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ヨーロッパの日本人・・本格感を放散しつづけたナカナカ対決・・本当に良かったですよ、二人とも・・(2004年10月28日、木曜日)

先日、上智大学コミュニティーカレッジでの講演で、中田英寿についてこんな意味合いの本音を語りました・・中田英寿が、能力的にも、パーソナリティー的にも、インテリジェンス的にもフル代表のリーダーであることには変わりはない・・そんな彼が、再び「万全のフォーム」に戻ることを切に期待しているけれど、不安もぬぐい切れない・・年齢が27歳になった・・そのこともあって、社会学的、文化的、学術的、芸術的などなど、サッカー以外の事象に対する興味がふくれ上がってきているはずだし、マズローの言う「自己実現」領域へ足を踏み入れていくための経済的なバックボーンも十分すぎるほど整っているだろう・・たしかにこれまでの彼は、何度も浮き沈みを経験し、その都度、不死鳥のように蘇った・・そんなプロセスによって、日本社会が元気をもらった・・先シーズン、パルマで苦労していた彼がボローニャで存在感アップをアピールしたプレーコンテンツは観ている方に鮮烈な印象を残した・・だからこそ、今回も、そんな復活劇に対する期待がつのる・・また、中村俊輔の、互いに使い・使われるというメカニズム理解をベースにした組織パフォーマンスアップもあるから、日本フル代表中盤においても、実効ある「本物のナカナカ・コンビ」が見られるに違いないなんて期待がつのっているわけだけれど・・

 ・・とにかく、中田英寿という、日本サッカー界において、一つのエポックメイキングとまでいえる「良いプレーに対するイメージをプロモート」した名プレイヤーが、このままズルズルと落ち込んでいくとは思えない・・とはいっても、私の経験からも、その危険性を誰も否定できない・・もし彼自身が、立ち直るのは難しい(ベストパフォーマンスまで回復するのは難しい)と思ったら、たぶん潔く(いさぎよく)代表を引退してしまうかもしれないし、サッカー界から足を洗ってしまうかもしれない・・いやいや、まだそれには早すぎるし、彼自身も、やり残したことがあると思っていることを切に願っているのだけど・・

 出張のため、夕方帰宅してからビデオを観はじめたわけですが、中田英寿に対する期待と不安が入り交じった思い入れを前面に押し出して画面上の現象に集中していたというわけです。もちろん、パフォーマンスが高みで安定する中村俊輔に対する大いなる期待も含めてね。さて・・。

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 さて中田英寿。私の心配(そのメインは彼のモティベーションダウンに対するモノ!)は杞憂だったようで。とにかく前節でのプレーコンテンツが、最前線に張り付くばかりでパスを呼び込むボールなしアクションも目立たない(実際に、奇妙なほど彼にパスが回ってこない!)、また全体的な運動量にも大いに問題あり等、あまりにも消極的だったから心配がつのっていたのですよ。確かにこの試合でも、ボールタッチの頻度は低かったし、彼がコアになった見せ場もそんなに多くはありませんでした。ただ攻守にわたる実際のプレーコンテンツやプレー意図のレベルが、前節とは見違えるほど良くなっていたことは確かな事実。

 いつも書いているように、私の評価基準は「ボールがないところでの実効アクションと実効プレーイメージ」にあります。その部分で、中田が急速に回復していると感じるのです。まず目に付くのが、彼が最前線に張り付かなくなったこと。前節では、そのときの監督さんが、中田に期待するプレーについて、トッティーのプレーをイメージしていた・・と述べたそうですが、それって、ちょっと違うのでは・・?! たしかにその監督さんは優秀な方だったようだけれど、それは中田ヒデ本来のプレーじゃありません。あくまでも彼は、シンプル組織プレーの天才なのですよ。たしかに個のプレーでも優秀だけれど、何といっても組織プレーの演出家として機能したときに最高のパフォーマンスを発揮する! そしてこのゲームでは、中盤の前気味のゾーンを縦横無尽に走り回り、ボール絡み、ボールなしの両方で彼本来の自己主張コンテンツを魅せてつづけていたというわけです。だから、ホッ・・。

 守備では、チェイス&チェックアクションだけではなく、ボール奪取勝負へ向かう囲い込みでの効果的な動きとか、レッジーナの後方でのボール回しに対する忠実な追いかけ意志とか・・とにかくダイナミック。中盤の深い位置まで戻って効果的なボール奪取勝負を魅せるという積極ディフェンスも魅せました。

 また攻撃でも、彼を探そうとするチームメイトたちの期待感も着実にアップしていると感じます。まあ、まだ実績レベルでヨルゲンセンとかミッコリにはかなわないにしても、この日のコンテンツを基盤に、徐々にパフォーマンスをアップさせていけば、彼がコアになった組織コンビネーションベースの仕掛けも増えてくるに違いない・・。前半には、ヨルゲンセンやミッコリとのコンビから、中田がコアになった決定的コンビネーションも演出しましたしネ。

 それにしてもフィオレンチーナは、ちょっと「個のプレー」に偏り過ぎている。だから次の仕掛けゾーンで詰まってしまうというシーンが目に付きます。特にミッコリが下がってボールを持ったら、もう仕掛けコンビネーションのリズムは無くなります。とはいっても、ミッコリのドリブル力とシュート力は、チームとして活かさなければならないし・・。そこでの「個と組織のバランス」を司るのは、やはり中田が最適任だということです。

 たしかに前半の最後の時間帯あたりから徐々に運動量が落ち、後半ではアクションラディウス(活動半径)と局面での勝負プレーダイナミズムが減退気味になりました(後半26分に交代)。とはいっても、この試合での全体的なパフォーマンスが、明確に向上ベクトル上にあったことはだけは確かな事実。とにかく彼の前向きな意志を確認できたことで、とてもハッピーだった湯浅でした。

 さて中村俊輔。とにかくチームメイトからの信頼レベルがどんどんとアップしていると感じます。そのバロメーターは、もちろん彼に対するパスの頻度(ボールを持つチームメイトたちの彼を捜す姿勢)と、彼がボールを持ったときのチームメイト達のボールなしの動きのダイナミズム。それが向上しつづけている感じるのです。こうなったら中村のモティベーションもアップするは道理。チームメイトたちの信頼感を深化させられたのは、もちろん中村俊輔自身の、攻守にわたるプレーが格段にダイナミックになったことと、攻守の目的達成における彼のプレーの実効レベルがアップしつづけているからに他なりません。自分自身で勝ち取ったチームメイト達からの信頼・・。モティベーションがアップするはずだ・・。そして彼のプレーコンテンツの善循環がまわりつづける。

 特に、「個の勝負」に対する自信レベルが格段に向上しているのが特筆です。相手守備が薄いゾーンでボールを持つという勝負の状況になったら、迷わずドリブル勝負を仕掛けるのです。そんな攻撃的なプレー姿勢が「次のプレーのオプション」を広げることは言うまでありません。そのままドリブル突破にチャレンジしてもいいし、相手ディフェンダーたちの視線と意識を釘付けにした状態で繰り出す、勝負のラストスルーパス・・。フムフム・・。

 こんな流れになったら、攻守にわたる中村のボールなしのプレーコンテンツが減退傾向になってしまう危険戦が増大するとは思うのですが、いまのところ「その部分」でも、中村の意識は高みで保たれています。とにかく彼は忘れてはいけません。サッカーでは、ボールのないところで勝負が決まってしまう(最終的にはパスゲーム!)という事実と、だからこそ、攻守にわたるボールがないところでのプレーの量と質こそが、ボール絡みプレーの内容を(心理・精神的にも!)大きく左右してしまうという事実を・・。

 互いに使い・使われるというメカニズムに対する深い理解をベースに、攻守にわたり、ボール絡みだけではなく、ボールがないところでも、主体的に、そして積極的に仕事を探せなければ決して「本物の良い選手」にはなれないのです。

 



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