファールを誘うのがいい・・大久保と田中は、常にイチかバチかのドリブル勝負を仕掛けていいけ!!・・なんてネ。

 とはいっても、流れのなかでもUAE守備ブロックを崩せそうな雰囲気も高まりつつありましたよ。攻撃に人数をかけられていたことで、コンビネーションプレーが、これまで以上にうまく機能していたのです。でも結局は、どうしてもうまくウラを突いていけない。全員で守備ブロックを形成するUAEのディフェンス集中力は、二日前のバーレーン戦の比ではなかったのです。

 だからこそ、相手のイメージを超越したタイミングでのフリーランニングスタートが決定的な意味を持つ。タテパスが出る・・それを足許で受ける平山からのダイレクトのタテパスをイメージし、大久保が、「平山へのタテパスが出されたタイミング」で決定的スペースへ向けてスタートを切る・・。もちろんそれは、平山のアタマを「中継ポイント」にした仕掛けでも同じようなイメージです。

 でも結局は、そんな、ボールがないところでの超越したタイミングのフリーランニングが出てこないことで、また活発な「走り切り、走り抜けるフリーランニング」がうまく連鎖しないことで(勝負フリーランニングは出てきていた!)、どうも攻めあぐねてしまうのです。また、この試合でのUAE守備ブロックは、日本代表のボールがないところでの走り込みを忠実に抑えるというイメージでプレーしていましたしね。

 そんな立ち上がりの数分の展開を見ていたから、これはフリーキックがキーポイントになる・・いや、それを勝負ツールとしてもっと強烈に意識しなければ・・なんてことにも思いを巡らせていたという次第なのです。繰り返しになりますが、キッカーには阿部がいる・・受けには、平山のアタマがあるし、それをオトリにした二人目、三人目もチャンスを得ることができる・・というイメージなのですよ。このことは、「結果」を受けて書いているわけではなく、流れのなかで崩し切れないこれまでの試合内容からも、ファールを誘うプレーも含め、セットプレーをもっと強烈に意識するべきだと思っていた湯浅だったのですよ。

 そして前半12分。やってくれました。那須のスーパーヘディングシュート! とにかく理想的な「確信の走り込み」でした。その決定的な動きと、阿部の見事なフリーキックがピタリとシンクロしたスーパーゴール! もちろんそこには、平山の高さが相手の注意を引きつけたという側面もあったでしょう。だから中央ゾーンにスペースができた・・そこを、那須が、ベストタイミングスタートと「走りきるフリーランニング」で飛び込んだ・・。鳥肌が立ちましたよ。そしてこちらもガッツポーズ!! 本当に嬉しかった。

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 さてこれで「1-0」。ここからが、日本代表の本当のチカラが試される・・なんて、こちらもリキを入れて観察していたのですが、そんな心配は、「吹っ切れた勢いで世界につながる扉をけ破った」日本代表の若武者たちには無用だったようです。その後の日本代表が魅せたサッカーは、まさに立派としか言いようのない素晴らしい内容だったのです。

 もちろん簡単には、守備に人数をかけるUAEの守備ブロックを流れのなかで崩し切るというところまではいけない・・それでも、組み立て時だけではなく決定的場面でも、フリーランニングの勢いは確実に増幅をつづけていたし、ボールホルダー(次のパスレシーバー)にしても、その動きをより明確にイメージできるようなっている・・。勝負はボールのないところで決まる・・だからこそボール絡みとボールなしのプレーが高質にシンクロしなければならない・・サッカーは有機的なプレー連鎖の集合体・・。

 ゲームは、日本が先制ゴールをたたき込んだ後も日本主導の展開がつづいていたわけですが、そこでは、一点を追って攻め上がるUAEの勢いに呑み込まれ、日本が悪魔のサイクルにはまってしまうようなネガティブな雰囲気など微塵も感じませんでした。その点も、本当に立派だった。そこには、「いつもだったら・・」なんて書くことをためらわせるくらいの勢いがあったのです。

 たしかにUAEは、先制ゴールの後、人数をかけて攻め上がってきました。もちろん、中盤ディフェンスの格段の活性化をベースにしてネ。それでも日本代表も、まったく受け身にならなかった。むしろ、そのUAEの攻め上がりを「よし来たな・・」なんて余裕で迎え撃ち、抑え込んでしまったのです。そこでの、特に中盤での、自分主体のダイナミックディフェンスは感動的でさえありました。ボール絡み、ボールのないところで、まさに猛禽類の眼で「相手の次のボールの動きとボール奪取チャンス」を狙いつづける若武者たち。今野(彼のパフォーマンスには心から敬意を表します)が、鈴木啓太が、徳永が、森崎が、はたまた前線から戻ってきた田中達也が大久保が・・。とにかく、チェイシングの勢い、勝負アクションに入ったときのアタックエネルギー(寄せの鋭さ!)がレベルを超えているのです。それは感動でしたよ。だからこそ、「余裕の抑制」という表現がふさわしい。

 そんなダイナミック守備があればこそ、次の仕掛けにも勢いを乗せることができたというわけです。彼らは、互いの守備意識の高さと実効ディフェンスパワーについて、明確な相互信頼がある・・だからこそ、次のリスクチャレンジに勢いを乗せることができる・・。そんな雰囲気のなか、日本代表が、待望の二点目を奪うのです。これもまたセットプレー。阿部のコーナーキックが、幸運にも、大久保の目の前にこぼれてきたというわけです。たしかにラッキーゴール。でも、それまでの試合展開からすれば、まさに「ツキも実力のうちさ・・」なんていう言葉も自然と出てくるっちゅうものです。

 フ〜〜ッ、これで(この追加ゴールで)交通事故で一点失っても大丈夫・・。私は、西が丘での試合経過にも気を配りながら彼らの勝利(アテネ行きのキップ)を確信していました。そして後半開始早々の三点目のゴール。これもまたフリーキックから(森崎のフリーキックを相手がクリアしたボールが、またまた大久保へ・・でも、GKが弾いたこぼれ球へ飛び込んだときの勢いは素晴らしかった!)。

 その後の12分、大久保を後方から蹴ったマタルが一発退場。ここで私は、雨が降り止まなかったこともあって、パソコンをバックパックにしまいました。もう大丈夫・・あとはジックリと試合を楽しもう・・。まあ、その後の田中達也や平山のチャンスが実際のゴールにつながったら言うことなかったのですが・・。

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 オリンピック代表の若武者たちには、心から、おめでとうと声をかけたい湯浅です。この3週間で、彼らは、確実に「何か」から解放されました。それは、甘えの精神構造なのかもしれないし、敗者メンタリティー(負けても悔しくない症候群?!)とか共同責任という名の下での言い訳体質・・なんていうものかもしれない。それは選手個々で大きく違うでしょう。これから彼らは、国内でのリーグ戦や、オリンピック本大会などで、「それ」が何なのかを明確に体感することでしょう。そして、自分たちが為したことの大きさを実感する・・。とにかく彼らが、一歩、世界へ近づいたことだけは確かな事実です。もう一度、おめでとう・・。




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