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ジーコジャパン(35)・・強い相手が勝ちにきたからこそ引き出された潜在力・・だからこそ素晴らしい学習機会にできたし、試合を通して発展できた・・(イングランドvs日本、1-1)・・(2004年6月2日、水曜日)

世界一流が繰り出す本気のフルパワープレーに、日本代表も持てるチカラを存分に「引き出された」といった構図でしょうかね。その意味でジーコや選手たちは、イングランドに感謝しなければいけません。まあ二日前のアイスランド戦もそうでしたが・・。

 日本のチカラを引き出してくれた、イングランド立ち上がりの迫力ある組織的フルパワープレー。そのバックボーンは、何といっても「ボックス・トゥー・ボックス」という、攻守にわたるダイナミックプレーイメージです。「ボックス・トゥー・ボックス」とは、自軍ペナルティーエリアから相手のペナルティーエリアまで、攻守にわたってとにかく広範囲に全力アクションをつづけるという気合プレーを象徴する表現です。そのキャッチフレーズそのままに、イングランド中盤選手たちが、ボールがないところでの動きも含め、とにかく縦横無尽のダイナミックプレーを展開しつづけるのです。

 特に二列目、三列目といった、後方からのオーバーラップに、日本代表のマークが混乱してしまうシーンが目立ちます。イングランドトップと中盤が魅せる、まさに縦横無尽のポジションチェンジ。決定的タイミングでの後方からの抜け出しフリーランニングだから、最終ラインにマークを受け渡せるばすがない・・そんな状況では、前の選手が、最後までマークをしつづけなければならない・・でも実際は、マークを離してしまったり、マークに付き切れなかったり・・だから、逆サイドや二列目スペースでフリーなイングランド選手が出てきてしまったり、ボール絡みスポットで数的に優位な状況を作られてしまったりと、危ないシーンが連続する・・。

 そんな立ち上がりを見ていて、このまま悪魔のサイクルに落ち込んでしまうのだろうか・・なんて不安な心持ちになったものです。でもそんな心配とは裏腹に、徐々に日本代表のプレーが、イングランドのパワープレーに「刺激」されるかのように積極的になっていくのですよ。日本代表が、主体的に押し返せるようになっていったのです。もちろんまだ前線に絡んでいく人数は足りないにせよ、恐る恐るではなく、一つひとつのアクションに積極的な意志のパワーが感じられたものです。そんな「グラウンド上での発展」は、ちょっと驚きでした。

 そして、日本代表の「試合を通した発展」にともなって、逆にイングランドのパワーが減退していくのです。サッカーは「相対心理ゲーム」。私は、イングランドのペースダウンではなく、どちらかといえば日本代表の積極プレーが、ゲームの流れを逆流させたと思っていたのです。とはいっても、これは期待できそうだなんて思っていたところで先制ゴールを決められてしまって・・。

 イングランド先制ゴールのシーンにおけるキーパーソンは、楢崎が弾いたボールを押し込んだオーウェンをマークするべきだった坪井。「ボックス・トゥー・ボックス」プレーを魅せつづけていたジェラードがシュート動作に入ったとき、そのシュートアクションを、オーウェンをマークしていた坪井が、宮本と一緒に「見てしまった」のです。でもオーウェンは違った。彼は、ジェラードがシュート動作に入ったときには既に、日本ゴール前へ向けたアクションをスタートしていたのです。

 オーウェンにゴールを決められた次の瞬間、坪井は、アッ・・やられた・・と、天を仰いでいました。この失点が、坪井にとってのまたとない有意義な学習機会なったことを願って止みません。

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 でもその先制ゴールが、日本代表を「より本格的に吹っ切らせた」ことも確かな事実でした。攻守にわたる彼らのプレーが、より積極的になったと感じたのです。逆にイングランドの攻めに、「例によって力ずくだな・・」という印象がつのってくる。そこには、チェコが展開したような、洗練されたボールの動きをベースにした有機連鎖プレーで相手守備ブロックのウラを突いていくという組織パスプレーが見られないのです。

 そして逆に、日本代表の仕掛けに勢いが乗っていくのです。とはいっても、強力なイングランド守備陣が相手ですからね、個の勝負で崩せるという雰囲気はまったくない。玉田にしても久保にしても、しっかりとしたボールの動きから「1対1の場面」を演出し、そこからドリブル勝負にチャレンジしても、相手を抜き去るところまでいけないのですよ。やはりまだまだ日本は、組織パスプレーで最終勝負を仕掛けていくのが一番なのです。そして、まさに「それ」で、日本が同点ゴールを挙げてしまいます。後半8分の小野。

 中村からのスルーパスが、タイミング良くタテへ抜け出したアレックスへピタリと合う・・そこからのダイレクト・グラウンダー・クロスパスが、これまたピタリと、オーバーラップしてきた小野伸二に合わされたというわけです。それにしても二本もダイレクトプレーがつづいたゴールですからね、スタンドを埋め尽くしたイングランドファンを沈黙させるに十分なパワーを放散していましたよ。いや、素晴らしい同点ゴールでした。

 そしてその後の日本代表は、持てるチカラを存分に発揮し、互角以上の内容を魅せつづけてくれるのです。もちろん攻守にわたって互いのイメージが有機的に連鎖しつづける高質な組織プレー。それがあったからこそ、イングランドのパワーを減退させられた・・。それこそ、勝負マッチという内容になったからこその吹っ切れた発展だったというわけです。

 ヨーロッパ選手権の準備マッチとして重要な意味があるイングランドとの試合をマッチメイクしたマネージメントに拍手です。もちろん、「そのこと」をこれ以上ないというほど効果的な学習機会にしてしまった日本代表の意識の高さにも拍手・・。

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 それにしても小野のパフォーマンスは高みで安定している。攻撃でのゲームメイク&チャンスメイク&決定的パスレシーブアクション(決定的フリーランニング)は言うに及ばず、この試合でも、中盤ディフェンスに抜群のインテリジェンスと強い意志を感じさせてくれましたよ。ボール奪取テクニックも発展していますしね。

 特にボールがないところでのバランシング(ポジショニング)プレーと、ここぞ!のマーキングアクションに対する的確な判断は秀逸でした。小野は「本物のボランチ」へと脱皮しつつある?! 期待を込めて観察しつづけることにしましょう。

 ところで、この試合でも小野とのパートナーシップのなかで抜群の活躍を魅せていた稲本。「あのケガのシーン」はかなりシリアスだったから本当に心配です。かなりヤバいことになってしまったかも・・。まだ情報は入っていないのですが、とにかく大事に至らなかったことを願わずにはいられません。

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 チェコ戦、イングランド戦と、攻め上がってくる強い相手に持てるチカラを引き出されることで「グラウンド上の発展」を遂げた日本代表。でも、W杯の地域予選は違います。そこでは、ガチガチに守る相手守備ブロックをこじ開けていかなければならなりませんからね。中盤で楽に組み立てられるからこそ、ボールがないところでのアクションなど、もっとも大事なプレーのエネルギーが低落し、全体のプレーペースが沈滞していくというわけです。そこで、どれくらい攻守にわたるプレーを活性化させることができるか・・セルフモティベーション力を活性化させることができるか・・。それこそがこのチームのテーマなのです。

 だからこそ、セットプレーからでも、放り込みでも何でもいいから、とにかく早いタイミングで先制ゴールを奪い取らなければならないのですよ。だからこそ久保の特徴(絶対的な武器)を活かし切らなければならない・・。泥臭くても何でもいいから、とにかく早いタイミングで先制ゴールを・・。

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 ちょっとアタマが回らなくなりつつあります。最後にもう一度、私の代表作の一つである『サッカー監督という仕事』が新潮文庫に収録されたことの報告をしておきます。文庫化にあたり、3万ワード以上(本文で60ページ以上)を加筆しました。要は、いくつかの項目を書き加えたということです。それについては「ここ」を参照してください。

 では、ちょっと仮眠しますかネ。




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