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ジーコジャパン(33)・・日本代表は、素晴らしく内容のある積極サッカーを展開しました・・また久保のブレイクスルーにも乾杯!・・(チェコvs日本、0-1)・・(2004年4月28日、水曜日)

試合後の監督会見がはじまる前、目が合ったチェコのジャーナリストと、こんな会話を交わしていました。

 「いや、ビックリしたよ・・日本は本当に良いサッカーをやったね・・」「ボクもそう思うよ・・でも、具体的に何が良かったんだと思う??」「何がって・・オレたちのチェコ代表に勝ったじゃないか・・」「いやいや、内容についてだよ・・」「そうだな・・日本人はテクニックがあるし、戦術的にも統一感がある・・まあとにかく、日本があれだけやるとは思わなかったよ・・」「そこそこ・・それが本音だろ?・・日本が、あそこまでやるとは思わなかった・・そういうことだよね?」「そうだね、正直なところ、日本があれだけやるとは思わなかったよ・・」「でもオレの目には、やはりチェコの方が一枚も二枚も上手だったと映っていてたよ・・前半に作り出した3-4本のチャンスをしっかりと決めていれば楽勝ペースだったね・・でも後半は自滅してしまった・・オレにとっては、チェコというスーパーチームが、後半に悪魔のサイクルはまってしまったことは驚きだったね・・」「エッ?? 悪魔のサイクル??」「要は、選手たちの動きがピタッと止まってしまったことだよ・・だから足許パスをつなぐだけになってしまった・・こうなったら、守備を固めている日本チームは、正確に守備イメージを描くことができるからね・・楽に対処できたということさ・・」「まあ、そういうことだよな・・後半から一挙に7人も代えたことも悪影響を及ぼしたんだろう・・それにしても、試合終了間際にチェコが作り出した数本の決定的チャンスを、日本のゴールキーパーに防がれてしまったのは残念だったな・・」「そうそう、あのプレーは神がかっていたよな・・あのゴールキーパーの名前はナラサキっていうんだけれど、素晴らしいプレーヤーだろ・・」「彼だけじゃなく、日本チームの全員が、高いレベルにあると思うよ・・テクニックだけじゃなく、戦術的にも高いレベルにある・・」「そう・・オレたち日本のジャーナリスとにとっても、ヨーロッパでの仕事がやりやすくなるから、日本代表が良いサッカーを展開して結果を残してくれることを心から喜んでいるのさ・・そう、ワールドカップの年には、アウェーで、ポーランドも敗ったしね・・あれはセンセーショナルだったんだ・・その後ドイツへいったら、ほとんどのエキスパートたちがその話題を持ち出してきたというわけさ・・」「ナルホドな・・とにかくこれで、チェコでの日本サッカーの株が大きく上がったことは確かだね・・」

 そこまで話したところで、ジーコの記者会見がはじまりました。その彼との話の内容が、ここで書きたいことの骨子でした。日本が、攻守にわたって素晴らしくダイナミックで積極的なサッカーを展開し、結果まで残した・・。

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 それでも、彼との話のなかでも出てきたように、前半は、実質的な内容でチェコに軍配が上がると思っていました。たしかに日本の立ち上がりは、素晴らしく積極的。特に攻撃にうつったときの押し上げパワーは、ハンガリー戦の比ではありませんでした。相手が、格段に強いチェコであることを考えれば、ちょっと不自然なほどの豹変なのですが、それには、ハンガリー戦の後のジーコの言動も影響を与えていた・・?!

 PKで競り負けたハンガリー戦の後、ジーコが怒りをぶちまけていたというのです。多分、負けても少しも悔しさを感じさせずにひょうひょうとしている選手やチーム関係者の態度に憤ったということなんでしょうね。そんな姿勢だったら、本物の勝負には勝てない・・。そしてチェコ戦では、合流した稲本と小野を除き、ハンガリー戦と同じメンバーを送り出したのですよ。もう一度チャンスをやる・・次はないぞ・・。危機感・緊張感を基盤にしたチームモティベーション。選手たちも、こうなったら奮起するしかありませんからね。

 周囲がびっくりするほど怒りまくり、そしてその後にミーティングを重ねてほぼ同じメンバーを試合に送り込む・・。ジーコも、カッコつけるのを止めて闘いはじめた?! まあとはいっても、チーム全体に対して「標的が定まらないアバウト批判」をするのと、個人を相手に、その人間的な弱さと闘うのとでは、難しさは段違いですからネ・・。さて・・。

 まあ、そんな経緯があって、日本代表の立ち上がりにおける攻めの勢いは抜群でした。見ている方が心配になるほどの積極性。前後のバランスを欠いたとしても、前へ突っかけていく勢いが止まらないのですよ。また、ハンガリー戦につづいてツートップを組んだ玉田と久保も、迫力のドリブル勝負を仕掛けていく・・何度失敗しても、チャレンジする勢いに陰りは出ない・・そしてそのうちの何本かが成功してチャンスのキッカケになったりする・・。もちろん、両サイドのアレックスと西もガンガン攻め上がってきますし、小野と藤田も頻繁にタテのポジションチェンジをくり返す・・。

 とはいっても、そこは百戦錬磨のチェコ。そんな日本の前への勢いの逆を突くように、鋭いカウンターを仕掛けていくのです。本当に素早く、大きなボールの動き。ため息が出るような素晴らしいサイドチェンジ。そして正確に、日本守備ブロックの「薄い部分」を突いていくのです。組織プレーをベースにしているからこそ、個人の勝負能力が最大限に活かされるというわけです。ネドビェド、バロシュ、ロシツキー、スミチェル等が繰り出すドリブルやワンツー勝負。はたまた、直接ヘディングシュートやヘッドからのセカンドボール狙いをイメージしたコレルへの一発ロングパス。そんな変化に富んだチェコの攻めは、とにかく鋭く、強い・・。

 たしかに日本の方が攻め込んでいるという印象ですが、実質的な仕掛けコンテンツでは、やはりチェコの方に一日以上の長があると感じていた湯浅でした。でも先制ゴールは日本。それは、本当にビックリさせられる出来事でした。周りで見ていたチェコ人たちも、一瞬、何が起きたのか分からなかったといったふうにフリーズ・・。

 とにかく稲本からの見事なタテパス・・久保の、見事なタイミングでの右サイドスペースへの飛び出し・・そして久保の、見事なボールコントロールと、見事なドリブルシュート・・。本当にビックリさせられてしまいましたよ。

 それにしても久保竜彦。完全にブレイクしましたね。オマーン戦では、アタマという武器を誇示し、この試合では、一発ロングパスを呼び込むスペースへの飛び出しや、抜群の威力を発揮するドリブル勝負など、日本代表の攻撃のコアとして、様々な「攻め手」を提供してくれています。困ったときは、彼のアタマを狙った一発放り込みロングパスもありますからね。とにかく彼のお陰で、日本代表の攻撃に大きな変化が出てきたということです。いや、素晴らしい・・。

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 さて後半。多分チェコが、必死になって勝ちにくる・・だからこそ、ここからの勝負が、日本代表にとって本物の学習機会になる・・なんて期待していたのですが、完全に肩すかしを食らってしまいましたよ。

 前半のチェコだったら、いつゴールが入ってもおかしくないという印象だったけれど、後半のチームは、まさにパワーダウン。まあそれには、チェコが押しっぱなしになったことで、彼らの足が止まってしまったということもありましたけれどね。それにしても、「あの」チェコでも悪魔のサイクルに落ち込んでしまうのか・・なんてネ。要は、ボールなしの動きが減退し、足許パスのオンパレードになってしまった・・そして日本守備ブロックにとっては、自分たちの背後スペースを突いてくるのではなく、正面から仕掛けてくるから、守りやすいことこの上なかったということです。そんなですから、後は、ハイボールをケアーしていればいい・・ってな具合なのです。チェコには、ちょっと落胆していました。

 とはいっても、後半31分と33分の「三度の大ピンチ」の場面では、サスガにチェコという勢いを感じました。仕掛けの流れが、二人目、三人目、四人目と、どんどんと連鎖していくのですよ。難しい表現ですが、一番「遠いところ」にいる四人目の選手も、最終的な勝負シーンを明確にイメージし、ボールがないところでの動きを仕掛けていくのてす。だから、一度チャンスになりかけたら、何度でも、まさに打ちよせる波のように連続的に仕掛けていくということです。それはそれで、大迫力でした。

 それにしても、この大ピンチでの楢崎のゴールキーピングは、まさに「スーパー」でしたネ。誰もが「サンキュー!!」と叫んでいたに違いない。

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 その他にも、試合前に知り合った、チェコの「ゴール」という雑誌の副編集長、ヤロスラフ・コラーさんからは、「1993年に"離婚"したチェコ共和国とスロバキア・・その後すぐにチェコサッカー界は、プロ化に踏み切った・・選手だけではなく、体質自体もプロ化する事を強く意識した・・だからこそ1996年のヨーロッパ選手権で決勝まで駒を進めることができた・・そこで、ポボルスキーを筆頭に、選手たちがヨーロッパの一流国でプレーするようになった・・それが大きなステップとなって、ユースからプロまで一貫したシステムが出来上がった・・」等々、全体的には凋落が著しい「旧東欧圏諸国」のなかでは、唯一発展をつづけるチェコの秘密を話してもらったり等、面白い話題もありました。今度、機会をみて、今回のヨーロッパ遠征のまとめをしましょうかネ・・。

 さて最後になりましたが、これだけは書いておかなければ・・。

 ジーコ記者会見につづいた、チェコ代表監督のカレル・ブリュックナーさんの「日本人記者との質疑応答」が終わった後も、私は、最後の最後まで席を離れませんでした。そこでは、チェコ語のみでの質疑応答がつづいていました。そしてそれが終わり、ブリュックナーさんが席を立ったところで、通訳を務めていたチェコ協会関係者の方に質問をしたのですよ。「チェコ語は分からなかったけれど、チェコの記者とはどんな内容が話されたのですか?」「まあ全体的な印象や、選手個々の評価、またこれからヨーロッパ選手権へ向けてのスケジュールなどですが、一つだけ、皆さんにとって(そこには後藤健生さんもいました)興味深い発言がありましたよ。チェコの記者の質問に答えたものですが、ウチの監督は、この日の日本チームは、明らかにチェコ代表よりも良いサッカーを展開した・・彼らの勝利は、まさに正当な結果だったのだ・・と言っていたのです」。それは、チェコの記者に対しての答えでした・・。

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 ということで、本日はここまでにします。これからドイツへ移動し、ブンデスリーガを観たり、友人たちと情報交換したり・・。帰国は、たぶん連休明けか、その週末を過ぎたあたりまでズレ込んでしまうかもしれません。ということで「J」は、3試合はミスることになってしまうかも・・。まあ興味があるゲームだけは、そのビデオを送ってもらうように手配してありますけれどね。




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